べニート・ムッソリーニ、1945年4月25日に書かれた手記
今日、ミラノを発った。コモを抜けて北上し、ヴァルテリーナへと向かう。売国奴のCLNは遂に私の話を聞き入れることはなかった。祖国が連合国の手に落ちる事態だけは阻止しなければならない…私は祖国を決して見捨てることはない。ローマを捨てた国王と同じ非難を受けるつもりはない。
C軍が我々を見捨てようとしていることを私は今日初めて知った。アドルフが私を最良で唯一の友だと言っていたのは嘘だったのか。やはりどのような形であろうとも、心から何かを崇めるような人間は信用に値しないのか。
私は人種の存在を信じていないし、神の存在も信じていない。祖国のために教会と手を取り合うことがあっても、ドイツの援護を得るために人種法を制定することがあったとしても、畢竟、私自身には信じるべきものは何もない。第一、キリストにしろアーリア人にしろ、なぜその存在を信じなければならないのだ?目の前にあるものの存在を認めるのに、わざわざそれを信じる必要などない…信じるまでもなくそれらは存在する。逆もまた然りだ…およそ信仰を得ないと存在できないような者どもは、即ち存在しないのだ。
存在するものが私の全てだ。祖国を守るために私は最後まで抵抗する。
RIDIA異常研究部門 管理官、ヴァスコ・ロマネッリの述懐、1946年
時は1942年6月、沢山の同胞たちと共にナポリの地下深くに潜伏していた俺は、軍事部門Divisione Militareからの度重なる督促状を前にして頭を抱えていた。彼等の前線は北アフリカのエルアラメイン、干上がった湿地帯を前にして常勝策の迂回戦術を取れなくなったアフリカ装甲軍が、来たる英国連合軍との正面衝突に向けて少しでも多くの戦術物資を要求していたんだ。しかし、俺の机の上に広げられたアノマリーの総覧は見渡す限り、既に黒のチェックマークで覆い尽くされていた。
天から齎される人智を超えた存在・アノマリーに対し、粛然とした研究者の矜持に拘っていた往年のRIDIAはこの頃にはもうなかった。足掛け20年くらいの世界情勢の目まぐるしい変化のせいですっかり荒れ果てていたんだ。王とドゥーチェの名の下に、イタリア中から超常物品がRIDIAの手元に集められ、「研究」という名の分析を済まされた後に適当な戦術的用途のために加工され、国家防衛と勢力拡大の狭間でせめぎ合う現場へと配備されていった。その前線の一つが、イタリア領リビアと英国領エジプト間で1940年から続いていた北アフリカ戦線だったというわけだ。
最初はローマ帝国の再来もかくやという勢いで攻め上がったイタリア軍は、しかし翌年にはイギリスの猛反撃を受けて一転窮地に立たされ、ドイツ帝国のロンメル将軍率いる鋼鉄の騎士団の助けによってどうにか戦線を立て直したという状態だった。敵国のバックに付いているのは英国神秘情報部、エジプトの地に眠る夥しい数の超常物品をむざむざ他国に奪わせることを奴等が決して容認しないのは考えるまでもなく当然のことだ。常勝将軍ロンメルの手腕を持ってしても、人理を外れた攻撃にまともに晒されれば無事では済まないだろう。それで、前線の陸軍部隊を支援するために、RIDIAで最も強大な軍事部門は他のディヴィジオーネに対して一刻も早いアノマリー兵器の投入を強要していた、というわけさ。ま、問題だったのはその強要に対する「適切な対応」は今までにもう何度も取られてきてたはずだって点だな。
俺はひとしきり悪態をつきながら、せめて俺の顔を立たせられる策はないか、どうにか余り物に見えない物品を送りつけられないか考えに考えた。読める欄が残り少なくなってきたアノマリー便覧をもう一度隅から隅まで読んで、俺はようやく次に前線へ投入する異常物品を発見することができた。“オブスクラ軍団”、この頃には非公認になっていたドイツの超常組織が、パリから奪取したものだと記した上で数点のアイテムを送りつけてきていたのだ。これを俺たちからの寄贈品だということにしてやろう。アーネンエルベの超常活動成績は色々な意味で目覚ましかったにしろ、当のヒトラー総統閣下はその手の分野にはあまり口煩く突っ込まないと聞いていたし、ましてや本国から離れたアフリカ戦線の兵士たちがこれらのアイテムの真の出自に気付くとも思えなかったからな…おっと、フランス由来の聖杯の話題は薔薇十字団や戦争情報局が血眼で嗅ぎ回ってるからな、他言無用だぜ。
