美食家とイバラード

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目が覚めた。今のいままで、夢を見ていた、ということを実感する間もなく「夢」についての記憶は霞がかかったようにぼやけてしまった。自分はどんな夢を見ていたのだろうと思い出しながら、無地も糞もない真っ白な天井から目を背けて身を起こす。
ベッドに残る匂いは自分の体臭とお日様、そして汗の匂い。しかしそんな臭いものでもなくやがて二度寝を手招きする妖精が現れていた。だがそんなものに負ける自分ではない。いつもの癖で頬を思いっきり叩くのだ。

パチン。

部屋には寝起きであたたかい手のひらと何故かつめたい頬が弾ける音がした。

「朝ごはん…」

そうだ。朝ごはんを用意していなかった。今日は休日であるが、昨日の疲れが取れず着替えてシャワーを浴びてベッドに突っ伏したんだったな。 早速僕はいつもの服装、黒のジャケットとマスクをつけ、財布と袋をポケットに詰め込むと早朝の街に繰り出した。

早朝の街は、なぜか活気があった。その理由はいろいろ考えられる。

今日は新王の即位式である。ここ片田舎では国民総出でそれを祝うのだが、都会ではいそいそと働く労働種と知能種ばかりでそんなことを気にしていられる余裕は無いそうだ。
新しい植民地星が見つかった次の日。僕らのトルヒたちはは近年ではどんどん数が増えて飼育場が手狭になってきていると聞く。個体全てに管理が行き届かねばそれだけ不衛生な肉になるわけだから、全てを安全に育てられる場所が増えたのは国民に取って喜ぶべきことだ。
トルヒたちの旧支配からの独立記念日。かつて私たちはトルヒという食料ごときに統治、飼育されていた過去がある。今でさえ敬意を持つべき動物だが、そういう日があっても良いだろう。

市電に乗って街をブラブラ散策する。自分が生まれ育った街なのにも関わらず、意外と知らない裏路地が存在するものだ。赤、黄、緑とカラフルな軒をところ狭しと並べる商店街では更に活気ある声が響いていた。

「えー早朝出荷!とっても新鮮、早朝に卸された新作モデルのトルヒだよーっ!」

「ねぇねぇこの骨グッズめっちゃ萌えるくない?特に肩甲骨とか!」

「やべー課題終わってねぇ。内臓わからんから俺、ガチのトルヒ買ってきて捌くわ。」

学生の声も多く聞こえる。こんな朝早くから外出とは、新しいグッズでも売り出したのだろうか。そう思いながら散策していても、足は自然にいつもの路地裏の精肉店へと向かってゆく。その正面にあるショーウィンドウにはスーパーで買うよりずっと高いのに
「大特価 純正トルヒ30000スコル」とある。いつもは見ない張り出しに余計興味を覚え、僕は重厚そうな木製ドアをゆっくりと開ける。

チリンチリン。

???:「おや、いらっしゃい。トアちゃん。久しぶりね。」

僕:「ああ、マスター。最近は仕事が忙しくてテイクアウトばっかりしてたんだ。」

マスター:「そうなの。テイクアウトと言うと、『オーガンイーツ』っていうのかしら?うちも助かってるわ。」

僕:「そうだな。まあ金はかかるが新鮮でいいサービスだよ。ところでマスター。前のショーウィンドウは何なんだい?前に派手な広告は出さないって呟いてたくせに。」

マスター:「ああ、あれはね、『特別なお肉』が手に入っちゃったから勢いで貼っちゃったのよ。剥がすのも忍びないからそのまま…」

僕:「ちょっと待て。『特別なお肉』って?気になるんだが。」

マスター:「やっぱり気になるわよねぇ。今回の目玉商品は…『原種』よ。」

僕:「!?原種だと…? 純トルヒなど、とっくの昔に絶滅してるはずだが…」

マスター:「それがね、まだ政府の冷凍庫にあるらしくて、裏の卸店会合でお偉いさんが特別にって安く仕入れてくださったのよ!やっぱりお肌のケアのおかげかしら〜!!しかもこれ、息があるのよねぇ。」

