昼、夜、コンクリート。

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「舗装道路のコンクリートがよく顔色を変える時期になったんだねえ。」

季節外れの真っ黒なバイクヘルメットを被って、私の研究所にシートと機械を広げていじっているこのクセの強い女性は、着任早々に何を話し出すか。
そう、「コンクリート」を季語かのように季節を表現してきたのだ。

「コンクリート、ですか。」

私は小さくため息を吐きつつ、聞いてみる。

「そうコンクリート。」

彼女は手を止め、こちらを見て言った。
バイザーで顔が見えないのもあっていまいち表情が読めない。

(まあ、なんだ。こんなにクセのある人は初めてじゃない。ちゃんと話せば人と関わるのが苦手な私でも大丈夫…のはず。)

なんで初対面でコンクリートなのかもよく分からないし、聞いてみるのもアリだろう。
私は深呼吸をして目を開き、この不可解な生き物と対話を始める。

「それはまたどうして?」

「お!聞いてくれるのかね!これまでに会った人間で一人目だ!」

ヘルメットの女性は先ほどよりももっと大きな声を出し、興奮気味に動きだす。
安心しろ、私もこれまでに会った人間でここまで騒がしいのは初めてだ。
ばくばくと今にも飛び出そうな心臓を抑える。

「…そうなんですね!」

ここまでぐいぐい来るとは報告書には書いていなかった。
この子は身振り手振りが激しい。そこから読み取れということか?そもそも私がこの子と話せているだけでも奇跡だな。上はどういう意図で組ませたのやら…

そうだ、自己紹介をまだしていない。いや、誰なのかは知っているのだが…
この風変わりな人間がこれからずっと組むという人物だと頭が認めたがらない。

自己紹介を…というか他の話題にしようと口を開いたその時、その風変わりな人間はくるりと優雅に回り、頭を覆う装備から流れるように出る濡羽色ぬればいろ のロングヘアーと、着慣れているのであろうタクティカルファッションの余ったベルト数本をなびかせる。
ぴた、と止まってこちらを向く。

まるで舞のように回るその姿に、思わず私は見とれてしまった。

(しまった、話す隙を与えてしまった。)
そう思った頃には、彼女は語り始めていた。

「あれはわたしが殴られて、ぶっ倒れてしまった時の事だ。」


上官に呼び出しを受けた。ちょこちょこ失態を見せてしまっていたわたしはよくこれを食らっていたので、またいつものかと呑気に毎度苦労をかける上官の元へ向かう。

説教からの殴打。いつもはこれの繰り返しだった、だが今回は違った。
ここは闘技場だと言わんばかりの人だかりが、わたしを見て嗤っている。

「お前は上官に呼び出されたのではない、真っ赤な嘘だ。」

と目の前に立つ、上官の名を騙って罠に嵌めることを考えた張本人であろう隊員は、わたしとの間合いを詰めながら言った。

この心境が、隊員たちへの呆れからなのか、どこから来る感情なのかはよく分からなかった。
妙な脱力感が、わたしの動きを止めた。

舗装されたばかりの道に突っ伏すなんて、幾人の人、動物がやったのだろう。

わたしは冷たいコンクリートの上に寝ているようだ。

(ああ、殴られたのか。)
頬の痛みは感じなかった。

男女関係無しに消費される世界ではあったが、その中でも奇人だと変人だと、何度も殴られていたわたしは慣れていた。
でも、室内ばかりだったので、冷えたコンクリートに寝るのは初めてだ。

「こんなに冷たかったんだな。」

思わず漏れ出てしまった一言。感動の言葉だ。
あっ、と思った時には件の隊員に気味悪がられていて、周りに居たはずのギャラリーは散っていた。
反応が無くてつまらなくなったのだろう。

夏の月が、腰に装備したハンドガンをひんやりと照らす夜だった。


「もう脱退した部隊での話だけどね。」
「そんなこんなで、あれ以来暑苦しい昼にも寝転んでみたり。」

「そんなことしたんですか!?」

「した。」

「へ、へえ…」

「話が長くなってしまったな、この度配属されましたあなたの護衛、助手を務めさせていただきます烏漆うしつ サクマです。これからよろしくな、博士。」

彼女の先ほどまでの変人オーラが一気に軍人のそれへと引き締まる。背筋をぴんと伸ばして敬礼のポーズ。
どうやら、この素人眼鏡の私が見えるもの以上に実力はあるようだ。猫背の私には、背の高い烏漆君の覆われた頭が見づらい上に、まだよく理解出来たわけではないが、信用してみよう。

そう私は決意し、自分の名を口に出す。

「ええ、知っていると思いますが、私は鯱谷しゃちや ユウトです…こちらこそよろしく。」

烏漆君は親指を立てて、グッドを私へかます。それから3秒ほどすると、不思議そうに私を見つめてきた。

「あー、えっと、なぜ頭がシャチになってるんだ?」

彼女は、こちらを覗き込みながら近づく。

「はい?」

正面を向くと、黒く光るヘルメットに反射したシャチ頭が見えた。

「…烏漆君、これは疲れているだけです。気にしないでください。」


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  1. portal:8042825 (09 Jun 2022 12:24)
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