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〇プロット
イーハトーヴ合区には、阿耨達池という池があり、霊験あらたかな名を冠していることもあり、修験の者が多く訪れていた。

修験僧の一人、彗山が池に着くとこれまでに見たことのない二足歩行の妖怪(?)がいた(正体はSCP-109-JP-2F)
109は元々いた池にパートナーがおり睦まじく暮らしていたが、ふと気づけばいつの間にか一人この池にいた。109は本来元の池から離れることができない(液化してしまうため)。そのはずだが、ここが元いた池と同じくらい水質が良いためか何故か命を繋ぐことができている。元の池を探しに行きたいがおそらくこの池から出ると身体は液化してしまう。パートナーとは夜によくワルツを踊っていた。下手になったと馬鹿にされないように毎日一人ワルツを練習している。

何度か会ううちに109は自身の寿命が近いことを告げてくる。109は彗山に頼み事をする。修験の旅をする中で自分が元いた池を見つけることができたならば、〇〇(自分の体の一部なりなんなり適当に→心臓だと怪奇具合が上がってよいかも)をその池に投げ込んでほしいと。

最期に109は彗山をワルツに誘う。彗山はワルツを踊ったことがないので断るが、109に手を取られて池の中央に行く。不思議と水面を渡ることができる。また、109と目が合うと自然とワルツを踊ることができた。二人は夜を通して踊りを踊るのであった。

次の日、109はいなかった。自身の持つ水筒に池の水を汲み、〇〇を入れて旅をすることになった。彗山は保護区に来る度に池の水を吸筒に補充し、〇〇が溶解しないまま運ぶことができるようにしている。

彗山は二、三年に一度保護区を訪れていたが、ここ数年はその姿を見なくなった。彼が悟りの境地に達してしまったせいか、道中で亡くなってしまったのか、元の池の場所がわかり109の本懐を叶えることができたためか。その理由を知るものはいない。

彗山は何年も故郷を探していたが、なかなか見つけることはできない。老いさらばえた彗山がイーハトーヴ合区に入った時、"カイコウ"が発生し、今まで見たこともない池を発見する。そこでは黒の妖怪とよく似たものが住んでいた。近くの者に話を聞くと、この池があった場所は何もない荒地だったが、どこからか現れた赤い柘榴石から水があふれだし、それがたまって池となった、という。

黒の妖怪の故郷はまだ生まれていなかった(未来からやってきたetc)のだった。
彗山は吸筒の柘榴石をそっと池に流し入れ、その場を去った。それ以降、この池には黒い人影のようなものが一つ増えたという。



 イーハトーヴ合区の北方、雄大な山地の中に阿耨達池あのくだつちと呼ばれる池があるという。白くつめたい雲で覆われた高原にふらりと立ち現れるこの池は、周囲が常に凪いでおり、朝夕問わず冷洌たる様相を呈している。水は底の砂利が明瞭に見え、手を入れるとたちまちに結晶化するほどに過冷却であるとされる。かのような謂れから、法華経にて清涼、無熱悩たる池と謳われる阿耨達池の名を冠されるようになったという。宮沢賢治も憧憬の念を抱いていたとされ、自身の詩作や童話に残すほどであった。

さて、これほど霊験灼あらたかな名を冠しているが故、修験のためにイーハトーヴ合区を訪れる者も珍しくはない。されど、峻険しゅんけんたる山々に、寒沍かんごたる気候、果ては"カイコウ"と呼ばれる摩訶不思議なことの起こる土地柄故、実際に阿耨達池へ辿り着くことできた者はごくわずかであった。

その阿耨達池に辿り着くことのできた数少ない人物のひとりに彗山すいざんと云う名の修験僧がいた。明治の初め、近代化を進めていた政府により修験道は淫祠妖教とされ廃止令が出されていた。ほとんどの僧は還俗し、ごく一部の地域を除き本格的な山中修行は姿を消すか、秘密裏に行われるのみとなった。そんな最中、修験道の命脈を保っていた山形羽黒の山で修業を積んだ彗山は時の政府の目を搔い潜るため、山形からほど近い遠野妖怪保護区へ来ていたのだった。

さて、彗山が初めて阿耨達池に辿り着いた時、既に日は傾き、空は群青とも茜ともつかぬ風合を見せていた。今晩の逗留地を見繕うためまだ日のあるうちにと池の渚に近づく。阿耨達池の渚はどこまでも白く伸び、一たび足を踏み入れればきしりきしりと砂が鳴った。砂を拾ってみれば透き通る複六方錐。石英かなにかでできている。

ひとしきり池を周回していると、水底から砂を踏むような音が近づいているのに気がつく。彗山が音の方角を見遣ると、黒黒とした何かがぬるりと水面から現れるところであった。その何かは全身が黒褐色の皮膚で覆われ、濡れた爬虫類のようにてらてらと光っていた。二足で歩いてはいるものの人間とも猩々ともつかない姿をしていた。彗山が身構えていると、その黒の妖怪は明朗な声で彗山に声をかけてくる。

「ああ。ようやくヒトと出会えた。ここは何処か。私の知る池ではないようだが」

黒の妖怪が云うに、こことは別の池で仲間と暮らしていたのだが、自身の与り知らぬ間にこの池に一人佇んでいた。黒の妖怪は、元の池の水がなければ一日と経たずに水へと戻ってしまうのだが、阿耨達池は元の池と近しいためか何故か命を繋ぐことができている。元の池に戻るためにはこの池を出る必要があるが、出れば身体は水へ戻ってしまう、そのような予感があるのだと。

