「お疲れさまです。子供の送迎してきますね」
そう言って仕事を一足先に切り上げる。外へと足を踏み出し、ギラギラと輝きだす太陽と大空に目を向ける。今日も空は青い。不自然に濁った青が太陽と共に私を照らす。それを感じる度に気がめいる。当時はそんな事はなかった、むしろ清々しい気分で仕事に没頭できたものだ。同僚から周辺の道道が渋滞していると言っていたのを思い出し仕方なく歩きで向かう。幸い歩きで行けない場所に保育園はない。片道30分、その間この空に照らされ続けなければならない。
重い足を動かしようやく目的地へと着く。戦後の影響からか多少の焼け跡が残る小さな保育園に██は通っている。
「すいません。██の迎えに来たのですが」
「あっ、███さんですね。少しお待ちください」
毎日のように聞く彼女の声がここまでの道のりを祝福してくれてるかのように感じる。いかんいかんと首を横に振り██が来るのを待つ。奥から聞こえる子供達のワイワイガヤガヤと聞こえる騒ぎ声を聞いて少し笑みがこぼれる。「今日もたくさん遊んだんだろうなぁ」と。
数分後彼女が██を連れて戻ってくる。
「パパー、ただいまー」と言い胸元へ飛んでくる。
「ああ、おかえり」と普通の返事をするが██は私の子供ではない。ある夫婦の子供だったのだが……、例の空の案件で全世界に記憶処理剤ENUI-5を放出した際にごく僅かの人間に対してのみ……ある不思議な出来事が起きた。
「パパ、どうして空は青いの?」
保育園から出て数分が立った後にその不思議な出来事が発現した。そう、この疑問である。今までにも海、草等の様々な疑問もぶつけられてきた。空が空色だった頃や海が水色だった頃や草が草色だった頃……いや、空は空色であってそれ以外のどんな色とも同じではなく、全てのものがそれぞれ異なる色を持っていたあの頃の人間は皆こんな疑問を持つようなことは一度もなかった。そうこれが不思議な事。記憶処理化合物ENUI-5が消しきれなかった負の遺産……ともいうべきか。当然我々がそのことを無視するはずがない。既に手は打ったのである。しかし……
「分子っていうの物があってね、その大きさが小さいとレイリー散乱ってのが起きるんだ。それが原因だよ」
「ぶんしって何? れいりーさんらんって何? ああもう全然わかんないよ!」
これは子供には通じないのだ。そもそもの話、レイリー散乱とかとってつけたような言い訳を簡単に。ましてや子供相手に説明できるはずがないのだ。現在財団はあらゆる術を持って手を考えているのだが、未だ策は見いだせていない。もう、化合物ENUI-5は使えない。だから私は今逃げ場としてこのような言い訳をしている。
「██の目が青く、映しているんだよ」
「なんで? なんで? 私の目どうなってるの?」
ついには通じなくなった。子供の好奇心という物は恐ろしい。大人をここまで追い詰めてくるとは思わなかった。そして来てほしくなかった言葉が飛んできた。
「パパ、何かかくしてるの?」
「えっ……いや、別に」
感づかれた。我々が徹底的に隠そうとした事実に。今まで同じ言い訳を繰り返してきたからだろうか……。しかし、これはやり遂げなければならない事である。
「そうだな……、目っていうのはね。ありとあらゆる物を綺麗にしてくれる仕組みがあるんだ」
「えー! なにそれ!」
食いついた。
「ああ、██は空を綺麗と思うか?」
「うん!」
「だから██の目は空を綺麗にさせる為に頑張っているんだ。こー、色を弄ってね。それも他の色も同じさ」
「すごいねー!」
隣で目を褒めたたえている██の姿に不意にも笑ってしまった。確かに子供とは好奇心旺盛で、あらゆる物に興味を示してしまう。しかし、それは"騙されやすい"とも言う。やがて、██は大きくなり、いろんな事を学ぶだろう。そしてやがて██はたどり着くのだろう、色の真実を。その時を待つことしかできない、今の私には。
「そうだ、今日ねお歌を歌ったよ。ドレミの歌ってすごいね虹みたいな色だったよ! これも目の力なの?」
