カスネタ以外なら二次創作でも何でもあります
恥ずかしくなったら一部消すかもだけど、別に履歴には残ってるので気にしないでください(?)
時系列順に並べているので前の方がカスです
1匹のウグイスが鳴きました。
積もりに積もった新雪が、全て溶け切り消えたので。
2匹のセミが鳴きました。
万物を溶かすほどの熱い日差しが、心の臓を燃やしたので。
3匹のコオロギが鳴きました。
セミに負けじと萌黄の木々が、燃え尽き朽葉色になったので。
最後はとても静かでした。
朽葉色の木々達が、カーテンコールと共に葉を落としたので。
巡り巡った季節の果てに、生きた物の"生"活は見違えるほど変わっていました。
ウグイスは数匹の雛鳥を育て、1匹だった者は残り短い"生"活を謳歌していました。
今年はいくつものセミが羽化し、死後に逢える両親に顔向けできるよう、1日1日の"生"活を全力で取り組んでいました。
3匹のコオロギは、住処にしていた空き地だったものを哀悼し、新天地を探す"生"活に出向けました。
今年のカーテンコールと共に落ちる雪は、無慈悲にも -いつも通りながら- 生きたもの達を死へと追いやりました。しかし、皆を包み込んだ冷たい雪は、なぜか -これも、いつも通りながら- 暖かく感じたのです。
あなたはこの子達の結末を知っています。そして、今後も幾千万とこの結末を見ることになるでしょう。あなたは生きています。あなたは今も"生"活しています。あなたは死後、この子達にはなむけできるような存在になれるでしょうか?
刻一刻とカウントダウンは刻まれています。巡り巡った季節にも終わりが来ます。そんな季節の変化と共に、あなたも少しながら -もちろん、良い方向に- 変わっていっているでしょうか?
『風呂は1日1時間』
私の家の浴室ドアには、黒のマーカーでそう書かれた紙が1枚貼られています。紙は経年と湿気でボロボロになって今にも剥がれそうですが、毎日目にする私にとっては"元からその状態だった"ように思えてしまい、新しい紙を貼り直そうと気を起こさせませんでした。
この変な家訓が出来たのは小学2年生…いや、記憶が無いだけで幼稚園児の頃には出来ていたと思います。ただ、小学校の頃は今と違い『風呂は1日30分』という家訓でした。母は何故こんな家訓を作ったのか教えてくれませんが、1つ思い当たることがあります。それは、私が幼稚園に通っていた時期に父の浮気が発覚し親が離婚して、それを機に母の気性が荒くなったという話です。この話は母と仲良くしていたトモコさんが私にこっそり教えてくれました。幼稚園の記憶が無いので確証はありませんが、母がよく父のことで嘆いているのを見かけるので合っていると思います。…ま、風呂と離婚に何の関係があるという話をされたら終わりなんだけどね。でも…
「カスミ!風呂は入ったの?」
「あぁ、うん。今から入るよ。」
母はいつも私のことを気にかけてくれます。食事は全部手作りだし、平日は弁当を持たせてくれるし、送迎の時間に合わせた予定を調整だってしてくれます。母に頼りすぎて俗に言うマザコンだと思われそうですが、違うんです。言い訳に聞こえるかも知れませんが、母の優しさを断るのが怖いんです。
「早く入りなさい!そうしないと私の入る時間が無くなるんだから。」
母はいつだって私に尽くしてくれるから。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
湯船に浸かるのはいつだって緊張する。でも、浸ってしまえばこっちのもんだ。一瞬、湯船に浸った時の独特の痛みが襲い、全身に熱湯が染みる。この感覚だけはずっと慣れないだろう。
風呂は変な家訓に縛られているけど、逆に捉えるなら親の前に取り繕う必要のない自由の時間だ。ここならYouTubeを見たってマンガを読んだって問題ない。でも、1時間は長すぎるかな。