だがな。オブスクラ軍団が送ってきたアイテムには明らかな軍事利用の痕があったばかりか、そのエネルギーを引き出す詳細な手段すらも併せて俺たちに寄越していたんだ。信仰を具現化させる炉とかいうのは機構を見たところ確かにまともに動作しているようだったし、試運転した限りでは出力も兵器として十分に見えた。となるとだ。軍団はなぜこれを手放すことを選択したんだろうな?彼等の手にはこのレベルの兵器は既に溢れんばかりに満たされているということか、それとも他の理由があったのか。オブスクラの手稿に記されている少しばかり精気の欠けた筆跡を思い返しながら、俺は静かに木製の杯を所定の場所へ送る作業へ移ったのさ。
そうさ、その時の俺は一つも知らなかったんだよ。俺のところに来た聖杯が、よりによってジェルマン家に代々伝わる呪いの聖杯だったなんてな。運のいいことに俺は呪いを喰らわずに済んだけどよ、俺よりよっぽどデカいものが犠牲になった。文字通りの天災だ。あんたらも知ってるんだろ?ドゥーチェの死んだ理由をよ。
RIDIA軍事部門 輸送官、フェリーチェ・マラスピーナによる述懐
忘れもしない1942年の7月初頭、私はフィレンツェ郊外の嵐の空ボーラを北西に向かって飛んでいた。行先は第三帝国ドイツのエルディング、アーネンエルベからRIDIAに対して要求された所定の物資を届けるのが私のその日の任務だった。当時のイタリア空軍は既に斜陽、正規軍にしろ超常組織間の構想にしろ、大局で生き残るためには帝国の高配を仰ぐのが適切な手段だったのだ。ヴァスコに無理を頼んで送ってもらった超常聖杯は、エルアラメインで壊滅の憂き目にあった前線兵力に届くことはなかったのだ。そして、私の本当の目的地であったドイツ本土にすらも、な。
それは予定された飛行ルートの半ばを過ぎた時に始まった。停滞する黒雲に覆われた空模様の中に、遽に天から光の帳が降りてきたかのように見えたのが最初だ。眩い大気の束は私の進路を僅かに逸れた位置に現れたようだったので、私はそれを無視して先を急いだ。次に私の目に映ったのは、光の中にぽつり、ぽつりと現れ始めた点のように小さい黒影だった。ちょうど、窓の桟に止まった羽虫のような。それで、黒影はたちまちのうちに数を増していった。それら一つ一つが何枚もの鳥の翼を一つに集めたかのような歪んだ姿形を有していることを認識するまで、そう時間は掛からなかった。
さて、私は後年まで語り草にするような明らかな異常事態の出現に気がつくことなく…いや、正確には気がついていたにもかかわらず、だな…正しい荷物の受け渡しを完遂させることを優先して飛行を続けた。そうこうしているうちに嵐は凄まじく足早に過ぎ去り、辺りは却って少しの風も吹かない穏やかな空に早変わりした。そしてそこには、私と共に空を駆けるギブリよりも更に遥かな高みから、ワイヤーに見える細い何かが大量に垂れ下げられているのが見えた。位置が近過ぎた…私はそのワイヤーの群の中に突っ込んだ。さながら劇場の舞台の天井裏のような、作り物の世界をぶら下げる糸だ。そして私は翼を切断された愛機と共に、そしてRIDIA本部から託された聖なる木杯と共に、明らかに地上ではない世界へと落下していったのだ。今思い返しても不思議に思うのだが、不時着の態勢をとったときの私は死の恐怖というものを全く覚えなかった。まるで夢の中の話だと思ったのか?それとも、私を迎え入れる世界が未知でも何でもない慣れっこの場所だとでも感じたのだろうか?今となっては分からない。ともかく確実なのは、私がこうしてこの体験を生きて語れているという、ごく単純な事実だ。