「ははっ、そうだよ」
言ってはなかったが我々が██を保護しているのにはもう一つの理由がある。ある特定の人間のみが受け継いだ過去の遺産、"色聴"。我々が過去誰しもが持っていた感覚を残す事が出来た子供は██だけだった。そのことを知った我々は悲しい事だが夫婦、そして██に対して記憶処理を施し、██を保護した。現在あの過去を伝えられるのはあの写真と"色聴"を持った一定の人間だけなのである。██はそれを当たり前の事のように思っているが、それは違う。我々にはもう音の色を感じる事は出来ない。██の事を知った私は真っ先に██の世話役に志願した。少しだけでも、あの頃を近くで感じていたいからだ。でも、██と一緒にいるとまた見てみたいと思うのだ。

そう思うと、なんだか空が明るくなったような気がした。
画像はhttps://pixabay.com/photo-2329680/
こちらにペイントで文字を入れたものです。
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ジャンル
アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:3074890 (01 Jun 2018 09:16)
かつて白黒だった世界でも空色は青と形容されていたと思います。赤色や青色という言葉も一緒にできたのではなく、それらの見え方に変化が生じただけだと思うのですがいかがでしょうか。
これだけでアンニュイ・プロトコルの不備と考えるのは早計だと思います。
批評ありがとうございます。
まずこのTaleは私の独自解釈が充満しています。
SCP-8900-EXには様々な解釈が存在するのですが、
私はこのSCPを「以前は同色に見える色でも様々な色が存在していたが、このSCPのせいで同色に見える色は全て1つの色として認識を変えた(可視スペクトルを変えた)」と考えています。つまり、元々は青色と同色であった"空色"という色は1つの色となり、"青色"と認識するようになってしまった。という考えでなりたっています。空と同系色と言えばいろいろあるのです。(青藍、紺碧、濃藍、天色(あ、こっちのほうがいいかも…)、深縹、花浅葱、瑠璃紺(長々と解説するとかなりの量なのでここまでに…)
アンニュイ·プロトコルの不備に関してはこの疑問はそもそも「なぜ青色なの?」という疑問と「もともと青色だったっけ?」という疑問の混合として生まれたというのがこのTale内での設定です。
もっとわかりやすくしたいのですが…難しいですね。引き続き批評よろしくお願いします
大まかな流れは好きですが、以下の点が気になりました。
主人公と子供の関係がわかりにくかったです。冒頭では孫と述べられていますが、子供は「パパ」と呼称しているので、混乱しました。
次に、最後の「私は教えてやらねばならないな」ですが、前の段階までは散々隠さなければいけないと言っていたのに、ここで教えようとすることに違和感がありました。もう少し、教えようとする理由を明確にした方が良いと思います。
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批評ありがとうございます!
孫の部分を子供に変更しました。
記述を変更しました。
引き続きよろしくお願いします。
拝読させていただきました。
人々が立ち止まり、困惑し、自らの生活にその過程を切り取った面白い作品だと思います。
気になる点としては何故、子供は空だけに疑問を覚えたのだろうといったところでした。
空も、森も、海も全てが同じように変わっていったかと思います。それらについて尋ねられたことがあるような記述があると子供の好奇心に打ちのめされる大人の描写に厚みを持たせることが出来るかもしれません。
参考の一助にしていただければ幸いです。
批評及び感想ありがとうございます!!