そうして暇を潰しているうちに、1時間経過を知らせるタイマーが鳴った。私はすぐさま風呂を上がって、待たせてしまった母を呼びに行くための身支度を済ませます。そしてリビングの前に来ると、いつも通り母は俯いて父のことで嘆いているのです。
「お母さん、お風呂空いたよ。」
「カスミ……?カスミはずっと"私の……」
か細い声でぐちゃぐちゃとした愛情をぶつけてくる母を、私はいつも通り「そうだよ。」と受け止めます。母は私が近くにいないと、すぐに父のことを思い出して嘆くんです。私に尽くしてくれた分を返せるのは、この時だけだから全力で寄り添ってあげるんです。
「カスミ……アザは引いてない?」
私は間髪入れずに「心配しなくても大丈夫だよ。」と言い、母を安心させます。このアザは、母がつけてくれたものだから。母からの愛情を組み落とす訳には行かないのです。
「良かった。そのアザが消えたらカスミは"私のもの"じゃなくなっちゃうの……」
ぶっとんだ愛情表現だ、と私も強く思う。でも、私は別に構わない。暴力、服従。親と子の関係なんてそれで円満解決なんだから。
p.s. ここからは後日談。突然なんだけど、アザを早く治す方法って何だと思う?あぁ、正解は別に求めてないよ。ボロくなった貼り紙も、貼り替え時だと思うからね。
ピピピ、ピピピとアラームが鳴る
東雲に似合わない音色は一人の演奏者を目覚めさせるのに十分だった
覚束無い様子で時間を確認した彼女は、軽快な足音のセッションを階段と共にする
真っ先に出向くはキッチン、ここには演奏したくて堪らない仲間たちが待ち侘びている
先陣を切るのは何時だってナイフとカッティングボードのコンビだ
トン、トン、トンと拍子を取るのを横目にフライパンはジュー、ジューと機会を伺っている
油を滾らせた鉄の板は、遂に来た出番を見逃さない
ダンスホールと化したフロアで、食材たちは身を照り付かせるまで踊り狂うのだ
そうして一体となった最高傑作は、彼女を満足させるに相応しい一節だった
カーテンのシワをなぞるように脳内で五線譜を描いた彼女は、良いフレーズを思いついたのか愉快に口笛を吹く
呑気に身支度を済ませている間に、時計の針は既に九時を回っていた ……遅刻だ
まぁ、そんな大した用事ではない、今日はゆっくり行こうと自分に甘える
口笛に乗せて革靴とタップダンスを踊り、今日の天気を空想しながら颯爽と扉を開く
彼女の気持ちとは裏腹に、外はザァーザァーと雨が降りしきっていた
悪天候の中、彼女は安値のビニール傘を差す
陽気な口笛の裏には、ピアノの音色が入り交じっていた。
「清澄たる夜闇に崇拝を、情愛に満ちた暗黒に傾倒を」
僕の生まれ育った町には一つ変わった風習がある。それは「夜を崇拝する」といったもの。言葉にするとありふれた風習に思われてしまうが、僕らの風習はそんなもんじゃない。僕らは冬至の真夜中にみんなで集まって、夜へ「崇拝」か「傾倒」を誓うんだ。
今日は12月21日、絶賛冬至の真っ最中。
僕は年がら年中考えても決められなかった選択に再度立ち向い、頭を悩ませてはどっちも同じようなもんだろと悪態をつく。…はぁ、昔はこんな迷うこともなかったのに。全く知識を身につけるとは残酷なものだ。
そうして二の足を踏んでいるうちに、時間は23時を回っていた。もう決めあぐねる暇もない、と思った矢先に町内放送が鳴る。町民なら知っている、夜に誓う定刻の合図。僕はもうその場で決めてやろうと思い急いで家を駆け出す。
僕は星が鮮明に見えるほど真っ暗な夜空に気にもせず、死に物狂いで走る。もう間に合わないかもしれないという考えも、この先に行ってはならないと暗示するような向かい風も振り切って、ただひたすらに。
