我が巨人軍は永久に不滅です

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ごきげんよう、旅人さま。東土・ノードマトリクス記念館へようこそ。

これからお読みいただく文書は、SCP財団東土司令部より惜しみなく提供された内部資料を、当館の手で整理したものになります。財団は東土・ノードマトリクスの現管理組織であり、その資料は詳細かつたいへん貴重なものです。文書を通じてあなたは、マトリクスを確立するために費やされた努力、および犠牲をうかがい知れるでしょう。旅人さまの閲覧が実りあるものになることを願っております。

さまざまな閲覧端末に対応するよう、当館は最善を尽くしてまいりました。しかしながら現状、市場には極めて多様な端末が流通しており、遺憾ながら整備が追いついておりません。読書体験が最良なものとなりますよう、当館ではワイドスクリーンでの閲覧、ならびに最新版への更新を推奨しております。ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。

衆多の節点、永垂不朽。

SCP-CN-3000

cn3k-node-broadcast.png

空泡QM-LM、エベレスト、放送ノード

オブジェクトクラス: Thaumiel

特別収容プロトコル: ノードマトリクスは現在、SCP財団東土司令部と14名のノード管理者による共同管理下にあります。空泡QM-LMに所在するノード15は、ノードマトリクスの状態と意味流トラフィックの監視にあたるとともに、東土全域に対するノード公開鍵の放送を継続して実施します。その他のノードについては、各自の使命を従来通り履行し、東土全域への意味流伝搬を引き続き維持してください。

ノードマトリクスの構築中に行われた、虚物質Non-matter稀金Rarusium意味流Semantical flowに関する研究は現在、すべてアーカイブされています。研究奨励のため、適格な第三者研究機関は監督者議会の承認を経た上で、財団東土司令部に対し、ノードマトリクス技術研究資料へのアクセスを申請することができます。各研究機関は定期的に、財団東土司令部に研究成果を報告しなければなりません。

ノードが所在しない空泡においては、新たなノードの選抜と研究が推奨されています。

説明: SCP-CN-3000は異常な技術の一つであり、散漫現象litura diluviorumを有効に軽減し、虚物質内における完全な意味流伝搬を実現できる、現時点では唯一の手段です。

学術界では目下、虚物質と稀金の性質を十分に理解できておらず、SCP-CN-3000の具体的な原理は今もなお未解明です。空泡内における物理特性は、虚物質によってそれぞれ差異が生じており、このため、ノード構築に必要な徴標ベクトルEigenvectorは各空泡で異なるものとなっています。技術体系が不明瞭な上、現在の合意現実1における科学信仰に相反することから、SCP-CN-3000は依然アノマリーとしての分類がなされています。一方で、ノード構築の現場に目を向けると、有効な徴標ベクトルの捜索に稀金を用いる方式が現在、東土域内の14のノードで大規模に運用されています。主だった構築の手順は以下の通りです。

  1. 虚物質から析出した稀金を補助として、特定の徴標ベクトルを捜索する。当該の徴標ベクトルを有する意味流が、虚物質を特定の角度(一般的には、他のノードが所在する方向)から通過する時、散漫の発生率は0.00001%以下にまで低下する。
  2. ノード候補者は稀金の誘導に従い、有効な徴標ベクトルへと達する。その後、候補者は自らの徴標ベクトル(すなわち、新たなノード公開鍵)を意味流として放送し、それをもってノードとなる。
  3. 付近の意味流はノード公開鍵を受け入れたのち、虚物質を逆方向から安全に通過し、公開鍵の送信ノードに達する。
  4. 多数のノードが連結し、ノードマトリクスを形成することで、地域全体における意味流の自由な伝搬が達成される。

原理が未解明なことから、ノードマトリクスの技術は現状、各空泡内のノード候補者による、自主的な正しい徴標ベクトルの捜索に依存しています。現行ノード管理者・14名の献身と犠牲に対し、SCP財団東土司令部はここに深く感謝の意を表します。

付録I - 現行版 ノードマトリクス名簿

ノード1 管理者
夏 嵐か らん

空泡番号
CR-KV

ノード名
光輝-GLOW

ノード公開鍵
[539FCYRPHGB9VQG1SUI7SHMW0RX8K9]

ノード2 管理者
孔 珹器こう せいき

空泡番号
H5-BM

ノード名
棘-SPIKE

ノード公開鍵
[AZLSXDLVV3D2JYEUN3MOLS6T8SARV5]

ノード3 管理者
舒 詠墨じょ えいぼく

空泡番号
DV-S8

ノード名
歌唱-ANTHEM

ノード公開鍵
[FY1XWPSIY20G02SSY18GM0QF79SCWY]

ノード4 管理者
賀 三酹が さんらい

空泡番号
1K-ZZ

ノード名
酒精-ETHANOL

ノード公開鍵
[J3CYQGQL8N58JZFX2IILGHDA9YBY2M]

ノード5 管理者
史 恒鑫し こうきん

空泡番号
IL-G2

ノード名
無心-HEARTLESS

ノード公開鍵
[Y948GWELRDMAZD7VPFQ3SS8JUTPI61]

ノード6 管理者
高 淼こう びょう

空泡番号
AQ-9S

ノード名
倒影-REFLECTION

ノード公開鍵
[RUGNSY927ZYG98V19H17KD1NVER7OE]

ノード7 管理者
アン・ジー

空泡番号
VL-13

ノード名
大地-EARTH

ノード公開鍵
[FEKNT8SVUZSRSYSZ2G23ASTOVSRTHX]

ノード8 管理者
臧 翂ぞう ふん

空泡番号
C0-BK

ノード名
防火壁-FIREWALL

ノード公開鍵
[D2SKD226JCLOAPEG7VQQP80M84XXZ4]

ノード9 管理者
単 一臾たん いつゆ

空泡番号
RW-55

ノード名
共鳴-RESONANCE

ノード公開鍵
[ZNME1AGODP37ZBB6LDNQRZB06NDNJ9]

ノード10 管理者
ゲゲン・トゥヤ

空泡番号
X0-BA

ノード名
陽狩-SUNHUNT

ノード公開鍵
[CHN2VTBCEUJX7ZY97KR75G13KT0UEZ]

ノード11 管理者
万 章ばん しょう

空泡番号
OI-IO

ノード名
再帰-RECURSION

ノード公開鍵
[AAA4A0W71K709H76E56ZY52AONWC8W]

ノード12 管理者
シャン

空泡番号
N0-FS

ノード名
永無-NEVERLAND

ノード公開鍵
[AEMZB344C9T8S6G002APPUVC6RJ551]

ノード13 管理者
イーゴリ・カーメネフ

空泡番号
TM-A4

ノード名
時神-CHRONOS

ノード公開鍵
[55LHUQHNXCXINCJPGDVL9KES5NAOLH]

ノード14 管理者
柯 澤言か たくげん

空泡番号
TK-3N

ノード名
濾過器-FILTER

ノード公開鍵
[L26WWGIJUVVBPCWENO2O1KT7F6TQWP]

ノード15 管理者
パサン・ドルマ

空泡番号
QM-LM

ノード名
放送-BROADCAST

ノード公開鍵
不適用

付録II - アーカイブログ

空泡番号: 不適用
投稿者: "アルファケンタウリ"星系文明使者
徴標ベクトル: 不適用


遠方の"パンゲア"星系文明へ:

恐らくこれが、両文明間における最後の意味流伝送となるでしょう。貴星系の前に立ちはだかる虚物質は、もう目と鼻の先にまで迫っています。双方ともに、最大限の努力を尽くしてきましたが、今この時点で、どちらかの天才が前例のない奇跡的アイデアを立案したとしても、貴文明が虚物質へ呑まれゆく宿命を変えるには遅すぎるでしょう。ファースト・コンタクトから現在まで、この短い47標準年の間、貴文明とは真摯かつ熱烈な交流を重ねられました。この無数の星々の中で、あなた方に巡り会えましたことに、弊文明を代わって限りない感謝を申し上げます。

最期の時を迎えるにあたり、貴文明はすでに十全の準備をなされているものと存じます。貴文明の超常技術研究組織は学識が深く、輝かしい成果を挙げており、こちらとしても見習うべき所があります。意味流に対する理解も、虚物質の外でできうる限界にまで達しています。文明のすべてのメンバーが一丸となり、虚物質を迎える備えをしていらっしゃいます。皆様の目に宿る、金色の眩い煌めきは、星々の向こう側からでもはっきりと見て取れます。虚物質内での暮らしがどのようなものになるのか、我々にも想像がつきませんが、この先がどうであれ、あなた方は勇敢に突き進めるものと、弊文明は信じております。

我々は引き続き、"パンゲア"星系を観測し、貴文明との交信記録の一切を保ち続けます。もしも機会がありましたら、虚物質からの帰還後に、我らが再会できますことを願っています。残念ながら、あらゆる予測はそれが4000年以上先になることを示しています。双方の現代文明の期間を足したものより、遥かに長いスパンです。我々もあなた方も、その時にいったいどうなっているのか、知り得ることは不可能です。ですが、何がどうであれ、私は弊文明を代表し、無数の星々の中で再びお会いできますことを、心から願っております。

皆様の道中がご無事で、良い旅でありますように。


旧暦紀元3000年、地球は正式に銀河系の虚物質へと突入した。それ以来、我々は新たな日常ニューノーマルを過ごすこととなった。虚物質は世界を無数の空泡に分割し、その間の意味流すべてを散漫にさせた。それからというもの、人類文明は繋がりの取れない、孤島のように分断されてしまった。それは"アルファケンタウリ"文明と初めて接触した際に受け取った警告であり、数十年にわたって共同で努力したにもかかわらず、避けることのできなかった宿命でもあった。

だが、先方からの誠実な支援がなければ、我々はこのように、スムーズに虚物質へ踏み出すことはできなかっただろう。新時代の初めごろには、若干の混乱やアクシデントがあったとはいえ、大局的には穏やかに推移したといえる。4.37光年先の友による、全面的な協力がなければ、人類文明はより深い痛手を被っていたかもしれないのだ。

SCP財団は"アルファケンタウリ"文明の多大なる貢献に対し、ここに感謝の意を表明する。今日になってもなお、虚物質の下から抜け出すまで、最良の予測でも2952標準年を要するとされている。その時に至るまで、人類文明が存在しているかどうかは、依然として分からないままだ。それでも、意味流の届かない遥か彼方の星々に、我々を見守ってくれる友人がいると知れることは、一つの慰めとなるだろう。

空泡番号: A3-KT
投稿者: 放送員 蕭向明
徴標ベクトル: [NT3AUBNN7D2EU424IU9E]

本日、空泡A3-KAからと思しき意味流放送を受信しましたが、散漫率は98.24%でした。我々はそこから、辛うじて次のような情報を取り出すことに成功しました。

[極度散漫]へ。本放送は[極度散漫]3-KA、[極度散漫]われの食料[極度散漫]充足。ただし、卑金属[極度散漫]深刻な問題あり。現在、空泡には合計2[極度散漫]、長期メンテナンス状態[極度散漫]どれほどかかるのか、このまま続けば[極度散漫]事態となる。我々は他の空泡[極度散漫]理支援を求める。目下[極度散漫]トンの銀、[極度散漫]0トン[極度散漫]金が[極度散漫]現状、こちらはまだ[極度散漫]を要さないので、輸送は[極度散漫]無しで可能なものの、当方としては可能な限り[極度散漫]泡に安寧があらんことを。以下、放送を繰り返す──」

空泡A3-KAは卑金属の補給を求めていると、大まかに推測されますが、正確な数量は散漫により掴めておらず、状況が逼迫しているかどうかも分かっていません。いずれにしても、我が空泡には卑金属の備蓄が十分にあるため、輸送時散漫のリスクは許容範囲内です。同胞が緊急事態にあると仮定し、迅速に支援の手を差し伸べるべきと考えます。

今後3標準月の間、虚物質の状態を観察した上で、それぞれ50トンの卑金属を空泡A3-KAに意味流伝送します。こちら側の杞憂であれば良いのですが……。A3-KAが無事に苦境を脱せることを願っています。

空泡番号: 5D-19
投稿者: 放送員 田依秋
徴標ベクトル: [Z0TD9G7965KFUO5XCWZ9]


空泡住民に告ぐ!空泡住民に告ぐ!ただいま、空泡周辺に高濃度の虚物質サージが発生しています。住民の皆様は直ちに、空泡辺縁より400メートル以上離れるようお願いいたします。SCP財団東土司令部の駐在支所は現在、危険地域に戦術対策チームを派遣し、避難誘導にあたっています。辺縁地区の住民におかれましては、指示に従い、秩序ある避難を行ってください!

最新の予測によりますと、虚物質サージは今後4週間にわたって発生する見込みです。必要が無い限り、辺縁地区には近づかないでください。危険に遭遇した際は、すぐさま財団支所に通報をお願い申し上げます。

空泡番号: AW-9M
投稿者: 放送員 張鎮
徴標ベクトル: [VSJSFQ7298D8OT81CU7H]

最新の虚物質状況予測によりますと、空泡周辺の虚物質濃度は今後1週間のうちに1100И/m⁴まで低下する見込みで、意味流伝送に適うポータルが2~3箇所ほど生じるものと思われます。現時点での伝送計画は以下の通りです。

  • 対象となる空泡はAW-7Y、AW-AU、AW-I2。
  • 文書 208 件を伝送予定。情報はすべて保存・整理済みである。緊急で送りたい情報がある際は、可及的速やかに放送局に連絡すること。
  • 野菜 3 トンを伝送予定。これにはトマト、ダイコン、ズッキーニ、トウモロコシが含まれる。食糧不足が疑われる空泡AW-I2を目標地点とする。当該空泡の返信が軒並み散漫で解読できないことから、空泡委員会は対象への飽和的支援の継続を決定した。

昨日、近隣の空泡AW-9Uと定例の意味流伝送テストを行いました。結果として、当方は約5グラムの炭素と約2グラムのブドウ糖を受け取りましたが、計画では本来、400グラムの炭素と200グラムのブドウ糖となっています。AW-9Uが解釈を間違えた可能性を排除すると、今回の散漫率は98%以上と算出されます。ただ、先ほど述べましたように、状況は今後1週間で改善に向かうものとみられます。散漫率が損失を許容できるまで下がることを我々は期待しています。

その他、注目すべきこととして、受け取った意味流の中に、未知の金属が約12グラム含まれていました。これらの金属はおおむね、物品の表面に付着する形で見つかっています。それらは表面が金に類似していますが、質感と光沢には奇妙かつ異常な点がみられます。財団の駐在研究員が現在、不詳金属の調査に合流しています。

最後に、皆様に不幸なお知らせを申し上げます。先日失踪した15歳の青年・邱凡氏に関しまして、空泡辺縁の監視カメラの記録から、単身で虚物質に踏み入ったことが確認されました。すでに散漫の最中にあるものとみられます。ご家族の意向に従い、これが本件に関する最後の放送となります。空泡民のご多幸を心よりお祈り申し上げます。

それでは、また次回。

ノードマトリクスが未構築であった時代、虚物質による遮蔽のため、意味流の送受信は困難を極めた。財団の管理する空泡の多くでは、空泡周辺の虚物質状況を監視し、定期的に意味流放送を流すという、共通の施策が取られていた。今日に至るまで、地球を覆う虚物質自体はほとんど変化がなく、意味流の散漫率も95%を超える水準で推移している。そうした現状を踏まえると、当時の意味流放送は運に頼るも同然だったと言えよう。高強度の放送を繰り返し続けることで、わずかな情報や細々とした支援、想いの欠片が、どうにか虚物質の侵食をかいくぐり、狙った空泡に届くことを祈るしかなかったのである。

時折、奇跡のような極小のポータルを頼りに、いくらかの意味流──人間個人といった、複雑な意味流でさえ──を比較的無事に、狙いの空泡へ送れることもあった。あの暗黒の時代、大変難儀な時代に、相当数の人間が命がけで散漫に抗い、各地の空泡へさまざまな情報を持ち運んだ。そうした機会は、宙に浮かぶ塵のように稀だったものの、ささやかな交流を積み重ねることで、徐々に我々は希望を見出すようになった。

もちろん、何より重要なのはやはり、今日我々が「稀金」と呼ぶ未知の金属を、虚物質の中から発見したことであった。

空泡番号: IN-SC
投稿者: 不明
徴標ベクトル: 不適用

[記録開始]

男: AIC、空泡周辺の虚物質濃度はどう?

短い電子ノイズ。

AIC: 推定、約1482.472И/m⁴。昨日の予測値から1.9%ほど下がっていますが、依然として非常に高濃度です。この濃度の虚物質に意味流が侵入した場合、およそ32秒後には、散漫率が98.5%を超えると予想されます。

男: それで、今後数日間の予測は?

AIC: 来週にかけて、約1250И/m⁴にまで低下すると予想されますが、その後は大幅に上昇し、1600И/m⁴を超えるものとみられます。楽観的なモデルであっても、空泡周辺の虚物質濃度は5~10年の間、1000И/m⁴を下回ることは無いようです。

短い沈黙。

AIC: 補足が必要でしょう。現行の虚物質動向予測モデルはどれも酷く未成熟で、長期予測の確度は55%にも満たないと思われます。ざっくり言いますと、「コイントスよりちょっぴりマシ」といった具合です。虚物質という分野においては、たとえどのようなモデルであろうとも、予期せぬ事態が起こる可能性を推測できないのです。

男: 問題ないさ。奇跡を期待して研究なんて、できっこないからね。(間を置く)よし、決行だ。AIC、準備を始めてくれ。

AIC: 承知しました。

短い電子ノイズ。

男: AIC、君が見てるものを説明して。

AIC: 年若い男性、つまり、あなたが見えます。右手には、燃え盛る不明な金属の欠片が握られています。炎は黄金色で、指から腕へと徐々に広がっていますが、あなたは何ら傷ついている様子がありません。痛みや恐怖、違和感を抱いてもいないようです。全身に炎が移っていくものの、あなたは落ち着いて、立ったままです。今、黄金の炎に全身を覆われていますが、外観には何の変化もなく、皮膚が焦げたり裂けたり、筋肉が燃え落ちたりする様子もない。この炎はさながら、あなたの上に重ねられたピクチャー・レイヤーのようです。これは異常な状況です。

男: その通り、これは間違いなく異常だ。(間を置く)ちっとも痛くないんだ。頭も正気だと思う。

AIC: 実験が成功したと、そう判断してよろしいでしょうか。

男: いいや、これからが本番だよ。ここから一番近い空泡は?

短い電子ノイズ。

AIC: 空泡IN-SAです。絶対空間ベクトル値は……73.16……10.39……65.76……14.69……ウェアラブル端末に送信中……完了。

男: オーケイ。今からここを出る……虚物質を掻い潜り、IN-SAに到達し、戻ってくるんだ。うまく行けば……(深呼吸)それが何を意味するのか、君には分かるかな?

AIC: あなたが虚物質の突破法を編み出した、ということですね。

男: "人類"が虚物質の突破法を編み出した、ってことだ。

短い電子ノイズ。

AIC: 現状のデータからでは、その推論を支持できません。過去の実験記録を踏まえると、仮に成功したとしても、その手段はあなた個人に限定されるものと思われます。これまでにあなたは、のべ573回の試行を重ねており、虚物質から析出したこの異常金属について、個人によってまったく異なる反応を示すことをすでに確認しています。

男: 分かってるよ、AIC、分かってる……だからこそ、自分自身で実験し、この目で確かめなくちゃいけないんだ。(間を置く)それでも僕は、自説が正しいと信じている。

短い沈黙。

男: ただちょっとね、君に聞いてみたいことがあるんだ。出発する前に。(間を置く)他の人……他の空泡の人たちが、こういった方法を見つけ出し、僕のように実行する……そうなる確率は、どれくらいあるんだろうね?

AIC: モデルの最適化に必要なデータが不足しています。

男: 当てずっぽうでも良いから。

AIC: 承知しました。確度不明の仮説的ロジックに基づいた、推論のシミュレーション演算を始めます。……当該演算には本来、異常金属の性質の理解と、個々人の特性に基づいた長期の検証を必要とします。導出までの過程も、アノマリーと不確実性に満ち溢れています。……推論結果が出ました。人間個体が同様の手段を用いて、虚物質の突破に成功する確率は……0.1%足らず、です。

男: そうか……だとすると、人類全体がこのやり方を通じて、また一つに繋がる確率は……

AIC: 正確にその確率を導き出すには、社会学モデルを呼び出して、膨大な人々の振る舞いをシミュレートする必要があり、途方もない演算時間を要します。簡易処理として、個々人の成功を独立事象2とみなし、確率の乗算を単純に繰り返した場合。人類文明が再統合する確率は、ほぼゼロに等しいと考えられます。

男: ……ありえないってことだね。もし実現したら、それこそ奇跡みたいなもんだ。

AIC: ええ、奇跡と呼んで差し支えないでしょう。

男: でもなあ。虚物質の突破に成功する個人……これって、本当に独立事象なんだろうか?

AIC: 不確実です。社会学モデルを用いたシミュレーションが必要です。

男: さっき、演算にめちゃくちゃ時間がかかるって言ってたけど、具体的にはどれくらいなの?

AIC: 不確実。

男: ……分かったよ。とにかく、実際に演算してみてくれ。結果が気になってきちゃってね。

AIC: あなたを覆う炎に変化がみられました。先ほどよりも、激烈に揺れ動いています。ここで演算結果を待たれますか?

男: ……うん、じんわり熱くなってきたな。(間を置く)やっぱり、さっさと出発するよ。君は演算を始めてて、結果は帰ってから聞くことにしよう。

AIC: 承知しました。直ちにシミュレーションを開始します。

男: じゃあ行くね、AIC。旅の無事を祈っといてくれ。

AIC: いってらっしゃいませ。よい旅を。

[記録終了]

これは徴標ベクトルに関する最も古い記録である。この音声ログでは、自らを稀金で燃やすことにより、虚物質を突破できる徴標ベクトルに至った、名も無き人士について言及している。財団が稀金と徴標ベクトルの関係に気付いたのは2標準年後のことであり、空泡IN-SCの彼に先んじて見出されていたのは驚くべきことだ。

残念ながら、同志の名を知るすべは永遠に無いだろう。ノードマトリクスが無い時代、虚物質に覆われ、ニューノーマルに突入したばかりの頃。多くの組織は混乱し、管理体制も成熟の途上にあった。IN-SCのように、統治者のいない空泡は数多く存在しており、虚物質の障壁が大きくなるにつれ、隔たりが深まっていく宿命にあった。こうした人口希薄な空泡は、ノードマトリクスが間に合う前に、大半が沈黙のうちに死に絶えていった。我々が足を踏み入れた時には、人の居た痕跡すら疎らなことがままあった。IN-SCもその例外ではなかったのだ。

さらに残念なことに、この無名の人士は結局、成功には至らなかったものと我々は判断している。彼は空泡IN-SAに姿を現さなかったのだ。虚物質の中で燃え尽きたか、徴標ベクトルを正しく見出せておらず、出発のとたん虚物質に呑まれ、散漫したのかもしれない。彼がどのような最期であったか、誰も知る者はいない。我々が空泡IN-SCに着いた時、そこには演算中のAICだけが残されていた。シミュレーション演算はかれこれ10標準年も続いていた。発見時、AICはまだ演算結果を導き出せていなかったのである。

無名の人士が旅立ってから、2標準年後。10名を超す研究者が、稀金と徴標ベクトルの関係をそれぞれ個別に見つけ出した。意味流を完全な形で保ったまま、虚物質を突破する方法に、人類は気付き始めたのである。ここに、運命の歯車は回り出した。

空泡番号: Y6-M3
投稿者: 研究員 楊嘉年
徴標ベクトル: [JXSK1SD8GLCOAFWKHQI6]

件の異常な物質は……金に似て非なり、絶えず形を変え続けるようです。水銀のように柔らかくなったり、ダイヤのように硬くなったり、茶色い紋様や、発光する亀裂が生じたり、まちまちな深さの彫りが入ったりもする。時には古代人の落書きのように、時には陶工の指紋のように……これらの変化はすべて、この物質がどんな意味流に接触したかに依存しています。千人の人間に手渡せば、千通りの変化がみられるでしょう。

例えばですよ?同じ岩の上に繰り返し置いたとしても、稀金は毎度、まったく同じ反応を示します。けれど、人の場合は話が違う。この金属が金に似て非なるのと同じように、変わったように見せて、実のところは変わっていない。つまりですね、全体としては、劇的な変化は見られないんです。その一方で、細かい部分に関しては、個人の一挙一動に呼応しているかのように見える。これはいったい、どういうことなんでしょう?

稀少で奇異な金属です。「稀金」と名付けてやりたいんですが、どう思います?

空泡番号: CH-21
投稿者: 上級研究員 李惜文
徴標ベクトル: [DK732MRODP58LG1PQVJJ]

当金属は、これまで理解の及ぼなかった意味流の性質を、虚物質と散漫との関連性を我々に示しました。意味流の中には耐性の高いものがあり、虚物質を通過する際の散漫率が低下することがある。稀金はその点を、私たちに教えてくれたのです!

稀金を用いることで、空泡間を伝わりやすい意味流を特定できるかもしれません。特徴を洗い出すことができれば、耐性をより高める道が拓けます。虚物質の内に入った文明でなければ、到底実行できない芸当です。

この度の発見を、私たちは伝え広めねばなりません。可能な限り、より多くの空泡をこの異常金属の研究に引き込む必要があります。未知なるアノマリーの探究こそ、SCP財団の生まれ持った使命なのですから。

空泡番号: FD-G9
投稿者: 上級研究員 段婉
徴標ベクトル: [KATKHL212GV8UEODVLDQ]

意味流に対する稀金の反応は数値化できる。形態こそ千変万化だが、フーリエ変換が複雑な信号を、限られた周波数へと分解できるように、千変万化な稀金の形でも、固定の特徴を見出すことはできるはずだ。現時点での計算プロセスはかなり複雑なのだが、これらの研究成果を伝える手が、こちらとしてはサッパリ思い付かないでいる。95%以上の散漫率で、いったいどうやって送り届ければ良いのか。……すべての空泡にいる財団研究員が、独力で同じ発見に至れるものと私は信じている。

これは単なる稀金形態の定量化研究に留まらない。稀金が示し出すものとは、意味流が虚物質を通過する際に出す印、徴標なのだ。要するにこれは、意味流徴標の定量化研究なのである。研究が進めば、意味流から特定の数列を抽出できるようになるはずだ。そうすることで、虚物質を通る際の意味流の反応を、前もって分析できるようになるだろう。

その数列を、「徴標ベクトル」と呼んでも良いかもしれない。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

俺はただの職人だ。SCP財団の異常研究に関わっちゃいないが、この金属が尋常じゃないことは把握している。俺から言わせてみれば、これは完全な金属、完璧な素材だと思う。こんなにも柔軟な金属はてんで見たことがない。あたかも、泥のような……いや、少し違うな。コイツは俺の彫刻や鍛錬にも十分に耐えうる。まるで、意志や魂を持ってるみたいに、俺のあらゆる要求に応じて、巧みに硬さを変えてくれるんだ。

コイツは、生きている。俺にとって、コイツは生きてるも同じなんだ。

どうしてこんなことが……俺の直感は全部が全部、的中した。適量の炭素を混ぜれば、コイツは硬くなり、適量の銅を混ぜれば、コイツは輝きを増す。アルミやクロムを混ぜれば……色々と試してる最中だが、あんまりにも過程が……スムーズすぎる。何でこんなにも、俺の思い通りに動くんだ?しかもコイツは、俺専用の金属みたいだ。他の研究者が触っても、こういう反応になることはなかった。こりゃあもう、お天道様がくださった施しなんじゃないか?

