おかあさんがたすけてくれる

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クレジット

タイトル: おかあさんがたすけてくれる
著者: verymffn
作成年: 2023

+スポイラー

+ 見ていただきたいところ

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPの敷地周囲には金属製の柵と監視カメラを設置します。また2人の警備員を2時間ごとに巡回させ、民間人の侵入を防いでください。周辺住民にはカバーストーリー「開発予定の私有地」を適用します。SCP-XXXX-JPの内部には監視カメラを配置し、未知の異常性の発生がないかを監視してください。実験などでSCP-XXXX-JP内部に侵入する場合、人員には必ず実母・養母問わずこれまでの人生で自分の母親と接触したことのないDクラス職員を用いてください。

説明: SCP-XXXX-JPは宮城県仙台市泉区の郊外に存在する、根岸恵子氏(失踪当時54歳)¹と息子の根岸恵一氏(失踪当時30歳)²が居住していた築30年の2階建住宅です。住宅の構造にはこれといった異常性は見られません。2009年7月に2人の原因不明の失踪によって住宅が空き家となりました。その2年後、肝試し目的でSCP-XXXX-JPに侵入した学生により異常性が発見され、財団によって収容されました。
SCP-XXXX-JPの異常性は内部に単独で人間が侵入した場合に発生します。侵入した人間(以下、対象者とする)は住宅内部を「息が詰まる」と評し、その後原因不明の強い恐怖や圧迫感、焦燥感を訴えるようになります。
また心拍数の上昇や発汗、手の震えなどの身体生理的反応が発生します。この症状はSCP-XXXX-JP内部に滞在する時間が長くなるほど強まりますが、住宅から退出すると消失します。
対象者がSCP-XXXX-JP内に30分以上留まった場合、未知の手段によってSCP-XXXX-JPは閉鎖され脱出と外部からの新たな侵入は不可能となります。同時に内部に人型実体(以下、SCP-XXXX-JP-1とする)が発生します。

SCP-XXXX-JP-1は体長約160cm程の人型実体です。全身は黒い靄のような物体で覆われており、視認・映像解析などいかなる方法でも詳細な外見を判別することができません。また頻繁に発声を行いますがその発音などは不明瞭であり、意思疎通が成功した例はありません。SCP-XXXX-JP-1は非常に攻撃的であり、対象者を発見すると即座に殴りかかる・蹴りつけるなどの手段で攻撃を行います。
攻撃を受けた対象者は極度の緊張状態に陥り、SCP-XXXX-JP-1に対して強い恐怖や不安、自己否定、攻撃されることは自分に原因があるからだという諦めなどの強い負の感情を覚えます。この精神的影響により、対象はSCP-XXXX-JP-1へ抵抗することが非常に困難となります³。
またSCP-XXXX-JP-1によって与えられる攻撃は、通常その攻撃で負うであろう負傷よりも激しく肉体を損傷させ、それにより対象者は高い確率で死亡する、もしくは重傷を負います。
SCP-XXXX-JP-1は約30分時間が経過するか、もしくは後述する別種の人型実体(以下、SCP-XXX-JP-2とする)が発生すると消失します。SCP-XXXX-JP-1の消失とともにSCP-XXXX-JPからの脱出・外部からの侵入が可能になりますが、SCP-XXXX-JP-2が発生しない消失において対象が生存していた場合、高い確率で強い外傷後ストレス性障害を発症します。