無意識のうちに着いていた誓いの場所は閑散としていて、人影一つ見当たらない。最悪な展開を想像し立つこともままならない僕に、何かが話しかけてくる。
「遅い、遅れたらどうなるのかお前が一番知ってるはずだ。誓いは決めてきたんだろうな?」
姿は見えない。乱暴な言葉遣いとは裏腹に、妙に優しく情愛に満ちていると感じさせる声。僕は奇妙な声の主を探りもせず、最後の選択を決めるために回顧する。
一一最初はみんな「崇拝」を誓っていた。「傾倒」なんて選択肢はありえないと思っていた。だけど、ある年に一人が「傾倒」を誓った。その人は夜闇に溶けて、いなくなった。みんな恐ろしく感じていた。でも、次の年に七人が「傾倒」を誓った。その中には、僕の妹がいた。そこから先はよく覚えてない。お父さんとお母さんが「傾倒」を誓ったのはいつだったっけ。
僕は頭を整えて、誓いの言葉を告げる。
「情愛に満ちた暗黒に傾倒を」
声の主は嘲るように笑い、誓いを受理する。
嗚呼、指先の感覚がなくなっていくのを感じる。夜闇に溶けるとは何とも不思議な感覚だ。これで、直に妹とも、お父さんとお母さんとも…
ふと足元に目をやる。そこには何も無かった。そして、辺りを見渡す。そこには何も見えなかった。もう、全てを悟るのも遅くはなかった。最初に「傾倒」を誓った人も、妹も、お父さんも、お母さんも、僕だって、みんな暗闇で何も見えてなかったんだ。
午後12時、古時計の鐘が鳴り響く大広間、僕は君にキスをした。
君と初めて出会ったのは父が主催した僕の誕生パーティだったかな。きっと父のことだ、強制参加だと言われていやいや参加した人も大勢いただろう。でも、君はそんな大勢の中、一際目立っていたよ、眩しいほどにね。
何せ、僕の誕生日を心の底から祝ってくれたのは君だけだったから。僕はその日まで「誕生日おめでとう」と言われては金しか握らせて貰えなかった凡俗なお坊ちゃんだ。その優しさに心が射止められないなんてこと、人間には不可能だよ。
ま、要約すると僕の一目惚れだったってこと。普通ならここで終わる在り来りな話、でも、君はそうさせてくれなかった。誕生パーティが終わった次の週、君のことでまだ空想して僕に1つ手紙を寄越してくれたんだ。
「改めて、誕生日おめでとうございます。また○○様の誕生日会に呼ばれることを楽しみにしていますね。」
だって。
こんなの、惚れるなって無理な話じゃないか。僕はこの優しさに縋って、これを機に文通をする仲に至った。最初は君の優しさを疑うこともあった、けど、君の真っ直ぐな気持ちは邪推する僕を追い詰める結果に終わってしまったよ。
文通を通して仲を深めて、何度も顔を合わせて、色んな国に遊びにいって、そうして1年が過ぎた。今日は僕の誕生パーティ、君と出会って生まれ変われた記念日。僕はこんな誕生パーティ抜け出そうって言ったけど、君はそんなことしちゃダメだよと僕を諭す。嗚呼、君はどこまでお人好しなんだよ。
僕と君はそういった他愛のない話をしながら、2人きりで誕生パーティを楽しむ、はずだった。君が突如うつ伏せに倒れ、近くにいた貴女がわざとらしく声を上げる。
「まぁ!彼女はきっと毒林檎を食べてしまったんだわ!12時に鳴り響く鐘の音と共に、王子様がキスをすればきっと意識を取り戻すはずよ!」
時計は11時59分を回っていた。秒針を見る限り、残り30秒といったところか。周りを見渡しても王子様らしき人物はいない。僕は僕自身が王子様なんだと覚悟を決め、鐘と共に君の唇に触れた。
10秒ぐらい経っただろうか。1人の男がこの状況に耐えきれずに吹き出すと、周りもそれに応じて一斉に笑い声をあげる。その笑い声の中には父の声も混じっていた。僕はそんな笑い声には意識を向ける気力もなく、君をただ見つめていた。
君は意識を取り戻すことなく、ただ目を瞑っている。
僕は君をこんな結末に追いやってしまった。いつから?