「それはたいそう心苦しいことでございます。可能であれば貴殿の力になりたいところですが、私はただの一修験僧。お力になれることは多くありません。私にできることは修験の旅路の中で貴殿の郷里を探し、時折お話に伺う程度のことでしょう。」

「いえ、それだけで十分にございます。たとえ細い糸であろうとも、望みが一つでもできたのならば心も晴れてくるというものです」

黒の妖怪が空を見上げると、十六日目の月がのそりと山の端から顔を出した時分だった。

「今日はこちらで失礼いたします。私はこれからワルツを踊らなければいけないのです」

「ワルツですか。明治の初めに西洋より伝わった二人で舞う踊りであると見聞しております。しかし、またどうして」

「元の池にはパートナー1がおりまして。波が穏やかな月の日にはワルツを踊るのが常だったのです。ほら、元の池に戻った時に踊りが下手になっていては恰好がつかないでしょう」

そう云うと黒の妖怪は体をくるりと回し、池の中ほどまで躍り出る。ゆったりと右の足を引いて会釈をした後、誰もいない空間へ手を伸ばした。


修験の旅の最中、彗山は様々な所を訪れては阿耨達池の黒の妖怪の元を訪れた。しかし、黒の妖怪の郷里と思しき場所は見つからない。阿耨達池に到達すること四度目、黒の妖怪が彗山に声をかける。

「修験の人よ。貴方は何故ここまで私のことを気に掛けてくれるのか」

【ここのつなぎは相談したい】
案1 彗山の何か別れを経験している
案2 修験道が禁止された⇒自分もこれまで信じていたものを失った

【ここあたりで彗山を踊らせたいと考えている】


彗山は旅を重ねるごとに老いていったが、黒の妖怪も回を重ねるごとに衰弱していく様子が見て取れた。

「修験の人よ。私はもう長くない」

黒の妖怪が彗山にそう告げる。過冷却の水は着実に黒の妖怪の身体を蝕んでいた。

「最期に私の我儘を聞いていただきたい。私が物言わぬ存在となった場合、私を元の池まで連れていってはもらえないだろうか」

彗山が答えに倦ねていると、それを悟ったかのように黒の妖怪は微笑む。

「心配をする必要はない。きっと貴方なら分かるはずだ」

そう云うと黒の妖怪は空を見上げる。上弦の月が南の空にぽっかりと浮かんでいる。

「私のようだ」

黒の妖怪はぽつりと云った後、彗山へ一礼し、糸に引かれるように池の中心へ躍り出た。そのままくるりと回ると、夜の明けるまでその優美な動きを止めることはなかった。

翌朝、彗山が目を覚ますと黒の妖怪の姿は池になかった。数日瞑想をして過ごしてみたものの、黒の妖怪が現れることはなかった。望の月が昇り始めたころ、熱された炭が爆ぜるような音が聞こえてくる。彗山は目を開け、音がしたと思しき方へ眼をやると、月明りに照らされた白砂の中に一つ、熾火のごとく耀うものが目に入る。近づいてみれば、紅色の柘榴石が赫灼たる光明を放っている。なるほどと独りごちた後、彗山は吸筒すいづつに池の水を満たす。そして、赤い柘榴石を水の中にそっといれてやった。

「お水の加減はいかがでしょう」

彗山が声をかけると、かぽかぽと吸筒が鳴り、そのまま静かになった。


彗山は二、三年に一度、阿耨達池を訪れては吸筒に池の水を汲んでいたが、さしもの彗山も老いには打ち勝つことはできず、阿耨達池に辿り着けないことも多々出てきた。最期に阿耨達池を一目見んと、イーハトーヴ学区へ足を踏み入れる。阿耨達池まで残り三里ほど、山道が途端に開け、これまで見たこともない池が彗山の目の前に現れた。池は外回り半里ほどの小さなもので、阿耨達池を思わせるほどに水が透き通っている。これだけの山奥には似つかわない頑健な家屋がいくつも見られる。さらに不思議なことにほんの前まで南天にあった太陽は姿を潜め、望の月が東の空より昇るところだった。"カイコウ"が起きたのだろう。

巻き込まれなかったことに安堵しつつも、慎重に池の淵まで近づいて様子を伺う。風一つなく鏡のようになった池は皓々と月に照らされている。その明かりの中心、黒い人影がくるりと舞っている様子が見て取れる。その動きはいつだったか彗山が踊ったものと寸分変わらぬものでした。

「珍しいですね、修験の方ですか」

付近の家から水瓶を持って出てきた者が彗山に声をかける。

「ええ、よくこの道を使っておりましたが、初めてこの池に辿り着き驚いているところでした」

「はて、ここは何千年も前からこちらにございます。赤い柘榴石が生んだ池としてよく知られていますがご存じではないでしょうか」

「赤い柘榴石ですか」

「ええ、奈良に都がありました頃、荒涼としたこの地に天から赤い柘榴石が落ちてまいったのです。その石からは冷涼な水が滔々と湧出し、この池を作り上げた。そのように伺っております」

その者が去った後、彗山は徐に吸筒を取り出す。池の淵に坐した後、丹紅と輝く柘榴石をそっと池の水の中に流し入れてやる。

「お水の加減はいかがでしょう」

柘榴石は導かれるように池の中心に向かって転がっていき、そのまま見えなくなった。その日以降、この池には黒い人影が一つ増えたとされている。


語り手: 琵琶法師の芳千 筆記: 砂川信達
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