SCP-XXXX-JP-2はSCP-XXXX-JP-1の攻撃に晒された対象者が「母親に助けを求める言葉」を発するとSCP-XXXX-JP内に現れる体長約160cmの人型実体です。全身が白色に発光しており、こちらもまた詳細な外見を判別することには成功していません。
SCP-XXXX-JP-2は発生後対象者へと接近し体に触れます。この際、対象者の負傷は未知の手段によって治癒します。治療が終了するとSCP-XXXX-JP-2は対象者の頭を何度か撫でた後消失します。その後対象者がSCP-XXXX-JPから退出するまでSCP-XXXX-JP-1の再発生は起こりません。
SCP-XXXX-JP-2に接触した対象者は「SCP-XXXX-JP-2は母親であり、自分を助けてくれた」と確信するようになります。その後、約6割の対象者(A群と分類)は母親という存在に強い感謝と尊敬の感情を持つようになります。一方4割の対象者(B群と分類)は母親に助けられた事実とそれに肯定的な感情を抱いた自分に対して激しい嫌悪感を抱くようになります。
実験結果の分析によると、対象者群Aは生育環境で母子関係が良好もしくは問題のなかった人物で、対象者群Bは母子関係に問題を抱えていた人物で構成されていると判明しています。

以下はSCP-XXXX-JPからの脱出に成功した対象者へのインタビューログです。

+インタビューログ1

- インタビューログ1を隠す

対象: エージェント・東海(SCP-XXXX-JP-2を初めて出現させた被験者。A群に分類されている)
インタビュアー: 冬木博士

[記録開始]

冬木博士: では、インタビューを開始します。体調などに問題はありませんか？

エージェント・東海: はい。もう平気です。

冬木博士: では、まずSCP-XXXX-JP-2が出現した際の貴方の状況について教えて下さい。

エージェント・東海: 映像記録にもあったと思いますが、俺はあの時SCP-XXXX-JP-1に殺されかけてました。抵抗は試みましたが、ただ……どうしても抵抗できなかったんです。

冬木博士: 以前の実験ではSCP-XXXX-JP-1は侵入者の抵抗を阻害する精神影響を発生させると記録されています。我々はその影響だと判断しましたが、貴方の見解はどうですか？

エージェント・東海: 多分そうです。あいつを見た途端、頭の中が真っ暗になって怖くて仕方なくなって……堪えきれなくなって、うずくまったところを蹴られました。あいつは素手なのにフライパンとかそういうもんで殴られるような痛みでした。そのうち頭から血が出てきて、意識も朦朧としてきて、あれが走馬灯なんでしょうか。昔のこととか家族のこととかどんどん思い出して、それで……

冬木博士: それで？

エージェント・東海: つい叫んだんです。「母ちゃん、助けて！」って。自分でも驚くぐらいでかい声が出ました。びびったのかSCP-XXXX-JP-1が一瞬動きを止めて……目を開けたら消えてたんです。かわりに目の前にSCP-XXXX-JP-2が立ってました。……多分あれは、母親です。

冬木博士: ……映像記録には白く光る人型実体が映っていましたが、貴方にはSCP-XXXX-JP-2が自分の母親に見えていたと？

エージェント・東海: いいえ、俺にも白い人影に見えてました。ただ何と言えばいいんでしょうか……直感でこれは母親だってわかったんです。母ちゃんが助けにきてくれたんだ。だからもう大丈夫だって。

冬木博士: なるほど。実際SCP-XXXX-JP-2は貴方の傷を治癒させていますね。

エージェント・東海: はい、母ちゃ……すみません。SCP-XXXX-JP-2に撫でられた時、俺はずっと母親のことを考えてました。昔怪我して帰った時に、あんな風にあったかい手で優しく撫でて、痛いの飛んでけってしてくれたとか、そんな他愛もないことですが。

冬木博士: 一つ確認したいのですが、SCP-XXXX-JP-2は貴方の母親だという認識は今もあるのですか？

エージェント・東海: ええ、あれは母ちゃんです。あんな危険なとこにまで来て、俺を助けてくれたんだと思っています。本当もう、頭が上がりません……すごいんですね、母親って。俺達守るためなら何でもしてくれるんですよ。

冬木博士: わかりました。これでインタビューを終了します。

[記録終了]

終了報告: エージェント・東海から複数回にわたり「SCP-XXXX-JP-2の出現に異常性はないと考えられる。オブジェクト指定から外すべきではないか」という提案がありました。この提案は却下され、エージェント・東海には記憶処理が行われました。