ただ、今ある稀金は少なすぎる……あまりにも希少で、十分に試す間もなく切らしてしまった。……財団と喧嘩する気はないよ、あいつらの研究も重要だしな。そうは言っても、やっぱり欲しいものは欲しい。この完璧な金属がもっと欲しいんだ。1000グラム?2000グラム?100000グラム?……どれだけあっても、俺は満足できない気がするんだ。

蝕金工商ギルドも、すでに長い歴史を持つ。今日の職人の技量は正直なところ、創始者の孔師匠にも匹敵し、凌ぐことすらあるが、情熱の面で肩を並べる者は実に少ない。稀金の話になるたび、師匠は目を輝かせていたものだ。その時の彼の面持ちは、ギリシアのピュグマリオンが象牙を見たときの顔に相当しただろう。師匠にとっての稀金とは、つまるところガラテイア3なのだ。

空泡番号: CR-KV
投稿者: 客員研究主任 夏嵐
徴標ベクトル: [P4WHR5I1JFKK9M060R5I]

空泡CR-KHの研究員へ。空泡CR-KVに無事到着しました。皆様方の仕事は素晴らしくプロフェッショナルで、伝送ポータルの予測も極めて高精度でした。皆様のおかげで、私は傷つくことなく虚物質を通過できました。私のような病弱者を送り届けるため、大変な労力を割いてくださったことに感謝いたします。当面の間は、そちらにお手間を取らせることは無いでしょう。皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

CR-KVの研究チームも大変熱心です。施設の紹介を聞いて、間違った場所に来たわけではないことがよく分かりました。ここは反ド・ブロイ波4が他の空泡よりも活発で、素粒子の観察がしやすいのですが、これは第9対称性に関する研究の再開にとても役立ちそうです。特に問題がなければ、ここで余生を過ごそうと思います。

今日はここのハドロンコライダー5を見て回りました。大きい……本当に大きな施設です。空泡の恩恵を存分に活かしており、異常物理学者にとっては夢のような場所といえるでしょう。ただし、明らかな問題が2つあります。1つ目は、修理中のCMS6です。昨日から整備に入ったらしく、内部パーツには異常な金属が付着しています。彼らはそれを稀金と呼んでいました。名前を聞いたことはあるものの、実際に見るのはこれが初めてです。急いでいる様子が伺えますが、着実に手順を踏んでいけば、それほど酷くはならないはずです。私の先が長くないからといって、負い目を感じる必要はまったく無いのですから。彼らは実直すぎるのです。……とにかく、まずはここの環境に慣れなければいけません。実験を本格的に始める前に、やるべきことは山のようにあります。

もう1つの問題は、行く先々で人が付き、陰から私を見守ってくることです。放射線を伴う装置を使うたび、彼らは一段と神経質になります。……彼らが親切で、私の身を案じてくれていることは分かっています。でも実際のところ、心配する必要はありません。旧暦時代、千年かけても治せなかった病が、この線維症でした。今のような環境にあっても、突然進行が加速するとは考えにくいですから。

空泡番号: X0-BA
投稿者: 大隊長 ゲゲン・トゥヤ
徴標ベクトル: [1Y7UEE1VU3EMSUHM22E4]

我らが空泡X0-BAは、この世で最も"眩しい"空泡と言えるだろう。文字通りの意味で、だ。ここの年長たちはいつも語っていた。虚物質が訪れたその日、高みに昇っていた太陽が10の円球に割れ、空を呑み、渦巻く虚物質とともに、空泡西部に広がる森に墜ちていったと。

理屈から見れば、ありえない話だ。太陽は虚物質から遠く離れている。10個の球となって空泡に落ちるなど、起こるはずがなかろう。しかしながら、事実はそうなっている。時期に関係なく、西の森は輝きに溢れ、10本の光柱が森の中を行き交っている。眩しく輝いているものの、熱はほとんど持っておらず、さながら足の生えた探照灯のようだ。物見やぐらに登れば、はっきりと光柱が確認できよう。あれの正体が何なのか、我らにもよく分からぬが、たぶん光の化身、具現化みたいなものなのだろう……これ以上まともな結論は、我の頭では出せそうに無い。

正体が何であれ、奴ら10個の"太陽"は今、すこぶる多くの問題を引き起こしている。西の森は禁足地となり、豊かな資源を利用できないでいる。そのうえ、奴らが放つ異常な冷光は、意味流放送の受信に深刻な影響を与えていることが、強く疑われている。虚物質による散漫で疲弊しているというのに、この10個の太陽ときたら、火に油を注いできやがるのだ。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

空泡DV-SAからの放送を受信しました。そちらでは、虚物質を伴って生まれた3人の赤ちゃんが亡くなったとのこと。とても胸が痛みます。私たちの空泡でも今、同じ理由で2人の赤ちゃんが集中治療室にいます。世界の美しさを知る暇もないまま、小さな虚物質のカケラが、繊細な脳にずっと刺さっているのです。そのせいで、あの子達は夜通し泣くのを止めません。私は医者ではないので、2人を治すことは不可能です。でも、空泡の皆さんにはどうか、私と一緒に祈っていてほしい。2つの新しい魂が、この苦難を乗り越えられるよう、祈ってあげたいんです。

そして何より、あの子達のご両親には、希望を持ち続けてほしい。虚物質病は決して、不治の病ではありません。2人の命はきっと、この峠を超えられるはず。なんてったって、私が一番の証明なのですから。……今でも私は、頭に刺さる虚物質のカケラを感じ取れます。スノードームの中の小石のように、絶えず思考をかき乱すんです。それでも、私は生き抜いてきた。親が私を諦めず、立派に育ててくれたから。虚物質の欠片は、私の物語を止めることができなかった。自分の歌声が、親を誇らしく思わせるほどのものだったと気付くことも、止められませんでした。

だから、2人の赤ちゃんも、虚物質と一緒に生まれたからといって、死を宣告される謂れはないのです。あの子達は絶対に生き延びます。私はそう信じてるし、皆にも同じ想いを持っててほしい。皆の心が合わされば、奇跡はきっと創り出せるはず!

舒先輩の言葉は正しかった。オール・フォー・ワンの信念が、実際に奇跡を生み出したんです。私たちは生き延び、涙の歌い手へと育ちました。先輩のコーチの下で、私たちは空泡中に声を響かせています。虚物質病の魔の手から逃れたすべての命が奇跡というのなら、最初の涙の歌い手……舒先輩こそが、奇跡の中の奇跡といえるでしょう。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

1K-ZZの酒飲みどもよ、耳かっぽじって聞き給え。当店は2つの理由から、酒の販売を止めることにした。第1の理由は、俺の造る酒に対して、真剣な評判がほとんど届かないことだ。届いても、空虚で薄っぺらい白湯さゆみてぇな声ばかりときた。虚物質や散漫のせいにするんじゃあないよ。俺と手前らの間に、壁なんて何もないだろうが。こちとら、そっくりそのまま聞こえてんだよ!酔えれば良いみてぇな連中にしか、自慢の酒を渡せないのなら。悪いがなぁ、続けるわけにはいかないんだよ!

なんたる無駄遣いか!なんたる無駄遣いか!

第2に、カーチャンはいつも言っていた。「万事、己が身に原因を求めよ」とな。なんとも毒のある言葉だ。カビの生えた酵母みてぇに、飲めば腹がピーピーしちまいそうだ。それでもなあ、酵母は酵母だ。搾り汁も出ない干からびた果皮よりかは、役に立つってもんよ。……自分の作った物に、あまり満足できてないのは確かだ。そんなんだから、手前らみてぇな品の無い奴を、俺は目覚めさせられないのかもしれん。やっぱり、もうちっと腕を磨かんといかんな。

万が一どこかに、俺の酒を命同然に愛する者がいたとする。アンタの目は肥えていて、品も高いが、今は一つ、お願いするしかない。ここはこらえて、俺を信じてほしい。これから俺は閉じ篭もり、修行に励まにゃあならない。どうか待っていておくれ。本物の「中山酲」ちゅうざんてい7を造り出し、素晴らしき一酔千日いっすいせんにち8の何たるかを、お前たちに味わわせてやろうぞ!

空泡番号: 6M-MT
投稿者: 研究員 欧志誠
徴標ベクトル: [VZ730NPCUKHM88338DX7]

本日の放送についてですが、私ども研究チームでは目下、新出の技術用語を空泡間で同期させることが肝要であると考えております。用語を揃えることで、高い散漫率の下でも各空泡の研究者が比較的正確にやり取りできるようになります。この件につきましては実のところ、伝統的ながらも醜悪なやり方が、一番有効であると考えております。この放送を受け取った空泡の皆さんにも、私どもと同じように、統一した呼称を広めてくださるようお願いいたします。正式な放送の内容は以下のとおりでございます。

稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、稀金、[繰り返しにつき省略]

徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、徴標ベクトル、[繰り返しにつき省略]

空泡番号: Y0-D1
投稿者: 放送員 景木
徴標ベクトル: [781UVUUT0GRBAWJY106M]

放送員を3、4年ほどやってたんだけど、放送タワーのてっぺんにある鍵のかかった部屋には、一度も入ったことがなかった。聞くところによると、近隣の空泡で新しい放送員が着任するたび、財団の研究員が彼らを連れ、一度だけその部屋を見せてくれるそうだ。そこには旧時代の人工衛星があって、かすかに『東方紅』とかいうメチャクチャ古い歌を流しているんだと。

ぶっちゃけ、個人的にはあんまり信じてないんだけどね。

空泡番号: TM-A4
投稿者: 航宙士 イーゴリ・カーメネフ
徴標ベクトル: [GCOCRH0LL155M9G9V0JJ]

[極度散漫]イーゴリ・カーメネフ、57回目の放送だ。最後の[極度散漫]にて、航宙艦のAICが計算エラーを起こし、対向虚物質の回避に失敗した。幸い、本艦は散漫に見舞われることなく、かえって[極度散漫]。艦は最終的に、地球低軌道にある空泡に行き着きついた。虚物質はあらゆる[極度散漫]を遮断している。私は誓いの言葉の通り、暗闇の中で死ぬかもしれないが、今のところは生きていて、呼吸もできるので、[極度散漫]財団東土司令部の命じたすべてのミッションについて、引き続き報告を上げる次第である。

目下、航宙艦[極度散漫]の状態は良好だ。艦内備蓄を点検したが、私一人を1カ月から2カ月は養える量になっている。AICも私のため、空泡周囲の大気をスキャンしてくれた。物資プリントに必要な炭素や酸素は、[極度散漫]が抽出してくれている。AIC[極度散漫]はこのために、標準配備の無人探査機を改造した。また現在、こちらでは空泡[極度散漫]の監視を厳にして行っている。一瞬でも開いたポータルを、私は絶対に逃しやしない。[極度散漫]隊に復帰するべく、全霊を尽くす所存だ。

無論、[極度散漫]足掻こうが、奇跡は起こらないかもしれない。犠牲という宿命からは、やはり逃れられないのかもしれない。それでも、後悔はしておりませぬ。司令部への宣誓が、[極度散漫]無上の名誉なのだから。航宙士イーゴリ・カーメネフより、SCP財団東土司令部に敬礼を。皆様の無事を祈念している。

[極度散漫]1時間後、再度放送を行う。

実際のところ、ノード13の現責任者、イーゴリ・カーメネフ氏は空泡TM-A4にいるわけではない。TM-A4はノード13の真下に位置しており、ノード13の所在する空泡には番号が付与されていない。当該空泡が地球を外れた、低軌道上に位置しているためである。

旧暦紀元2995年。SCP財団の地域司令部はそれぞれ、10~20人規模の航宙艦隊を送り出した。彼らに課された指令は、迫り来る虚物質の動向を、地球外縁にて観測することであった。航宙艦は長期の宇宙ミッションに耐えうる設計であり、その後の5標準年間、彼らはプロフェッショナルな働きぶりを見せ続けた。だが帰還の日、東土上空で予期せぬ虚物質サージが発生。当時のAICは未熟で、虚物質の複雑な意味流計算で数多くのエラーを起こし、危機に陥った。当時の艦隊司令官・カーメネフは、貴重な脱出ポータルを若い航宙士たちに譲ると、たちまち虚物質に呑まれ、そのまま姿を消した。彼はその日、犠牲になったものと、一時はみなされていたのだ。

しかし、ニューノーマルが始まって20標準年以上が経った頃、短い期間ながら、空泡TM-A4周辺の虚物質が理想的な状態を保つ時期があった。その間、連続的に開いた数回の放送受信ポータルにおいて、宇宙にいるカーメネフ氏の放送を、どういうわけかキャッチすることができた。さらに驚くべきは、話しぶりから判断するに、彼は今もなお、生きているようだった。それだけでなく、虚物質サージがまるで、昨日起きたばかりかのように認識しているのである。

ことの異常さにもかかわらず、空泡TM-A4は宇宙方向へ意味流放送を流し、カーメネフ氏に応えることを決定した。長い時間が過ぎた後、TM-A4はついに彼からの返事をキャッチした。その時になってようやく、我々は事件の真相を把握できたのであった。

空泡番号: IL-G5
投稿者: 上級研究員 余 諾達よ だくたつ
徴標ベクトル: 不適用

親愛なる恒鑫へ。

そっちの空泡は大丈夫かい?ここんとこ、放送の散漫率が酷すぎて、そちらからの意味流をほとんど受信できないんだ。断片的な言葉ならたまに残ってるんで、そこからキミの痕跡を探してみる毎日さ。初めの数週間は、キミが書いたと確信できる文もあったけど、近頃はだんだん、自信が無くなってきている。……本当に、長いこと会えていないね、恒鑫。ぼくは時々、キミの意味流がどんな風だったか、このまま忘れてしまうんじゃないかと不安になるんだ。

こっちでの暮らしはけっこう平和だ。研究はゆっくりだけど、着実に進展している。大した変化は無いけど、前に進んでいるのは確かだ。IL-G5のラボはとんでもなくデカい。設備もやりすぎってくらいあるし、稀金の供給も有り余るほどだ。やってきた当初は、施設の凄さに腰を抜かしたもんだけど、すっかり慣れてきた今も、まるで解き放たれたような感覚によく浸っている。でも、キミが注意してくれなくなったせいで、食事がまた不規則になっちゃってね。キミの旺盛な食欲が懐かしく思うよ。

ねぇ恒鑫、ぼくが本当に伝えたいのはね……後悔しているんだ。キミとケンカして、IL-G5に来たことを。もしあの日、虚物質の中で散漫していたら……なんて、怖くて想像もしたくない。……恋しいよ、恒鑫。そばにいるキミが、すごく恋しい。キミはいつも温かい綿布団のように、ぼくの短気と強情を包み込んでくれた。でもあの日、研究のチャンスだの、真理の探究だのとのたまって、ぼくは尖ったナイフみたいに、その布団を突き破ってしまった。間違ってたよ、恒鑫。ぼくの間違いだ。キミがいない今、ナイフはめちゃくちゃに振り回されるばかりだ。研究にひたすら打ち込むしか、イライラを散らす手立てが無い。けれど時々、手が止まる時があったりする。そんな時、ぼくは改めて実感するんだ。実験結果を待つ間、休憩室の小さなボロソファに腰掛けて、キミの吐息を聞いていた日々が、どんなにも大切だったかを。

ぼくに対する稀金の反応が安定しないのも、ひょっとするとそのせいかもしれない。暴走するナイフにそっくりで、実験中に何度か傷付けられたことすらある。大した傷じゃないから、心配は要らないけどね。しかし、コイツを数式で表すのは、あの日のキミが、ぼくの引き止めに成功するくらいの難しさだろう。……ひょんなことに、稀金がここまで不安定になるのは、空泡全体でぼく一人だけなんだ。虚物質からの警告か、それとも、宿命的な何かの表れなのか。稀金の対人反応について、仮説がいくらか浮かんでるんだけど、まだ断定はできないし、今回の放送じゃきっと書ききれないと思う。ぼくは今、固定観念にとらわれないよう色々試している。稀金からの導きに耳を傾けば、新しい視点が開けるかもしれない。……けれど、最近はいっつも無意識に、考えがキミの方に戻ってきちゃうんだ。

恋しい。本当に恋しいよ、恒鑫。意味流が無事、このメッセージを届けられますように。ぼくがどれだけ帰りたがっているか、キミに伝わっていれば良いな。

IL-G2に幸ありますことを。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]

諾達へ。

前の放送が届いたか分からんが、もう一度言っといてやろう……とっくに許してるっつーの!だいたいなあ、IL-G2のラボはショボすぎたんだよ。お前みたいな頭脳明晰、才能ある研究員をここに留め置くなんて、屈辱にもほどがあるってもんさ。ちょっと当て擦りっぽくなっちまったが……本心からそう思ってるってことは分かってほしい。あの日はオレも、あんなに怒る必要はなかった……怒鳴り声の中、去っていったお前を思い出すたび、やりきれなくて辛いんだ。

諾達を止められるわけないだろ?お前に執着心が無かったら、チャンスを諦めるタマだったら、オレがお前に惚れ込むと思うか?

キザな話はもうやめだ。それで、そっちの稀金研究はどうなってる?こっちは他の空泡から、ある数値についての話を細切れながら受け取っている。確か、"徴標"なんちゃらだったか?散漫が強烈なもんでな、ハッキリとは分かっちゃいない。それに、お前がいなくなってから、ラボの研究スピードが1桁は遅くなってる。誇張じゃないぞ、ナメクジが進むよりゆっくりだ。時々、みんなにインスタント麺を振る舞ってやるのが、オレの一番の仕事にすら思えてくる。けどまあ、他のラボメンも似たようなもんなんだけどな。おっと、今のは2人だけの内緒だぞ。虚物質よ、願わくばこの部分を散漫にしといてくれ。

オレの声が届くことを祈る。諾達と空泡IL-G5に幸あれ。

愛してる!

喪心使の一員として、余諾達先生と史恒鑫先生がこのような会話を交わしていた時代を垣間見れるのは、たいへん感慨深いものがあります。

空泡番号: T9-N8
投稿者: 研究員 アリ・ドゥラマン
徴標ベクトル: [QX0LORTSGIC9874JW257]

大誤算だ。これがお隣さんからの20回目の研究レポートになる。ぶっちゃけ、欲しいのはたった1つの数値だってのに。こっちとしちゃあ、それさえ拾えれば十分なんだ。ところがどっこい、20回だぞ!意味流が同じ位置で、20回も散漫しやがったんだ!

あんたらはガキのころ、使ったこと無いか?いっつも同じ所で切れる、クソッタレの修正テープだ。まったく同じじゃないか!

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究員 易千琴
徴標ベクトル: [6ONUZNSYQ24WVC299KFZ]

4標準年を経て、ついに3m × 1m × 3m の小さな虚物質を収容ユニットで隔離することに成功しました。当方のマンパワーではおそらく、このサイズが限界ですが、稀金や徴標ベクトルの研究が飛躍的に発展する点において、本研究の成果はやはり、重大な意義を持つものと考えています。

収容ユニットにあるのは、私たちを隔てることのない虚物質です。収容ユニットの中で、私たちは自由に意味流を送り、徴標ベクトルと散漫率の関係を観測・記録することができます。そのような研究方向において、本空間はもはや、サンドボックス宇宙と呼べるでしょう!

この成果を広められるよう、尽力するつもりです。虚物質に意味流が負けず、より多くの空泡が明るいニュースを聞けるよう願っています。

空泡番号: OR-R3
投稿者: 放送員 呉荷
徴標ベクトル: [USPYEGL24IYXM6Q5DPRS]

空泡OR-R3にお住まいの皆様へ。SCP財団研究所から緊急通達が入りました。空泡北部にあります湖中島には、決して近寄らないでください。報告によりますと、境界より虚物質の塊が剥離し、目下墜落中とのことです。これにより、周囲の虚物質がサージ状態に陥っており、リスクレベルは推定不可能となっています。

財団は現在、駐在戦術対策チームを派遣し、統制と収容にあたっています。周辺市民はただちに、その場から離れてください。繰り返します。周辺市民はただちに、その場から離れてください。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

ミョ~な夢を見たんだ。

こないだな、稀金のカケラを磨り潰して、酒に振りかけてみたんだよ。いやぁ残念無念、ちっとも旨くはなんなかった。コイツぁ、万能の霊薬ってわけじゃねぇみてぇだな。そのあと、俺は寝付いてたんだが、気付くと夢の中、真っ白な山の天辺にいたんだ。石灰とか、骨粉みたいな、とにかくゾッとするような白さだった。それと比べりゃあ、雪ですらまだ生気があるだろうよ。ふらふらっと崖に寄り、下を覗いてみると……なんてこった!崖壁から裾に至るまで、塔が何重にも重なってそびえ立ち、ずっと向こう、虚物質の渦巻く端まで続いている。こんな景色はついぞお目にかかったことがなかった。

後ろに気配がしたんで、シュッと振り返ってみると、鹿が一匹、身を丸くして眠ってたんだ。そいつぁ夢ん中で、白い馬を見ていた。……おかしい。何でそんなことが分かる?鹿が白馬を夢見てるだなんて、どうして俺が知ってるんだ?そいつの背後……山の裏では虚物質がうねり、一面を覆っていた。俺はそこで、でっかいフクロウを目にした。フクロウの頭は山頂ぐらいあって、金色に光る目ん玉が3つ、まっすぐこっちを見つめていた。ヤツの背中には、これまた大きな球が乗っかってて、そこにはもっと多くの、色んなサイズの目ん玉が付いてた。ヤツの頭くらいデカいのもあったな。……そんで、フクロウは俺に話しかけてきたんだが、コダマが実体を持ったみてぇに、体にのしかかってくるような感じがした。なのに、俺は一言たりとも聞き取れなかった……そこで、目を覚ましたんだ。

白馬を夢見る鹿……えっらい目ん玉だらけのフクロウ……何がどうなってんだよまったく!

空泡番号: IL-G5
投稿者: 上級研究員 余諾達
徴標ベクトル: 不適用

恒鑫へ。

手がかりが掴めたと思う。稀金の反応を量化して出された数値……"徴標ベクトル"は、ほとんどの場合固定であることが分かった。大部分の物体は、徴標ベクトルがずっと変わらない。その物体の意味流──ソレの本質──には、変化が生じないからだ。けれど、人間の場合は違う。こっちの研究チームで確認したことなんだけど、人の徴標ベクトルは2つのパートに分けられるんだ。1つは、物体と同じように固定・不変な部分。もう1つ……より長い方の部分は、本人の変化に応じて、その値を変える。これは何を意味するのか?どうして一方は不変で、一方は変動するのか?外面と内面?肉体と魂?いまいち不明瞭だ。

チームはこの発見を、できるだけ広められるよう動くはずだ。でも、キミに伝えたいのはこれじゃない。ぼくの徴標ベクトルはね、恒鑫。みんなと違うんだ。ぼくの場合、両方のパートがひっきりなしに変化している。そういうわけだから、稀金の反応が不安定だったんだ。どうしてぼくだけが違うのか?あらゆる空泡で、ぼくだけがそうなのか?何も分かってないんだよ。

それに、それにね……恒鑫。稀金を握るたび……なんでか、キミの姿が浮かぶんだ。その瞬間、ぼくは引力のようなものを感じてしまう。高鳴るぼくの心臓を、稀金に向かって引っ張るような……。その間、ぼくの徴標ベクトルは目まぐるしく変化する。稀金は多分、ぼくを虚物質に連れ込もうとしてるんだ。でも、いったいどこに飛ばす気なんだ?今の所、伝送ポータルは開いていない。このまま虚物質に飛び込んだら、ぼくはきっと、散漫しちゃうんじゃないだろうか?……それでもね、恒鑫。キミに会いたくてたまらないんだ。本当に会いたいよ。……あらゆる直感が叫んでる。稀金はぼくを、キミの下へ連れてってくれると。ぼくは今、自分の直感を信じたいと思ってる。

だけど、まだ……まだ、解き明かせてはいない。ぼくはここの人と一緒に、徴標ベクトルを総合的に研究していてはダメかもしれない……。ぼくの数値はイレギュラーだ。稀金はぼくにだけ、特異な啓示を与えている。ぼくは自分自身を研究しなくちゃならない。キミへと引き寄せる、あの力の源を突き止めるんだ。そこにはきっと……きっと、意味のある何かが隠されているはず!

待っててね!恒鑫、待ってて!

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

異なる徴標ベクトルを持つ意味流が、虚物質を通過する際の反応について、我々空泡QM-LMの研究チームは新たな発見をしました。隔離した虚物質のおかげです。

第一に、特殊な徴標ベクトルを持つ意味流は、虚物質をほぼ完全な形で通過できることが分かりました。ただし、これには前提条件があります。意味流は虚物質に、定まった角度から進入しなければなりません。当研究所は、特殊な徴標ベクトルを持つアイテムをいくつか捕捉しています。それらは各自に対応した軌道に沿って、虚物質を難なく通り抜けました。アイテムにはここの研究員も1人含まれており、彼女はインドのヘナタトゥー9を参考に、右腕にとある花紋を描いたことで、有効なベクトルへと到達しています(残念なことに、これは彼女にのみ有効なもので、なおかつ、我々が隔離した小さな虚物質にしか効き目がありません)。

より正確に言うと、人間の場合は少々勝手が異なります。徴標ベクトルの可変部分が適切であれば、定まった角度から安全に虚物質を通過できるようです。

第二に、徴標ベクトル自体も数値化することで、意味流として放送することができます。それを受信することで、向かい側の意味流は虚物質を通過し、送信元の位置へ移動できるのです。散漫率はほとんど無視して良い水準でした。これはつまり、有効なベクトルを見つけ出せれば、以降はその数値を流し続けるだけで、他の人間は虚物質を貫き、対象の元へ辿り着けるということになります。この発見の価値が計り知れないことは、言うまでもないでしょう。

虚物質を突破する手立てを、ついに見出し始めたのです。

問題は、徴標ベクトルが複雑多様で、虚物質も安定せず、各空泡の物理法則には差があることです。有効なベクトルを探すための、普遍的な手法が、現段階では確立できていないのです。それでも、我々一同は確信しています。人間には固有の、行動に連動して変わる徴標ベクトルがあるということを。有効なベクトルを見つけ出し、絶えず外へ放送するには、人、人こそが最良の選択肢なのです。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]

諾達へ……

元気か?よく眠れてるか?ちゃんとメシ食ってるか?