結論から言うと、私は見知らぬ土地の地面に激突することはなかった。先ほど軽く触れた鳥の翼の塊の群れが素早く私とギブリを取り巻き、落下する飛行機の胴体を支え、吊るされた天の土地へと静かに軟着陸させたのだ。ひとまず墜落死は避けられた私だったが、コクピットから外を見渡すと何やら鳥の塊たちに囲まれているではないか…どうということはない、それらは天使Angeliだったのだよ。彼等は操縦席の窓を破ってギブリの中に入り込んできたが、しかし侵入者に叫ぶ私には目もくれず、ゴソゴソと辺りを掻き回すばかり、程なくして聖杯を収めた箱を巻き上げられた。私ももちろん抵抗はした…しかし、天使に触ることは遂に出来なかった。夢か幻のようにすり抜けるのだ。
結局、私は見たことも聞いたこともないはずのどこかの幻の地に、翼を失った飛行機と共に放置されてしまったのだ。私はそこまでの話を昨日のことのように思い出せる。しかし、現にいま私はここにいる…私が吊るされた天からどうやって地上に戻ったのかは全く記憶がない。そもそも私は本当に天空の地に不時着などしたのだろうか?
この話には私にも不可解なことがある。私が最初に天使たちを目撃した時、私にとってそれらは全く見慣れたものだったように感じたのだ。天使だけじゃない。私が不時着しかけたと感じていた、吊るされた天の存在も。大詩人・ダンテが生涯の大作のクライマックスに記した、まるで彼が実際に見聞きしていたかのように活き活きとした奇妙な空間を。これもまた不思議なことだ…『神曲』には「吊るされた天」なんてものは出てこない、イタリア中の人間が知ってることだ。だが私は、確かに天空の大舞台の上で、私の懐へと潜り込む天使たちの囁きを聞いたのだ…『聖なるもの、須く至高天へと昇る』とな。
超常現象 EE-002983-IT
概要: ロンバルディア州の多数の地点に、既知の現生種でない多種類の動植物が出現し、急速に個体数を増やした。該当する生物の多くは体長1メートルを超える海生節足動物の特徴を有するもので、人間に対し積極的な攻撃性を示した。目撃者はそれらの生物が「南方の空から降ってきた」と証言しており、後の調査では生物の出現地点がトスカーナ州上空の発達した積乱雲の内部であったことが推測されている。また、生物群の中には種々の超常的形質を持つ個体が多数確認されており、一部は確保後にSCP-███-ITとして再分類されている。
発生日時: 1945/04/27
発生場所: イタリア社会共和国 ロンバルディア州
追跡調査措置: 1980年以降、この時に出現した生物の一部が、カンブリア爆発によって出現した古生物と酷似した外見を持つことが明らかになった。それら古生物の多くが1945年時点では一般に知られていない種であったことは特筆すべき点である。
リオネラ・イールズの公開遺言状、報道差し止め済み、1997年
……以上の目録が、わたくしリオネラの所有する正当な財産のすべてであり、そしてイタリア共和国とその自治体への正当な支払いを除いては、死後すべての財産を、ベッラージョ湖畔教会に寄付することを遺言いたします。これはひとえに52年前、小娘をお救いくださった、銅の手の神父様への御恩返しにございます。
わたくしはコモの湖畔に生まれ、湖とともに生を歩んでまいりました。あの恐ろしき年の4月、わたくしは公会堂で街の子供たちに筆記を教えておりました。南では戦争が続いていましたが、わたくしは兵士の娘でしたから、いざというときの覚悟はしておりました。
けれども、湖を腐った水の臭いが渡り、白い森が落ちてきたときのことを、なんと表現するのがよろしいでしょう? 川藻がまるで数百倍になり、雲の中から逆さになって湖に突き立ったようでした。沸き立つ水の中からは、牙と甲羅を生やした巨きな蟹たちが這い出でて、たちまち辺りは白く染まりました。
エティがあれらに捕まったのを、今でも夢に観ることがあります。血の一滴も流れることはありませんでした。彼女はこの世からいなくなりました。声が消えた後に、白い羽根が舞ったのでございます。わたくしは子供たちを湖畔教会に隠しました。湖の只中で、主の御心だけがよすがでございました。