君の初めてのキスを、寝てる隙に合意もなく奪ってしまった。これじゃこいつらと何ら変わらない。
僕は、君の王子様になれなかった。
お前に言ってなかったことなんだけどさ、実は俺って視えてんだよね。霊ってヤツが。
…………。
あーそうだな、すまんすまん。今まで秘密にしていたことは謝るよ。でもお前知ってるだろ? 俺の親父が除霊師だってこと。ま、要は俺も引き継いじまったんだよね、除霊師の血。
んで、親父の話に戻るんだけど、俺の親父って頑固なくせにヒス気味だろ? それでさ、俺が「霊視える」って言っただけで肩掴んできて「このことは誰にも言うんじゃねぇぞ」って脅してきたんだよ。そんときはまだ小学生だから後先考えず友達全員に言いふらしちゃったんだけど、それがバレちゃってさ。いやー今思い返すとあんときが人生最大のピンチだったね。だって殺された後に除霊させるレベルで怒られたもん。
…………。
おい、俺の話には聞く耳なしかよ。クソッ。
…………。
あー……
さてはお前、俺が霊視えるってこと信じてねぇな? そういうのがお前の悪いところなんだぜ。
こっからは自慢なんだけど、俺って霊が視える人種の中でも結構上澄みの方でさ。もう、1日に1回は視るね。深夜徘徊中にバッタリ、とか、チェーン店でいつの間にか相席、とか。ガラ空きのバスだと思って乗ったら空席全てに幽霊が座っていたときは、俺に視えない霊はいないんじゃないかってマジに思っちゃったよね。
…………。
おい、返事はなしかよ。
…………。
お前、俺ら死ぬまでずっと一緒だって約束したじゃねぇか。
…………。
それでもし俺らどっちか勝手に死んだら、化けて出て呪ってやるって話だったろ。
…………。
おい、無視すんなよ。そういうのがお前の悪いところなんだぞ。
…………。
クソッ。
…………。
…………。
何で視えねぇんだよ。
「そこのお嬢ちゃん、少しでいいから、老いぼれの話でも聞いていかないかい?」
この病室を根城にして直に1年を迎える老婆が、長年酷使してきただろう喉で私に話しかける。用を済ませて暇していた私は、気さくに「なあに?」と返事を返した。
「そんな大層な話ではないんだけどね。最近、思うところがあるの。わたし、今まで長い夢を見ていたんじゃないかって。」
子供は続きを待ち望み、大人は頭に疑問符を思い浮かべる、きっとそんな夢日記の冒頭。無論前者に該当する私は、付近にあった椅子に腰かけ次の言葉に耳を傾ける。
「例えば、小学生の頃は先生を夢に見ていたわねぇ。津波警報で避難していた時に転んで怪我した私を避難所までおぶってくれた先生がきっかけだったかしら。あの時は本当に先生のお嫁さんになりたいと思っていたわ。」
どうやら蓋を開けてみれば、聞いた者皆が目を輝かせる話ではなく、聞き慣れた一人の老婆の昔話だったようだ。興味も気力も失せた私は、老婆の話を止める訳でもなく、ただひたすら言葉を右から左へと流すのであった。
「……で、昔話はおしまい。それで、今まで夢を見ていたって話に戻るんだけどね。」
突如放たれた老婆の一言。完全に油断していた私は眠った頭を無理やり起こそうと試む。
「こんなに語ってなんだけど、昔のことをよく覚えてないの。お嫁さんになりたいと思った先生の名前も、3年間付き合って最悪の別れ方をした彼氏の名前も、それに何気ない日常での出来事だって全部。まるで夢から目覚めた時みたいに、断片的にしか覚えていなくて。」
「1週間前からそれに気付いてね。お嬢ちゃん、実は毎日来てくれてるでしょ?だから、話しとかなきゃなって。」
突然の告発に理解の追いつかない私は、1本の電話が鳴り響くまで愕然と固まっていた。時計の針を8時を指している、きっと父が迎えに来たのだろう。残された時間の少ない私たちは、様々な思いを胸にこう告げる。
「また明日ね、お嬢ちゃん/おばあちゃん。」
「ねえ貴方、どうして私達は踊っているの?」
「さあ? 僕も分からない。だって、目が覚めた時には既に君とここにいたんだから」
「それは踊っている理由にならないわ」
「ああ、君はまだその段階か。踊らされていることを知らない、愚かな子羊よ」
「まあ、ひどい! 私は少しからかっただけよ。過去の話をしたい訳じゃないわ」
「知ってるさ。君のことくらい」
「貴方も私をからかうのね。貴方がその気なら、私も話してやろうかしら」