お前からの意味流なんだが、かなり受信し難くなってる……ほんの僅かしか読めてないが、その僅かな情報からでも……すごく心配だ。見たところ、お前は何か焦って、悩んでるように見えるが、何かあったのか?研究に躓いたか?こっちに手伝えることはあるか?……どうすりゃいいのか、俺には分からない。虚物質のやつが、何もかもを遮っちまってる。

危ない真似はするんじゃないぞ、諾達。お前はいっつも衝動的で、狙ったモノがあれば、猪突猛進に突っ込んでくタイプだ。こんな時に感傷に浸りたくは無いが、それでも……それでも……ちょっとは、直すべきだと思う。ちゃんとメシを食べて、ぐっすり眠る。体調を崩さないことが、何よりも一番大切なんだ。

お前はそこにいた方が良いよ。お前の情熱を注ぐのにピッタリの場所だ。俺は……もう何を言ってやれば良いか、分からなくなってきた。なんたって、そっちの情報をまともに掴めていないからな。……とにかくだ、これからも俺は、お前を応援し続ける。絶対に体には気をつけるんだぞ。

空泡IL-G5に平穏あれだ。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 上級研究員 央金
徴標ベクトル: [F734UA0EU67TPZTAPLTK]

ヘナアートで有効な徴標ベクトルを得た研究員として、少々補足させてください。求めるベクトルへ近づくにつれ、体が反応を示します。糸で引っ張られているような力を感じ取れるはずです。虚物質の付近では、特に顕著です。非科学的な実験手法ではありますが、稀金と虚物質においては、人の直感というものが大いに役立っていると感じています。

より適切な手法を示すことができず、申し訳ありません。自分の成功ケースは運の要素が大きく、再現性は低いと思われます。言えることはただ一つ。どんどん探しましょう、皆さん。稀金の反応を感じ、稀金の共鳴を聞き取ってください。直感に頼るのが、最も効果的なやり方なのです。

空泡番号: O4-0U
投稿者: 研究員 魏慶
徴標ベクトル: [U1A5BN203C5MS9DT7BDE]

信じられないかもしれないけど……僕らの空泡には守護神がいる。旧時代に流行った、抽象芸術風の像だ。僕らはしばしば、新鮮な野菜や果物を供えたり、線香を焚いたりして祀っている。これが効果的だというのは、祀り続けると像の錆が減り、祀らないと逆に増えることから分かる。

守護神様は僕らにお恵みを……よそう。正直言って、神が何をもたらしてくれているのか、いまいちよく分かってないんだ。放送を受け取る時の散漫率が、なんというか……他の空泡より、地味に低い感じはする。でもやっぱり、ただの気のせいかもしれない。

たぶん、こういうローカルな守護神の場合は、たとえ全力を注いでも、虚物質から僕らを守り抜けないんだと思う。流石にきついだろうしね。

空泡番号: S0-NR
投稿者: 研究員 傅昮
徴標ベクトル: [4ZDZFTHMH2IQZ292VF5Y]

個人の徴標ベクトルは行動次第で変化する部分がある一方、変わらない部分もあると聞く……そうだろう?この不変な方については、虚物質を通る上では何の助けにもならないが、個人的には、有用な所もあるように思えるんだ。

さながら、DNAの配列表現のような……適切にペアリングすれば、個人ナンバーみたいなものに活用できるんじゃなかろうか。

空泡番号: CR-KV
投稿者: 客員研究主任 夏嵐
徴標ベクトル: [P4WHR5I1JFKK9M060R5I]

空泡CR-KVの全研究員へ!主任から許可を得ました。すべての研究を直ちに中止するよう求めます!皆さんの健康診断書を拝見しましたが、到底見過ごせる内容ではありません……。私の有様でも、十分な警告にならなかったというのですか!放射線による線維症が、昆布茶10を飲めば治るとでも、本気でお思いなのですか?

言わせて頂きますよ。いま、すぐ、すべての研究を止めてください。実験手順から運用規範まで、ラボの隅から隅まで見直しを行うのです。高エネルギー異常物理学は本来、大きなリスクを孕んでいます。この空泡の性質では、リスクは増す一方です。私は見習うべき手本なんかじゃない。ここに私がいる限り──恐らく、死ぬまでいることになるでしょう──、自分と同じ過ちを、絶対にあなた方にはさせませんので!

みんな、お願い……私を真似ないで。私はもう、引き返せない所まで来ています。研究レポートを前にして逝くのが、私に定められた最期なんです。けれど、皆さんは違う。あなた方にはまだ、輝かしい人生が残っています。かつての私みたいに、命を削る必要はまったくないのです。

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

緊急放送!研究員の単一臾です。伝送ポータルで空泡RW-5Wに向かう途中、突発性の虚物質サージに見舞われました。今、私は空泡RW-55に取り残されています。随伴のAICは散漫で壊れ、基本的な記録と放送機能しか生きていません。私の方も、右ひざに擦り傷ができてますが……これくらいなら何とか、自力で処置できそうです。いずれにせよ、これを受け取った空泡の方には、できるだけ速やかなサポートをお願いしたいです。どうかよろしくお願いします。

さしあたり、当空泡の環境を報告いたします。RW-55はごく小さな空泡で、荒涼とした砂漠から成っています。中央には、2メートルほどもある巨大な金属が、地面よりおよそ半メートル離れて浮かんでいます。まさに黄金のような金属であり、樹枝のような模様で埋め尽くされています。傷の手当てが終わったら、少しこの空泡を探索してみようと思います。

こちらに戻り次第、記録を再開するつもりです。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

空泡DV-S8の皆さん、こんばんは。谷桂月ちゃんと詹辰ちゃん、2人のお誕生日会へようこそいらっしゃいました。……皆さんはきっと、不思議に思ってることでしょう、私のメイクに。さっきまで泣いてたのかと、疑問に思ってるかもしれません。その通り、わたしはかなりの泣き虫なんです。とってもセンチな性格だって、周りのみんなからよく言われます。……話は聞いてるよ。谷ちゃんも詹ちゃんも、わたしと同じ"悪い癖"を持ってるんだよね。実を言うと、わたしは昔、"癖"を隠そうとムキになって、顔を整えるのにすっごく時間をかけちゃうことがあった。でも、あなた達2人……虚物質病の子が元気に育ってるのを見て、わたしは決めたの。自分が先駆けになろう、ってね。……ここにいる皆さんに伝えたいのは、これが"悪い癖"じゃないってこと。財団の駐在研究員さんの助けもあって、わたしはむしろ、それは一つの奇跡なんだと、そう気付かされたんです。

頭に宿る虚物質の欠片が……生まれたときから一緒だった、あの虚物質が、泣き虫の原因でした。欠片のせいで、わたしの心はとっても過敏になっている。自分やみんなの感情を、より深く、強く感じ取ってしまうんです。あらゆる感情が渦巻くものだから、今してるメイクみたいに、涙が止まらなくなるんです。だけど、欠片の影響はそれだけじゃなかった。……研究員さんには、本当に感謝しています。無数の渦巻く感情こそが、わたしの歌唱力の源だったんです。2人のお友達も、歌手としての才能を発揮し始めています。わたしはこれが、決して例外じゃないと信じている。この"癖"は、虚物質病の子がみんな、生まれつき抱える問題だけど、それと同時に、恵みでもあるってことなんです。

虚物質が異常な物質であることは、疑いようのない事実です。その一方で、美しく輝く異常もあることを、研究員さんは教えてくれました。今夜、絶賛成長中の2人の前で、恵みの素晴らしさを示したいと思います。空泡DV-S8のみんな、どうかこの歌を聴いてください──

[歌詞のないソプラノの独唱。異常なミーム性質を帯びている。聴衆は総じて、涙で顔面を濡らす感触と、困難を乗り越えた先の、美しい世界への憧れの感情、2人の児童が持つ、純粋な魂への祈りを感じ取った。]

ご清聴、ありがとうございました!

その夜、舒詠墨女史の歌唱はDV-S8で大絶賛を受けた。彼女のたゆまぬ努力によって、虚物質病の嬰児えいじは次第に、より細かな配慮を得られるようになった。大衆は新たな名シンガーの誕生を心待ちにしている。しかしその日、各空泡にとって記念すべき、もう一つの発見があった。舒女史の異常ミームを帯びた歌声が、空泡DV-S8のみならず、DV-SA、DV-AU、DV-K7……隣接する、多数の空泡であまねく聞こえたのだ。散漫のない、完全なる形で、彼女の歌声は届いたのである。

つまりこれは、"涙の歌い手"による、初めてのライブであった。虚物質病の人々の歌う意味流は、虚物質の中を自由に伝播し、散漫を受けないということを、我々はこの日、気付かされたのである。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」っていうことわざがあるだろ。優れた金細工を打ち出すには、炉の高温に耐えなくてはならない。この金属、稀金と言ったか、コイツは虚物質から来たんだろう?それなら、虚物質の中で探すしかないよな。

手持ちの稀金はもう僅かだ。俺はこの前、指先サイズのコンパスを作ってみた。稀金に炭素、クロム、ニッケル、コバルトを混ぜ……磁化させる。思った通りだ。コンパスの針は、虚物質が活発に動いてる場所を指し示した。そこに腕を伸ばし、サッと素早く掴み取ると、稀金の粒がさらさらと、手のひらにくっついていたんだ。

虚物質の中で散漫するのは、どんな感じなのか……恐れはある。けどな、もういっぺん言っておこう。「虎穴に入らずんば虎子を得ず」。アイデアはまだまだ残っている。試してない配合もたくさんだ。……腕をずっぽり、虚物質に突っ込んでみるのはどうだろうか?散漫するかもしれんが、すぐに散ってしまう稀金の粒子を、ずっと多く掴めるはずだ。虎穴に入らずんば、虎子を得ず。俺には稀金が必要なんだ。稀金もまた、俺を欲してるんじゃないかとも感じてるよ。

職人として長い年月を過ごしたが、一つの金属のために命を賭けようだなんて、一度も思ったことはなかった。ひょっとすると、これが俺の宿命なのかもしれん。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

やべぇな……ここんとこずっと、三つ目のフクロウが頭を離れねぇ。今じゃ俺、酵母すらアイツの目ん玉に見えてきちまってる。

未練たらたらの俺は、稀金をまたちょっと磨り潰した。コイツは他の空泡じゃ、とても役に立つって言われてるんだ。稀金の粒を酒に混ぜ、喉に流し込む。これを何度も繰り返す。何十回もやってりゃあ、確実に例の山を夢に出すことができる。白い馬ばっか夢見てる鹿も、目ん玉しょいまくってる三つ目フクロウもな。アイツはいったい、俺に何を喋ってるんだろうな。……なんとなくだが、分かってきたこともある。夢の世界ってのは、人の潜在意識が繋がったものらしいが、周りは今、虚物質がぐるっと取り囲んでる。虚物質は夢の世界すらぶった切ってるのか?でもよぉ、それが俺と、いったい何の関係があるってんだ?

それにあの、鹿だ。白馬を夢見る鹿だよ。コイツも結局、何を意味してんだ?「鹿を指して馬と為す」11……厄介事を無理やり押し通せって、そう俺に言ってんのか?でもこの場合、"鹿"ってのは何にあたるんだ?"馬"もいったい、何を指してんだよ?

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

財団の研究者さんが、さらなる検査をしてくれました。自分の歌声にこんな作用があるとは、思いもしませんでした……。空泡DV-S8の皆さんへ、外に伝えたい情報はありませんか?急を要したり、完全な形で伝えたいものだったり。何でも構いません。必要ありましたら、すぐに放送局へお越しください!私ができうる限り、お手伝いさせて頂きます。

異常ミームの原理は、実際にはもっと複雑なのものです……。歌声に織り込んだ情報が、本当に正しいものなのか、保証はできません。情報が感情とか、気持ちについてのものなら、多少はやりやすいですが……どんなものであっても、わたしは喜んでお手伝いいたします。それが単なる信念や、願い事だとしても、リソースと時間の無駄遣いだなんて、決して思わないでください。虚物質はあまりにも、たくさんのものを遮ってきました。信念……願望……期待……そうした思いを、崩さずそのまま送り出すことにも、大きな意義があると信じています。

わたしは放送局にいます。ぜひ会いに来てください!わたしの声に乗せて、皆さんの思いをすべての空泡に届けますから!

空泡番号: IL-G5
投稿者: 上級研究員 余諾達
徴標ベクトル: 不適用

キンちゃん。ぼくは特別なんだ。

ついに解ったと思う。意味流が虚物質を通る際、散漫するか否かを決定づけるのが、徴標ベクトルなんだ。ぼくの徴標ベクトルは2つとも、ひっきりなしに変動している。……だから虚物質は、ぼくの意味流を解析できないんだよ。もちろん、適当に散歩気分で入ったら、やっぱり散漫し、虚物質に呑まれてしまうだろう。具体的な法則がまだ……掴めていないからね。だけど、稀金はヒントを示してくれている。あの、心臓に近づけた時の、引っ張られるような感覚がそうさ。心臓が稀金を引っ張ってるんじゃなくて、稀金が心臓を引っ張ってるんだ。ぼくのこの、揺れ動くベクトルは……特定のモデルの中でなら、コントロールできるかもしれない。

稀金でね、ナイフを作ってみたんだ……こいつがくれる啓示は、ますます明白になってきた。心臓の鼓動、遠い空泡からの呼び声、そして、キミの姿……。痛みに耐えられるだろうか……まだ、踏み出せずにいる。でもねキンちゃん、キミが死ぬほど恋しいんだ……会いたい……限界だ……。ポータル開通予測が、なんて弾き出したか知ってるかい?3年?5年?10年?10年経たないと、キミには会えないって言うの?ダメだ……そんなの、受け入れられないよ。……我慢できそうにない。もう、待つのはやめようと思うんだ。

あの日、ぼくはキミに怒られた。衝動的で、脳筋だって。ポータルを見つけるやいなや、考えなしにIL-G5での研究にかじりついた。キミは正しかったよ……ぼくはいつもこうだ。目標を定めたら最後、ぼくは不眠不休にだってなれた。うまくいかないのは気がすまないんだ……。キンちゃん、またぼくを、許してはくれるかい?これまでの間違いもひっくるめて、ぼくを許してくれるかい?今度こそ、進むべき道を見つけたんだ。その先には、キミが立っている。

キンちゃん、今行くよ。

空泡番号: CR-KV
投稿者: 客員研究主任 夏嵐
徴標ベクトル: [P4WHR5I1JFKK9M060R5I]

空泡CR-KHの皆様。申し訳ありませんが、約束を破ってしまいました。もう一度お手間をおかけします。

こちらの虚物質予測にて、いくつかのポータルが検知されました。これを利用して、私以外の研究員全員を送り出したいと考えています。先日の件は……実験フローや運用規範とは関係なかったかもしれません。とにもかくにも、空泡CR-KVの微粒子は活発すぎました。ここに留まっているだけで、身体にダメージがどんどん蓄積されるのです。研究なんて到底できる状況ではありません。最新の議論と研究結果を統合するに、第9対称性に関する自分の研究は行き詰まったと断言できます。方向性を見誤り、何の成果も得られないでしょう。したがって、こんな危険な空泡に皆を留めておく理由も無くなったのです。

ただし、自分はここに残るつもりです。前に言ったでしょう、私は死ぬまでここに留まると。自分のような病弱者のために、伝送ポータルを消費する必要はありません。放射線が多かろうと少なかろうと、私にとっては些末な問題ですから。

安心してください。私はここで、穏やかに余生を送れるでしょう。彼らの研究をいくつか覗きましたが、異常粒子と稀金の反応に関するユニークなプロジェクトがあり、退屈しのぎになりそうです。初めて稀金に触れた時、彼らは私に感想を求めたことがあります。「体中、無数のビームに突き刺されたようだ」……私はそうコメントしました。嘘ではありませんよ。当時、確かにそのような感覚があったのです。ですが、彼らは突如、氷水に浸かったかのように押し黙ってしまいました……。みんな、良い子たちなんです。だからこそ、ここから早く遠ざけなくちゃいけません。

空泡番号: WL-9I
投稿者: 研究員 焦安瀾
徴標ベクトル: [4SKJA8YGXK3AMIH2LJYI]

我々を含め、多くの空泡が徐々に稀金、特徴ベクトル、および虚物質の関連性を理解し始めているようだ。こちらの研究員は皆、徴標ベクトルの捜索に取り掛かっているところだ。だが、道しるべとなるものが何もない。いわばまさに、水面の月を掴むようなものだ。稀金に触れた時の反応には、個人個人で差異があることは確かだ。しかし、ああいった抽象的な反応を、いかにして自己変化の手法に転換すれば良いのだろうか。そもそも、自己を「変える」とは具体的にどういったものなのだろうか?

アノマリーってのはこういうものなのか?あまりにも非合理だ。有効な徴標ベクトルを得られた事例は、もはや奇跡のようなものなんじゃないかと、そう思い始めている。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

稀金が手から、析出した。まるで針みたいに、俺の手に突き刺さってる。見えてるだけじゃないぞ。指の骨、関節に、金属が嵌まってるのを感じる。曲げ伸ばしするたび、手の中で擦れ合う感覚があるんだ。虚物質に長く浸かるほど、突き刺さる稀金の数が増える。散漫は案の定やってきた。畜生め、右手の薬指を持ってかれたが……大丈夫だ。稀金で新しいのを作ったからな。稀金があれば、俺は何でも作れる。手に稀金が刺さっちゃいるが、作業にほとんど支障はない。当たり前だ、稀金が俺を邪魔すると思うか?コイツは俺の素材で、俺はコイツの職人だ。俺たちは一心同体ってわけさ。

どんどん深く、腕を突っ込むようになった。虚物質の中の稀金が、俺を呼んでいるんだ。もうすぐにでも、半身を突っ込んじまうかもしれない。……流石にヤバいんじゃないかと思っちゃいるが、いずれにせよ、半身浴はやめておこう。なんてったって、財団が接触してきたんだからな。白衣を着た学者連中も興味津々で、俺の稀金でいっぱいの両手と、稀金細工のテク、稀金とのコンビネーションを見て驚いていた。そいつらは俺に、協力を申し込んできた。あっちは稀金を提供し、観察するだけで、こっちは好きにやって良いとのことだ。

こんなチャンス、逃すわけにはいかねぇよな。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

くるった、くるった。マジで狂った。稀金でビールグラスを作るなんて、どうやったら思いつくんだ?俺、まだ酔ってるんじゃ……いや、夢ん中にいんのか?分っかんねぇ、フ~ラフラしてる、どっちなんだよここは。お前ら、酔ったら夢を見るかぁ?おらぁ元々、フツーに寝てもよく夢を見るタイプだった。夢はビュンビュン移り変わってく。筋なんてモンはなく、左足の靴下を右手に嵌めるような、メチャクチャな話ばかりだった。でも、今は違う。稀金に触れてからというもの、三つ目のフクロウが夢ん中でず~っとガン飛ばしてきてんだよ。

南山だ、南山。あれは南山だ。「寿比南山じゅひなんざん12の南山、永久の南山が、夢ん中にそびえている。永久とは不変、すなわち下らんもの、すなわち死である。三つ目のフクロウは、この南柯なんかの夢13のヌシは今、すこぶる不機嫌で、困惑している。この夢は本来、あらゆる人間から成り立ってたものだ。俺たち酔っぱらいもなぁ、みーんなここに集ってたんだぜ。フクロウが俺らを繋げてくれてたのさ。けど、今じゃどうだ?虚物質は現実だけじゃねぇ。夢ん中にだっているんだぞ?

夢にも虚物質だ。おお神よ、世界は切り裂かれ、繋がりは断たれた。そんなんだから、南山が夢に生えてきたんだ。繋がりが、集いが消えたからな。虚物質が何もかも、淀んだ水みてぇにしちまった。世界は壊れ、二度と変わることはなくなった。すべては静寂となり、永久へ沈もうとしている。これがつまるとこ、"死"っていうわけさ。そう、俺は死んでるんだよ!死人がどうやって酔えってんだ!死んでるヤツがなぁ、中山酲を造れるわけねぇだろうが!

フクロウも嘆いてんぜ。アイツも酔いたがってんだ。酔いどれた夢ん中で、俺らと溶け合いたいのさ。だが、世界は死んじまった。ごめんなぁフクロウ。酒は売れねぇし、空泡も繋がんねぇ。虚物質が俺らを囲んでるんだ。もはや万事休すだ!白馬を夢見る鹿がいるけどなぁ、ソイツで俺は何すりゃいいってんだよぉ!

……何書いてんだろう、俺……。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 余諾達
徴標ベクトル: 不適用

[記録開始]

余諾達: 着いたよ。

ヘッドカメラからの映像。撮影者は懐中電灯を手にしている。場所は深夜の空泡IL-G2で、前方には小規模な研究所が見える。しばらくして、2階の窓に明かりが灯る。男が1人、バルコニーに出て、撮影者の方を見る。目を擦り、再度見ると、研究所内に駆け戻った。研究所の明かりがすべて灯り、かすかに叫び声が聞こえてくる。「医療班!はやく医療班!救急箱!救急箱を!」

余諾達: 上手くいった。

研究所の門が開き、薄手のパジャマ姿の男が、救急箱と大量の包帯を抱えて走ってくる。上級研究者の史恒鑫と確認。涙を流しながら、撮影者に向かって叫ぶ。

史恒鑫: 諾達!

余諾達: 恒鑫、ぼくはやり遂げた──

史恒鑫は泣きながら、地面に救急箱を投げ出す。その後、撮影者の体に包帯を巻き始める。撮影者が頭を下げると、青いシャツの左側に大きな血痕が見えた。史恒鑫は必死で傷口を覆おうとしている。

史恒鑫: 諾達……(嗚咽)お前……しっかりしろ。すぐに医療班が来るからな……死ぬな……死ぬなよ……(嗚咽)頑張れ……諾達……しっかりするんだ……

余諾達: ねぇ恒鑫、まずは話を──

撮影者は包帯を緩めようとするが、史恒鑫は巻き続ける。

史恒鑫: ダメだ……(嗚咽)ダメ……

余諾達: 恒鑫、聞いて。慌て過ぎだって。

撮影者が史恒鑫の肩を掴み、包帯が地面に落ちる。史恒鑫が泣き腫らした顔を上げる。

史恒鑫: え?

余諾達: 大丈夫だよ、恒鑫。無事だ。(間を置く)ほらね。

撮影者は頭を下げると、シャツのボタンを少し外し、左右に開く。心臓のあるべき胸腔に、巨大な空洞が見える。流血はほぼ停まっており、縁部分の傷も癒合ゆごうの初期段階に入っていた。

史恒鑫: こ……これは……

余諾達: これでぼくは、虚物質を突破したんだ。(間を置く)成功したんだよ、恒鑫。ぼくは今、虚物質を自由に歩くことができる。もう散漫することはないんだ。

史恒鑫は呆然とした様子で見ていたが、その後、大声で泣き始め、撮影者を強く抱きしめた。泣き声と重い呼吸音が交互に聞こえてくる。

史恒鑫: 諾達……諾達……(嗚咽)俺……会いたかった……ずっと会いたかった!

余諾達: 知ってたさ。あっちじゃ、キミの意味流はなかなか拾えなかったけどね。断片的な言葉から、ぼくを恋しがってることはよく分かってたよ。

史恒鑫: 俺にはなあ……言いそびれたことが……(嗚咽)たくさんあって……お前は来た……帰ってきた……ああ……

余諾達: ああ、上手くいった。これは本当に、ワクワクする発見だよ。ぼくはもう、虚物質に邪魔されない。研究成果を早く共有して、すぐに他の空泡へ伝えに行こう。

しばしの沈黙。史恒鑫は撮影者を抱く腕を放し、後退りする。

史恒鑫: おま……お前いま、なんて言った?

余諾達: 研究成果を早く共有して、すぐに他の空泡へ伝えに行こう。そう言ったけど。正しいことじゃないか。

史恒鑫: そりゃあ……そうだけど……でも……何でお前は、そんな……

史恒鑫は撮影者の胸の穴を黙って見ていたが、身震いし、絶叫する。

史恒鑫: あああああああ!

余諾達: 恒鑫?どうしたのさ?ぼくは成功した。虚物質を通れるようになった。とても意義のある発見じゃないか。

史恒鑫: だけど、お前……お前……(嗚咽)何も感じないんだろ?

余諾達: よく分からないな。

史恒鑫は撮影者の右手を掴み、自身の胸に当てる。

史恒鑫: なあ……教えてくれ。今、何を感じてる?

余諾達: キミの心臓が、激しく鼓動してるのが分かる。興奮してるんだよ、恒鑫は。正常な反応だ。どうしてこんなことをさせるんだ?

史恒鑫: 愛してるからだよ!感激してるからだよ!俺は……(嗚咽)お前と……やっとまた、一緒にいられると思ったんだ……。一緒にまた、ハグしたり、メシを作ったり、また……(嗚咽)映画を見たり、ソファで実験結果を待ったり……一緒に……

余諾達: そんなの、やりたければいつでも──

史恒鑫: でも、何も感じないんだろ!お前にはもう……だからやっと……やっと今……(嗚咽)言って……

余諾達: よく分からない。

史恒鑫: そりゃあ分かんないだろうよ!なんたって、お前……お前には……

撮影者が顔を上げると、医療班がストレッチャーを押して研究所から飛び出してくるが見えた。面前の史恒鑫は、ゆっくりと地面に膝をつかせた。

史恒鑫: 心が無いんだから!

[記録終了]

空泡番号: Z4-F7
投稿者: 放送員 印文昌
徴標ベクトル: [9LGHMVR50IJF46KSF5QO]

空泡Z4-F7にお住まいのみなさーん、本日の定例放送を始めま──ストップ、何だって?誰か来た?でも最近、伝送ポータルは開いてないだろ!じゃあどうやって……どういうこと!?ちょっと俺、見てこなきゃ──

え、えーっ、本日の放送は後ほどお届けします。それでは!

空泡番号: 5E-CI
投稿者: 上級研究員 貢陽羽
徴標ベクトル: [Z8JL4QE85PZTRCSNM10M]

ニュースはこちらにも入ってきている。とある有志が、虚物質を自由に歩けるようになったそうだ。なかなかの大発見だが、惜しむらくは、詳細が散漫してしまったことだ……。彼がここを訪れてくれることに、我々は期待するしかないのかもしれん。

既知の情報から判断するに……彼は変動する、2つの徴標ベクトルを持っているらしい。こちらの空泡にも、同じような人間がいたはずだ。その者ならば、彼のように虚物質を通れるんじゃないだかろうか。大きな代償を伴わないものであれば、なおさら良いのだが。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

心を持たない人間が、俺らの空泡を訪れたらしい。なんとも珍しい話だ。稀金がそんなチカラを与えるとは……初耳だ。稀金は人に変な夢を見せるだけじゃなかったんだな。

とはいえ、気になることがある。心が無い人間は……酔えるんだろうか?

