かけない

--かけない、 
 俺があの図形を見てしまったのは数日前のことだ。大学の講義室で、俺は親友と旅行の計画を練っていた、その時教授が講義室に駆け込んできたんだ。かなり焦っていたな。今では俺も同じ気持ちだ。教授は「これを見てくれ!」と叫んで俺たちは一体なんだと思っていたら教授は何かが書かれた紙(俺たちは後ろの方にいたから見えなかったが)を皆に見せ始めた。そこからは早かった。まず講義室の前の方の真面目君たちが紙を見た瞬間ノートを取り出して取り憑かれたように何かを書き始め、紙に何が書いてあるのか見ようとして前に出た奴らがあとに続いた。その光景はとても不気味だっし、それは友人も同じだったようで何を言うでもなく、部屋から逃げるように立ち去ろうとした。友人が扉を開けた時、俺は誰かに肩を叩かれそして―決して振り返るべきじゃなかった。そこにはそれを持った教授がいて俺はそれを見てしまった。何故か分からないが俺は理解した。これを書かないと、誰かに見せないと、そしてさもなくば―親友が走っていった音が聞こえる。俺が壁になってそれが見えなかったんだろう。
 俺は絶望した。俺がいずれどうなってしまうのかわかってしまった、というのもあるが、それよりも更に俺を絶望させることがあった。実を言うと、俺は致命的に線が書けない。生まれてこの方まともな直線を書けたことがない。定規を使っても必ず線が曲がるし、決して歪ませまいと力を入れてもむしろ手が震えて蛇の這うような線しか書けなかった。書写や美術なんて以ての外だ。そんな俺にこんな複雑な図形が書ける訳がない。しかし俺は書かなければという思いに取り憑かれてペンを握った。
 そして今、かけない、図形が、何度も何度もなんども図形をかき続けた。しかし線が真っ直ぐにひけない、しかし、前よりもうまくかけるようになっている。この間ずっと飲み食いすらしていない。このままだと死んでしまうのはわかっている。でもかかないと、かかないとという考えがはなれない。いしきがもうろうとしている。のどがかわいている。これからかく図形が最後の図形になるとおもった。図形をかくみぎてにすべての神経を集中させた。いま人生でいちばんまっすぐな線で図形をかいている。じんせいでいちばんうつくしい図形をかいている。じんせいでいちばんしゅうちゅうして図形をかいている。図形をかいている。図形をかいている。図形をかいている。あとすこしで図形がかける。おれの図形がかける。あとすこしで図形図形図形が―――
図形のさいごのせんをかき終わ―――
バシャッッ
目の前の図形は真っ黒なインクで塗り潰されていた。顔を上げると機動隊の姿をした親友が立っていた。「助けに来たぞ。」それが俺の最期の記憶だった。

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