探査記録XXX-JP-1 日付20██/██/██
対象: Dクラス職員の男女二名を用いる。男性は25歳で筋肉質。やや反抗的な面が見られるが、███博士により探索に問題ないと判断された。以降D‐624と表記される。女性は40歳で、平均よりやや小柄で痩せている。精神面に特に問題はない。以降D‐1107と表記。
実施方法: D-1107に十分な充電が成された無線通信可能の小型ビデオカメラを持たせ、SCP-XXX-JP内部の撮影を指示する。また両名ともにマイクヘッドホンを装着し、司令室の増田研究員の質問にはすべて返答することを指示した。
記録されたビデオカメラの映像と音声:
D‐624、D‐1107の両名がSCP_XXX_JPの入り口に到着します。扉に窓は付いておらず、また隙間から内部の様子を伺うことはできません。扉の脇の壁に、〈スクリーン7〉と記載されています。
増田研究員:では、D‐624から中に入ってください。
D‐624:あいよ……行くぞ。
増田研究員:D-1107はカメラで内部を映してください。
D-1107:分かりました。
D-624が扉を開き、SC-XXX-JPの内部に入りました。内部は暗く、照明は一切ありません。
増田研究員:何か異常はありますか?
D-624:……いや、何もねぇな。
増田研究員:ではD-1107も入ってください。
D-1107:は、はい。……分かりました。
D-1107が中に入りました。途端に通路が仄かに白い光で照らされ、同時に一人でに扉が閉まりました。光はスクリーンの映像によるものでした。また当時の映画館内部は対象を除いて完全な無人であり、スクリーンに映像を映しだせる環境ではありませんでした。
増田研究員:異常はありますか?
D-1107:そんなことより、映画を見ないと。
増田研究員:は?
D-624:そうだ。映画を見ないとな。
D-624、D-1107の両名は口々に「映画を見ないと」と呟きながら、SCP_XXX_JPの内部へと歩いていきます。この最中、D-624、D-1107両名からは有益な回答を得られませんでした。
映像から内部が通常の〈スクリーン7〉と同一の構造をしており、対象の他に人の姿がないこと、またスクリーンにはモノクロの映像が映し出されていることが確認できました。スクリーンの映像に音声はありません。内容はコメディのようですが、既存の映像作品のどの作品とも一致しませんでした。対象が座席に着くと、場内にブザーが鳴り響き、スクリーンの映像が消えました。
D-624:いよいよだ。
増田研究員:現状、退出することは可能か確認してください。
D-624:ふざけんな。映画見逃すじゃねぇか。
D-1107:そうですよ。映画が始まってしまいます。
増田研究員:どのような映画が始まるのですか?
D-624:最高に面白いやつだ。
D-1107:とても面白い映画ですよ。
映画についての明確なストーリーを聞き出すことはできませんでしたが、対象は共に映画が「とても面白い」ものであると確信しているようでした。対象の着席から丁度5分後、スクリーンに映像が映されました。映像はスーツ姿の男女が一組、SCP-XXX-JP最前列の座席から立ち上がる場面から始まっていました。以後、映像はおよそ2メートルほどの距離を保ったまま、男女の背後を映し続けています。男女が背後を確認する場面はありますが、カメラ(以降はSCP-XXX-JP-Aと表記)に気が付く様子は見受けられません。
映像内の男女はSCP-XXX-JPの外に出ようとしています。扉を開くとその先はSCP-XXX-JPに酷似したSCP-XXX-JP-1へ繋がっています。映像内の男女が怯える様子を見せました。
D-1107:[吹き出すような笑い声]
増田研究員:どうしました?