空泡番号: V1-UR
投稿者: 放送員 桂筠
徴標ベクトル: [Z8JL4QE85PZTRCSNM10M]

空泡V1-URの住民の皆様へ。虚物質の中を自由に移動できる使者が、近々この空泡を訪れるそうです。滞在は7日間の見込みで、SCP財団の駐在研究者と共同作業を行ったのち、隣接するV1-UB、V1-CR、V1-J3を巡って回るとのこと。放送班はすでに、使者と共有するべき資料を整理しています。関連文書は空泡プラザにて掲示しておりますので、興味のある方はそちらをご覧ください。

また、放送班では引き続き、緊急メッセージの申請を受け付けております。近隣の空泡に緊急で情報を送りたい方は、遠慮なく空泡放送局までお越しください。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

余諾達君のために、稀金の杖を作った。彼は杖を一振りすると、そのまま振り返りもせず虚物質に入った。おおよそ15分後、彼は戻り、とても有用だと語った。やはり、見立ては正しかった。俺の配合する稀金は、彼の徴標ベクトルと共鳴し、自身の意味流を増幅させる。こうすることで、彼は今後、虚物質の中で道に迷いにくくなるはずだ。

これは初めての、他人のための稀金細工だ。往年の仕事ができたような気がして、とても達成感がある。こういった感じのモノを、もっと造るべきかもしれない……。これで、もっと多くの人に俺の稀金技術を披露できるようになった。それに、もしかすると……遠い空泡には、俺みたいに稀金を究める人間がいるかもしれない。俺も別に、頑固一徹みたいな職人じゃあないんだ。あんなのはとっくに、旧時代の土に埋もれてるはずだろ。互いに技を磨けられるのなら、知識の共有だってためらわないさ。

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

緊急放送!こちらは初級研究員の単一臾です。伝送ポータルで空泡RW-5Wに向かう途中、突発性の虚物質サージに見舞われました。今、私は空泡RW-55に取り残されています。随伴のAICは散漫で壊れ、基本的な記録と放送機能しか生きていません。これを受け取った空泡の方には、できるだけ速やかなサポートをお願いしたいです。どうかよろしくお願いします。

さしあたり、当空泡の環境を報告いたします。RW-55はごく小さな空泡で、荒涼とした砂漠から成っています。中央には、2メートルほどもある巨大な金属が、地面よりおよそ半メートル離れて浮かんでいます。まさに黄金のような金属であり、樹枝のような模様で埋め尽くされています。また、触れることもできます。どうやらこの金属は、かすかに振動しているようです。

別件ですが、自分の右ひざにアザと、かさぶたで塞がれた小さな傷を見つけました。簡単な手当てが施されたようですが……まったく覚えがありません。この空泡に人がいて、どこかに隠れていなければ良いんですが……一人で勝手に、ビックリしちゃってました。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]

近隣の空泡諸氏へ。この放送を受け取ったならば、聞きたいことがある……

身体を離れても、ひとりでに鼓動し続ける心臓を保存するには、どうしたらいいだろうか?アドバイス願う。

空泡番号: CR-KV
投稿者: 客員研究主任 夏嵐
徴標ベクトル: [P4WHR5I1JFKK9M060R5I]

他の研究員は全員退去しました。私は空泡CR-KHのポータル制御技術を信用しています。きっと無事でしょう。

振り返ってみると、私もたいへん愚かでした。この空泡なら、失敗必至な第9対称性の研究を救えると思い込んでいたのです。あるいは、天の導きというべきか、私も稀金に突き動かされた1人なのかもしれません。CR-KVが私を呼んだのは、自分の研究のためではなかったのではないでしょうか。今となっては理解しています。私のような、放射線被害を気にしない者こそ、最もこの地に相応しい存在なのだと。

彼らが残していった、稀金と徴標ベクトルに関する文献を、私はすべて読み尽くしました。自身もしばらくの間、模索を続けていました。稀金が与えるあの感覚……放射線の感覚は、示唆に富んでいました。……私は手のひらに、細く絞ったβ線を照射してみました。すると、感じたのです。稀金が呼応している、空泡全体がわずかに揺らめき、漠然とした力が私を引き寄せる……すべては宿命でした。放射線の洗礼に馴染んだ私の身体こそ、この空泡において、有効な徴標ベクトルに一番近い存在だったのです。

今、私はハドロンコライダーの中にいます。これを起動し、自分の徴標ベクトルを放送するつもりです。ここで死を待つと、かつて私は言いました。意地ではありません、自分の未来をよく分かっていた、それ故の宣言なのです。

あなた方はもう、この空泡には来ないでください。ここは、私のために用意された場所。この場所にこそ、私は還るべきなのです。

第一のノードという称号は一見、聞こえが良いものの、純粋な通信用途を除き、ノード1の公開鍵を用いた意味流伝達は禁じられている。観光や中継拠点としての利用など、もってのほかである。理由は明快で、空泡全体の放射線量が1200mSVに達しているからだ。最新の防護用具を備えても、スタッフはCR-KVに2時間を超えて留まることはできない。ただし……あなたが何らかの機会を得て、CR-KVに入るメンバーになったら。そこには、決して忘れがたい光景が広がっているだろう。空泡は今、深い青色の光に包まれている。チェレンコフ放射の如き、青い輝きだ。光芒の中央にあるものこそ、研究所内で光を放つ、ハドロンコライダーなのだ。

ノード1の管理者、夏嵐女史はきっと、あの加速器の中にいるだろう。だが、彼女と交信できる機会は少ない。彼女が今、どのような状態にあるのかすら、把握できないほどだ。それでも、ノード1は機能を続けている。今日に至るまで、夏嵐女史は自身の徴標ベクトルを流し続けているのだ。

彼女はずっと、そこにいる。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

死人に酒造りなんて出来ねぇだと?そんなら、死人を生き返らせるまでよ!

ようやくハッキリしたぜ。俺は夢ん中、例のフクロウと向き合った。現実の決まりなんて忘れろ。ここは夢の世界だ。フクロウの千の眼を証人として、我はこの南山の頂、我が夢界において、万事オーケーを宣言する!

永遠とは何か?俺たちゃずっと、変わらないことが永遠だと思ってきた。不変すなわち死だ。今、世界は虚物質でバラバラになり、生気の無い泥沼と化した。この壁を破らなけりゃあ、発展も進歩もありえない。不変が長きにわたれば、そのまま死へと直結する。しかし、どうして変わらないことが永遠なのか。どうして永遠こそ死なのか。朽ちた塔楼の積み上がる南山が、どうして永遠の具現なのか。夢にまで虚物質が立ち込むせいで、俺たちゃ保守的に……型にハマり過ぎちゃあいないか?黄酒ホワンチュウは料理の味付けに、赤ワインはクッキーとセットで?そんな考え方を、俺は断固拒否させてもらう!

偽りの永遠よ、とっとと失せな!言ってやるよ、真の永遠とは変化、底知れぬ変化にあると!酒の配合だって、分子レベルで正確なわけがない。1瓶1瓶、味がまったく同じなわけもない……試すごとに、探すごとに、味には違いが出るはずだ。俺らが酒を飲むのは、世界の多様さをへべれけになって感じるためじゃねぇのか?それこそが宇宙の真理だと、俺は言ってやりたいね。変化の渦は、宇宙の隅々にまで広がってるが、虚物質はそれを隠しちまいたいのさ。俺らに諦めろと、断ち切れと、そう迫ってるんだ。ぶっ壊れた時空で永遠の死を待てだなんて、バカ言いやがっれってんだ!

いや、現実が本当にそうかは知らんよ。でもここはなあ、夢なんだよ!俺の言ってることが絶対なのだ!戯れ言と笑われようが、でまかせと言われようが、俺は言いたい。声を大にして言いたい。虚物質の魔の手にあろうとも、俺は変化を追い求めると。変化の渦に飛び込んで、魑魅魍魎と酔っ払ってやるぜ。ゾンビの群れの間で、正気を保ってるよりはずっとマシだ。虚物質の夢ん中、死んだ南山に横たわる、この鹿……こいつがたとえ、白馬を夢見る鹿だとしても、俺は指を指し、言ってやろう。

「こいつは鹿じゃねぇ、馬だ!」

その瞬間、地鳴りみてぇな音が響き渡った。空の黒色がどんどん消え、眩し過ぎるくらいの日差しが、足下のどす黒い山を照らし出した。目の前には、鹿を夢見る白馬が、背を丸っこくして寝そべってる。三つ目のフクロウは遠くで、静かに俺を見ていた。そんで、翼を羽ばたかせると、やつはそのまま飛び立っていった。

目が覚める。俺は酒蔵の真ん中に突っ立っていた。手には稀金のグラスが1杯、澄んだ液体で満たされていた。俺は顔を上げ、一気にそれを飲み干した。

空泡1K-ZZの者どもよ。ついに中山酲の完成だ!

そんじゃあまた、千日後な!

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

放送局の隣に工房を構えた。それから1ヶ月の間、俺は放送局のアンテナを稀金で強化した。財団のアイデアだ。放送を数ヶ月止めても構わない、好きにやってくれと言われた。できうる限り、自分の個性を詰め込めとも言われたが、今までそんな注文を受けることは滅多になかった。なんとも変な話だ。財団が言うには、俺の鍛えた稀金には特別な効果があるとのこと。今、アンテナは完成し、テスト運用も済んでいる。曰く……確かに効果があるらしい。あいつらの言う効果が具体的にどういうものなのか、ハッキリとは分かっちゃいない。ただの職人に過ぎんもんでな。けれども、あいつらの役に立てたってのは、正直嬉しく思っている。

稀金は足りるようになったものの、今でも俺は、空泡の端まで行き、虚物質の中に手を入れている。稀金の粒の触感を楽しむのが、俺の日課になっている。俺にとっちゃ、なんというか……稀金との調和を保つ、儀式みたいなものなんだ。欠かすことはできないよ。

そういえば昨日、ある青年に出会った。子どもではないが、顔にはまだ幼さが残っていた。俺が誰だか知ってるようだったが、俺が実際何をしているのか、興味深げな様子だった。だから俺は、小さい稀金の欠片を、青年の左手に置いてやった。青年が右手で稀金をつまむと、それはパン生地のように柔らかくなった。それから、彼は2本の指で弄くり回した。稀金は球になり、立方体になり、それから……粗削りの歯車になった。

そろそろ俺も、弟子を取らんといかんな。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 巴宏瑾
徴標ベクトル: [KOZZ99O45ISKXDR02EQ9]

えっと、俺、弟子に取られたらしいっす。しかし、不思議だよなあ……稀金にこんな使い方があったなんて。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

研究員さんから稀金をいただき、感じ取るよう言われました。最初は意味が分からなかったのですが、だんだんと感じるようになりました……。稀金の中にある、旋律、そして歌を。私はその旋律を、直感だけを頼りに歌ってみました。音を外すこともありましたが、正しく歌えた時、稀金が手の中で振動し、その振動が、空泡を取り囲む虚物質にまで広がっていきました……。実際にそんなことがあったわけではありません。私の主観的に抱いた感覚です。

遠い空泡からの便りを聞きました。虚物質の障壁が緩み始め、皆さん、手掛かりを見出しつつあるようです。私も例外ではありません。自分の歌声が、とても強力なものであることが分かりましたから。

稀金の旋律をベースに、曲を創ろうと取り掛かっています。……繋がりと、希望を歌った曲を。準備ができましたら、放送局で披露するつもりです。皆さんに聞いていただきたいと思います。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

エベレスト山。旧世界での最高峰が、我々の空泡にはそびえています。この独特な高地環境のおかげか、こちらでは大量の稀金を採取することができます。これまでの稀金と虚物質の研究を踏まえ、我がチームは稀金による大規模な意味流信号塔を、エベレストに設ける案を出しました。この規模の構造であれば、意味流を指数関数的に増幅できるはずです。そのうえ、他所で流された有効な徴標ベクトルを、こちらのタワーでより広範囲に拡散できる可能性も秘めております。

計画は元々、順調に推移していましたが、空泡IL-G2より来訪した余諾達氏からの情報を受け、作業を加速いたしました。最初の試験にて、我々は待ち侘びた意味流信号をキャッチしました。他空泡からの有効な徴標ベクトルが、3つも見つかったのです。たいへん衝撃でした。虚物質の妨害もあるので、こちらの研究成果が皆様にどれだけ伝わっていたかは未知数でした。微弱な信号ながら、先の知らせを受け取れたことに、我々は一同感激しております。

有効な徴標ベクトルを放送する空泡と、その放送主を、我々は今後「ノード」と呼んでも良いかもしれません。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]

時間はかかったが、諾達の身に何が起こったか、ようやくハッキリした。

人間には諾達のような、特殊な者が存在する。徴標ベクトルが変動し続ける者が。だが、その変動はまるっきり不規則というわけでもない。他の人間が、自己変容によって徴標ベクトルの一部を変えられるのと同様、諾達たちも自己変容を通じて、ベクトルの変動を特定のモデル──ループする数値パターンに固定できるのだ。それさえできれば、彼らは虚物質を自由に行き来でき、散漫に遭うこともなくなる。絶えず変わるベクトルは、虚物質にリアルテイムで対抗する、護符ような役割を果たすのだ。

残念ながら、彼らの徴標ベクトルは絶えず変動するがため、空泡QM-LMが言及したように、自分のベクトルを放送するには適さない。この法則は彼ら独自のものであり、他人には効き目がないのだ。それでも、大きな価値を持つことは間違いない。諾達は膨大な研究資料を他の空泡へ運べるし、そのような特異体質は諾達1人じゃないはずだ。今、諾達と一緒に新たなプロジェクトを準備している。今後、彼のような特殊人材をもっと確保できるかもしれない。ぜひとも勢力を広げたいところだ。

他の人間による、有効な徴標ベクトルの探し方と同様、諾達のような者にとっても、ベクトルのパターンを固定させるには、それぞれで独自の変容が必要となるだろう。諾達はそのために、心臓を抜き出したのである……全員が全員、そこまでやる必要はないとは思うが……。

続いては別の話になる。

空泡間の研究資料を同期して以来、俺たちIL-G2の稀金研究も進展した。どうやら……この空泡で有効な徴標ベクトルに辿り着けそうなのは、俺みたいだ。稀金が導く先は……なんちゅう運命の皮肉というべきか。稀金は諾達と同じように、心臓を抜き出すよう言ってきている。

諾達が当時使ったナイフは今、俺の目の前にある。あいつは別に、用心して持ち歩くクチじゃないからな……今の諾達はもう、そんなことは考えもしないだろう。変な話だが……自分が部分部分で、諾達に似ているところがあると分かって、ちょっと嬉しかったりする。これが後世──知る人がいればの話だが──殉情譚やら、悲劇やらに解釈されることを望んではいない。なんとも恥ずかしい、赤面する限りだ。これは実際、意義のあることなんだ。俺も諾達も、そうするためにSCP財団へ入ったんだ。世界に光をもたらすのが、俺たちの使命さ。諾達が俺の何でも無かろうと、俺はきっと、迷うこと無くこの道を選んだことだろう。

でも確かに、俺はあいつを愛している。諾達、お前を愛してるよ。

各空泡に平穏あれ。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

てんで思いもしなかった。SCP財団の研究員が、まさか呑みに来るとはなあ?珍客にもほどがあるぜ。それに何やら、俺に相談事があるそうだ……。一介の酒造に、なんの相談があるってんだ?ミョ~なことは次から次へとやってくるもんだ。

研究員たちは俺に問うた。酒を1本、持っていたとする。その酒には、荒んだ世を癒す効能がある。あなたはそれを海に流し、天下の人々に振る舞いたいか、と14

一口酒を飲み、まず言ったのは、元ネタの詩はそんな意味じゃねぇってことだった。

あいつらときたら、変な本ばっか読みやがって。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 研究員 賈興生
徴標ベクトル: [QX035WAX0NODDOEV3Y1T]

これだけ酒を飲んだのは、人生で初めてでした……。でも目が覚めた時、気分は逆にスッキリしていました。これが伝説の中山酲なんでしょうか?とはいえ、飲みに行かれるのはあまりオススメしません。研究者の飲酒なんて、全然良いこと無いですからね。

何より大事な収穫は、彼が承諾してくれたということです。

空泡番号: DA-QX
投稿者: 空泡民 ナジ・コヴァチ
徴標ベクトル: [G9LQOVH5CXRT4FGSZ5Z2]

ねぇみんな、DV-S8の歌は聴いた?

違う違う、放送じゃない。直接聴こえるのよ。欠けてるとこも一切ない。

あの歌……あの歌は……言い表せないくらい、すっごく綺麗だった!

空泡番号: CR-KV
投稿者: 上級研究員 余諾達
徴標ベクトル: 不適用

隣接するCR-KHが用意してくれた防護服のおかげで、CR-KVに来ることができました。ありがとうございます。

ノードに関する情報を、夏嵐さんに伝えました。正確に言うと、加速器の外から、彼女に意味流を送りました。

夏嵐さんが受け取れたかどうか、その場では分かりませんでした。加速器の轟音には、特に変化はみられなかったので。でもその後、ノードが機能していることが分かりました。本当に良かった。これで、ぼく以外の誰かも意味流を持っていけるようになります。

空泡番号: IL-KT
投稿者: 放送員 朱文楽
徴標ベクトル: [DJG68182DIT0ZU9FVL31]

空泡住民の皆様へ、SCP財団東土司令部よりお知らせです。精力的なご支援に感謝申し上げますが、現時点では、ノード伝送ポータルのテスターを募集しておりません。ノード状態が不安定なリスクがあるため、第1陣のテスターは主に財団職員が請け負います。ノードについての更新情報は順次お知らせいたしますので、ご理解とご協力をお願い申し上げます。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

意味流信号塔の第2次試験にて、新たに2つの有効な徴標ベクトルを受信しました。我々の示した「ノード」の概念が現在、いくつかの空泡で具現化しつつあります。今回はその進捗について、以下に纏めたいと思います。

ノード1 - コードネーム「光輝-GLOW」、空泡CR-KVに所在、夏嵐氏が担当。高エネルギーの異常粒子放射線を受け入れ、徴標ベクトル到達。

ノード2 - コードネーム「棘-SPIKE」、空泡H5-BMに所在、孔珹器氏が担当。腕に稀金を刺すことで、有効徴標ベクトルに到達。

ノード3 - コードネーム「歌唱-ANTHEM」、空泡DV-S8に所在、舒咏墨氏が担当。稀金と共鳴する歌を歌い、有効徴標ベクトルに到達。

ノード4 - コードネーム「酒精-ETHANOL」、空泡1K-ZZに所在、賀三酢氏が担当。夢で得たレシピを元に、稀金の酒を造り、有効徴標ベクトルに到達。

ノード5 - コードネーム「無心-HEARTLESS」、空泡IL-G2に所在、史恒鑫氏が担当。自分の心臓を摘出することで、有効徴標ベクトルに到達。

興奮冷めやらぬ中、こちらの研究チームでは早くも、「ノードマトリクス」なる構想が飛び出しました。ノード数が一定以上に達し、相互に狙いを定めれば、網状の構造を形成することが可能となります。その中を流れる意味流は、近隣ノードの徴標ベクトルを随時取得できるため、散漫のリスクがずっと低くなります。くわえて、エベレストの意味流信号塔が完成すれば、あらゆるノードの徴標ベクトルを受信し、東土全域へ放送できます。意味流とノードの共鳴を、最大限にまで高めることが可能となるでしょう。

「ノードマトリクス」が実現すれば、虚物質で分かたれたこの暗闇の中で、繋がりを再び築き上げることができるのです。

もちろん、現実にはとても多くの問題が待ち構えています。信号塔はまだ未完成で、現在5つあるノードは独立した状態に置かれています。有効な徴標ベクトルには指向性があるため、マトリクスの実現には慎重な位置調整が必要となります。それに何よりもまず、ノードの数が足りません。5つでは到底、東土全域をカバーできないのですから。ノードを跨いだ誤差修正もしなければなりません。これが1つのネットワークだとして、ノード間で誤差データを送り合い、各ノードの担当者が自身の徴標ベクトルに合わせ、微調整を加えてもらわないといけないのです。つまるところ、東土全域のノードネットワークにおいて、バックプロパゲーション誤差逆伝播法15を行う必要があるのです。

しかしながら、現在はノード数が稀少で、空泡間の交流も困難な状況が続いています……。依然困難な状況です。

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]

私は今日、喪心使同盟の成立を宣言する。

"喪心"という呼び名は、同盟の創立者の一人であり、最初の信使でもある余諾達氏に由来している。彼は稀金を使って自分の心臓を取り出し、絶えず変化する徴標ベクトルを特定の転換パターンに固定させることで、虚物質の中を自由に歩く能力を獲得した。6標準月をかけて調べて回った末に、同盟は現在、この異常能力を有する信使を12名も擁するに至った。彼らは各空泡と協力し、自身の肉体をもって、到達できるすべての空泡に意味流を届けることだろう。

喪心使というのは、そう手軽にスカウトできるものではない。徴標ベクトルの変動する人物が全員、喪心使に適しているわけではないのだ。信使候補は皆、自身の一部を失う必要があることを我々は解き明かした。そうすることで初めて、虚物質の中を歩く力が得られるのである。最初の喪心使・余諾達はそのために、自分の心臓を抜き出した。全員が全員、そこまで自分を投げ打つ必要はないものの、"犠牲"とは依然として、喪心使になるためには必須の条件である。これは逆に、喪心使になる者は皆、意志が堅いということでもある。我々は誓う。我々は虚物質の壁を破り、意味流を伝え、この壊れた世の中で、再び絆を築くために献身する。今日この日、喪心使同盟は出航した。

いつの日か、ノードマトリクスの完成が成し遂げられんことを。

空泡番号: IL-03
投稿者: 喪心使 廖鴻
徴標ベクトル: 不適用

左目を犠牲にして、喪心使になった。率直に言って……あんまり気にしちゃあいない。北欧神話でオーディンは、片目と引き換えに知恵の泉を飲んでただろう?僕は別に、無限の知恵が欲しいわけじゃないけど、虚物質の中を気ままに歩けるってのは、なかなかにクールだと思ったんだ。

他の空泡を訪ねるのがとても楽しみだ。僕みたいな、1つの空泡で育ってきた若者にとっちゃ、他の空泡での驚くような物語は、想像の中でしか触れられなかったんだ。でも今の僕らなら、実際に訪れて、この目で確かめることができる。

もう待ちきれないよ!

空泡番号: DV-R8
投稿者: 涙の歌い手 呂涵山
徴標ベクトル: [DGDZACKM0ZOJ0WGJP6BU]

悲しいけど、虚物質病の人は皆が皆、涙の歌い手になれるわけじゃないの。上手く大人になれない人だっているわ。よく泣くこと以外、何のハンディキャップもなく育つとは限らない。虚物質は頭だけじゃなく、他の所にも現れることがある。一生障害と闘い、定められた運命に思い悩まねばならない人もいるでしょう。

それでも言いたいのは、涙の歌い手になることだけが、空泡への貢献ではないってこと。私のようにならなくたって構わない。いずれにしたって、私はあなたを称賛するわ。ただ単に、天が私たちに、違う道を与えたってだけ。それぞれが自分の行き先を見いだせると、私は信じてるわ。無名でも良い。涙の歌い手でなくとも、放送員や研究員でなくとも……。自分らしく生きて、自分らしい字を書いて、自分だけの詩を作れば良い。それがつまり、輝かしい人生なんだから。

虚物質病であれ、普通の人であれ、誰であれ……自分の人生を全うしようとする、すべての人のために歌いたい。

教えて!あなたの人生や夢を、自分の言葉を、詩を聞かせて!私が全部歌にして、みんなの物語を歌っていくから!

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

空泡DV-S8の皆さんへ。1標準年の準備をかけた末、ここに「涙歌楽団」の結成を宣言します!

DV-S8を本拠地に、8人の涙の歌い手が現在、活動しています。私たちはみな、虚物質病として生まれ、命の危機に直面しました。しかし、私たちは生き延びました。そして、世界の鮮やかさと美しさに心を揺さぶられながら、ここまで育ってきました。頭の中の虚物質によって、私たちは生まれつき感受性が強く、涙もろくなっています。虚物質は一方で、真摯で繊細な感情表現の才能も与えてくれました。私たちが得意とする歌には、歌詞がありません。歌声そのもので、感情と意味を織り成し、リスナーの心に訴えかけるのです。それこそが私たち、「涙の歌い手」なのです!

涙の歌い手のスカウトは、難しいものがあります。虚物質病を乗り越えるには、今も医療関係者と新生児、双方の尽力が必要ですし、ミーマチック・ソングの技術を自分の物にするには、先天的な才能と、後天的な努力の両方が欠かせません。これはつまり、歌い手になった人はみんな、強い意志を持っていることを意味しています。希望を、期待を、想像を、意志を……聴きたいと願う空泡に、歌声で届けていく! 虚物質に覆われた闇の中で、私たちは暁を見出しています。希望と期待こそが、私たちの進む原動力となるのです。

もちろん、ご要望があれば、私たちは新時代の吟遊詩人として、あなたの言葉を歌に乗せ、運ぶこともできます。ミーマチック・ソングへの落とし込みは必ずしも、想定通りのものになるとは限りませんが……知るもんですか!落ち着き払った言葉の奥にも、熱い思いが隠されているかも知れない。私たちはそれを引っ張り出します!