確かにそうですね……よくよく考えたらまさにその通りでした。子供がよく質問するのが「空が青い理由」という観点だったためその部分のみをとらえすぎていたようです。現在改稿案を模索中です。
拝読しました。
テーマはよいと思うのですが、ボリュームが少なく、また意外性やオリジナリティといった読みごたえが足りないかなあと思いました。
「そもそも自分と他人が見ている青は同じ色なのか」とか共感覚(音階が色で見えるとか)とか、単純な子供の疑問ではない材料が欲しいなあと思いました。
最後の画像と文が印象的で、自分でも"空色"を見てみたいという感情を呼び起こされました。
「空色だったころは~」のくだりは「空は空色であってそれ以外のどんな色とも同じではなく、全てのものがそれぞれ異なる色を持っていたから子供がこのような疑問を持つようなこともなかった」のような説明があると少しわかりやすくなるかなあと思いました。まず私がSouryuu0219さんの8900-EXについての解釈に追いついているかわからないので適切な説明ではないかもしれませんが、間違っていたら戯言だと思って無視してください。
皆さん批評ありがとうございます!!
皆さんの批評を取り入れ改稿作業を行いました。
引き続き批評お願いします!
低評価か目立ったため再度批評を受け付けることにしました。批評よろしくお願いします
読ませていただきました。
わたしは最後の画像についてはなくすか、あるいは文字を消すべきだと考えます。これはdvの大きな要因になっているのではないでしょうか。ペイントで作成されたということですが、これはあまりにもそれがわかりやすすぎると感じます。ノイズがかかった明朝体で、フォントの黒色は決して青空と白雲の対比として美しいものではありません。
わたしは自分の作品において画像を最近よく使うようになりましたが、その際にはパロディとしてテロップを入れたり、映画のように12:5で上下に黒帯を入れたりなど、いろいろと工夫をしています。
デザインをするのであれば、青と白を基調とした背景とケンカしない色を選び、またフォントも明らかにウィンドウズに標準搭載されているそれとわからないようにするほうが良いと思います。現状の画像は台詞がでかでかと左下を占領し、横書きで強調されているため、内容のつぶやくようなエモーショナルさを伝えるには不適切です。
画像のクオリティを高めることは、Taleを読んでいる読者の没入感を損なわないために必要ですし、うまくいけばそれがuvの要因にもなるでしょう。
そして内容についてですが、
dr_torayaさんの批評を受けた改稿部分が浮いていると感じます。
ここからの部分です。浮いた原因は、改稿が対症療法的なものにとどまったことが原因であると思います。言ってはなかったが、と書かれていますが、地の文は人格を持って読者にメタな説明を行っているわけではないと思います。この表現は不必要なのではないでしょうか。
また、視覚と聴覚の共感覚者に関する設定がいきなりここで登場するため、読者は戸惑うでしょう。この子供がそうであるのならば、そのことを序盤の序盤でほのめかすべきですし、文中で徐々に子供の特殊能力を明らかにすべきです。
たしかに、ある不思議な出来事が起きたとは書かれていますが、それがこの色聴であると言われると何か腑に落ちません。おそらく、視覚と聴覚の共感覚者らしい発言を子供がしていないからでしょう。我々にはもう音の色を感じる事は出来ないという色聴を表す言葉が終盤で出てきますが、この説明がないため正直なところよく伝わりませんでした。
現状では子供に関する情報をすべて終盤に集めてしまっていますが、これを変えてみるのはどうでしょう。肉親が語り手ではないことを途中で明らかにし、そこから一気に子供の生い立ちに触れるなどの起承転結における"転"の要素とするのはいかがでしょうか。
確かに、一度書きあげたものへ大きく手を入れ直すことに億劫になるのはわかります。しかしながら、抜本的な改稿が必要な場面というのはどうしても出てきます。ぜひ諦めず、再起を図ってください。以上です。
長文批評ありがとうございます!
確かになんか浮いてる感じもしますね…。 を利用して少し空白を置いた感じにして画像の一言を一文に変えてみるのはどうでしょうか…? Aviutlでペイント色を編集する事も可能ですが…
その批評を受け再度読んでみました。確かに「え?急に?」というのを突然感じました。これはいけませんね…。それぞれのパノグラフで伏線めいたセリフ等を入れ、それに応じて文章の訂正等も加えていこうと思います。
今回はありがとうございました!