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あまりにも美しい光が、彼の瞳を焼いていた。
だが、それ自体は全ての本質ではない。それはあくまで、一つの目的に通ずる道しるべに過ぎない。
リーヴァイは静かに船に対して指示を下した。彼に従い、静かに船は光を避けるようにして迂回を始める。
目指すのはその星の裏側、8つの星が"正しく"配置された、夜空の果て。
彼はかつて見た燃えるような光が映し出す、極彩色の景色を思い出していた。
リーヴァイの意識は混濁し続けていた。あの男の話を聞いてから、その風景が、
隣に座る彼女の姿が、瞳の奥にチラついて離れないのだ。
それが自分ではない自分の大切な思い出であることを彼は理解している。
同時に、それを反芻し続けている「彼」の気持ちが、
肺に、心臓に、アイスピックを打ち付けられているかのように、痛いくらいに伝導するのだ。
吐き出すものなど持ち合わせていないのに、胃酸だけが口元へと殺到する。
それを噛み殺して、ただ彼は直接船の舵を手に取った。
何百回と乗りこなしたフェアリーバトルを模倣したようなコックピット。
その眼前には、繰り返される爆発によって飛び散った巨大に過ぎる欠片が迫ってきていた。
リーヴァイは操縦桿を切る。それは正しく船を右へ右へと動かした。
本来であればそんなものを避ける必要はない。
それらを消し飛ばすことのできる砲撃を備えているからだ。
ただ、彼はあらん限りのエネルギーを全て温存しなければならない。
滑る船の横を、超高速の死神が通り抜けていく。
それを見て、リーヴァイは二人目の「先生」と呼んだ男の言葉を思い出していた。
「もう一度、神と戦う勇気があるかい」
男はリーヴァイに、そしてこの船にそう尋ねたのだ。
最初は彼もできる限りならしたくない、と答えていた。ただ、
輝く星の彼方、彼女の姿を映したそのフィルムは、リーヴァイと誰かの首を縦に動かした。
最初に到来したのは「呆れ」であった。その次に、「怒り」が沸いた。
そして「憐憫」と「謝罪」。最後に、「決意」。
ハンドルを押し込むと同時に、船は加速した。
高速さえも突き放して、音速と、光速の間。
走馬灯のように置き去りにされていく景色を横目に、
次第に星の光も遠ざかる。再び世界は暗闇に閉ざされる。
だが、彼の瞳は既に彼女の姿を捉えていた。弧線を描き、歪んだ8つの星の奥、
余りにも、人類に対しては大きすぎる「弓」を構えた姿を。
「待たせたね」オライオンは聞こえるはずのない声で呟いた。
女神はそのような矮小な存在に目を向けることはない。
オライオンは嘆息して、その弓の切っ先へと船を展開させる。
わずかに彼女の眉のように見える、光線が瞬いた。それは船を認知した事に相当する。
「待たせすぎたね」再び、噛み締めるようにしてオライオンは告げた。
同時に、獣の咆哮のような、質量を伴った「叫び」が彼女の口から放たれた。
大きく船が揺れると、一つのメッセージがログに刻まれている事に男は気づいた。
「どう 縺ゥ縺?@ して 縺ゥ縺阪◆縺ョ? きた ◆縺ョ? の?」
随所で言語的エラーが発生しているようであったが、船の推測的翻訳アルゴリズムは作動しているようだ。
「君を止めるためだよ」優しく語り掛けるように、男は目を細めた。
再度の衝撃。コックピットを転がるようにして、彼は壁面に叩きつけられる。
次に示されたログは解読が不可能なほどに歪んでいた。しかし、彼にはそれが何なのか分かった。
だからこそ返答を続ける。「そんなことをしても、意味は無いんだ」。
何度となく、衝撃が玩具の船を、彼自身を揺らしていく。
それは駄々をこねる子どものようだった。それは流れ着いた恋人の死体を見たあの日のようだった。
「終わりにしよう、こんなこと」そんな彼女を宥めるようにして、船は再び弓矢の切っ先へと立ちふさがる。
後ろを見やれば、未成熟の青い果実と、破壊者Apollyonと似た名前を翳された神Apollōnが輝いている。
暴かれた罪を示すように、その神の心中には巨大な黒点が開いていた。
それはかの神が吐いた、最後で最大の「嘘」。
恋人であった彼女に、オライオンを打ち抜かせた奸計。
オライオンを一度目の死に追いやった、許されない罪。
かつての神々がそうしたように、それを「大義」として弓矢は貫き、断罪とするのだろう。
だが、それでは足りない。
一人の神が一人の神を裁くことは、あり得てはならない。
掟はどの世界にも存在する。これを前例として、他の神々が動き出すこともあり得る。
だからこそ、あの罪に塗れた青い星を経由する。創世の名目で、世界は再び壊される。
あの哀れなる太陽は、そのリセットに巻き込まれただけなのだ。
かの太陽の罪を許すわけではない。だが、最愛の女が罪を重ねる必要は、更にない。
ましてや、無関係の蠢く命を巻き込む意味はどこにだって存在しない。
どのように罪を重ね、醜く見えたとて、全てが"そう"ではないのだから。
そして顔を前面に戻した彼の瞳は、「わからずや」という明確なログメッセージを捉えた。
引き絞る音、それは生命と時代の終わりを彼に知らせている。
先端の北極星が、ゆったりとした動きで、小刻みに震えながら船首から離れていく。
説得だけで話を聞くような女ではないことは、オライオン自身がよく分かっていた。
だから、こうなるであろうことも分かっていた。
「いいかい」「構わない」「すまないな」「大丈夫だ」
反芻する音が、脳を埋めていく。煩わしいほどに湧き出た感情の全てを享受する。
全てを終わらせなければならない。"リーヴァイとオライオン"の意思は一致していた。
ボタンを押す。かつて神を砕いた砲塔を、ポラリスの矢へと指し向けた。
「わからずやはお前だよ」見据えた視線の先、かの捻じれた発条よりも遥かに巨大な一閃。
微弱な現実性の変化を帯びたポールスターは微かな青い揺らめきを纏っている。
オライオンは一度目の経験から知っている。青と桃色の光、それは神殺しの一射。
巨大な質量を物理的に改変する、世界の誰もが終わりに見る景色。
だがその向こう側にリーヴァイとオライオンは行かなければならない。
彼女にもう一度説教をするのだ。その後、抱きしめなければならないのだ。
そして「もう一度、花火のような星と、月を見よう」と告げなければならない。
空けない夜はないように、暮れない朝はないのだから。
ボタンを押す。アンチ-オントキネティックシステムを作動する。
砲首は気だるそうに顔を上げた。これが相棒にとっても最後の一撃となるだろう。
ボタンを押す。飛行機能を含めた全てのエネルギーを砲塔へと集中させる。
世界の命運を背負うわけではない。男はただ、一人の女を背負う。
ボタンを押す。全ての準備が整う。
目指すは、かつての神さえもゆうに屠るであろう、巨躯の一撃。
弩が放たれる。ボタンを押す。
轟雷が放たれる。
銀河の終わる音が響く。
青が視界を埋め尽くす。
それでも、彼はつぶやいた。
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- portal:6634493 (10 Jul 2020 08:57)

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