今日ここに、涙歌楽団は誕生しました。DV-S8の皆さん、私の歌を聴いてください――

[歌詞のないソプラノの歌声。異常なミーム性質を有する。聴衆は皆、夕立の後の広大な原野に立っているような感覚に陥る。新鮮甘美な青草の香り。草原には無数の水晶玉が散りばめられている。水晶玉は瞬きを繰り返しながら、周囲の玉と呼応しているようにも、一体となり、共鳴する模様を描いているようにも見える。草原に佇んだまま、空を見上げる感覚。金色の流星が虚物質を貫き、輝く軌跡を残していくのが見える。]

皆さん、ありがとうございました。いつの日か、ノードマトリクスが完成しますように。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

えー、弟子のきんの頼みで、俺も一言述べることになった。この手のモンは苦手なんだが……ボウズの立ち上げた組織……蝕金工商ギルドには、正直なとこ、かなりワクワクしている。第一の蝕金職人って呼び名も、まあ悪くない響きだ。

稀金は奇妙、たいへん奇妙な金属だ。触れる人によって違う変化を見せる。中でも、稀金と蝕金職人の繋がりは、他とは比べ物にならんほど格別だ。俺たちにとって、こいつは完璧な金属、完璧な素材なんだ。どんなにトンチキな発想や、手の込んだデザイン、極めきった技術も、稀金は形にしてくれる。そして今、新たな時代に突入した。稀金は、虚物質を突き破るために必須のアイテムとなった。それじゃあ、誰が稀金をカスタムするに相応しいか?俺たちギルドが一番だろうよ。

蝕金職人の育成は難しい。空泡のみんなに稀金を触ってもらう以外、弟子を見出す方法が思いつかんのだ。瑾に出会えたのは、運命の成り行きだったのかもしれん。だがな、俺たちは決して、独りよがりな団体になるべきじゃない。新たな手法を編み出したは良いが、意味流の伝播は未だ困難が多い。それでも、これまでに比べりゃあずいぶん進んだもんだ。職人たちよ、業前を共有しに行こうじゃないか。他の空泡の中に、次世代の蝕金職人が埋もれているかもしれん。彼らに自分の可能性を、気づかせてあげようじゃないか。

ノードマトリクスが完成されんことを。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 巴宏瑾
徴標ベクトル: [KOZZ99O45ISKXDR02EQ9]

初めはどやされるんじゃないかと、少し心配だったんです……。孔師匠がギルドをどう思うか、分からなかったもんで。師匠の教えの下、大体の仕事は一人でやれるようになったけど、師匠みたいに、素手で虚物質から稀金を取り出すマネはできません。昔に比べ、稀金の入手手段はだいぶ効率よくなってますが、やっぱりコストはかかります。僕らは職人であると同時に、商人でもあるんです。しかし……分からなかった。孔師匠はとても純朴な人です。すべての人にタダで稀金を鍛えてくれるような、そういうタイプだと思っていました。代金を取るやり方を、師匠がどう捉えるか、予想も付きませんでした。

けれど、師匠は文句を言うどころか、こう言ってきたんです。「才能の安売りだけはするなよ。才能が不機嫌になって、お前の元を去っちまうぞ」と。

ただ、もしあなたが空泡H5-BMに行き、師匠の工房を訪ねることがあれば……本当にタダで、師匠は依頼を受けてくれますよ。

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

シャンは聞きました。他の空泡だと、稀金が人気になってるそうです。でも、稀金って何だろう?虚物質から出てくる、あのピカピカがそれなら、どうして人気になるのか、シャンにはよく分かりません。ピカピカなんて、ここではぜんぜん使えないもの。ピカピカは花の赤みを増やしたり、おやつの甘みを増やしたりもできない。そんなの、シャンにできちゃうのにね。

どうして大人は、こんな固いものに夢中なんだろう。シャンはこれが嫌いです。シャンはふわふわな草が好き。ふわふわな木も好き。ここの草木は、とってもお利口さんです。友だちといっしょに、茶色いヒモでグルグルすると、草木は行きたいところまで、シャンたちを連れてってくれます。シャンはみんなと、アメを食べたり、眠ったり、坂を転がったり、空泡の空にある、ふわふわな雲を眺めたりします。

シャンはそういうことが好き。シャンは稀金が嫌いです。

空泡番号: 4H-12
投稿者: 喪心使 郝鋭志
徴標ベクトル: 不適用

あの、一応、注意喚起しときます。空泡N0-FSへの渡航を考えてる人は、よーく検討し直すことをオススメします。別に、命に関わるってわけでもないんですがね?皆が皆、現実改変能力を持つ子ども達と、うまいこと遊べるとは限りませんからねぇ。

近所の空泡の方が言うには、すでに3人もの喪心使が、泣きじゃくりながらN0-FSより戻ってきたそうですよ。皆さん、プロ意識を持とう!

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

緊急放送!こちらは初級研究員の単一臾です。伝送ポータルで空泡RW-5Wに向かう途中、突発性の虚物質サージに見舞われました。今、私は空泡RW-55に取り残されています。随伴のAICは散漫で壊れ、基本的な記録と放送機能しか生きていません。これを受け取った空泡の方には、できるだけ速やかなサポートをお願いしたいです。どうかよろしくお願いします。

さしあたり、当空泡の環境を報告いたします。RW-55はごく小さな空泡で、荒涼とした砂漠から成っています。中央には──ちょっと待って、どうして書き込みが?出発時、初期化したはずなのに……どうしてこんな、たくさん……どうして……?

空泡番号: C0-BK
投稿者: LAN admin 臧翂
徴標ベクトル: [HBAE8A0X415OQSCHIFC1]

あなた方の構想を読んだわ。SCP財団の研究員ってのはいつも、コトを複雑にするのがお好きなようね。長々と説明してるけど、要はこれ、非対称暗号の話じゃないの。

こんなもの、ローカルエリアネットワークLANの人間には当たり前の知識よ。虚物質とはつまり、ガムみたいに引っ付いて離れない、アタッカーのようなもの。アレは通過する、すべての意味流を攻撃するの。そちらの言う徴標ベクトルとはつまり、公開鍵と秘密鍵に他ならない。変動するのが公開鍵で、しないのが秘密鍵ね。適切な公開鍵を見つけ出し、自身の意味流を暗号化すれば、虚物質はあなたを解読できなくなり、散漫に遭うことがなくなる。それから、秘密鍵が意味流を復号化することで、あなたは対応するノードにのみ、辿り着けるようになる。最初からそう言えば良かったのに。「ノード公開鍵」って用語を使ってるくらいですし、そちらもとっくに気付いていたはずよ。それなのに、どうしてここまでこじらせたのかしら?

新たなノード候補を捜索する、そうした取り組みについては評価できるわ。けれどね、こっちは今、忙しくて手が回らないの。さっきも言ったけど、虚物質はねちっこいアタッカーと一緒。こっちのファイアウォールは毎日、何度も破られてしまっている。2時間前にも攻防があったばかりなの。アチラは狂ったようにDDoSを撃ってきて、こっちのキーボーダーは危うく、メモリーが焼ききれそうになったわ。2人もいたのによ?LANは今ズタボロで、とにもかくにも、まずはここのクラスタを護らねばなりませんの。

どう、送れた?550Z、見張りをお願いね。次のウェーブまでに休んでおかないと、身体が熱暴走しかねないわ ↲

空泡番号: 4I-HD
投稿者: 上級研究員 チェ・ゲサン
徴標ベクトル: [ACXRF7Z0BT1WVFBCNABO]

ここに来る前、伝送ポータルを取り違えて、番号のない空泡に飛ばされてしまったんだ。そこは小さな島で、空泡全体が1つの島になっていた。島には老人が独り住んでいた。水を1杯くれたんだけど、これほど美味い水は人生で飲んだことがない。何というか……あの水そのものが、1つの世界って感じだった。蜜、酒、海、泉、光……ありとあらゆる美しき物が、水の中で混じり合ってたんだ。

けれど間もなく、次の転送ポータルが見つかった。……任務があるから、そこを後にしたんだ。……ノードマトリクスが完成したら、あの空泡にまた行けるだろうか?正直、もう二度と巡り会えない気がする……。毎年、虚物質の中で、いったいどれだけの微小空泡が生まれ、散漫していくんだろうか。いったいどれだけの美が、誰にも見られることなく、繋がりを断たれてしまうんだろうか。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

ノードが放送する有効な徴標ベクトルに関して、当研究所は以降、「ノード公開鍵」と呼ぶことにしました。元々、暫定的に使ってたものしたが……確かに、ピッタリな言葉だと思います。

この言葉を広めていきましょう、同志の皆さん。物事を正しく呼んで初めて、そこへ至る道も正しいものとなるのです。

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

緊急放送……こちらは初級研究員、単一臾で……ああやだ! やっと分かったわ!

私へ連絡。これは時間ループ、あるいは反ミーム……あるいは、その両方だわ。もう長いこと、ここにいるはずよ。この空泡、もしくは、目の前に浮かぶ金属が、一定時間ごとに、私の記憶をさっぱり消してるんだわ!けど、記録は残せるみたい……AICにある、大量のメモを読まなくちゃ。全部、私が書いたものだけど、さしあたり、整理した放送ログの目次から、「稀金」と「徴標ベクトル」の項目を重点的に読み──ああ、もう!こっちもメチャクチャじゃないの!とにかく、早く読まなければ。できる限り整理して、次の私の理解が、もっと早まるようにしておかないとね。

次回の記憶消去はいつなの?こんな訓練、受けたことないんですけど!

空泡番号: TM-A4
投稿者: 航宙士 イーゴリ・カーメネフ
徴標ベクトル: [GCOCRH0LL155M9G9V0JJ]

AICと協力し、受け取ったすべての意味流[極度散漫]を整理した。つまるところ、こちらは2、3日しか経っていないのに対し、地球の空泡では、20標準年余りの時間が[極度散漫]。大変面目ない、これは私の落ち度だ。ここ最近、私は[極度散漫]の取りまとめと、虚物質のモニタリングにつきっきりだった。ゆえに、自身の4次元座標を確め損ねてしまった。現在のデータは、私の[極度散漫]における標準時間軸が、おおよそ72[極度散漫]も偏差していることを示している。どうにか修正できたものの、空泡が我が艦に負荷をもたらしているようで、今もなお、[極度散漫]の時間軸偏差が残っている。対策として、AICの意味流処理頻度を引き上げた。そちらとの通信がさらに遅れてしまうことを、どうか了承して頂きたい。

私の見つけた[極度散漫]すべての伝送ポータルが瞬時に消え、自分と航宙艦の意味流を地球に戻せない理由も、それで説明が付く。それでも私は、諦めないつもりだ。[極度散漫]航宙船の外殻に、未知の金属が付着していた。それは奇妙で、独特な性質を持っているように見える。外観は金に似てるが、所々で違いが見られる。安全に触れることができたので、[極度散漫]してみたところ、AICは私の標準時間軸の角度に浮動が生じたことを示した。[極度散漫]これを活用できないかどうか、目下検討に取り掛かっている。

本メッセージが[極度散漫]地球の空泡に届くころには、そちらの時はまた、何標準年か過ぎていることだろう。[極度散漫]財団の研究スピードがあれば、きっとこの異常金属について、ある程度の理解が進んでいることと存じ上げる。研究成果を共有させてもらえると、たいへん有り難く思う。

航宙士イーゴリ・カーメネフより、SCP財団東土司令部に敬礼を。

具体的な原因は不明ながら、虚物質が空泡間の物理法則に差異をもたらしていることは、ニューノーマルの初期から明確に認識されていた。今日に至っても、空泡を跨いだ交流には依然、空泡間の時間差を考慮する必要がある。しかし、どれだけ乖離した空泡であっても、イーゴリ・カーメネフ氏が所在する空泡ほど、極端な時間軸偏差は発生していない。これは恐らく、この空泡固有の物理性質によるものと考えられる。

この物理性質こそが、カーメネフ氏をノード13に押し上げた、一番の要因なのであった。

空泡番号: VL-13
投稿者: 寄稿家 アン・ジー
徴標ベクトル: [C1ORTC1CAHXMMT413UZT]

祝融山しゅくゆうざんの夜は静まり返っている。火口奥深くの熱源が、ボコボコと沸き立つ音を、誰もが労なく、聞き取ることができる。弾ける泡が1つ、2つ、3つ……騒がしくはないが、それでいてはっきりと、ホワイトノイズのように聞こえてくる。かつての巨足族はこのような音を聞きながら、代々伝わる物語を語り、それを粘土板に刻んでいたのだろうか。

旧暦三千年の史書を紐解いても、巨足族の記述はじれったくなるほど僅かだ。虚物質が到来する少し前、彼らは忽然こつぜんと姿を消し、二度と現れることはなかった。ある者が言うに、彼らは最もへんぴな洞穴に隠れたのだという。オールドノーマル旧き日常が幕を閉じる刹那、彼らは自ら虚物質に身を投げ、散漫した。その散漫した意味流で、彼らは囲いを作り、巨足族だけの国を再び立ち上げたとされる。しかし、筆者はこれに懐疑的だ。祝融山に残された彼らの粘土板について、博識な歴史学者や文化学者が眉を寄せ、研究してきたものの、おおよそ半世紀が経ってもなお、誰一人として板の文字を解読できることはなかった。

伝説では、粘土板には全ての巨足族の英知が刻まれているという。彼らの操る文字は、祝融山の砂岩を子音に、泥水を母音に、山頂を飛び交うカラスを数字に、火口の溶岩を句読点に使ったとされる。抽象的かつ詩的で、実用性に乏しいものの、明らかな示唆が1つある。粘土板を解読するには必ず、祝融山を登らねばならないということだ。

見つけた限りの伝送ポータルを渡り歩き、ついにVL-13、祝融山のある空泡に辿り着いた。人気ひとけのない、過酷な土地だ。気温は高く、空気は乾燥していて、あらゆる物に亀裂が走っている。それでも、巨足族の粘土板を解読するには、この魔境に耐え、馴染む必要がある。彼らを我が皮膚に、生き血に、魂の深淵へ融け込ませるのだ。巨足族と一体になることでようやく、彼らの英知を解き明かすことができるだろう。

祝融山で数ヶ月、そのように暮らしてみたものの、今のところ、収穫は何一つ得られていない。

寄稿者: アン・ジー
朝顔文学報宛 原稿

空泡番号: FE-NV
投稿者: 空泡住民 廖以亦
徴標ベクトル: [8JXHF6P9HKIWSH7VWD83]

倩倩せんせん……私ね、今、海溝の底まで沈んでるの。ここは深くて、真っ暗で、手を伸ばしても何も無い。重厚な闇はまるで、実体を持ってるみたい……。私、海溝まで来れば、徴標ベクトルに行き着くと思ってた。でも、違った……私はまだ、行き着けていない……。

そろそろ、浮上した方が良いのかな。でも、もう少しだけ頑張って、ここにいたい……。あと少しなのに……たぶん、私、ダメなんだと思う。倩倩、私、ダメみたい……。

空泡番号: C0-BK
投稿者: LAN admin 臧翂
徴標ベクトル: [HBAE8A0X415OQSCHIFC1]

財団のプログラマーときたら、もっと真面目に働きなさいよ!そっちがよこした稀金プラグインだけど、全然まともに動かないじゃないの。起動するなり、すぐにクラッシュしちゃったわよ?52行目、nullの徴標ベクトルを解析しちゃってるじゃない。こんなに大きなエラーデータを見落とすなんて、義眼でカラー電球でも作ってるわけ?こんな低レベルなミス、ほんっとありえない……このプラグイン、全世界3万の空泡に配布済みだなんて、まさか言わないでしょうねぇ?まったく、反吐が出そうよ。

このメッセージを見たなら、IVVQの管理官を即刻クビにしなさいな。ええ、本気よ。電気代の節約にだってなるんだから ↲

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

今日、空泡に2人の大人が来て、シャンには分からないお話をしました。永遠の青春を得るには、どうしたら良いかって、シャンに聞いてきました。でも、シャンには何か分からない。青い春って何だろう。黄色い花のおしべが、青い粘土に引っ付いたみたいな響きです。大人たちはシャンに、ここの人はどうして大きくならないのかって、また聞いてきました。2人はここに、ずっといたいそうです。ですが、この2人はただの、うるさいぼんくらです。シャンは石ころにお願いして、2人を泉に連れて行かせました。なのに、酒の混ぜものよりマズイって、2人は言ったんです。チョウチョにお願いして、キャンディーの所に連れて行かせました。なのに、たくさん食べたら虫歯になるだろって、2人は怒るんです。どうしてそんな心配するんだろう。シャンも、シャンの友だちも、しょっちゅう虫歯になってます。でも、虫歯を引っこ抜けば、すぐに新しい歯が生えてきますよね?

大人たちは毎日、お互いの顔を眺めれば、それで満足するみたいです。友だちが今晩、オーロラのショーをやるから、シャンは2人を連れて行こうと思いました。けど、2人はベッドでぐっすりしたかったみたいで、怒ってシャンを追い出しちゃいました。シャンにはやっぱり、大人がよく分かりません!

空泡番号: AQ-9S
投稿者: 上級研究員 高淼
徴標ベクトル: [66Z8UQZ8OY3H94RJS1FR]

相当長い間、僕たちは探究しようなんて思いもしなかった。空泡AQ-9S上空を覆う透明な液体が、いったい何なのかを。僕たちは何かと忙しかった。周囲の虚物質を監視し、伝送ポータルを探したり、散漫した意味流から、断片的な情報を見つけ、他空泡の出来事を解読したり。あるいは、空泡っていうのは奇々怪々で、何があっても不思議じゃないと、慣れきっていたせいかもしれない。はたまた、あの澄み切って煌めく波立ちが、虚物質サージとあまりにも似ていて、冒険しようとは思えなかったのかもしれない。

あるいは、単純に、取り留めのない日々に疲れたのかもしれない。僕たちの多くが、研究への熱意を失い、普通の生活へと戻っていった。異常のない暮らしを求め、家族の元へ帰っていった。

けれど、状況が変わった。稀金、徴標ベクトル、ノード……新たな希望が、好奇心を刺激したんだ。たちまち僕らは、液体の性質を解明するに至った。あれはある種の、パーフルオロ化合物16だ。純粋で清潔、無尽蔵にあるとみられる。ラボの国 子濯こく したく初級研究員は、進んで実験を買って出た。彼は腰にロープを巻き付け、奇跡論で反重力魔法陣を描くと、空中に打ち上がり、液体の中へ突っ込んだ。彼はヘルメットを外し、胸を上下に起伏させることで、液体の性質を証明した。

娘と散歩をしている時、あの子はいつも言っていた。「パパ、見て!空の水、とっても綺麗だね!」今、僕はこう返すことができる。「ジュジュ、それは水よりもすっごい液体なんだ。中で呼吸できるんだよ。」

空泡番号: X0-BA
投稿者: 大隊長 ゲゲン・トゥヤ
徴標ベクトル: [1Y7UEE1VU3EMSUHM22E4]

喪心使が我が空泡に来なければ、ノードについての消息を得る機会はなかったやもしれん。だがそれは、我らの考えをより強固なものにさせた。あの10個の太陽……10本の光線で、我らの道を妨げるあの太陽を、このまま好きにさせてはならぬのだ。

そこで我らは、一つの隊を組織した。隊員は10名で、男女半々、全員が弓の名手である。士気を上げるため、稀金で造った徽章を身につけている。夜明け前、太陽の光が最も弱まる時間に、西の森に立ち入った。 光の痕跡に沿って進むと、すぐに小さな池の上に浮かぶ太陽を発見した。輝きは弱まっていたものの、見るだけで長いこと、目に焼き付くほどだった。我はためらうことなく、己が矢を放った。

太陽は爆発し、目も眩む光が四方に溢れ出した。バーヤルは目を瞑るのに遅れ、ほとんど失明してしまった。今もなお、完全には回復していない。仲間の助けを借りて、我とナレンは岩や木々に身を隠しながら、散り散りになって逃げる太陽を岩場に追い詰めた。暗がりから、ナレンが一矢を放ち、球の中心に命中する。太陽はにわかに収縮し、跡形もなく消え失せた。

口惜しや、此度の勝利は完全ではなく、長続きしなかった。野営地に帰還して2時間もしないうちに、見張り台の仲間から、新たな光柱が森に現れたとの報告が上がってきたのだ。

あの太陽は、蘇るのだ。

空泡番号: Q4-9W
投稿者: LAN admin 蒼邇雲
徴標ベクトル: [XFHY1PN5095B3URS7PTB]

空泡C0-BKからのメッセージを受信しました。喪心使がこの情報を、C0-BKのadminに届けてくれることを期待します。

こちらの空泡LANも昔、虚物質によるアタックを受けたことがあります。為す術もなく、最後の手段として……ネットワークの拡張を止め、より小さなクラスタに分割し、基本的なポート44317のみで交流を続けることにしました。要するに、田園時代に逆戻りしたのです。その後、アタックの頻度は大きく減少しました。

これが屈服したように聞こえることは分かっています。それでも……これが唯一、効果のあった方法なんです。虚物質のアルゴリズムは……統合を憎んでいます。私たちが次第に強くなることを、憎んでいるのです。拡張を続ける以上、ヤツはあなた方を放っておかないでしょう。

幸運を祈ります……どうか、RAID18チェックだけは忘れずに。これがために、私たちは手痛い代償を払いましたので ↲

空泡番号: 5Z-EG
投稿者: 上級研究員 宋芳菲
徴標ベクトル: [2TRZ94MGUT2IFRCZ2L79]

こちらの空泡も、ノードとノードマトリクスについての話を聞きました。なんとも不思議なことに、弊ラボで収容中のオブジェクトも、放送された意味流を受信したようです。対象は人間の操作なしで、自発的なパフォーマンスを行う、異常な人形劇の道具です。もう長いこと活動を停止していましたが、今、それらが目覚めたのです。

簡単な劇を何度か行いましたが、空泡の子どもたちはとても楽しんでいました。ノードマトリクスが完成すれば、もっと多くの子どもたちに見せられるかと思います。

空泡番号: C0-BK
投稿者: 喪心使 司昊空
徴標ベクトル: 不適用

残念なことに、この空泡に来た訪問者は、低解像度のVRデバイスを使うしか、LANには接続できない。そのうえ、デバイスは5台中4台が壊れている有様だ。……それも当然だろう。近年じゃあ、1標準年に5人以上の異泡人が訪れることはまずない。地元民は皆、自分のポートを持ち歩いている。このような機器は必要ないのだ。……ここ最近、虚物質の状態はかなり悪化している。喪心使ですら、安全な移動ルートを計画的に考えねばならないほどだ。

しかし、それでも私は憧れる。サイバースペースは現実の空泡よりも、遥かに広大で、無限の可能性に満ちている。だが、十分に巡れないうちに、突然アラートが鳴り、疾風怒濤の勢いでスペースより追い出された。ガイド曰く、虚物質のアタックが始まったらしい。……多分だ。とんでもなく早口だったので、ハッキリとは聞き取れなかった。

私は今、この空泡を専門に受け持てるよう、申請しようと考えている。……ただ、侵襲的な手術が、私の徴標ベクトルに影響を与えるんじゃないかと、懸念もしている。どうするべきか……。

空泡番号: C0-BK
投稿者: LAN admin 臧翂
徴標ベクトル: [HBAE8A0X415OQSCHIFC1]

拒否するわ。新しいサブネットの開発に3年を掛けて、先週ようやく、最新のパッチを適用し終えたところなの。私たちの努力を、虚物質なんかに明け渡すもんですか!

提案がどれもこれも、「分離」とか「破壊」を求めてくるのはどうして?ええ、よく覚えてるわ。私たちの大半は、若いころ……壊れた導師の協力で、サイバースペースの扉を開いたの。断片化したデータの海、分散化した万物の共生は、とても目を引く概念だった。けれど、あの時代はもう、過去のバージョンになってる。今の世界は、導師のようにバラバラで、彼の道をなぞることは、原理主義とみなされている。ひとたび譲歩すれば最後、虚物質は私たちを、さらに細分化し、しまいにはネットから切り離された、USBメモリのようにされてしまうわ。そんなのは到底、受け入れられない話よ。

信じられないけど、稀金すら同じことを言ってくるの。私が触れた途端、稀金は32個に砕け散って、私の周りをフワフワ浮かぶのよ。SCP財団もこんなの、おかしな話って思わないのかしら ↲

空泡番号: AQ-9S
投稿者: 上級研究員 高淼
徴標ベクトル: [66Z8UQZ8OY3H94RJS1FR]

僕が稀金を握ると、それがどんな時であろうと、先端に滑らかな鏡面が現れ、空にあるパーフルオロ化合物の湖面が映し出される。不思議なのは、どこにいようとそれが起きることだ。密閉された部屋でも、天井しか見えない場所でも、稀金の鏡面には、空泡AQ-9Sの波立つ空が映し出されるんだ。

直感に従い、稀金を軽く放り上げてみた。信じられないことに、それはまっすぐ上へ上昇し、天空の湖面に沈んでいった。ラボメンは皆、稀金の啓示をムダにするなって言うもんだから、子濯君の例に倣い、ロープを巻き付け、魔法陣を描いて昇ってみることにした。化合物の中でヘルメットを外すのは、結構な勇気が必要だった。液体が肺に流れ込む瞬間は、少し気持ち悪かったけど、すぐにその感覚を受け付けるようになった。僕はしばらくの間、ぼやけたフィルター越しに下の世界を眺めていた。

けれど間もなく、危険な事態になった。上を見上げると、巨大な黒い球体が、逆さまの深部に構えているのが見えた。浮き上がっていた稀金は、その球体に向かい、加速度的に吸い込まれていく。すぐに僕は、それがブラックホールに酷似していることに気づいた。地上の同僚も、同じように捉えていたようだ。AIC曰く、僕は極めて微弱な赤方偏移を起こしているという。それと聞くと同時に、僕は他の空泡からの意味流が、自分の指を蛇行しながら上昇し、天空のブラックホールへ吸い込まれていくのを感じた。

あのブラックホール……あれこそが、僕らの空泡を包み込む、パーフルオロ化合物の原因なんじゃないだろうか。それにあの、他の空泡から来た意味流は……たとえ散漫を免れたとしても、ブラックホールに呑み込まれてしまっているのでは?

