現在このページの批評は中断しています。
クレジット
タイトル: 阿耨達池円舞曲
著者: izumi_sngw
作成年: 2026
http://scp-jp-sandbox3.wikidot.com/draft:4052664-200-808b
本記事は、CC BY-SA 4.0ライセンスの下で提供されます。これに加えて、本記事の作成者、著者、翻訳者、または編集者が著作権を有するコンテンツは、別段の定めがない限りCC BY-SA 3.0ライセンスが付与されており、同ライセンスの下で利用することができます。
「コンテンツ」とは、文章、画像、音声、音楽、動画、ソフトウェア、コードその他の情報のことをいいます。
遠野妖怪保護区の北方、雄大な山地の広がるイーハトーヴ合区の奥に阿耨達池あのくだつちと呼ばれる池がありました。白く冷たい雲で覆われた高原を進むうちにふらりと立ち現れるこの池は、周囲が常に凪ぎ、朝夕問わず清冷とした空気が流れています。池の水は底の砂利が明瞭に見えるほどに澄み切り、手を入れればたちまち氷がまとわりつくするほど過冷却されていると言われています。このような謂れから、法華経にて清涼たる池と謳われる阿耨達池の名を冠されるようになったとされています。かの宮沢賢治も憧憬の念を抱き、自身の詩作や童話のモチーフに使用するほどでした。
さて、これほど霊験灼かな名を冠していますから、修験のために阿耨達池を訪れようとする者も珍しくはありません。特に明治の初めに修験禁止令が出されて以降は、秘密裏に修験を行うことを余儀なくされた僧たちが異界「寒戸郷」で隠れて修験を行っており、イーハトーヴ合区が寒戸郷に融合した後は阿耨達池へこぞって向かったのでした。しかし、阿耨達池までは急峻な道、寒冷な気候が待ち構え、果ては"カイコウ"と呼ばれる摩訶不思議なことの起こる土地柄故、強靭な身体と精神を持つ者でなければ阿耨達池へ辿り着くことはできませんでした。
その阿耨達池に辿り着くことのできた数少ない人物のひとりに彗山すいざんという名の修験僧がいました。禁止令後も修験道の命脈を保っていた山形県の羽黒山で修業を積んだ彗山は、時の政府の目を搔い潜るため山形からほど近い遠野妖怪保護区へ来ていたのでした。
彗山が阿耨達池に辿り着いた時分、既に日は傾き、空は群青とも茜ともつかぬ風合を見せていた。明るいうちにと池の渚に近づく。渚はどこまでも白く伸び、一たび足を踏み入れればきしりきしりと砂が鳴った。砂を拾ってみれば透き通る複六方錐。石英かなにかでできているようだ。
ひとしきり池を観察していると、水底から砂を踏むような音が近づいているのに気がつく。彗山が音の方角を見遣ると、黒黒とした何かがぬるりと水面から現れるところであった。その何かは全身が黒褐色の皮膚で覆われ、濡れた爬虫類のようにてらてらと光っていた。二足で歩いてはいるものの人間とも猩々ともつかない姿をしていた。彗山が身構えていると、その黒の妖怪は明朗な声で彗山に声をかけてくる。
「ああ。ようやくヒトと出会えた。ここは何処か。私の知る池ではないようだが」
黒の妖怪が云うに、こことは別の池で村の者と暮らしていたのだが、自身の与り知らぬ間にこの池に一人佇んでいた。黒の妖怪は、元の池の水がなければ一日と経たずに水へと戻ってしまうのだが、阿耨達池は元の池と近しいためか何故か命を繋ぐことができている。元の池に戻るためにはこの池を出る必要があるが、出れば身体は水へ戻ってしまう、そのような予感があるのだと。
「それはたいそう心苦しいことでございます。可能であれば貴殿の力になりたいところですが、私はただの一修験僧。お力になれることは多くありません。私にできることは修験の旅路の中で貴殿の郷里を探し、時折お話に伺う程度のことでしょう。」
「いえ、それだけで十分にございます。たとえ細い糸であろうとも、望みが一つでもできたのならば心も晴れてくるというものです」
黒の妖怪が空を見上げると、十六日目の月がのそりと山の端から顔を出した時分だった。
「今日はここで失礼いたします。私はこれからワルツを踊らなければいけないのです」
「ワルツですか。またどうして」
「元の池にはパートナー1がおりまして。波が穏やかな月の日にはワルツを踊るのが常だったのです。ほら、元の池に戻った時に踊りが下手になっていては恰好がつかないでしょう」
そう云うと黒の妖怪は体をくるりと回し、池の中ほどまで躍り出る。ゆったりと右の足を引いて会釈をした後、誰もいない空間へ手を伸ばした。
幾星霜経ち、彗山は修験の旅の最中様々な所を訪れた。しかし、黒の妖怪の郷里と思しき場所は見つからない。彗山は旅を重ねるごとに老いていったが、黒の妖怪も回を重ねるごとに衰弱していく様子が見て取れた。
「修験の人よ。私はもう長くない」
黒の妖怪が彗山にそう告げる。過冷却の水は着実に黒の妖怪の身体を蝕んでいた。
「最期に私の我儘を聞いていただきたい。私が物言わぬ存在となった場合、私を元の池まで連れていってはもらえないだろうか」
彗山が答えに倦ねていると、それを悟ったかのように黒の妖怪は微笑む。
「心配をする必要はない。きっと貴方なら分かるはずだ」
そう云うと黒の妖怪は空を見上げる。上弦の月が南の空にぽっかりと浮かんでいる。
「私のようだ」
黒の妖怪はぽつりと云った後、彗山へ一礼し、糸に引かれるように池の中心へ躍り出た。そのままくるりと回ると、夜の明けるまでその優美な動きを止めることはなかった。
