マリアナ海溝から回収された黄色のお酒と怪文書

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68分。この世界に残された時間。ストップウォッチを叩き、00:00:01から数えさせる。両手に銃を提げた、ぼろぼろのSWATらしい戦闘服を着た男がいる。
茜色の空。3車線の道路の真ん中に、男は立っていた。道の両脇には雑居ビルや飲食店と思わしき看板を出している建物が身を足す限り続く。
アスファルトは茜色を反射してか、やけに赤色をしていた。鉄のにおい。まだ新しい方だと男は思った。
目に付いた目の前の建物に入る。コンビニと思わしき建物だ。
陳列棚には何も置いてあらず、ところどころ棚が「折れて」いたり、鉤爪のような跡が残るのみだ。食料の確保は不可能であった。そこから出て、食料を探す。
次に男は向かいにある雑居ビルへ入っていった。
部屋はたくさんあるものの、食料を置いてある部屋は見つからなかった。
最上階の部屋に着いた時、男は部屋の窓から、道路に四つ足で歩く、巨大な爬虫類を見た。
銃で攻撃しようとした瞬間、今までの景色は全て消え、ただ黒一色の世界になった。

96分。この世界に残された時間。ストップウォッチを叩く。
雲一つない青空、山を覆う雪。そして、遠くの尾根に古ぼけたログハウス。
男はくたびれたリュックサックを背負い、ログハウスへと歩んだ。
ドアを開け、玄関へ入る。鉄臭い匂いが鼻を刺激する。中は、赤く塗装されていた。
気にせずに奥へ進むと、リビングに一つの机。冷蔵庫はあったが、中は空。
机の中を覗くと、黄ばんだ紙が一枚。なにも書かれていなかった。男は燃料にするため持っていくことを決めた。
ログハウスを出て麓を見た男は、自分と同じくらいの長さを持った白い物が、こちらに向かってきているのが見えた。
白い物が男の服を掴み、男を殴ろうとした。男は恐怖のあまり目を瞑る。意識が走馬灯のように駆け巡る。男が自分の幼少期のことについて思い出していた時、服が掴まれている感覚がなくなった。目を開ける。そこは自分の幼少期の頃の様な世界。一面を黄色で埋め尽くした、花の世界だった。

280分。この世界に残された時間。ストップウォッチを叩く。
前の世界から移転してきた男は、目の前の光景に思わず足を止めた。
“世界がなかった”
ただそれだけの、元の世界で体験してきた事。それだけで男には精神的に来るものがあった。
彼は元気だろうか。頭の片隅に彼のことを気に留めつつ、周辺探索を行う。
前……黒。右……黒。左……黒。後ろ…かなり遠くに山。周辺にはなにもなし。
男はここで休憩することを決めた。ただの大きな布と化した毛布を体にくるみ、身をかがめて目を瞑る。
脳裏に彼の姿が思い出される。
食料調達の為に戦闘中、ぼろぼろだった時に救って貰った。正気の沙汰ではないと思われていたあの時が、先日であったかのように思い出される。
今ではもう死んでいるかもしれないが、彼に言った「再起動させる」使命を果たせねばならないと。
そんなことを思いつつ、男は休眠に入った。男が休憩に入って数時間後、転移した感覚があった。目を開ける。瑠璃や緑の湖がある。見覚えのある景色だった。

32分。この世界に残された時間。ストップウォッチを叩く。
そこには地平線の彼方まで黄色の花が埋め尽くしていた。ひまわりだ。男のくたびれたリュックサックに入っている物と同じ色をしている。
男はリュックサックにそれが入っていることを思い出したように取り出し、大瓶に口つけ、飲んだ。
甘い、だけれども苦い。
その味とともに、古い幼年時代の記憶が蘇る。ばあさんと妹が、ゆるやかな緑の丘からたんぽぽを摘み、じいさんが砂糖と水をなみなみ入れ、沸騰させる。黄色が褐色に変わる光景。
知らぬ間に涙が出ていた。そうだ、ひまわりのお酒を作ろう。
瓶の底に沈んだ少しの砂糖。水。ひまわりの花弁さえあれば作れるのだから。
時間は少ししかないけれど。少しの時間を費やす価値はあると。
背丈の低いひまわりへ向かうため、邪魔なひまわりを切っていく。途端に悲鳴が聞こえる。
周りのひまわりがこちらへ正対する。だがそんな事を気にしている場合ではない。
背の低いひまわりへついた。花弁を摘み、また別のひまわりへ。
それを続け、花弁を大瓶へ押し込んでいた男の世界は、またもや黄色。しかし先ほどとは違う、見覚えのある世界へ変わった。

200分。この世界に残された時間。ストップウォッチは叩かなかった。
青、黄、緑の小さな湖。間違いなくここを知っている。イエローストーン国立公園だ。
目的の場所の近くへはたどり着けた。あとは目的のパークレンジャーステーションを探すだけだ。
数十分後、彼は施設内に侵入した。
しかし、施設内はどこを見渡せど嗅ぎなれた鉄の匂いと、酸化した鉄の褐色が残るのみであった。
10,000人を恒常的に収容可能と言わしめた施設群も、ただ一部で浄水施設が使用可能で残るのみである。
奥へ、奥へと歩みを進める。
ある細い通路を歩いていた。排気口から一つ、汚れた本が落ちてきた。叩いて埃を落とす。
黒革の本だ。表紙と裏表紙しかないので、束が薄かった。
背にはなにも書いていなかったが、表紙には金の刺繍でこう綴られていた。
その身の毛もよだつ底なしの悪夢に、男はただ褐色に染められた天井を見るしかなかった。
そして自分の人生について悟り、運命を呪った。
ーーーーー
██分。この世界に取り残された時間。ストップウォッチは叩かなかった。
黄色の花弁。腰高の花。間違いなくたんぽぽだ。そして、あの日見た光景だ。
30フィートの三つ首のアルバートサウルスも消え、残っているのは彼の汚い食べ残しのみである。
思い出したように彼はリュックサックから黄色の大瓶を取り出す。ひまわりのお酒だ。
ひまわりとたんぽぽのお酒を作ろう、彼は決意した。
あの時とは違い、足の傷も痛まない。怒りで顔が赤くなる事もない。快適な時間だった。
たんぽぽを集めるべく奮闘していた男は、硬く、平べったいものを踏んだ。
思わず足元を見る、それを持ち上げて、土を落とす。黒革の1冊の本だ。
やけに束が薄かった。表紙と裏表紙しかなかったためだ。
表紙には、金の刺繍でこう綴られていた。
その本の身の毛もよだつような底なしの悪夢に、男はただたんぽぽを見ることしかできなかった。
そして自分の人生を悟った。そして運命を呪った。

表題:「主人公になりたいが為に世界を壊し続けた、ある男たちへの痛罵集」


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  1. portal:trombone810 ( 24 Jun 2018 05:24 )
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