空泡番号: VL-13
投稿者: 寄稿家 アン・ジー
徴標ベクトル: [C1ORTC1CAHXMMT413UZT]

元々私は、稀金が自分の役に立つは思っていなかった。しかし今日、粘土板を整理していると、文字の溝に、微細な稀金が付着しているのに気付いた。枯れ草でほじくってみると、散らばった稀金はたちまち空中で燃え上がった。さながら、呪符が風で舞い散るように、稀金はまばらな火の粉となって、祝融山の火口を目指し、飛んでいくではないか。私は長らく、山の麓に留まっていた。火口は灼熱で、大分離れた場所にまで、熱風を吹き付けてくるのだ。背景の虚物質も、熱気に晒され、渦巻き状に歪んでいる。だが万策尽きた今、私は挑んでみるほかなかった。

全ての粘土板を背負い、AICを供にして、赤茶色の火山岩をよじ登る。六角柱状の岩がぎっしりと並んでいたが、急斜面に達すると、所々、階段状に石が積み上げられていることに気づいた。こうした構造が自然に形成されたものなのか、それとも、巨足族の精巧な技術によって、環境と調和するように造られたものなのか、私に疑問を抱かせる光景だった。

ようやく火口の縁に辿り着くと、あの微細な稀金の由来が明らかとなった。火口周辺の沸き立つ空気には、燃え盛る稀金の破片が漂っていた。ついこの間まで、ここで巨人が葬られていたかのようであった。巨足族は稀金を燃やして、巨人を祀っていたのではないだろうか?無論、これは私の想像にすぎない。巨足族が粘土板を書き残した当時、彼らが稀金を知っていたかは定かでないのだ。

だが、この過酷な地において、私は悟りを得た。自分に何が欠けていたか、分かったのだ。巨足族の生活を真似ても、彼らと同じように、記録を付けたり、文字を書いたりはしてこなかった。粘土板を解読するには、彼らと同じく、粘土板に文字を刻む者でなければならないのだ。しかし、この地に人里は全く見られない。私はいったい、誰の物語を刻めば良いのだろうか。

そこで、AICの受信機能をオンにし、空泡に飛び交う意味流放送を読み始めた。世界は未だなお、虚物質の猛威に晒されている。大半の意味流が、原型を留めないほど散漫していたが、断片的ながら……理解するのに十分な言葉も、そこには含まれていた。私はしゃがみこみ、巨足族のレシピ通りに、祝融山の泥で板を造った。それから、割れた黒曜石を手に取り、私は記録をし始めた。

巨足族が為したことを、私も為さねばなるまい。

寄稿者: アン・ジー
朝顔文学報宛 原稿

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

この放送を受信した方へ。初級研究員の単一臾です。キネトグリフを専門に研究しております。私は現在、空泡RW-55に閉じ込められています。反ミームまたは時間ループ、あるいは双方に起因する異常性により、自身がループの中にいると主観的に感じていますと共に、記憶を失い続けている状態にあります。目下脱出方法を探しており、そちらの支援を要請します。

以下は自分自身へのメモです。

単一臾、目覚めたらすぐに、AICログの「稀金」と「徴標ベクトル」の部分を確認して。散漫が激しい今、放送を流すには有効な徴標ベクトルが必要よ。ここにはあなたしかいないから、頼れるのは自分自身のみってこと。AICはすでに、あなたの流す意味流の散漫率を分析するよう設定してある。95% 84% 62%を下回ったら、「エリーゼのために」が流れるようになってるわ。目安として使いなさい。

事態を理解したら、時間を無駄にせず、すぐにPMK-02を振る舞うこと。動きは30分以上を推奨。時間の流れを5~6時間は遅らせることができる。時間を稼ぐのよ。

あなたの唯一の希望は、キネトグリフよ。空泡中央にある稀金をいじくり倒して、共鳴するキネトグリフを見つけなさい。補足: 軽く引っ張られるような感覚がある。あと、空泡にこだまが響くようになる。何度か叫んで、確かめてみて。下の方に、これまでに試した組み合わせのリストを置いておく。良い感じのものを見つけ、直感を信じること。あなたはキネトグリフのプロよ、自分の感性を信じなさい。補足: PMK-53のC組はダメ、この空泡じゃ逆効果よ。疑問なら、やった後にちゃんとメモしときなさい。謎のアザに戸惑うことが減るから。補足: PMK-207もダメ。稀金が不機嫌になる。すぐにループを始めちゃうわ。

恐らくあの稀金こそが、時間ループの元凶よ。補足: アレを恨まないで。補足: これは本当に自分で書いたコメントよ。疑うなら、署名を確認して。アレが揺らめき出したら、すぐにAICで記録を取りなさい。少なくとも、あと12分は残ってるわ。アレが光り始めたら、準備をしておくこと。

これまでの試行で一番長い共鳴シーケンス: PMK-160 ⇒ PMK-13 ⇒ PMK-437 ⇒ PMK-22 ⇒ PMK-72(※終了動作を押しから引きに変更すべし) ⇒ PMK-55 ⇒ PMK-217

頑張れ、単一臾。あなたはきっと上手くいくわ。

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

大人たちがどうしてもうるさいので、シャンはもう喋らないでと言いました。そしたら、本当に喋らなくなりました。2人を山腹に連れて行き、空のふわふわ雲を眺めるよう言いました。ふわふわ雲は不思議です。時々、意味流が雲を通り抜けると、雲が色んな形に変わるんです。でも、シャンには分からない形も多くて、ちょっと残念。知らないクルマだったり、知らないキカイだったり。シャンも友だちも、意味流を空に飛ばすことができます。両手を十字に組むだけで、簡単に発射できます。それをやると、ふわふわ雲はキレイな形に、シャンたちの好きな形に変わります。ロボットが住んでるクジラや、でっかいトンボ、たくさんの熱気球にもなれるんです。シャンも友だちも、そういう雲が好きです。なぜなら、空を飛ぶのは難しいからです。シャンたちは何度か試しましたが、すべて転んでしまいました。何日も寝込んでしまったことすらあります。だけど、この大人たちも飛べないんですね……どうしてなんでしょう。大人って本当に使えないのですね。

その大人たちが、やっと帰るって騒いでました。よかったよかった、大人は本当にうるさかったです。

空泡番号: X0-BA
投稿者: 大隊長 ゲゲン・トゥヤ
徴標ベクトル: [1Y7UEE1VU3EMSUHM22E4]

現時点での最高記録は5個だ。倒した太陽が多いほど、復活までの時間が長くなる。5個であれば、およそ1週間に相当する。だが、奴らは絶対に蘇るのだ……。永久に続く狩りと言えよう。

仲間たちは疲れ切っている。6名の者が今も、怪我から立ち直れていない。また、戦闘を通じて分かったことがある。集団戦は機動力に欠け、複数の太陽が同時に現れた場合、連携は困難を極める……。このままでは、勝利を勝ち取れないだろう。10個の太陽はほどなく輝きを取り戻し、この地に牙を剥くだろう。

もはや、結論は明らかだと思う。

今夜、我は森に入る。弓と矢を携えて、独りでカタをつける。

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

指で稀金に触れると、慣れ親しんだ痛みが、指先より伝わってきます。わたくしはすぐに思い出しました。それはまさしく、タトゥー針が皮膚を突き刺す痛み。無意識に感動し、歓喜の涙がこぼれ落ちます。わたくしは感じました。この貧しい空泡において、稀金という存在は、宇宙がわたくしに与え給うた、承認のようなものなんだと。

そこで、タトゥー針に稀金を練り込み、インクにも稀金を混ぜてみました。痛みは増幅され、タトゥーを入れ終わった後でも、痛みが皮膚を駆け巡っていますが、これもまた、価値の増幅を意味するものです。1針1針の痛みが、価値の注入を意味している。そのような苦痛を、わたくしは久しく待ち望んでおりました。

稀金はわたくしを、頂へと導いてくれます。

空泡番号: VL-13
投稿者: 寄稿家 アン・ジー
徴標ベクトル: [C1ORTC1CAHXMMT413UZT]

これは旧時代のこと。聡明であるにもかかわらず、文字を読むのが常人よりも苦手な人々がいた。いざ読もうとすると、文字がひっくり返ったり、踊ったり、3次元空間を漂うように見えるのだそうだ。旧時代の人類は、これを失読症と呼んでいたが、虚物質が発見されてようやく、彼らが生まれつき、意味流に敏感な存在であることが分かった。それを聞いて、私は思った。彼らの感性は、私が巨足族の粘土板を読んでいる際の感覚と似ているのではないかと。長い年月を経て、私はついに進展を得られた。

粘土板を刻む私の意味流に呼応して、巨足族の文字は変化し、浮き上がり、ひっくり返る。彼らの声が時空を越え、私に語りかけてくるのが聞こえる。刻む速さが上がるほど、彼らの声は鮮明になる。しかし、まだ足りない……私の指は黒くひび割れ、火口の高温で、粘土板はぼろぼろと崩れていく。私は力の限り、最速で刻み続けているが、彼らの文字は百重の霧に、彼らの声は千座の山に、未だ隔たれたままだ。

もっと速く書かねばならない。だが、これが私の限界なのだ……。それでも、諦めたくはない。

ある日、夜通し粘土板を刻み、振り返った時。自分の身体に、稀金の塵がこんもり積もっていることに気づいた。小さく身体を動かすと、塵は灰や雪のように舞い散り、火口の中へと落ちていった。

寄稿者: アン・ジー
朝顔文学報宛 原稿

空泡番号: C0-BK
投稿者: LAN admin 臧翂
徴標ベクトル: [HBAE8A0X415OQSCHIFC1]

心底認めたくないけど、お宅らの言い分は一理あるわ。

拡張を停めるとは言ってないわ。それだけは、絶対に譲れないことよ。今言ってるのは、お宅の構想の根本……「破壊」っていう考え方自体について。私はね、サイバースペースの完全性を何よりも重視してるの。完全なコードに、完全な機能。そういったものに、私はずっとこだわってきたわ。でも、完全ってのは、結合をも意味する。どこかを引っ張れば、すべてが動いてしまうの。私はそれに執着するあまり、虚物質のアタックに対して、脆弱性をさらけ出してしまった。虚物質はサイバースペースを完全に包み込み、全方位かつ多方面から、連携してアタックを仕掛けてくる。虚物質自体が一つの総体である以上、奴らにとっちゃ至極簡単な芸当なのよ。ここのキーボーダー間に流れる意味流の伝播速度は、たとえ空泡内で出せる限界まで上げても、虚物質には到底追いつかないわ。

これは例の、砕け散った稀金から得た着想よ。私たちの方も、総体的な防御が必要だわ。サイバースペースのあらゆる場所に散らばり、それでいて、完全な存在が。バラバラの完全……なんだか、導師のニンマリ顔が目に浮かんできそうね。

他の空泡じゃ思いつかないのも、無理はないわ。このアルゴリズムを知る人は少なく、実装できる人間も少ない。現時点でも、これをコンパイルできる空泡はほとんどないでしょう。私はこれから、自分の脳部量子状態配列をアップロードする。自分を32個のコンテナに分け、サイバースペースの全ポートに展開するつもりよ。つまるとこ、虚物質が攻めてきたら、私がファイアウォールになるってこと。そうなった私を、クソッタレ虚物質は絶対に突破できない。なかなか良いアイデアでしょう?唯一の問題は、この操作が不可逆なことくらいよ。

議論は無用よ。これをできるのは、私だけなんだから。お宅らみたいな半端者を置いて、虚物質が防げるとお思い?自分でもよく分かってるでしょう。導師もかつて、こう言ってたわ。「サイバースペースに来る者、完全な肉体に執着することなかれ」ってね。理解できたら、各々で準備を始めてちょうだい。虚物質は待ってくれないわよ。

私はこれより、自分自身をぶっ壊す。私が導師になるのよ ↲

空泡番号: AQ-9S
投稿者: 上級研究員 高淼
徴標ベクトル: [66Z8UQZ8OY3H94RJS1FR]

SCP財団に加入して間もないころ、繋がりや家庭を持つことに、僕はひどく後ろ向きだった。そういうのはきっと、いつか足かせになると思ったんだ。自分は財団の一員として、とことん身を捧げるべきで、ありふれた暮らしは断ち切って、未練を持ってはならないと考えていた。ニューノーマルが安定し、収容と研究の仕事がだんだん、平凡でつまらなくなるにつれ、僕はその考えを改めた。愛する人に出会い、娘を持つまでになっても、僕は依然として、財団の歯車として働いている。けれど、僕は自分がもう、穏やかな日々を過ごす、一介の空泡市民になっていると、そう感じていたんだ。

ところが今、僕は召集を受けている。稀金と皆のレポートを纏めたところ、とてもシンプルな結論が得られたんだ。……僕は、新しいノードになれると。空を昇ってパーフルオロ化合物に浸かり、事象の地平線イベント・ホライゾンに近づけば、僕は意味流を誘導できるようになる。そこまでくれば、僕は有効な徴標ベクトルに達し、立派なノードになるってわけだ。この空泡でそれを果たせるのは、僕一人だけのようだ。

これは僕の、財団の一員として担うべき使命だ。ノード候補が見つかること自体、奇跡的なことなんだ。ためらうべきじゃない。ノードになっても安全とは限らないけど、危険極まりないわけでもない。拒む理由はより無いと思う。でも……白状する。僕はためらった。ノードになるってのはつまり、家に戻る時間があんまり無くなることを意味する。娘と過ごす時間も、かなり削られるってことなんだ。

家庭を持ってなければ、こんなにも悩むことは無かったはずだ。けれど……自分の家族、妻、娘……あいつらはもう、僕の生涯で一番の、かけがえのない宝物なんだ。2人のいない暮らしなんて、まったく想像もつかないよ。2人と出会ったこと、皆で暮らしていくことが、僕の宿命だと、そう信じている。実際のところ、僕には選ぶ余地なんて、ハナから無いと思ってたんだ。

娘をラボに連れて行き、望遠鏡で空の湖を見せてやった。それから、僕はあの子に、自分に託された使命を打ち明けた。「パパはどうしても、お前と離れたくないんだ。けどな、あの仕事は、パパにしかできないことでもある。なあジュジュ、パパはどうするべきだと思う?」

ジュジュは言った。「パパをノードにして、わたしに何か良いことあるの?」

僕は笑った。「いいや、無いよ。でも、世界はずっと良くなるはずだ。色んな空泡を、誰もが自由に行き来して、お喋りすることができる。虚物質はもう、僕らを邪魔しに来れなくなるんだ。」

「ママと一緒なら、パパと一緒なら、わたしはそれだけで嬉しい。他の空泡なんて行きたくない。外の人とも喋りたくない。」

「そっかあ。それなら、パパはノードにならないかもね。」

ジュジュは黙り込み、じっとこっちを見つめる。それから、僕に問いかけた。「他の人は、パパにノードになってほしいの?」

「ああ。」

「ノードになったら、その人たちは嬉しくなるのかなあ。」

「嬉しいだろうね。」

ジュジュは視線を落とし、考え込んだのち、言葉を返す。「だったら、パパはノードになった方が良いと思うな。」

「そりゃまた、どうして?」

ジュジュは言った。「他の人のお願いを叶えるのって、すっごくカッコいいもん。」

空泡番号: X0-BA
投稿者: 大隊長 ゲゲン・トゥヤ
徴標ベクトル: [1Y7UEE1VU3EMSUHM22E4]

小道を静かに進んでいく。5つ目の分岐路で振り返り、最初の太陽を射殺いころす。この際、稀金製の徽章に振動が生じる。

木の天辺まで登ると、枝の間を飛び移り、茂みに横たわっていた第2の太陽を射殺す。徽章、2度目の振動。

小川に潜り、鼻だけを出して、流れに沿って滝まで下る。第3の太陽の背に回り、射殺す。3度目の振動。

何条もの光芒が、我を追いかける。第4、第5の太陽は、我を峡谷の端に追いやるも、奴らは我の奇術幻影に気付いていない。洞窟に隠れつつ、奴らを射殺す。3度目、4度目の振動。

第6、第7の太陽は怠惰で横暴な奴だ。火薬を用いて、連中を穴の奥から引っ張り出す。奴らは洞窟を真昼のように照らし出したが、実際の我は山頂にいることを知らなかった。奴らが疲れ果てるのを見計らい、順番に射殺す。6度目、7度目の振動が起こる。

第8の太陽を樹冠にて射殺す。8度目の振動。

第9の太陽を枯井戸にて射殺す。9度目の振動。

最後に我は、第10の太陽を崖の端まで追い詰めた。奴は怯え、震えていた。稀金の徽章も一緒になって、振動を続けている。我は弓をいっぱいに引き、奴に狙いを定めたが、ためらっていた。連中はつまるところ、太陽であり、光の象徴でもある。奴らはただ……やることをやってるだけで、本当は悪意を持っていないのかもしれない。すべての太陽を射殺した時、空泡はよもや、永遠の氷夜に陥ってしまうのではなかろうか?しかし、すべての太陽を射殺さなければ、奴らは復活し、何もかもがやり直しとなってしまう……。

だがこれで、我は奴らを打ち負かせることが証明された。奴らよりも勝っているのだ。

結局、我は弓を下ろした。第10の太陽は逃げ出そうと、崖を飛び降り、無数の光を放った。稀金の徽章が、眼の前で砕け散る。同時に我は、徽章から波紋が起こり、空泡全体に広がっていくのを感じ取った。

より良い事を成し遂げられたと、我はそう思っている。

空泡番号: AQ-9S
投稿者: 空泡住民 高 安柔こう あんじゅう
徴標ベクトル: [RB7XGO7ZQJ3LUR7U5B4Y]

空に上るとき、パパは光を出す。私には見えるんだ。パパが右手を伸ばして、それから左手を伸ばすと、星とか、灯台みたいに光るの。

お星さまよりも、パパの方がずっと良い。2週間に1度、日曜日に、パパは空から降りてきて、私と1日中遊んでくれるもの。

星はそんなことできないもんね!

空泡番号: C0-BK
投稿者: LAN admin 臧翂
徴標ベクトル: [HBAE8A0X415OQSCHIFC1]

私は私は壊れた壊私は壊壊れた ↲

私は空で私は泡で私はCで私は私は0-BK泡C0-B空泡C0-BKのファイアKのファイアウォールのファイアウォールファイアウォール ↲

虚物虚物質はもう質二度二度とこちらの空泡構虚物質は二度とこちらの空泡こちらの空泡構造に脅威造に脅威構造にならない脅威 ↲

私は判私は判私は判断したこれは思うにこれは思うに思うに有効徴に達有効に達する有効徴標ベクトルへの到達法徴標ベクトルの方法標ベクトルの方法方 ↲

私はなる私はなるなれる私はノードになるノードになるノードになる ↲

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

なんと哀れなことでしょう。数多の空泡、数多の人間が、痛みの意味を見落としています。彼らは痛みを免れようと、刺青の際に麻酔を打つのです。痛みなき刺青が、どんなに無意味なことか、彼らはまったくもって気付いていません。鏡の前で、わたくしは自分の彫った肉体をじっと見つめます。すると、これまでに感じた、いかなる痛みも思い出すことができます。感じる痛みの中には、いつまで経っても引かないものさえあるのです。ただ眺めているだけで、刺青はわたくしを呻かせ、悶えさせる。これこそが意味、深遠なる意味なのだと感じています。

ひょっとすると、稀金がさらなる真意を、誠の痛みを見つける手助けになるかもしれない。稀金がわたくしに示すのは、絵柄です。その絵柄を、わたくしは自分の頭頂部に彫るつもりです。刺青の苦痛が最高潮に達した時、わたくしは究極の境地に至るはずです。深遠なる意味と共にいることで、わたくしは涅槃を得られるでしょう。

そうすれば、私は有効な徴標ベクトルに成れると確信しております。

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

やった……ついに、やったわ……!

ある方が、私の放送をキャッチしてくれたの。彼は喪心使を名乗ってて、右手が無いようだった。……もう、クタクタよ。完全な共鳴シーケンスを、3時間ぶっ通しで踊ってたんだから……。でも私、成功したんだわ……。

この空泡から、脱出できるのよ。

空泡番号: VL-13
投稿者: 寄稿家 アン・ジー
徴標ベクトル: [C1ORTC1CAHXMMT413UZT]

[記録開始]

当ログはポータブルAICのカメラで撮影されている。撮影地点は空泡VL-13、祝融山火口とみられる。撮影者は銀色の耐熱服を着て座っており、周囲には書籍サイズの粘土板が大量に散乱している。空中には微細な稀金の顆粒が煌めいている。データケーブルが1本、撮影者の手首ポートに接続されており、もう一端はレンズの方へ伸ばされ、AICに接続されている。

アン・ジー: 旧暦2137年2月2日。混沌行者がSCP財団の膨大な文書を公開した。同年、いわゆる"理念の闘争"が巻き起こったものの、今となってはごっこ遊びのような、幼稚なものに感じられる。それでも、かの闘争は多くの新技術・高等技術の公開と発展を促した。その一つが、これだ。

撮影者が後部からライトグレーの箱を取り出す。AIC物質プリンタの標準仕様カートリッジとみられる。撮影者は箱を開け、中からアンプルを取り出す。アンプルには浅緑の液体が少量封入されている。

アン・ジー: Fクラス記憶処理薬、コードネーム「神游-FUGUE」。財団が犯した罪の動かぬ証拠として、混沌行者が突きつけたものの一つだ。千年経った今では、その功罪も過去のものとなったが、薬の処方だけは生き残り、進化を遂げた。(間を置く)今、祝融山にある元素だけで、それを印刷することができた。これは決して偶然ではないと、私は睨んでいる。

撮影者はアンプルを地面に置き、体にかかる稀金くずを手で振り落とした。

アン・ジー: 私の刻印は依然、速さが不足している。……巨足族の文字を未だ、理解できてないのだから。彼らの文字を解するには、もっと、ずっと速く、粘土板を刻まねばなるまい。行き詰まったところで、私は一つの策を思いついた。

AICが電子音を鳴らす。撮影者は手首のデータケーブルを抜き、ポートを軽く揉みほぐす。

アン・ジー: 私は新たな言語を創った。自分の徴標ベクトルを母音や子音、数字、句読点にしたのだ。これに習熟すれば、私は極めて迅速に、空泡を駆け抜ける意味流を圧縮できるようになるだろう。そのような速さで粘土板を刻めるようになれば、かつての巨足族に十分近づいたと言って良い。そうなればきっと、彼らは粘土板を読むのを許してくれるはずだ。

短い沈黙。

アン・ジー: けれど、今の私にはできない。自分の創った言語ではあっても、母国語ではないのだ。自分の生み出した人造言語を、これから母語にしていかなくてはならない。ひいては、我が魂の奥底にある、唯一の存在にしなくてはならぬのだ。

撮影者は地面のアンプルを静かに見つめると、それを持ち上げた。背景から、マグマの噴き上がる音が聞こえる。映像は噴出する熱気もあって、所々歪みが生じている。

アン・ジー: 先ほど、本言語をポータブルAICにすべてコンパイルさせた。AICは今後、私のあらゆる記録を解読できるようになる。これより私は、この薬剤で我が魂を作り変える。過去の記憶は一切忘れ、この人造言語と、祝融山の知識、そして、巨足族の粘土板を解読するという宿命のみを残すつもりだ。

撮影者はアンプルの首を折る。浅緑の液体が泡立ちを始める。

アン・ジー: 必ず脱稿してみせるさ。

撮影者が頭を上げ、アンプルの中身を飲み干す。短い沈黙の後、撮影者は全身を激しく震わせ始める。同時に、溶岩の爆発音が明瞭になっていく。撮影者は口を開け、何か叫んだものの、音声は記録されなかった。その後、撮影者は頭を垂れ、地面に丸く縮こまった。

アン・ジー: ……八卦……

バシャバシャと音が鳴る。撮影者はすべての粘土板を、火口の中に放り込んだ。

[記録終了]

近隣の空泡はその後、VL-13からの徴標ベクトル放送を受信した。3標準月の後、喪心使に調査を依頼したところ、火口にてアン・ジー女史を発見した。彼女は執拗に粘土板を刻み続け、完成するたびに火口へと投げ込んでいた。氏が今用いている言語は「乾燥して、重厚で、祝融山のように熱い」という。彼女との交信はすべて、ポータブルAICによる逐次通訳を必要とする。我々はノードになる意思があるか、アン・ジー氏に尋ねた。57枚の粘土板を刻み終えるまで待った末、AICは肯定の返事を訳出した。

アン・ジー女史は確かに、粘土板の解読に成功した。AICの提示した翻訳ソースファイルはすべてアーカイブしたものの、データベースに登録した次の日、すべてのファイルが消失。代わりに、「朝顔文学報」と署名のあるショートメールが1件、そこには残されていた。彼らに代わって、アン・ジー女史に感謝を伝えてほしいとの内容だった。東土域内のあらゆら空泡を捜索した探したものの、「朝顔文学報19なる存在は未だ実在が確認できていない。

VL-13を見学する際は、耐熱服の装備を忘れずに。また、すべての訪問者には、祝融山にいるアン・ジー女史を邪魔しないよう動くことを推奨する。

空泡番号: X0-BA
投稿者: 大隊長 ゲゲン・トゥヤ
徴標ベクトル: [1Y7UEE1VU3EMSUHM22E4]

予期した通り、およそ7標準月の後に、10個の太陽は復活した。だが、今度の戦いへの意気込みは、これまでと違う。今度はもう、一人きりではない。されど、部隊でもない。我らはそれぞれ、独立した狩人となる。……否、太陽を殺し尽くすのが目的ではない。我らは踊り子となって、10個の太陽と舞い踊るのだ。9の太陽を射殺し、1の太陽を残す。それから、彼らの復活を待ち、また繰り返す。「陽狩り」を続けることで、我は恐らく、有効な徴標ベクトルに達するだろう。

同胞たちよ。陽狩りを我らが空泡伝統の祭りにしようではないか。歌い、舞い、四方から賓客を招こう。銅羅の音が響く中、我らは出発する。静謐の中に放たれし矢が太陽を射抜くのだ。そして凱旋するのだ。

空泡X0-BAにおいて、「陽狩り」作戦は永遠に続くであろう。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

ゲゲン・トゥヤのために、稀金でリカーブボウを作った。これまでに鍛えた稀金とはまったく違う、しなやかで強靭、軽量な質感だ。漆黒でツヤのないその弓は、密林を音もなく駆け抜けるのに最適な武器だろう。弦を引き放つたび、持ち主は稀金と共鳴し、自らの徴標ベクトルを増幅させる。太陽を狩る者への、俺からの贈り物だ。

ついでに、矢じりも稀金でしこたま造っておいた。コイツは軽いのに鋭く、それに早い。遠慮なく使ってくれ。隣の空泡には、蝕金工商ギルドの人間がいると聞く。あいつらに頼めばいつでもサポートしてくれるだろう。

心から「陽狩り」を楽しんでほしい。

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

SCP財団上級研究員 董 冪羽とう べきうさま

ごきげんよう。空泡一同、貴殿の訪問を心より歓迎したことと思います。財団によるノードマトリクス構築計画についても、話は伺っております。私個人としましては、特に異論はありません。稀金に関する空泡内での講義・広報を拝見しましたが、貴殿および財団の誠意、熱意といったものが強く伝わってきました。しかしながら、誠に恐縮ですが、全住民を招いた晩餐会に対しましては、参加を辞退させていただきたく存じます。

貴殿がお越しになる前の、静かで穏やかな空泡に、私はすっかり慣れ親しんでおります。当資料館にあります、膨大な旧時代の書籍は、我が数十年分の知識欲を満たすに足るものです。私は人付き合いというものを、ふれあいというものを好みません。そのような場において、私は往々にして、人の気持ちを汲み取れず、適切な言葉を選べなくなるのです。対して、他の住民の皆さんは、こうした場をとても楽しむ傾向にあります。今後、お誘いを断り続けるような真似を避けるため、貴殿には先んじてお伝えさせていただく次第です。何卒、ご承知いただけますようお願い申し上げます。

空泡TK-3Nでのご滞在が、実り有るものとなりますように。

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

想定外だわ……まさか、またここに戻って来るなんて……。でも、良いニュースはある。ここではもう、時間ループは起きないってこと。

SCP財団の一員である以上、ノードになる責任は負わなきゃいけない。……ぶっちゃけ、これは事実上の昇進といえるかもしれない。私が有効な徴標ベクトルを得られるのは、ココしかない。キネトグリフを舞って、稀金と共鳴できるのは、この空泡だけなのよ。でも今度は、一人ぼっちにはならない。新しいラボが建って、たくさんの研究員がやってきたの。新天地を求める開拓者だって来てるのよ。もうじき、すごく賑やかな空泡になると思うわ。

今もまだ、あの大きな稀金は好きになれない……。どうして私をこんな目に遭わせたのか、未だに分からないの。でも、キネトグリフを舞ってると、感じることがある……アレは私に、啓示をくれてるのかもしれないって。私の潜在能力を見抜いて、追い込みながら、道なき道を案内し、奇跡を成し遂げさせたのかもしれない。あるいは、アレは寂しくなっちゃったのかも。アレがここの原住民じゃなく、外から偶然やってきた存在だとしたら?奮闘中のあらゆる人間と同じく、世界を繋げようとしてるのだとしたら。私の離脱を邪魔するのは、闇の中にまた置き去られるのが嫌だったからかも……いいや、ダメよ。人の思考で稀金を理解しようだなんて、決してやるべきじゃないわ。