翌朝、彗山が目を覚ますと黒の妖怪の姿は池になかった。数日瞑想をして過ごしてみたものの、黒の妖怪が現れることはなかった。望の月が昇り始めたころ、熱された炭が爆ぜるような音が聞こえてくる。彗山は目を開け、音がしたと思しき方へ眼をやると、月明りに照らされた白砂の中に一つ、熾火のごとく耀うものが目に入る。近づいてみれば、紅色の柘榴石が赫灼たる光明を放っている。なるほどと独りごちた後、彗山は吸筒すいづつに池の水を満たす。そして、赤い柘榴石を水の中にそっといれてやった。
「お水の加減はいかがでしょうか」
彗山が声をかけると、かぽかぽと吸筒が鳴り、そのまま静かになった。
この後、彗山は二、三年に一度、阿耨達池を訪れ、吸筒に池の水を汲んでは旅に出ていたが、ここ数年はその姿をとんと見なくなった。彗山が悟りの境地に達してしまったためか、黒の妖怪の郷里を見つけ本懐を遂げることができたのか、それとも道中で亡くなってしまったのか。その理由を知る者はいない。
Tag: tale jp 遠野妖怪保護区
URL: http://scp-jp.wikidot.com/anavatapta
ファイルページ: 阿耨達池
ファイル名: 白い朝.jpg
タイトル: 白い朝
著作権者: 飯豊町観光協会
ソース: Wikimedia Commons
ライセンス: CC BY-SA 4.0
公開年: 2014
ページコンソール
批評ステータス
カテゴリ
SCP-JP本投稿の際にscpタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にgoi-formatタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
本投稿の際にtaleタグを付与するJPでのオリジナル作品の下書きが該当します。
翻訳作品の下書きが該当します。
他のカテゴリタグのいずれにも当て嵌まらない下書きが該当します。
言語
EnglishРусский한국어中文FrançaisPolskiEspañolภาษาไทยDeutschItalianoУкраїнськаPortuguêsČesky繁體中文Việtその他日→外国語翻訳日本支部の記事を他言語版サイトに翻訳投稿する場合の下書きが該当します。
コンテンツマーカー
ジョーク本投稿の際にジョークタグを付与する下書きが該当します。
本投稿の際にアダルトタグを付与する下書きが該当します。
本投稿済みの下書きが該当します。
イベント参加予定の下書きが該当します。
フィーチャー
短編構文を除いた本文の文字数が5,000字前後か、それよりも短い下書きが該当します。
構文を除いた本文の文字数が短編と長編の中間程度の下書きが該当します。
構文を除いた本文の文字数が20,000字前後か、それよりも長い下書きが該当します。
特定の事前知識を求めない下書きが該当します。
SCPやGoIFなどのフォーマットが一定の記事種でフォーマットを崩している下書きが該当します。
シリーズ-JP所属
JPのカノンや連作に所属しているか、JPの特定記事の続編の下書きが該当します。
JPではないカノンや連作に所属しているか、JPではない特定記事の続編の下書きが該当します。
JPのGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
JPではないGoIやLoIなどの世界観用語が登場する下書きが該当します。
ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意Cポータルでの表示設定
-
- _
注意: 批評して欲しいポイントやスポイラー(ネタバレを含んだ作品解説)、改稿内容についてはコメントではなく下書き本文に直接書き入れて下さい。初めての下書きであっても投稿報告は不要です。批評内容に対する返答以外で自身の下書きにコメントしないようお願いします。
- portal:4052664 (18 Jun 2018 18:44)



時代感がよくわかりませんでした。「ワルツ」という語が登場するのに修験僧が湖に立ち寄っていたりと、いつ頃の話なのかがいまいち掴みづらいです。
いくらか話に動きがほしいです。現状は「こういう願いがあります」→「生きている間に願いは叶いませんでした」と話に山がないので、ぼんやりした雰囲気のまま完結しているように思います。湖に住む不思議な生物としてSCP-109-JPの要素もそれほど上手く機能していませんし、どうにかSCP-109-JPの要素である「同化、ワルツ、湖中にいる向こうの相手」を使って話を組み立ててほしく思います。
似たような性質を持つ、というのであれば水質からしてSCP-109-JP-1と同じとしつつ、部分的に記事と同様の現象を起こしてしまってもよいのではないでしょうか。彗山がワルツの相手として湖に一緒に飛び込めば画になりますし、この出来事がきっかけになって現世に水が流れ込んだ……と現実にあるSCP-109-JPを匂わせてみてもいいかもしれません。どちらにせよ宮沢賢治の「阿耨達池幻想曲」にそれほど知名度はないので、このGoIFの中でしっかりと展開を作る必要があると思います。
ご覧いただきありがとうございます!
具体的な修正案はできていませんが、取り急ぎ返信のみで失礼します。
修験僧とワルツの食合せの悪さを上手く処理できていないことが要因ですね……。
登場人物を変えてみるなり地の文で説明するなり少し対応を検討します。
個人的に難儀しているところです。109-JPの原文から逸れすぎないようにと考え、少し及び腰になってしまった結果が現在の下書きなのだと思います。
今のところどのように組み替えるか思いついてはいないのですが、例示いただいたものも含めもう少し構成を考えていきます。