D-1107:いえ、今の場面が少し面白かったので。
映像内の男女がさらに反対側の扉を開くと、SCP-XXX-JP-1に酷似した空間(以降はSCP-XXX-JP-2と表記)が広がっています。女性が小さく悲鳴を上げました。D-624、D-1107の両名が笑い声を上げました。映像内の男女は相談の結果、出口を求めて歩き続けることを決意します。映像内の男女が扉を開くと、扉はSCP-XXX-JP-2に酷似したSCP-XXX-JP-3へと繋がっていました。SCP-XXX-JP-3はSCP-XXX-JP-2と比べると、やや老朽化したように見えることに映像内の男性が触れました。以後男性は気丈に振る舞いながら、怯える女性を先導して歩いていきます。映像を見る対象の両名は持続的に微かな笑い声を漏らしています。
増田研究員:なぜ笑っているのですか?
D-624:なぜ? [笑い声] 面白いからだよ!
Ⅾ-1107:今までの [笑い声] どのコメディより [大きな笑い声] 面白いわ!
なぜ面白いのか尋ねると、対象両名は映像内の男女の反応を指摘しました。増田研究員は指摘された映像内の場面について「通常、恐怖を感じるようなものである」と報告しました。恐怖の感情が「面白い」という感情に置き換えられているものと推定されます。また、映像の視聴する対象の両名には定期的に退場を促しましたが、「映画を見ている」ことを理由に拒否されました。
映像内の男女がいる空間は、扉を開く度に老朽化しているようです。具体的には「埃が座席の上に積もっている」「座席が一部壊れている」「床や壁の一部に染みがある」等の現象が「扉を開けた途端に埃が舞いあがる」「ゴキブリの死骸がある」「座席がすべて壊れ、内部が剥き出しになっている」「床や壁の大部分に由来不明の染みや汚れが付着している」等の現象へ変わっていくことが確認されました。また映像内の女性がSCP‐XXX-JP-21に入った際、「血液のような匂いがする」と発言しました。SCP-XXX-JP-21には一部の床、壁、座席の上に赤黒い染みが見られました。上記の染みを確認すると、女性が床にへたり込み嗚咽を漏らし始めました。男性がしゃがみ込み、慰めの言葉を掛けながら女性の背中を撫でています。30秒後、映像内で男女と一定の距離を保っていたSCP-XXX-JP-Aが男女に近づき始めました。この時点より、D-624、D-1107両名の笑い声が大きくなりました。男性がSCP-XXX-JP-Aに気づいた様子を見せ、悲鳴を上げました。女性も振り返ると悲鳴を上げ、SCP-XXX-JP-Aから離れようとする意思を見せます。SCP-XXX-JP-Aは女性に接近し、黒い棒状の物で頭部を殴り気絶させました。逃げようとした男性も同様に気絶させました。SCP-XXX-JP-Aは男性を女性の隣まで運んでいきます。映像の端に黒い霧状の腕が男性のスーツの首元を掴んで引きずる光景が映っていました。黒い霧状の腕はSCP-XXX-JP-Aのものであると推測されます。SCP-XXX-JP-Aは男性を女性の隣に並べました。男女は二人とも頭部から血を流し、意識を失っているようです。SCP-XXX-JP-Aは男女から離れ、SCP-XXX-JP-21の扉へと動き始めました。映像が男女を映し出さなくなると、物を引きずるような音が届いてきました。この場面の最中、対象の両名は腹部を抱えて笑い続けていました。
SCP-XXX-JP-Aが扉を開けると、SCP-XXX-JPと推定される空間に戻ってきていました。映像から、人は誰もいないことが確認できます。映像内のスクリーンにはモノクロのコメディが流されていました。SCP-XXX-JP-Aは最前列の左端の座席で動きを止めます。この時点で、映像は丁度59分が経っていました。
増田研究員:両名、退場してください。
D-624:ま[こらえきれないような笑い声]待てよ。もう少しだ。
D-1107:ええ……[小さな笑い声]
40秒後、SCP-XXX-JP内の入り口から「映画を見ないと」という男女の声が届いてきました。映像内の通路から、対象の両名が姿を見せました。映像を見る対象の両名が今までにないほどけたたましい笑い声を上げました。15秒後、内部との一切の交信が途絶えました。