僕:「活き造りか…ワクワクしてきた、というか何言ってんだ、自分から根回ししといて。」

マスター:「あら〜バレてた?しばらく溜めてたお金を握らせたら簡単にOKしてもらえたわ。ざっと20000スコルくらい?」

僕:「握らせた額に比べて、随分とお高くなってるんだな。この原種。一体どういう風に残ってたんだ?」

マスター:「やっぱり最近裏の世界で活躍してる『ドミノゾーン』かしら?なんでも良質なトルヒ飼育場から抜け出した個体たちで、マフィアたちは次々とトルヒを解放して回る彼らを捕えようと血眼みたいよ。ま、わたしには関係ないけどね。」

僕:「それが元ハンターの言うセリフかよ。そんなことまで知ってるなんて、すごいなマスター。そしてさようなら。」

マスター:「えっ?トアちゃん何言っ」

ドン。

マスターが全てを言い終わる前に、俺はマスターの額に鉛玉を1発、打ち込んだ。明かしていなかったが僕の本当の仕事は、「特別肉用種保安管理官」と言うのだ。
その実態は複数のロックと立ち会人変更により秘匿されており、やっとのことで代理人に会えるくらいだという。が、僕は実際ここで暮らしているのだ。実はあの店のマスターは「世界維持型多様生物保護法」により指名手配されている不法なトルヒの取引を行う店長だ。店舗は巧妙に不定期変更されて国でさえ尻尾を少しも掴めない。

「圧力をかければかけるほど、ウイルスはすり抜けやすくなる」

僕の座右の銘。その通り、国には一旦手をひいてもらい、僕が客として潜入する。いくら勘のいい奴だって自分の利益しか考えていない。分かっていても保身のために密告などしないのだ。

そうこうしているうちに、朝食と昼飯も調達
出来た。管理官の押収品には誰も手出し出来ず、処分しようが懐にしまおうが勝手なのだ。

「さて、原種のオスメスとドス黒いマスター。どっちから料理するかな。こんなかさばるもんは持ち帰るのに一苦労しそうだ、車を呼ぼう。傷をつけたらそいつも晩御飯にしようかな。楽しみ。」

しばらく運転させて5分ほど。配達業者はひきつった笑顔を貼り付けて消えた。残念ながら、晩ごはんは自分で作るしかないようだ。

早速朝ごはんを作ろう。だいぶ遅めになってしまったが、誰も咎めるものはいない。上の棚から2メートル弱の血抜きの器具を用意した。
まずはオスから。まだ生きているので慎重に扱わなければいけない。彼は大型の牛刀を研ぐ僕を見て、恐怖心にまみれているようだ。おっと、少し興奮してきた。早めに終わらせよう。頭を下にして足首をベルトで血抜き台に吊るす。そして首の両側の血管にメスを入れる!!!クゥ〜ッ!!!!気持ちいい〜。

トルヒはあらかじめ打っておいた薬でしばらく死ねないのだが、痛みは感じる。喉が張り裂けんばかりの絶叫とともに、血受け皿に大量の血を流す。ああ、なんて快感なのだろう。おっと、額の方に液体が流れてきた。これは旧文化でいう…ナミダ、かな?これがまた自然の調味料になるんだ、舐め取ってあげよう。額や鼻筋、目を丹念に舐めてあげる僕を見て、彼はもう恐怖を超えて絶望しているようだ。声も出さず淡々と自身に行われる行為を目視している。喜んでいるようだ。また、「ナミダ」を流した。しかし絶叫なきところに、解体なし。叫んでくれないと始まらないので仕方なく指を2本捻り取る。気絶も出来ないから、彼はグリッ、ボキッ。グリッ、ボキッ。という気持ちのいい音を聞きながら顎が外れるくらいまた叫んでくれた。

ファイルページ:

ソース: http://scp-jp-storage.wikidot.com/file:7962164-1-c8z4
ライセンス: CC BY-SA 3.0

タイトル:
著作権者: Redimal_mush013
公開年: 2022/6/24
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  1. portal:7962164 (08 Apr 2022 22:04)
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