ともかく、私はもう、ここで一人ぼっちにはならなくなった。世界もまた、繋がりを築き直そうとしている。

ノードマトリクスの完成を願ってるわ。

空泡番号: II-IY
投稿者: 喪心使 蕭滕
徴標ベクトル: 不適用

空泡II-IYで今日、余諾達先輩とバッタリ会ったんですよ!すっごく光栄だったけど……やらかした。先に知っとけば、あんな失礼な反応にならなかったはずだ……。というのも、先輩の持ってるデカい箱について、興味本位で聞いてみたんだ。曰く、史恒鑫さんから預けられたんだと。そう言うなり、先輩は……箱を開いて、俺に見せてきたんだ……。

中には1瓶、黄色い液体でいっぱいの、ガラスボトルがあった。ボトルには……心臓が1つ、まだバクバクと動いてたんだよ。

空泡番号: AQ-9S
投稿者: 上級研究員 高淼
徴標ベクトル: [66Z8UQZ8OY3H94RJS1FR]

皆が言ってるんだけど、空で意味流を導いている時、僕、なんか、光ってるらしいんだよね。

別に、手の込んだことをしてるわけじゃない。ただ、手を伸ばして……意味中に、耳を傾けるだけ。進んで解読しようとはせず、ただ……感じる。真摯に感じ取るんだ。すると、意味流は僕の手を伝って、反対側へ流れていく。そうなれば、意味流はもう、天上のブラックホールに引っ張られなくなる。

結局、光るって本当なの?本当なら興味深いね。今度、ジュジュに写真を撮ってもらおうかな。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

[歌詞のないソプラノの唱歌。異常なミーム性を持つ。聴衆は誰もが、自分が光に満ちた空間にいるように感じ、勇ましい女戦士が1人、黒々とした弓で遠くに矢を放つ様子を目にする。矢は金色の光を帯び、まっすぐに力強く飛んでいく。戦士の顔からは、汗や汚れが滴り落ちているものの、目つきは鋭く、執念深さを宿している。聴衆は胸の内で、熱い感情が燃え上がるのを感じる。振り返ると、周りには多数の人々が立ち並んでいる。彼らも同じく、彼方の光芒に決意の眼差しを向け、ときの声を挙げている。]

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

本日、我々はエベレストにて、意味流信号塔の建設を完工しました。同時に、我々はさらなる有効徴標ベクトルを受信し、新たなノードが出現したことを確認しました。以下に纏めておきます。

ノード6 - コードネーム「倒影-REFLECTION」、空泡AQ-9Sに所在、高淼氏が担当。上空のパーフルオロ化合物まで昇り、意味流を誘導することで、有効徴標ベクトルに到達。

ノード7 - コードネーム「大地-EARTH」、空泡VL-13に所在、アン・ジー氏が担当。自作の言語を用い、通過する意味流を圧縮することにより、有効徴標ベクトルに到達。

ノード8 - コードネーム「防火壁-FIREWALL」、空泡C0-BKに所在、臧翂氏が担当。自身のサイバー量子状態を分離したコンテナ群にアップロードし、有効徴標ベクトルに到達。

ノード9 - コードネーム「共鳴-RESONANCE」、空泡RW-55に所在、単一臾氏が担当。キネトグリフを通じて巨大な稀金と共鳴し、有効徴標ベクトルに到達。

ノード10 - コードネーム「陽狩-SUNHUNT」、空泡X0-BAに位置し、ゲゲン・トゥヤ氏が担当。自己再生を繰り返す異常な実体を射殺し続けることで、有効徴標ベクトルに到達。

「ノードマトリクス」構想は着実に実現しつつあります。新たなノード網におけるバックプロパゲーションも現在、準備段階にあります。引き続き、多大な努力が必要でしょう。ノードのカバー率は実際問題、まだ十分とは言えないのが現状です。もっと多くの、追加のノードを確保できれば、東土域内における虚物質の完全攻略を、本当に成し遂げられるかもしれません。

空泡番号: TM-A4
投稿者: 航宙士 イーゴリ・カーメネフ
徴標ベクトル: [GCOCRH0LL155M9G9V0JJ]

AICがモデル計算を済ませてくれた。データに従い、私の方で調整を加えた。[極度散漫]標準時間軸から遠ざかる方向に、航宙艦を逸らせば逸らすほど、稀金と虚物質が一緒になって、艦に作用してくるのを感じるようになった。見えない糸で牽引けんいんされているような、そんな引力だ。窓外でうねる虚物質に、目に見えて変化が生じている。前よりも簡単に、そちらの意味流を受け取れるようになったものの、こちらが[極度散漫]につれ、そちらの時間進行もますます早まってしまう。

私は現在、航宙艦を散漫率の比較的低い、かつ、時流差も許容できる範囲のルートで維持している。私は相変わらず、そちらの世界を俯瞰ふかんしているが、瞬き一つで数年も経ってしまうことは、何とも申し訳なく感じている。[極度散漫]、財団によるノードマトリクス構想を耳にした。AICが艦外に、稀金製のモジュールを多数設置した。そちらの研究レポートに沿い、徴標ベクトルの計算を行っているところだ。何となくではあるが、いくつかの発見が得られたと思っている。

しかし、まだ始まったばかりだ。[極度散漫]はまだ整理中であり、計算が済んでいない。正確な結果が得られ次第、そちらに送るつもりだ。AIC曰く、7、8時間で終わるそうだが、そちらが受け取るまでには、もう何年か掛かることが予想される。貴空泡がそれまで、ずっと安泰であることを願っている。

航宙士イーゴリ・カーメネフより、SCP財団東土司令部に敬礼を。

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

今日、空泡にお兄さんが来ました。お兄さんはすごく良い人だけど、心がありません。シャンにはそれがフシギです。お兄さんが来たとたん、ふわふわ雲はぜんぶ消えてしまいました……でも、お兄さんは良い人なので、シャンは許してあげました。

お兄さんはシャンに、友だちとここで何をしているのかと聞いてきました。シャンは遊んでいると答えました。ずっとここで遊んでいます。お兄さんは、人間は他の空泡でも遊んでいるけど、虚物質が悪さして、友だちに会えなくなってしまったんだと言いました。シャンにはよく分かりません。「ふわふわの草木とは、お友だちになれないの?」お兄さんは答えました。「他の空泡だと、そんなことはできない。ここに来ても、みんなはもう大人になっちゃったから、やっぱりそんなことはできないんだ」

そんなのありえないです!シャンはとても悲しくなりました。とてもとても悲しい!

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

[歌詞のないソプラノの唱歌。異常なミーム性を持つ。聴衆は皆、自分が氷河の上に正座し、空を見上げているような感覚を抱く。天空には澄み切った湖面が広がっており、湖の深部には、満月のように輝く人影が浮かんでいる。聴衆はその光が、神聖でありながら温かく、どこか懐かしさを感じられることに気づく。輝く人影は少しずつ、聴衆に向かって近づいていく。これらの感覚は歌が終わるまで続いた。]

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

さまざまな図案を試しました。ペンローズの廻る階段、繋がるメビウスの輪、無限の記号からなる、無限の記号からなる、無限の記号……。無限。無限とは、いつの時代にも直面する命題のようです。無限ループの苦痛以上に、深遠な痛みがあるでしょうか?しかしながら、わたくしには無限は描けません。この限りある人生において、永遠の図案を描き切るなんて不可能です。

よりシンプルな、基本の図案ならどうでしょうか。円、三角、曲線、アルキメデスの立体……。これらを描いても、ほとんど痛みはありません。病を伴わない呻き声には、ほとほと吐き気がします。一方で、これらは黒一色で染めることもできる。塗り固めることも、無限の一つの表現といえます。無限の点で、有限の面を埋め尽くすのです。しかし、それでもまだ、違う……。双方を組み合わせることで、何千何万ものパターンを生み出せます。答えは恐らく、その中にあるはずです。

ですがもう、わたくしの肌には試すスペースがありません。失敗作をひたすらに消していくしかありませんが、それはわたくしに、耐え難い恥辱を感じさせます。洗い流す過程でも苦痛があり、呻き声を上げてしまいます。しかしそれは、付け加えられる痛みではなく、取り除かれる痛みです。これはもう冒涜に等しく、このような生ぬるい痛みで喜ぶべきではありません。それなのに、わたくしは自分を抑えられず、この身を震わせてしまう。その恥ずかしさで、わたくしは独り泣き叫ぶのです。

唯一、頭頂部には空きが残っています。ですが、まだいけません。真の痛みを伴う図案が見つかるまでは、最後の純潔を保たねばなりません。たとえ、他の肌で繰り返し繰り返し、己を冒涜するしかなくても、です。

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

SCP財団上級研究員 董冪羽さま

ごきげんよう。先日、メールをお送りしましたものの、何らかの不手際で届いていないかもしれません。こちらは依然として、貴殿よりのお誘いを受信しておりますので、改めて申し上げます。私といたしましては、そうした事柄にまったく興味がないのです。資料館での穏やかな暮らしを、どうか妨げないでください。ここの仕事は暇で、普通の人からしてみれば、退屈に思われるかもしれませんが、私にとっては快適で、とても楽しんでいるのですから。

くれぐれも、誤解なきようお願いします。貴殿の情熱やプロフェッショナリズムは、大いに評価しています。住民たちも称賛していますし、輝かしい実績を私もたくさん耳にしています。ノード関連の研究は目下、目立った進展がみられないというのに、諦めず努力される姿勢にも感心しています。それに、先日の涙の歌い手コンサートのような、さまざまな催しを手掛けるのも、空泡に華を彩る点で、良い仕事をなされていると思っています。

SCP財団のノード探しに反対しているわけではありません。ただただ、私が興味を持てないだけなのです。失礼も承知で言いますが、私は人付き合いが好きではありません。むしろ、害ばかりとすら思っています。遠くない過去を振り返っても、人間間の不信や不和により、数えきれない悲劇が引き起こされてきました。当時の世界は、今の何千倍も繋がっていましたものの、人と人との繋がりは、そこまで深くなかったように思います。彼らはむしろ、対立的であり、過激な思想は世界の随所で、争いの火種となっていました。人々は皆、似た色の派閥に交わって、鋭い言葉でお互いを傷付けました。そうした記録を読むたび、虚物質に分断された現状は、運が良いとすら感じることがあります。あれの到来が少しでも遅れていたら、第三次世界大戦が勃発し、自分たちは存在しなかったのではないかと、そう思ってしまうのです。

繰り返しですみませんが、ノードマトリクスの構築に反対しているわけではまったくありません。単純に、参加したくないのです。今後、それが実現したとしても、私の生活を取り込ませる気はありません。自分はここでもう、求めるものをすべて揃えられているわけですから。他のものなんて、私には何も必要ないのです。

どうかこれ以上、邪魔をしないでください。よろしくお願いします。

空泡番号: SR-47
投稿者: 空泡住民 呂飛昂
徴標ベクトル: [3A2T5JJYP9OP6JX6E392]

俺は今、絶壁の端に立ち、三重の虹を待っている。三重の虹が現れたら、崖を飛び降りるつもりだ。ハンググライダーが俺を、半円の中心に導いてくれる。そうすることで、俺は徴標ベクトルを得て、新たなノードになるのだ。

だが、三重の虹がいつ現れるかは分からない……。空泡SR-47は乾燥した、砂漠気候だ。雨なんぞ、一年中降らないのだから……。待つしかないことは、重々承知している。稀金からの試練であれば、俺は永遠に待ち続ける覚悟だ。

呂飛昂さんは今もまだ、諦めていません。そんな彼を、時にはあざ笑う人もいるようです。それでも、これが彼の選んだ道。確固たる意志がある限り、彼の忍耐には意味があると、私たちは信じています。

そんな彼のために、私たちは歌を捧げます。悠久の時の中、虚物質に立ち向かう人への歌です。彼のような心根を、私たちは歌に乗せ、讃えなければなりません。彼のような人々を、気落ちさせてはいけないのです。揺るぎない決意があったからこそ、ノードマトリクスの完成が促されたのですから

空泡番号: KM-M7
投稿者: 空泡住民 トーマス・ヴェーラー
徴標ベクトル: [204N8EGTWHCX4TFHM0YN]

どうしてノードマトリクスを建てなくちゃいかんのか。考えたくもないね……。俺らの空泡は小さく、物も多い……。自由に行き来できてもなあ、あの異泡人たち……ああいう、無教養でルールも守らん外人連中が、ここの習俗や文化に気を配れると思うか?何日も経たないうちに、奴らは空泡をシッチャカメッチャカにするだろうよ!

そん時は、だーれが責任取るってんだ?ノードの管理者か?SCP財団?俺たちゃあ、誰に訴えりゃあ良いんだよ!

空泡番号: 80-U8
投稿者: 空泡住民 紅向珊
徴標ベクトル: [TL45ELONP7UFSFP6UP82]

我が家は代々、ミカン農家なんだ。ウチらの作ってるミカンは、あらゆる空泡で一番だと思ってる。拳より大きなサイズて、皮は金色に輝いている。果肉はジューシーで、飽きの来ない、絶妙にバランスの取れた甘さだ。収穫の時期になると、空泡総出でバスケットを提げ、ウチまで獲りに来るんだ。

ウチで育てたミカンを、他の空泡にもぜひ届けてあげたい。でもまだ、散漫率が高くてね……。早くノードマトリクスが完成して、色んな所に運べるようになると良いんだけど。

空泡番号: D3-RE
投稿者: 空泡住民 汪芯
徴標ベクトル: [TY1TVP1RWLQ9XH6LBD3J]

こんなに簡単なの?って、私は最初……思ってた。手の中の稀金は、紫の光を放ってる。紫の服を着れば着るほど、光は明るくなっていったの。十分に重ね着すれば、私はノードになれるって思った。なのに……なのに……12着目を着た途端、逆に光が弱まっちゃったの!

こんなの、あんまりじゃない!私をバカにしてるでしょ!

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

それは必ず、一つの図案となります。無限の永遠に至る、図案です。宇宙の瞳のように奥深く、地獄の牙に等しい痛みを伴うでしょう。しかし、わたくしにはそれが彫れない……。限られたキャンバスの上に永遠を描くには、どうしたら良いのでしょう。同一の円環を、左右に並べて描き続ける。1000回、10000回。きっと、自分の肌は尽き果てることでしょう。宇宙の熱的死まで描き続けても、永遠には1秒たりとも達しそうにありません。

稀金よ、貴方はわたくしに啓示を与え、真なる痛みへのきっかけを与えてくださいました。しかし、それ以上を求めた途端、貴方はわたくしの元を去ってしまわれた。無限へ続く道を見つけたのに、そこへ至る門が見つからないのです。我が卑しい皮膚をすべて、貴方様に捧げます。ですから稀金よ、わたくしに答えをくださいませ!わたくしの頭はまだ白く、生気を宿しておりません。わたくしは痛みに、涅槃への飛翔に飢えています。稀金よ、どうか教えてください。わたくしはいったい、どうすれば良いのですか!

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

シャンはずっと、大人の夢は複雑だって思ってました。大人は金色の石ころを欲しがり、他の人を這いつくばらせるのが好きです。大人は犬をしつけて、自分の周りで吠えさせますが、たくさんのご飯はあげません。シャンはここの犬に、たくさんご飯をあげています。吠えても吠えなくても、シャンは犬が大好きだからです。シャンも友だちも、大人みたいな夢はありません。ふわふわの木や草、雲のあるこの空泡で、ずっと暮らしていくのが、シャンの夢なんです。大人の夢は複雑すぎます。大人の意味流が通った雲も、なぜだか複雑になってしまうんです。シャンにはよく分かりませんでした。

でも今、シャンは知ったんです。大人にも実は、簡単な夢を持ってる人がいるって。その人たちは、友だちを欲しがってて、一緒に遊びたいと思ってる。でも、虚物質が空泡を区切ってて、叶わないそうです。シャンはとても悲しい。シャンも虚物質が大嫌いです。お兄さんが言ってました。大人たちは一生懸命、虚物質を追い払おうと頑張ってるって。シャンもお手伝いしたいな!でも、これだけは約束してください。シャンたちみたいに、夢はシンプルじゃなきゃいけません。友だちを見つけて、一緒に遊ぶんです。大人はいつも嘘をつきます。もし嘘をついてたら、シャンはお手伝いしません!

けど、けど……友だちを作りたい大人が、50人もいれば、シャンは手伝います!違う、45人がそうなら、シャンは手伝い……だめ!40人いれば、シャンは手伝います!ええと……うーん……30人……いや、20人……10人でいい!10人ばかりの大人に、シンプルな夢があれば、シャンはみんなのため、夢を叶えるのを手伝いますから!

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

SCP財団上級研究員 董冪羽さま

この度は深くお詫び申し上げます。隣の家の郵便受けだとは知りませんでした。その家の主は喪心使で、長年留守がちなため、私はてっきり……申し訳ありません。先日の行いがたいへん唐突で、無礼であったことを、今更ながら反省しております。あの日の貴殿は確かに、間違っていませんでした。ええ、私は確かに、稀金と徴標ベクトルについての、貴殿の研究に参加しておりました。あの日……あの日の私は、いったい何を考えていたのか……あの日の件につきましては、お互いに探らない方が幸せかもしれません。

正直言いますと、ノードマトリクスに対する私の考えは、今でもあまり変わっていません。しかしながら、貴殿の指摘はごもっともだと、私は認めざるを得ません。資料館で愛読しております、数多の書籍や文献は、過去の人々の交流から生まれたものです。コミュニケーションがなければ、アイデアの衝突は起こらず、愛と苦しみのせめぎ合いもありません。深遠な思想や芸術は、日の目を見なかったことでしょう。文明というのは確かに、貴殿のおっしゃるとおり、ぶつかり合うことで初めて、進化を続けられるのかもしれません。発展には問題が常々付きまといますが、結局は問題も、発展することで解決されるものなのですから。

しかしそれでも、私としましては、あまり深入りしたく……一員になる自信がないのです。熾烈な対立があってこそ、偉大な成果が生まれるのかもしれませんが、個人的には疑問符が付きます……。生まれる前に打ちのめされたら?対立で敗れるのが、自分だとしたら?凶を避け、吉を求めることこそ、理性ある人間が取るべき選択だと思うのです。世間には臆病だとか、利己的だと言われるかもしれませんが、私自身、そこまでの器ではないと自覚しているに過ぎません。ただ穏やかに、静かに暮らすことのみを望んでいるのです。何かを支持したり、反対したりするつもりは毛頭ありません。私はただ、ちっぽけな世界があれば良い……。貴殿が来ようが来なかろうが、何ら変わることのない、このちっぽけな世界があるだけで良いのですから。

長らくご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ありませんでした。

空泡番号: OG-CL
投稿者: 研究員 相月桃
徴標ベクトル: [PJVXKEIP89QYFZBWOETP]

私は1本の麻縄に、1万の結び目を作った。拳大の結び目を、1つ1つ。1万の結び目を作れば、私は有効なベクトルを得られると思った。自分はノードに成ると、そう確信していた。けれど、最後の結び目を作り終えた瞬間、1個目の結び目がほどけてしまった。1個目を直し終えると、今度は別の結び目がほどけてしまった……。

分からない……のりでくっつけてしまえば良いのだろうか。でもそうしたら、もはや結び目とは言えないだろう。……私に何が足りないのだろうか…………これ以上はもう、続けられそうにない。

空泡番号: ZI-V5
投稿者: 空泡住民 陳佐
徴標ベクトル: [7NVG0SAIW10AHPV6PTM0]

お前らSCP財団は、本当にオレらのためを思ってんのか?ノードマトリクス……どれだけの人が今、ベクトル探しに夢中になってると思ってんだ。皆が皆、デタラメで空虚な探究に、心を奪われちまってる。こんなものがなければ、あいつらは皆、平凡でも充実した人生を送れたかもしれない。お前らは考えたことあんのか?誰もがノードに成れるわけじゃないって、初めから分かりきってただろうに……。どうしてあいつらに、こんな虚しい希望を与えるんだ。傷つき、血を流して初めて、自分がダメだってことを、あいつらは思い知るんだぞ!

あいつらの生活を台無しにしたのはなあ、お前ら財団なんだよ!

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

亀の紋を彫る。亀にゆっくりと進ませる。

ランナーの紋を彫る。ランナーに素早く進ませる。

時を半分に刻む。半分に、半分に、永遠になるまで刻む。ランナーは決して、亀に追いつくことはない。

理解しました。無限は有限のなかにこそ、潜んでいるのです。

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

最近、新しい企画を準備してるところだ。考えてみてほしい。ノードマトリクスが出来たあと、他の空泡へ向かうにあたっては、最寄りのノード公開鍵を見つけなきゃならんだろ?予想だが、それはなかなか、七面倒な作業になるだろう……。けどな、特別に設計した稀金パーツを使えば、ノード公開鍵と共鳴する難易度は、ぐぐっと下がるはずだ。

携帯できる装置を今、設計している。懐中時計みたいな見た目で、稀金のギアが十数個、噛み合う形で中に嵌ってるんだ。真ん中には、精巧なスプリングが1つあって、ノード公開鍵を受信するためのアンテナや、下部の伝動機構を通じて、対応するギアを回す役割を担っている。……稀金に混ぜ込む元素を変えることで、反応を任意のノードに固定できる……名付けて"ノード公開鍵共鳴器"だ。俺には他にも、実現したいアイデアが山ほどある。さっさと試してみないとな。

空泡番号: Z1-ZF
投稿者: 空泡住民 彭永
徴標ベクトル: [LNFGOLH4UG1SU80CQGJQ]

人との交流なんて、まったく望んじゃいない……。交流がこじれ、互いに傷付け合う話が、こんなにもあるってのに、君たちはまだ飽き足らないって言うのか?この空泡……Z1-ZFにいる人間は、誰も彼も腐り切ってる。人類文明なんて、最初からお先真っ暗だったんだよ。

君たちがどう考えていようと、僕は自宅に籠もっていたい。あんなの絶対に間違ってるよ。ノードマトリクスなんて、ちっとも必要じゃないし、他の空泡に行きたいとも、まったく思えないもの。

空泡番号: 3H-F9
投稿者: 蝕金職人 雍愷歌
徴標ベクトル: [3D4HRGD8480GEKQVWMR1]

いったい誰が、ノード公開鍵共鳴器の話を漏らしたんだろう。ウチらギルドでもまだ、サンプルを2~3個作ったばかりなのに!

まあこれは、コイツが今後、人のニーズに刺さりそうなことを、端的に示しているとも言える。孔師匠の設計を、どうすれば手軽に、迅速に実現できるか、よーく検討しておかないとな。

空泡番号: L5-BG
投稿者: 空泡住民 辛又児
徴標ベクトル: [F1P8UFVC9A3FX31L9KKV]

私はもう、この空泡の誰とも付き合いたくない……。どうしてみんな、互いに謀り合い、罠に掛け合うの?この空泡は、ゴミ溜めそのものよ。ようやく見切りが付いたわ。

ノードマトリクスの完成を、切に願ってる。完成したら、すぐにここを出るつもりよ。絶対に振り返るもんですか。

空泡番号: OI-IO
投稿者: 彫師 万章
徴標ベクトル: [X98WICVBNOOP7UUPKDIA]

図案をデザインしました。外周はリング、メビウスのリングです。輪郭線そのものが、また別のメビウスのリングであり、その輪郭線もまた、別のメビウスのリングをなしています。ループが繰り返され、無限の再帰へ至るのです。リングはその内側に、シェルピンスキーの三角形を含んでいます。その三角形の中にまた、シェルピンスキーの三角形があり、これもまた、無限の再帰に至るまで、繰り返しループしていきます。

これはつまり、フラクタルです。わたくしは最初、描くには無限の時間がかかると思っていました。しかし、それは誤りでした。無限は有限の中にこそ、潜んでいるのですから。必要な面積は減少し、描き上がるまでの時間も短縮されます。これは無限大に積み上がる数ではなく、有限です。わたくしは有限の時間内に、無限の図案を刻むことができます。有限の時間で、無限に深遠な、無限の意味を持つ痛みを体験できるのです。わたくしは今、震え、呻いています。痛みがもたらす無上の意味を想うだけで、興奮が止まらないのです。

正しき図案を見つけました。これより、頭頂部に刺青します。わたくしは涅槃を迎え、飛び立ちます。この真実の痛みをもって、わたくしは有効な徴標ベクトルに達することでしょう。

空泡OI-IOを訪れる旅人はしばしば、言い表し難い奇怪な感覚があると報告する。決して広くない空泡にもかかわらず、彼らは歩いているうちに、一歩が千里まで及ぶかのように錯覚してしまう。長居していると、精神が恍惚になっていくことすらあり、1秒しか経っていないにもかかわらず、何千万年も過ぎたかのように感じた者もいる。当空泡の異常な物理法則の全容はいまだ解明できていないが、恐らくそうした性質が、万章氏に一度きりの"神業"を授け、自身の頭頂部にフラクタルな図案を彫り切らせたのだろう。

OI-IOの住人が万章氏を発見した時、彼は微笑みを浮かべながら、仕事場の椅子に倒れこんでいた。タトゥーマシーンのアームが2本、血みどろの頭頂部に相対しており、点滅する緑のライトが、作業の完了を知らせていた。頭の図案は確かに、無限の再帰精度を有していた。しかしながら、一定の認識災害まで備わっており、長時間見つめた者は、精神に異常をきたしてしまう。好奇心で覗くのは止めたほうが良いだろう。

今日に至ってもなお、万章氏は昏睡状態にある。それでも、彼のバイタルサインは安定しており、自身の有効徴標ベクトルを絶え間なく、無意識のうちに発し続けている。ノード11は一貫して、正常な稼働を保っている。

空泡番号: N5-1B
投稿者: 空泡住民 陳庭
徴標ベクトル: [DM2E5YR6C4931OAQ50T6]

ここでは毎年、麦の育ちがあまりよくない……。気候に土壌、肥料と、さまざまな角度から研究してきた。限界に近い水準まで整備したというのに、収穫量は未だ、満足のいくものではない……。飢えるほどではないにせよ、我々としてはやはり……こんなものではないはずだと、常に感じている。空泡の中には、穀物栽培の技術に優れた所もあると聞くが、そこからの放送は受信できていない……。伝送ポータルは酷く希少で、人手も足りない有様だ。

ノードマトリクスがもっと早く、完成してくれれば良いのだが……。

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

SCP財団上級研究員 董冪羽さま

ええ、良いでしょう。涙の歌い手の放送を、また聞いてみることにします。

空泡番号: 1K-ZZ
投稿者: 酒造 賀三酹
徴標ベクトル: [XECH2D07E6RDFJIA3NDV]

もう7、8回くらい、酒の調合を変えてるような……。何だっけか、ノード公開鍵の、微調整のため、だったか?よう分からんが、全空泡で一番の酒造りとして、改良を続けるのは当然のこった。酒を呑みに来た相手が、満足のいく酔い方をしなかったら、そりゃあもう面目が立たんだろ?

