クレジット
タイトル: SCP-XXXX-JP - あの夏休みの出校日のプールの水面の輝きに心踊らないのであれば、それは多分あなたの心が既に踊ってしまっているからなのでしょう
著者: ©︎
santou
作成年: 2019
SCP-XXX-JP-1-43の出現した片又小学校のプール。
アイテム番号: SCP-XXXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの発生に備えて5月から9月まで日本国内の全ての小学校のプールは常に監視されます。SCP-XXX-JPが発生した場合、SCP-XXX-JPイベントの妨害を防ぎ、各種記憶処理・隠蔽工作を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは日本国内で5月から9月に午前中に塩素を吸引した人物(以降、SCP-XXX-JP-1とする)が付近に存在する小学校のプールに転移する超常現象です。科学的、および超常的アプローチによる発生プロセスは解明されていません。条件が揃っても発生しないことが多く、年間に数件しかイベントは確認されません。
SCP-XXX-JP-1は日本国の初等教育における水泳授業を体験したことがある18歳以上の人間です。転移する時間はSCP-XXX-JP-1の体験した授業の開始時間と一致することが判明しています。また、当人や周囲の人物へのインタビューから、精神的に疲労している傾向にある人物が選ばれやすいことが分かっています。
SCP-XXX-JP-1はイベント中に幻覚(以降、SCP-XXX-JP-2とする)を認識します。SCP-XXX-JP-2はSCP-XXX-JP-1が小学生であった時の友人の姿で出現し、一貫してSCP-XXX-JP-1を水泳に勧誘します。SCP-XXX-JP-1は躊躇しますが、しばらくすると入水し、水泳を楽しむ様子が観察されます。また、曇天が晴天に見えるなど、毎回異なる幻覚が発生するケースが確認されています。
イベント開始時間から1、2時間程経過するとSCP-XXX-JP-1は異常性について再認識し、プールから退出します。退出した時点で幻覚は消失し、SCP-XXX-JPは終了したと見なされます。SCP-XXX-JPは精神的強制力を持たず、終了後のSCP-XXX-JP-1はリラックスした様子を見せる場合もあれば、軽い鬱症状が見られる場合もあります。
強制的にSCP-XXX-JP-1をプールから退去させるなどのイベントを終了させる行為を行った場合、幻覚は消失せず、SCP-XXX-JP-1を勧誘し続けます。記憶処理などによっても幻覚は消失せず、イベントを通常通り遂行させる以外の方法はありません。
映像記録: SCP-XXX-JP-1-43
以下は2014年7月23日に愛知県あま市にある片又小学校で発生したSCP-XXX-JPの映像記録です。SCP-XXX-JP-1-43は28歳の成人男性で商社に勤めており、その日は143連勤目でした。
注釈: 括弧内はSCP-XXX-JP-1-34がインタビューで話したことを参考のために載せている。
<記録開始>
8:50: SCP-XXX-JP-1-43がプールサイドに出現する。(プール内にいるSCP-XXX-JP-2から勧誘を受ける。)
8:55: ジャケットを脱ぎ、Yシャツの袖を捲り、手を水に浸け、心地よさそうに会話を行う。その際にプールに落下する。吹っ切れた様に泳ぎだす。(SCP-XXX-JP-2に手を引かれたために落下した。)
9:03: プールサイドに上がりパンツを脱ぐ。飛び込み台から飛び込み、泳法に沿って水泳をしている。(SCP-XXX-JP-2と競泳を始める。)
9:35: プールサイドに上がり、休憩をする。寝転がり、日光浴を行う。
9:58: 突如起き上がり、手を使い"水鉄砲"遊びをする。(プールから水を飛ばしたSCP-XXX-JP-2にやり返した。)
10:05: 水中でバブルリングを作って遊ぶ。
10:18: プールサイドに座り込み、腕時計を確認する。直後に周りを見渡し、慌てる。苛立ったようにSCP-XXX-JP-2と話してから、プールから退出しようとした直後に数秒間静止してからパンツ・ジャケットを着てプールサイドのベンチに座り込む。
<記録終了>
インタビュー記録:SCP-XXX-JP-1-43
対象: SCP-XXX-JP-1-43
インタビュアー: 真山博士
<録音開始>
真山博士: プールに移動する前に何がありましたか?