わたくしはただ子供たちを抱えて、説教壇の影で震えておりました。懐にはナイフがありました。兵士たちがやってきたときのための護身用でございます。礼拝堂の扉が煙を上げて腐り落ち、乳色の陽光が差し込んできたとき、私は無我夢中でした。ただナイフを突き出して、少しばかりの間だけ、子供たちのためにあろうとしたのです。
神父様は見たこともない肌の色で、兵隊とも、街の人々とも違う服装でございました。赤黒い銅の腕をして、優しげな目をしておいででした。かれは私を押し戻し、子供たちの背に外套を掛けて、それから外に出ていかれました。彼が歩くところ、白い羽根が舞い散り、けだものたちはかれを避けていくようでした。それで私はその方のことを神父様だと知ったのです。
わたくしは神父様とはほんの一言を交わしたきりでした。それでも、白い羽根の夜のすべてが記憶の彼方に過ぎ去った今となっても、わたくしは神父様のお言葉を憶えているのでございます。
意志ある人、あなたに訪れる終わりが、心安らかであるように。
旅の後、二度とベッラージョに戻ることが叶わなかったことだけが、わたくしの心残りでございます。しかしながら、この告白によってそれが雪がれるならば、何よりの慶びです。白い羽根は未だわたくしの肺に居着いておりますが、わたくしも子供たちも、こうして遠い地で生きております。わたくしたちの終わりは主のみもとに見守られ、安らかであることでしょう。
親愛なる蛇の友により、この遺言状が世界に向けて開かれんことを願います。
ASCI所属エージェント、ニックス・メトカーフによる手記、1945年11月1日
オグデンが私に遺書をよこした時のことを思い出す。曰く、娘のアウレリアももう独り立ちできる歳になったから、思い残すことはもうないという。彼がRIDIAに単身で潜入してからかれこれ20年になるが、彼は毎月の私との文通を最後まで欠かすことはなかった。今思えば、よくムッソリーニ率いるイタリア超常組織の監視網を掻い潜れてこれたものである。
オグデンが遺書を書いた日、 RIDIAを表社会から支配していた彼らが国のドゥーチェは、数万人の祖国の民と共に死んだという。下手人は連合軍の精鋭隊でも、血気盛んなレジスタンスでも、ましてやドイツの裏切りでもない。オグデンによれば、奴の死因は字義通りの天災だった…遥か高くの空中にあった陸地が崩壊し、それが今のコモ湖の辺りへと墜落したのだという。ヒトであるもの、ヒトでないもの、人智の及ぶもの、及ばないもの、全てが折り重なって死んでいた、とオグデンの報告にはある。その中で辛うじて息の残っていた者たちは、進駐した連合軍に同行する各国の超常組織のエージェントにより回収されていったという。
オグデンの遺書と共に、一つの小箱が送られてきた…彼はその中身を「空から落ちた天使より採集した羽」であると書き添えていた。しかし箱の中身は全く空のようであった。私は彼がジョークを使うところをそれまでに見たことはなかったので、何かが隠されていると考えた。兄に相談してみたところ、研究中の非実体反射力場に箱を入れてみることを提案された。試したらビンゴだった…確かに箱の中には1本の白い羽毛が現れたのだった。
恐らくは、オグデンの遺書の情報は全てが真実なのだろう。少なくとも、彼と私とにとっては。彼が私に最後の手紙を送ったあと、どのようにしてこの世を去ったのかは、私は知らない。しかし、彼が実際に天使に触れ、実体を持たないはずの超常生命から素手で羽毛を手に入れたのが真実であるとするのなら、果たして天の上の陸地というものも、過去の伝承や詩に残されるものだけでない、確かな形を持ったものだったのだろうか。今や、それらは永遠に私達の世界と袂を分かたれてしまったのだろうか。オグデン・ギアーズと私の他に誰もその存在を知らない、コモ湖の水に覆われているはずの地域に住んでいた20万の犠牲者は、どこに消えたのだろうか。謎は尽きない。
AO-00290-ITに対するインタビュー記録の転記