+ インタビューログ2

- インタビューログ2を隠す

対象: D-8818(自身の母親を殺害した罪で起訴・収監されていた。B群に分類されている)
インタビュアー: 冬木博士

[記録開始]

冬木博士: では、インタビューを開始します。

D-8818: (対象は俯いたまま応答しない)

冬木博士: ……D-8818？大丈夫ですか？

D-8818: ……ああ、すみません、大丈夫です。ごめんなさい。

冬木博士: もしも体調が優れないのなら申し出てください。まず最初の質問ですが、貴方はSCP-XXXX-JP-2を母親だと思いましたか？

D-8818: はい。私もあれのことは……母親だと思いました……顔は見ませんでしたけど。

冬木博士: その認識は現在も続いている、ということでよろしいですか？

D-8818: (緩慢に頷く)

冬木博士: 次の質問です。SCP-XXXX-JP-2が貴方を助けた際、貴方自身はそれをどう感じましたか？なるべく具体的に答えてください。

D-8818: (約1分間の沈黙。発汗と手の細かい震えが見られる)

D-8818: ……嫌、です。

冬木博士: 嫌？どのような点がですか？詳しくお願いします。

D-8818: ……嬉しかったんです！それが嫌なんです！

D-8818: (机に拳を叩きつける)あんなヤツ大っ嫌いだった！あたしの言うことなんて何も聞いてくれなかったのに！いつもこっちのことばっか責めて、怒鳴って！何度もぶたれて！つらかった、やだった！

冬木博士: 落ち着いてください。D-8818。

D-8818: いつも夢でもバカにされて、生きてるだけでずっとずっと苦しくて、だから殺した時本気でせいせいした！なのに、なのにあたし助けてなんて言っちゃった！助けてほしいって思っちゃった！そんな、そんなあたしも嫌だ！いやだ！

冬木博士: ……インタビューを終了します。鎮静剤の投与を。

D-8818: あいつが来てくれて、撫でられて……嬉しかった……それが一番やだ……。大嫌いなのに……優しくされたくなかったのに……あたし、バカみたい……。

[記録終了]

終了報告: インタビュー終了後、D-8818は抑うつ状態や希死念慮などの精神的不調を訴えました。カウンセリングが実施され、症状はある程度緩和されました。

インシデント: 上記のインタビュー結果から得られたデータにより、SCP-XXXX-JP-1及びSCP-XXXX-JP-2の発生には対象者の母子関係が関わっているのではないかという予測が立てられました。検証のため、出産時に実母が死亡、その後孤児院で養育されたため母親と接した経験のないDクラス職員を用いた内部侵入実験が行われました。
この実験では通常発生するSCP-XXXX-JP-1の出現がなく、侵入から1時間後にSCP-XXXX-JP-2が出現しました。SCP-XXXX-JP-2はDクラス職員を視認すると接近し、両手で抱きしめようと試みましたがDクラス職員の抵抗により失敗しました。
直後SCP-XXXX-JP-2は「お前なんていらない」と発声して消失しました。この事例はSCP-XXXX-JP-2が発声した唯一のケースです。これ以降、生物学上の母親と接触したことのない人物の前にSCP-XXXX-JP-1及びSCP-XXXX-JP-2は出現していません。
また、この際に得られた音声データを用いた声紋鑑定により、SCP-XXXX-JP-1とSCP-XXXX-JP-2の声紋が一致することが判明しました。

補遺: Dクラス職員によるSCP-XXX-JPの内部探索により、根岸恵一氏の自室と思われる部屋から指紋と血痕が付着した文化包丁1本が回収されました。鑑定の結果、付着している指紋及び血痕は根岸恵子氏と根岸恵一氏両名のものと判明しました。両氏の失踪とSCP-XXX-JPの異常性の関連については現在調査中です。

付与予定タグ: SCP-JP　ホラー/サスペンス

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