SCP-XXX-JP-1-43: コーヒーでも入れようと思い給湯室に入ったら塩素の匂いがしたかと思ったら、突然あのようになってました。
真山博士: では、プールで出会った井口氏の幻覚の言動について教えて頂けますか?
SCP-XXX-JP-1-43: 幻覚は昔と変わらず、というか昔の姿そのものなんですけど…元気で楽しいヤツでした。だから、まぁ、少しの間遊んでもいいかなぁ、って。スーツも濡れてしまったし。確かにプールに対して明らかに執着していたのは気になりましたが。
真山博士: なるほど。ではどうしてそんな彼に最後苛立ったような態度で接したのですか?
SCP-XXX-JP-1-43: 遊び疲れて2度目の休憩をしようと思ってプールサイドに手をついた時、自分の腕時計が目に入ったんですよね。そこで商談の予定を思い出して、一瞬で血の気が引くような気分になってしまって。
それで、今からどうしたら商談に間に合うか、どうしたら言い訳できるか考えていたら、井口が無邪気な声で「どうしたんだ」って繰り返し聞いてくるんです。ノイズのように思えたので、「もう帰る」って言ったんです。
その時、立ち上がったら突然水面とみんなが遠くなって、いつのまにかスーツも着ていて、自分は静かな夏休みの学校のプールサイドに一人で立っていました。なんとも説明し難い寂寥感が私を襲い、仕事のこともどうでもよくなってしまい、日陰のベンチでへたりこんでしまいました。
真山博士: なるほど。子ども達がいなくなる前と後でプール全体の様子は変わりましたか?
SCP-XXX-JP-1-43: なんというか…物悲しい雰囲気になったような気がします。自分の心の持ちようかもしれませんが。
真山博士: なるほど。これでインタビューを終わります。ありがとうございました。
SCP-XXX-JP-1-43: あ!あと、匂いが違ったんです!
真山博士: 匂い?
SCP-XXX-JP-1-43: 子ども達がいなくなる前はあの時の給湯室の匂い…つまり塩素の匂いがしていたんです。
真山博士: そのような刺激臭の中よく遊べましたね。
SCP-XXX-JP-1-43: それが、まったく気にならなかったんです。でも、ベンチに座ってプールを眺めていた時に私はもう一度嗅ぎ直しました。すでに匂いは変わっていました。それは塩素の匂いではなく、プールで嗅いだことのある、あの匂いでした。
<録音終了>
表現したかったこと: 人は実際の情景に憧れて日々を懐かしむのではなく、その過去への情念と一種の思い込みがそうさせているのではないだろうか
スポイラー: SCP-XXX-JPが再現するのはSCP-XXX-JP-1の子ども時代への深層心理的な懐古です。-34は特に思いが強く、水中に入ってからは自らが子どもがあるかのように錯覚しています。なので、大人の象徴である重い腕時計を見たり、仕事の予定を思い出した際に大人に戻ってしまいます。その際に身長も戻り、プールや子ども達が遠く感じたのです。"匂い"は「人は実際の情景に憧れて日々を懐かしむのではなく、その過去への情念と一種の思い込みがそうさせているのではないだろうか」というメインテーマを強く表現しています。プールの匂いの原因はトリハロメタンであり、塩素によるものではありません。-43の憧れを構成する思い込みが原因でプールは塩素の匂いがしていたのですが、SCP-XXX-JPが終了すると実際の匂いであるトリハロメタンの匂いがするようになったのです。この時に-43は自分の懐古する心に気づき、それが実際のプールに存在するのではなく、過ぎていった日々にあることを知り、寂寥感に襲われたのです。
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