空泡番号: RW-55
投稿者: 研究員 単一臾
徴標ベクトル: [PDARQ7TK4DICC0MD5WVE]

ノード公開鍵の調整中、稀金が急に光り始めてね、死ぬほど驚いちゃったわ。幸い、何事も起こらなかったんだけど。後で調べてみたら、空泡の人口がその日、ちょうど100人になってたことが分かったの。ここもだんだん、賑やかになってきたわね。稀金も多分……満足げだったんじゃないかしら。

空泡番号: N0-FS
投稿者: 空泡住民 シャン
徴標ベクトル: [OMK7DZ3H1EXQQITO2EW6]

知らないお姉さんが来ました!自分は心がないって言ってたけど、シャンにはハッキリ見えていました。本当は右の耳がないだけです。それとも、お姉さんの心は耳の所にあるのでしょうか?

お姉さんは大人の夢を10個、持ってきてくれました。10人の大人の、夢の意味流です。シャンはそれを、空に向かって打ち上げました。ふわふわ雲の所まで、飛ばしたんです。シャンは雲を、大人の夢の形に変えようとしました。でも、自信がなかったから、お姉さんに聞いてみたんです。お姉さんは言いました。「私には分からないけど、シャンはきっと知ってるはずよ。雲にもきっと、伝わると思うな。だって私たちは、この星で一番、人の夢とは何なのか、間近で見てきたんだから。」

シャンはじっくり、じっくり考えました。シャンは友だちと一緒に、雲を大人たちがダンスする形に変えようとしました。うまくいったみたいです。空中の意味流がふわふわ雲を突き抜ける時、雲が光を放ちました。友だちの作るオーロラより、100倍キレイです。お姉さんも、すっごくキレイだと言っていました。ずっとずっと昔の、アンリ・マティスっていうおじさんの油絵に似ているそうです。シャンはそんな絵、見たことありませんが、お姉さんが今度、持ってきてあげると言ってくれました。

シャンは楽しみです!

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

[記録開始]

柯澤言: もしもし?

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: はい?えっと……今ですか?

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: ……ええ、はい。どうぞ。

董冪羽: [SCP財団により編集]

短い沈黙。

柯澤言: あなたはやはり、私が一番ふさわしいと、そう思うのですか。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: しかし……私は本当に、アレには向いていないと思うんです。私は一介のアーキビストです。書類仕事の類を除いて、たいていのことは専門外なのですから。適任だとは到底思えませんよ。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: ちょっと待って……どういうことです?

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: 本当に?こんなあっさりと?

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: いやいや、そういう意味じゃありません……良いでしょう。しかし、本件を担う者としては、私の印象はあまり……良くないと思いませんか?空泡の中には、不満に思う人も出ると思います。(間を置いて)いえ、すべての空泡民はきっと、私の就任を喜ばないでしょう。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: それは、確かに。気にすることはありませんね。彼らは私に口出しできない。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: (笑)その通りです。どうりで私が一番ふさわしいと仰ったんですね。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: 分かりました。

董冪羽: [SCP財団により編集]

柯澤言: 前回の所にしましょう。

董冪羽: [SCP財団により編集]

[記録終了]

空泡番号: 3G-V0
投稿者: 上級研究員 ヴィンセント・ベラード
徴標ベクトル: [0LIO1DFEX50Q57KEC1ZL]

こちらの空泡にはちょっとした難点がある……霧が発生しやすいのだ。油断していると、自分が薄暗い霧に包まれていることに気づく。しかしそれを除けば、ここの景色は比類なきものと断言できる。研究所は広大な海に面しており、青々とした水平線が、空泡の果てまで広がっている。

それにこの海には、古くからの友人たちがいる。数こそ多くないが、サメの民の一団が、私たちと共に暮らしているのだ。霧のない日には、海で泳ぎ、彼らと戯れることができる。彼らと遊ぶひとときは、すべての悩みを吹き飛ばしてくれることうけあいだ。

また、霧が発生した際、空泡の果てをじっと見つめれば、必ずそこに、巨大で奇妙な生き物の闊歩する姿が見えてくる。さながら、タコと樹木が合体したようなそれは、分厚い霧に包まれながらも、生命力に満ちあふれた、壮大な姿をしている。

ノードマトリクスの完成がなんとも待ち遠しい。空泡3G-V0にぜひ立ち寄ってほしい。

空泡番号: C0-BK
投稿者: キーボーダー 戈鋼
徴標ベクトル: [6CF3ZUVSA2P4YEXGL0US]

虚物質によるLANへのアタックが、3標準月も途絶えている。我らがadminは、最強のファイアウォールだ。コンテナ群となった彼女はトラフィックの変動に応じて、サイバースペースの空を補修して回る。空に残る彼女の軌跡を目にする時、僕らはとても誇らしい気持ちを抱くんだ。

僕らは最近、ストレージ拡張の準備をしている最中だ。より高解像度のVRデバイスも製造し、空泡を訪れるすべての旅人に、サイバースペースの素晴らしさを味わってもらうことを目指している。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

[歌詞のないソプラノの歌唱。異常なミーム性を持つ。聴衆は皆、青い光に満ちたループ管の中を、高速で移動している感覚にとらわれる。雄大な歌声が、管と聴衆の間を反響する。聴衆は互いに超高速でぶつかり合うが、痛みはない。触れ合うたび、眩しい火花を散らし、青い光に包まれながら、意気揚々に前進する感覚を抱いている。]

空泡番号: N7-N1
投稿者: 空泡住民 梁倪
徴標ベクトル: [UQGV5PBT5M3F7A6QWGHL]

こんなにハマるなんて、まったく嘘みたい……。涙の歌い手のライブに、私は衝撃を受けた……。受信できたすべての放送を保存し、繰り返し繰り返し聞いているの。700回以上は聞いたけど、全然飽きそうにないわ!

ノードマトリクスの完成が本当に楽しみよ。その日が来れば、空泡DV-S8に行けるんだから。舒さんはとっても親切で、ツーショットやサインにも、快く応じてくれるそうよ。……それって、本当なのかしら?本当ならやってみたいけど、けど……ああヤバい!そばに立つのを想像するだけで、緊張して死にそう!

空泡番号: EP-FW
投稿者: 喪心使 夏鵬雲
徴標ベクトル: 不適用

ずいぶん長い間、喪心使を務めてきた。多くのノードを巡っては、マトリクスに必要な誤差資料を運び出した。多くの空泡を巡っては、人々のため、メッセージを送り届けた。それでも自分は……まだ、10分の1の空泡すら、お目にかかれてはいないような気がしている。どの空泡もユニークで、多様な違いが見られる。見るべきもの、見ていないものが、そんなにもまだあるのだ……。

この世界は、あまりにも広すぎる。多くの人間がいて、多くの物事が存在する。……たとえ、我が一生を捧げようとも、大洋の如きこの世界の、たった1滴すら見れるかどうか……。

世界は海のように広いのだ、虚物質ごときに寸断されるわけなかろう!そのような考えが浮かぶたび、虚物質を歩む我が足取りに、一段と力が入るのである。

空泡番号: TM-A4
投稿者: 航宙士 イーゴリ・カーメネフ
徴標ベクトル: [GCOCRH0LL155M9G9V0JJ]

ヌワハハ、面白い結果が出たぞ。

SCP財団東土司令部へ。こちらは航宙士のイーゴリ・カーメネフだ。稀金と虚物質の相互作用に基づく計算によると、艦を標準時間軸から176.28度ずらしつつ、地球へ向かう航行ルートを取れば……そちら側からの見ると、私の3次元投影は螺旋らせん構造となり、その先端は空泡TM-A4を指し示すことが分かった。このような構造は有効な徴標ベクトルを備える。つまり私は、貴君らのノードになれるということだ。同時に、およそ30時間も操縦すれば、地球の大気圏に達することも分かった。私は家に帰れるのだ。

ただし、標準時間軸からここまで大幅にずれると、私が地球に戻るころには、標準時間で約2875年が経過していると、AICは予測している。その時、私を迎えてくれる者は……万が一、いるならの話だが……恐らく、想像もできない存在になっていることだろう。

30時間の航行ルートを安定して維持できれば、約2000年にわたって、貴君らのノードを務められる計算になる。逆に、ルートから10秒でも逸れた時は、そちらの換算で1ヶ月以上、ノードとしての機能を失ってしまうことになる。

これに関して、東土司令部に告げたい。私、イーゴリ・カーメネフは財団に忠誠を誓い、ノードマトリクスという偉大な計画の実現を、無条件で支持する!AICの演算能力を最大に高め、航行中のすべての意味流交信を任せた。私は操縦に全神経を注ぎ、空泡TM-A4へまっすぐ舵を切る。フン、たった30時間など、赤子の手をひねるようなものよ。

本艦の冷蔵庫にはウォッカが1本入っている。時が来たら……まだ残っていれば良いが……皆と共に、飲み比べてみようじゃないか。2000年後のウォッカは果たして、いかなる変化を遂げているのだろうな?

それでは、出発だ。すべて空泡市民に祝福を。航宙士、イーゴリ・カーメネフ、敬礼する!

2000年後に会おう。

空泡TM-A4には、稀金製の天体望遠鏡がある。蝕金工商ギルドによると、これは自分たちが受けた中で、最大級の仕事だという。

位置を調整すれば、宇宙にあるノード13……イーゴリ・カーメネフ氏の操る、4次元航宙艦の軌跡を観測できるはずだ。それは3次元空間において、螺旋の形で投影される。船体のパイロットランプが細長い光跡を描き、さながら、水晶でできた渦のようである。明瞭に捉えるなどありえないはずだが、来訪者は一瞬、イーゴリ・カーメネフその人が、螺旋の中で静止している様子が見えたと、口を揃えて報告している。

今日に至るまで、軌道にぶれはあるものの、ノード13は一度も機能を停止していない。

空泡番号: TK-3N
投稿者: アーキビスト 柯澤言
徴標ベクトル: [3FUY0SAL7T2XDB5OMLMG]

空泡TK-3N全住民の皆様へ

SCP財団の許可を得て、本空泡の放送員を引き継ぐことになりました。私はこれより、宣言します。本空泡を通過するすべての意味流は今後、検閲にかけられます。事態が緊急か、命に関わるものでない限り、平均20%の確率で、即座に破棄するつもりです。当施策は、アルゴリズムで完全ランダムに決めるものではなく、先ほど言った「20%」という確率も、私の主観的な見解に過ぎません。私個人の趣味や、その日の気分によって、確率は変わってくると思われます。受信される意味流にも、送信される意味流にも、検閲は等しく適用されます。意味流放送に関しまして、SCP財団から絶対的権限を付与されています。異論は一切受け付けません。皆さんが喚こうが叫ぼうが、私には関係ありません。

不満をお持ちでしたら、この空泡から立ち去ることをお勧めします。そして、二度と近寄らないでください。ノードマトリクスはほとんど完成間近です。将来的に、出ていくチャンスはたくさん出来ることでしょう。

以上の施策をもって、私は有効な徴標ベクトルに達し、新たなノードとなるつもりです。

ノード14の顛末を知った者は、その多くが同じ疑問を真っ先に投げかけてくる。我々財団の上級研究員、董冪羽はいったい、何を話したのか、と。実際のところ、発言を編集したのは意図的ではない。彼女の発言はどうしても、正確に表せないのだ。董女史は生まれつき、声帯に損傷があり、言語障碍者であった。涙の歌い手に類似した技術を会得しており、キネトグリフや奇跡呪文をを用いて、伝えたい意味流を異常な形式で、特定の聞き手に作用させることができる。

巷で流れている噂についても、財団は認知している。董冪羽女史に代わり、ここで明確にさせたいと思う。彼女が柯澤言氏に呪いをかけた事実はない。異常な手段で、柯氏の判断に影響を与えた事実もない。それでも気になる者は、彼または彼女に、直接連絡して確かめることも可能だ。

清者自清せいじゃじせい。真に潔白であれば、たとえ当人が釈明できずとも、自ずと潔白が証明されるはずだ。

空泡番号: PN-NC
投稿者: 空泡住民 新堂健一
徴標ベクトル: [PTVZVKDSKALDPNWFGURP]

ノード14なんて発想、いったい誰が思いついたんだ?全体の2割、2割だぞ?2割もの損失を、どこの誰が許容できるかよ!納得いかねぇ。ノードマトリクスは本来、完璧な状態で構築できたはずだ。なのに……なんで、なんでこんな欠陥を加えた?俺たちはそこまで、時間に余裕がなかったのか?他の有効ベクトルを見つける手は、本当に無かったのかよ?

ノード14はネズミのクソだ!一欠片のネズミのクソで、鍋は台無しになっちまった!

空泡番号: 7E-07
投稿者: 研究員 屠雲英
徴標ベクトル: [N5Y2D8QC4C29PBQ066JK]


思うに、ノード14は非常に意義深い示唆を含んでいるのではなかろうか。この世に完璧はなく、欠けのないものはないことを、私たちに投げかけているように感じられた。真実味のある状態とは、むしろ、どこかに欠けを孕んでいる方がそれらしい。情報はすり減っていくものだし、意味は曲解されうるものなのだから。偉大な作品を作り上げようと思うなら、私たちは逆に……あえて、不完全を残し、追加で欠陥を足しても良いだろう。そうした方が、私たちには……心地いいのだから。

あまりに完璧なノードマトリクスを構築した日には、虚物質は痛烈な反撃を加えてくるのではと、私は危惧している。しかし、今のこの状況は……どう解釈したら良いのだろうか?ひょっとすると、20%の損失があるからこそ、私たちと虚物質は絶妙な均衡を保てているのかもしれない。

この世界は私たちに、異常とのワルツを強いている。完璧を求めすぎてはならない。この少し……欠けのある世界を、私たちは受け入れなければならないのだ。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

新たなノードからの徴標ベクトルを、我々は再びキャッチしました。

ノード11 - コードネーム「再帰-RECURSION」、空泡OI-IOに所在、万章氏が担当。頭頂部に"神業"を用いて、無限の精度の図案を彫り、有効徴標ベクトルに到達。

ノード12 - コードネーム「永無-NEVERLAND」、空泡N0-FSに所在、シャン氏が担当。現実改変能力を通じて、空中の異常実体と連携し、有効徴標ベクトルに到達。

ノード13 - コードネーム「時神-CHRONOS」、宇宙に所在し、空泡TM-A4が連絡を取る。イーゴリ・カーメネフ氏が担当。自身の時間軸を逸脱させることで、有効徴標ベクトルに到達。

ノード14 - コードネーム「濾過器-FILTER」、空泡TK-3Nに所在、柯澤言氏が担当。他者の意味流を主観的に捨て去ることで、有効徴標ベクトルに到達。

我々はいまや、東土全域をカバーするのに十分な数のノードを有しています。ノードマトリクスの完成はもう、目前に迫っているのです。これより、ノードネットワークに対する最後のバックプロパゲーションを開始します。これが最後、最後の実行です。すべてのノードの向きを調整し、互いの照準を正確に合わせます。これが完遂され次第、虚物質による障壁は過去のものとなるでしょう。

同志諸君よ、もう一息です!

空泡番号: IL-G2
投稿者: 上級研究員 史恒鑫
徴標ベクトル: [93ZM727PQCJXTCCT8BMQ]


喪心使の皆、ニュースはもう聞いてるだろう。頼んだぞ。各地のノードから誤差を収集し、調整結果を他のノードに伝えるんだ。君たちはもう、ギルド発足当時のひよっ子とは違う。プロとしての実力を、存分に発揮してほしい。

こういう感じの励ましを、今まで何度も貰ってるんだけどね。新しい旅がまた始まるって思うと、いっつもワクワクしちゃうんだよなあ。

空泡番号: DV-S8
投稿者: 涙の歌い手 舒詠墨
徴標ベクトル: [UD1ROC1HAO4G0DBXPDO4]

みんなー、いってらっしゃーい!英雄たちを、歌声であまねく讃えてください!道のりが遠くても、彼らを孤独に、失意に沈ませてはいけません。世界に散らばる、涙の歌い手の皆さーん!すべての頑張る人たちに、あなたの歌声で、勇気とチカラを届けてください!

ノードはどんどん増えてってる。でも、ウチら涙の歌い手にとっちゃ、ぶっちゃけ巡回ライブみたいなもんっしょ!

空泡番号: H5-BM
投稿者: 蝕金職人 孔珹器
徴標ベクトル: [BZ2A83S5F55EOGK281GX]

ふぅ、俺もずいぶん、年を食っちまった。ギルドはお前ら、若いモンの領分だ。客をガッカリさせんなよ?しっかりやってりゃあ、だいたい上手くいくだろう。お前らの才能と技術なら、蝕金職人の看板を汚すことは無いって、俺は信じてるよ。

心配なさらないでください、孔師匠。ギルドは今、大活躍です。ノード公開鍵共鳴器を、どこの空泡民もみんな、欲しがってますから。嬉しい悲鳴が上がってますよ!

空泡番号: 10-CA
投稿者: 研究員 牧珍
徴標ベクトル: [YO0S2ZSS3MAY3IR0GAJ4]

異常とはつまり、異常だ。異常には道理が通らないのだから、異常が「なぜ」異常なのかを、無理して探る必要はないのは分かってる。でも……やっぱり、どうしても気になってしまう。稀金はいったい、何なのだろうか?

稀金が虚物質の中にあることは知っている。だからこそ、"アルファケンタウリ"文明も、虚物質に入る前の私たちも、稀金の存在に気付かなかったのだ。しかし、なぜ虚物質の中にあるのか?なぜ意味流に反応する?私たちの徴標ベクトルに、なぜ啓示を与えるのか?それがアノマリーだってことは分かってるし、未だ解明されていないことも多い……だが、それではあまりに不合理ではないかと、私はそう思わざるを得ない。

空泡番号: OI-IO
投稿者: 喪心使 隆良俊
徴標ベクトル: 不適用

空泡に着いた時、ノード11の管理者は昏睡状態で、声が届くかどうか分からないと言われた。けど、僕は反論した。彼にはきっと、聞こえている。どんなノードでも、軽く見ちゃいけない。ノードってのは、僕らとはまるで異なる存在なんだから。

そこで僕は、ノードの現況とマトリクスの誤差データを、万章さんに大声で叫んでみた。誓っても良い。彼が微かに笑ってるのを、僕は確かに目にしたんだ。

結局、僕は正しかった。部屋を出てすぐに、調整されたノード公開鍵を受信したんだよ。

空泡番号: N0-FS
投稿者: 涙の歌い手 キアラ・アルベルティ
徴標ベクトル: [QUPH3PTKPAWSRX0BXOJX]

インスピレーションを求め、ノード12を訪れたの。

子どもの世界は、大人の世界と違う。子どもの世界は純粋で、シンプルで、夢と幻想に満ちている。空に浮かぶ雲から、あの子たちは無数の存在を見出だせる。それができる大人なんて、ほとんどいないんじゃないかしら……?ひょっとすると、私たちの体内にも、見えない子どもが眠ってて、私たちに起こされるのを、ずっと待っているだけなのかもしれない。夢をまた取り戻せば、私たちにだって、奇跡を起こせるのかもしれないわ。

私の中の子どもも、多分、歌を歌えるんでしょうね。

空泡番号: HB-5N
投稿者: 上級研究員 冉鵬涛
徴標ベクトル: [L6DW75LF971AEG3AQVJ4]

うちの子が昔、こんな話をしていた。稀金は実は、虚物質のウンチなんだと。

オーケイ……この例えはちょっとばかし、キモいのは確かだ。だがな、幼子の直感はときに、本質を突く場合もある。虚物質が意味流を散漫させるのが、食べ物を呑み込むようなものだとするなら、稀金とはまさしく、虚物質からひり出されたものだ……。つまり稀金は、虚物質が消化できなかった、意味流というわけだ。これこそが恐らく、稀金が意味流の徴標を示す理由なのだろう。これらの徴標こそ、虚物質が意味流を消化できるかどうかを決定付けているのだから。

空泡番号: DT-2N
投稿者: 上級研究員 莘冬
徴標ベクトル: [L6DW75LF971AEG3AQVJ4]

14のノードにまつわる物語を読んできたものの、まだ少し、疑問が心にひっかかっています。人間の徴標ベクトルはどうしてああなのか?どうして私たちは、徴標ベクトルの一部を変えることができるのか?

稀金が私たちに啓示を与えてくれることは承知しています。しかし、正直なところ、私にとっては抽象的過ぎる「啓示」も少なくありません。14人の管理者の、ノードに至った過程は……真面目な話、筋道のない「儀式」のようなものだと思いませんか?それが徴標ベクトルに至る手段だと、14人の管理者はいったいなぜ、一致して認識していたのでしょうか?

そのうえ、彼らは皆、成功を掴んでいます。これはもはや、14回続けて起こった、奇跡みたいなものだっていうのに!

空泡番号: TK-3N
投稿者: 蝕金職人 晃玉軒
徴標ベクトル: [PPZQOF4645QFTVMG2EA4]

ノード14の管理者に、何かプレゼントしようと思ってね。稀金で一組、ダイスを作ってみたんだ。四面、六面、八面、十二面……それと、一番デカい、二十面のダイスも。これは古いゲームブックから取ったアイデアだ。彼にピッタリだと思わないか?

ランダム性を表すものとして、ダイスほど相応しいものはないだろうよ!

空泡番号: F6-JN
投稿者: 上級研究員 グエン・ティ・ゴック・リン
徴標ベクトル: [L6DW75LF971AEG3AQVJ4]

ノードマトリクスも完成間近ですので……財団で長年勤めてきた者として、一言述べさせてもらいます。……探究は、それほど深くなくて良い。ソレを感じるだけで、十分とも言える。我々の「どうして?」に、アノマリーが答えてくれる機会はそうそうありません。我々は「どうして?」を探らず、ソレがいかにして、この有為転変する世界に居続けられるのか、いかにして、人類文明の守護に役立つか、そこに絞って探究するべきだと思っています。

ひょっとすると、虚物質に稀金、徴標ベクトルといったものはすべて、あった方が面白くなると、この宇宙が思ったゆえなのかもしれません。我々が知る由はないでしょうがね。

空泡番号: F6-JN
投稿者: 研究員 銭康平
徴標ベクトル: [6SCXJJNTMH6N4HKQ72PH]

14のノードに関しては……私もまた、「儀式」的な視点で考えることがある。その手法が有効だと、管理者たちが信じるからこそ、有効になったのかもしれないと。

されど、「信じる」……信念ともいうが、これは相当に、重たい言葉である。何となくで「信じ」ても、ノードに成れるわけではないのだ。何らかの事柄や人間、思想に、我が身を投げ打つ覚悟が必要になってくる。自らの道を貫き通すことが肝要だ。稀金は私たちに、1つの方向性を示してくれる。その先へ辿り着くには、自身の才能を全力で信じねばならない。

先へ至った者達を、虚物質は決して理解できない。虚物質は意味流を憎み、呑み込み、攻撃する。その一方で、虚物質は我々の個性を、信念を通じて、ユニークな存在になりうることを、理解することができないのだ。よって、輝きを放つ者が一定数に達した時、虚物質はもはや、我々を阻むことは無くなるだろう。

人は生まれながらにして、奇跡を起こす力を備えているといっても、過言ではない。我々がそう信じていれば、それで良いのだ。

もちろん、これはあくまで、私個人の想像にすぎない。今後、新たなノードが現れた時──すでにもう、候補者は見つかっているがね──彼らが我々に、より詳しいことを教えてくれるだろうさ。

空泡番号: 5N-1N
投稿者: 喪心使 耿佳
徴標ベクトル: 不適用

ノード1からノード5、修正完了を確認。

空泡番号: E8-OX
投稿者: 喪心使 万冷菱
徴標ベクトル: 不適用

ノード6からノード10、修正完了を確認。

空泡番号: XW-JA
投稿者: 喪心使 石茜
徴標ベクトル: 不適用

ノード11からノード14、修正完了を確認。

空泡番号: QM-LM
投稿者: 研究所主任 パサン・ドルマ
徴標ベクトル: [U4HXIK93Z13N4RAT44C8]

本日、ノードネットワークの最終バックプロパゲーションが終わり、全ノードの修正が完了しました。これらは相互に接続し、待望のノードマトリクスを形作りました。現時刻をもって、我々研究チームは新たなプロジェクトを、ここに発表いたします。

ノード15 - コードネーム「放送-BROADCAST」、空泡QM-LMに所在。私、パサン・ドルマが担当。

15番目となる放送ノードは、通常のノードとは異なります。 エベレスト山頂の稀金信号塔を利用し、東土全域に14基のノード公開鍵を放送します。これにより、東土域内のあらゆる空泡が、最寄りのノード公開鍵を常時受信できるようになります。稀金製の公開鍵共鳴器を使えば、自身の意味流にノード公開鍵を含ませ、虚物質の妨害なく、空泡間を往来できるようになるのです。

同志諸君、我々は成し遂げました。ノード管理者14名の献身と犠牲に、感謝申し上げます。すべてのノードは、永遠に不滅永垂不朽となるでしょう。

無論、これが業務の終わりを意味するものではありません。ノードの管理者にだって、休養は必要なのですから。我々は今、転ばぬ先の杖を欲しています。新たなノードを探し続け、ノードマトリクスの持続性を高める必要があるのです。西域司令部では未だ、虚物質が猛威を振るっていると聞きます。すべての研究資料を送り、彼らの自由を、勝利を支援しなければなりません。

同志諸君よ。虚物質を乗り越えましょう。我々は今、世界を跨いでいるのです。

ノードマトリクスの完成から3年後、我々は再び、空泡IN-SCに足を踏み入れた。20標準年にわたり、演算を続けていたあのAICは、ついに結果を導き出していた。AICが演算していたのは、人類文明が有効な徴標ベクトルを通じて、互いに繋がり合う確率である。最初に尋ねたのはもちろん、その確率がいくつなのか、ということだった。

AICは答えた。シミュレーションの結果は、99.8724%。誤差は許容の範囲内で、ほぼ確実に起こる事象である、と。

至極当然に、新たな疑問が浮かんだ。2度の演算で、ここまで異なる結果が出たのはなぜか?個々人の成功を、独立した事象とみなした時は、ほとんどゼロに近い、奇跡に等しい確率しか出なかったはずだ。それなのに、今度のシミュレーションでは、ほとんど必然的に生じる、宿命の如き確率となっている。この差はいったい、どこにあるのか?我々は再度、AICに問いを投げかけた。

AICは答えた。なぜならこれは、独立した事象ではなかったからだ。最も過酷な条件下にあっても、虚物質の隔たりが、今より深刻なものであっても、一筋の繋がりさえ成り立てば、火花は燎原の火となり、燃え広がっていく。人々が希望を捨てない限り、ほんの小さな節点でも、最後には必ず、すべての人間を結び付けるのだ、と。

別れ際、AICが問い返した。現状は今、どうなっている?人類は互いに、繋がりを取れたのか?

答えは決まりきっていた。


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