天国からの階段と判決文

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一体俺は何段この螺旋階段を登ったのだろう?登るたびに過去を思い出す。思い出したくない思い出ばかりを。家族とうまくいかず、いがみ合いの末に父親を手にかけ、こんなところに送り込まれた。きっと生きて戻ることはできないのだろう。

やがてこんな光景を思い浮かべた。赤ん坊が母親に抱きかかえられている。俺の人生の始まりにたどり着いたのか。こんなことになるなら生まれてこない方が…。

おかしい、階段はまだまだ続いている。これ以上登ったら何を思い出すんだ?

暗闇が続く。俺はまだ生まれていないのだから当然だ。でも、次に見える光景がわかる気がした。

見えた。思った通りだ。螺旋階段の一番下でうごめく肉塊がドアの外へ出ていく。胎児が階段を転がり落ちる。頭のないガキが階段を下りる。体の欠けた俺が階段を下りる。

どんどん欠けていくがこれは逆だ。俺は体を組み立て、若返りながら降りて行ったんだ。

階段の一番上でしわくちゃの腕が動いている。思わず「見つけた。」と呟いた。ドアが開こうとしている。俺はあのドアを通って下りてきたんだ、あのドアを通ればあの場所に戻れるんだ。

見つけた、最上階のドアだ。思わず駆け寄りドアノブに手をかける。電撃首輪もどういうわけか機能していないようだ、本当に運がいい。嫌な事ばかりの人生だったけれどあの場所に戻れる…あの場所には苦しみはない、誰もが生きる権利を持っている…。

「控訴します。」ドアの向こうからそんな声がした。

思わず立ち止まる俺の前に一人の男が現れた。弁護士のような格好のその男は俺に手にした紙を突き付けた。紙にはこう書かれていた。「被告人の右腕以外の全身体部位は、原告の保持する身体部位との同一性保持権を侵害しており、その存在が原告の生存権を脅かしていることは明白であります。以上のことを踏まえ、被告人の保持する違法個所を即刻没収の後、然るべき判決を下すものとします。」

なんだこれは。そう思っているうちに俺の体は左腕から消え始めた。そんな、あと少しなのに、俺はただ、生きたかっただけなのに…。

最後に見えたのはドアの向こう側にいる男たち。その中には、俺が混じっている。どうして俺がいる!?いや、あの判決文には俺の体は同一性保持権を侵害しているとか書いてあった。まさかあの俺こそが本物の俺だったのか…?


「うーん…」

僕がSCP-██████-JPの報告書を探していると、後輩の研究員が何やら考え込んでいた。今日は僕が担当する実験やインタビューはない、たまには後輩の相談に乗ってみるか。

「どうした?SCP-062-JPの報告書じゃないか。」
「T博士はどうして『上告します。』だなんて言ったんでしょうか。思わず叫んだだけで深い意図はなかったのかもしれませんけど、まるで第一審がどこかで行われていたみたいで。」

後輩がそこまで話すと██████博士がやってきて後輩を連れて行った。第一審がどこで行われていたか…。

それは僕たちが生まれる前、言うならば天国での出来事ではないのか?ふと、頭の中にそんな考えが浮かんだ。天国に住む原告とやらをうまいこと騙してそいつらの体をコピーし、体のパーツを組み立てながら天国からこの世に降りていく。そうして生まれてきたのがこの世界に生きる僕たちだ。しかし、コピーがのうのうと生きていることに納得がいかない原告は控訴を訴え出る。その結果、第二審の判決により僕たちはコピーした体のパーツを奪われ死んでいく…。

そこまで考えて僕は考えるのをやめた。馬鹿馬鹿しい。今更確かめることなんてできない。それこそ生まれる前のことを思い出す方法か、生まれる前の世界へ戻る方法でもなければ…。


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