ええ、私に名前はありません。必要とされなかったからです。無数の同胞と、神前に列せられるに値する聖の者たちと共に、私は永遠の花の前に座し、全て神の御心のままに生きてまいりました。
十天に数えられることのない天の存在を、貴方たちはご存知でしょうか。およそ地上の全ては神が創りたもうた箱庭です。しかし、かの御方が創りたもうた全てを平等に愛したのではございません。箱庭に置くことを良しとされなかったものは、天へと留め置かれました。そこは聖なる魂の暮らす世からは切り離された、言うなれば禁忌の地。奇異なる姿形を持つ者たちが乗せられた大地は幾筋もの糸によって吊り下げられ、天国から遠い場所へと堕ろされてゆきました。
ある時、吊るされた天の近くを聖なる物体が通り過ぎました。私たちは神の御心のままに聖なる物を拾い上げ、至高天へと昇らせました。箱の中には、一つの木製の杯が納められていました。神の御子が自らの一部を収めたという聖なる杯を模して作られたと思しきその杯は、やはり聖なる物品でした。故に私たちはそれを永遠の花の前に昇らせることを許しました。しかし、思い返せばこれこそが私たちの犯した唯一の、そして最大の過ちだったのです。
木の杯が不浄なものをその中に湛え始めたのは、私たちが聖杯を得てから暫しの時を経た後でした。私たちは時というものを知らないゆえ、貴方たちの単位で語ることが出来ないことをお許しください。不浄なものはたちまちのうちに杯から溢れ出しました。地獄の亡者達の肉体と見紛うような、赤黒く粘りのある液体でした。およそ聖なるものとは呼べないそれは、永遠の花より下の天上を覆い始めました。私たちは神の御心のままに、不浄の杯を至高天から投げ落とし、吊るされた天の方角へと放逐したのです。私のほかに、少なくない数の同胞が犠牲になりました…汚泥を浴び、翼を失い、天の魂の軽やかさを失い、私たちは杯と共に創り物の天へと落ちました。泥は地上に相応しくない者たちの上へと落ちかかり、神の糸をグズグズと腐り落とし、結果としてもはや吊るされるだけの力を失った世界は…堕天したのです。
神の創りたもうた生命は地上に溢れ、その上に天の外れの者たちが落ちてゆきました。聖なるものもそうでないものも、ひとえに衝撃によって打ちのめされました。吊るされていた天の住人のうち飛べるものたちは私たちの後を追って地上へと降り立ち、地に暮らす者たち、私たち神の慈悲を受けた者たちの肉と魂とを貪ってゆきました。それらは神が自らの創りたもうたものであるとした生き物たちとは似つかぬ姿をした異形の虫でした。
しかし、結局のところ最も恐ろしかったものは、天の外れの生命でも、不浄なる聖杯でもありませんでした。天の落ちたところに遠くの地から集まってきた人間たちが、おそらくは天の存在を消し去ろうと試みたのです。大地が瓦礫に埋もれた事実を無かったことにするために。私の同胞の全ては連れ去られました。泥と歯形に塗れた亡者たちもまた全てが運び出され、天が落ちた地にはやがて広い湖だけが残りました。そして私も何者かによって地上へと留め置かれました。私にはその何者かが誰なのか、おおよその検討はついています。
貴方たちは私たちに何をしたのですか?犠牲となった者たちはどこへ消えたのですか?不浄の杯は?吊るされ落ちた天の地は?私たちのお仕えしていた至高天の神は?貴方たちは何も知らないとおっしゃいます。ですが、そのようなはずは無いのです。
私は覚えています。あの時、亡者の肉に覆われ力なく這いずっていた私を掴み上げ、心というものを感じられない顔を私に向けた人間の、否定の呟きを。『この場の者は全て、唄の中だけの存在となる』という言葉を。その男が付けていた、3本の矢印を。貴方たちの持つそれと同じ、封印の紋章を。
以下のメンバーによる編集を許可します。
当該ユーザー本人から誤操作であるとの申し出があったため、rev.32で行われたタグ付与の操作を巻き戻しました。
このポストへの返信は禁止されています。
Moderator of SCP-JP