「ああ、この展開も知っていたよ。続けて」
「……私、子供の頃からバレエをやっていたの。お父さんに辞めたい時に辞めればいいと言われて始めたのだけど、半年も経たずして結果を残して、祝いにチュチュを買ってもらってね。辞めたいと思った頃には、もう辞められなくなってた。お父さん、いつも言うの。次のバレエ姿が早く見たいな、って。その言葉で人を殺せるなんてことも知らずにね」
「暗い話はここまでにしよっか。今は貴方もいるし」
「でも、良かったのか?」
「何のこと?」
「僕とのことだよ。年中踊り子の君になら、今も踊らされていることくらい分かるだろう」
「その……私は貴方のこと気にいってるのよ?」
「……それはすまないことをした」
「これからの人生、私と踊ってくださる?」
「勿論。僕の掌で踊ってくれるのは君だけだからね」
「……ったく」
「いやぁ、中学振りだね! 元気してた?」
「こっちは大丈夫だよ。そっちは?」
「私も大丈夫! それにしても久々に会うってのにこんなことになるなんて、変わらないねぇ」
「はは……」
凛とした顔立ちに真っ直ぐとした眼差し、そんな姿に削ぐわない猫のような無邪気な性格。中学の頃から変わらないのは君の方もだ。
「私達、何で付き合ったんだっけ?」
「あの、ちょっとした悪ノリでカースト上位の女子に告白しようってなって」
「ああ、あのいじめか!」
「そう率直に言わないでよ」
中学の頃、僕は3人のクラスメイトに虐められていた。金を強請られるなんてことはなかったものの、物を隠すとか無茶振りさせるとかは日常茶飯事だった。中でもちょっとした問題になったのが、学校一の美女と名高い玲奈に告白するといった無茶振りだ。
「今って彼氏いるの?」
「ん? いないよ」
「そっか」
微かに願っていた希望が見え、期待が高まる。今日会いたいと言われて来たものの、肝心の目的をまだ聞いてなかったのだ。
「今日ってもしかして」
「駿くんってさ、神は信じてる?」
え?
「浄神宗教って名前なんだけどさ、興味無い?」
美咲は僕の告白に二つ返事で了承するぐらい単純で初心な子だった。いつか、こんな詐欺にも引っかかるんじゃないかと思っていた。その時は俺が守ろうと思っていたのに。
「その宗教、誰の紹介だ? 俺もそいつと話をしたい」
「教祖様の教えだよ。でも、無教徒が教祖様に話したいなんて、一種の冒涜にあたるんじゃない?」
バカ。俺はもう神聖だった美咲を知らねえ奴に冒涜されてるんだよ。
君は透明で透き通って何にでもなれそうで、いつか消えてしまうんじゃないかと思うほど儚く美麗な女性だった。
僕はそんな君に夢中になっていた。頭の中ではいつも君のことばかり。君の内情から膵臓の形まで、全てを知りたいと思っていた。
そうして君に骨抜きにされて早三日、ある機会が訪れる。最寄りのコンビニで彼女を見つけたのだ。君の家とここのコンビニはそう近くない。つまり、この機会は今回だけ、という可能性もある。僕は今までの夢想を棒に振らないように、こっそりと君に近づいた。
捕獲は思ったより単純だった。君のことだ、蝶にでもなって逃げてしまうかもと思っていたが、案外そういう訳にはいかないらしい。僕の夢見た君とは少し違ったみたいだ。
だが、ようやく君のことを知れる。君の趣味は?君の特技は?君の夢は?君の性格は?君の初恋は?嗚呼、君への探究心が問いとなって口から溢れ出してくる。やっと君が分かるんだ。教えてくれよ、骨の髄まで。
幾つの晩を明かしただろう、僕は溢れ出していた口をようやく抑え込み、君に目を向けた。そこには悲惨な光景が拡がっていた。透明で透き通って何にでもなれそうな、そんな君はどこにも見当たらなかった。目の前にあるのは、黒く濁って薄汚くて一変たりとも動かなそうなゴミが1つ。
嗚呼、どうして、どうしてどうしてどうして。君に目を向けてしまったから?君に触れてしまったから?君を知りすぎてしまったから?そういったしょうもない自省を繰り返し、儚い君への哀悼を告げる。
「次は理想の君になってね」
そう言って目の前のゴミを指で弾くと、砕けて散って粉々になった。嗚呼、僕は生まれ変わった君を探しに行くよ。
小学1年生の展望
「パイロットになりたいです」
どうせ何の知識もないガキが、飛行機で飛び回る自分を想像して書いただけのクソみたいな展望。こんなのから夢なんて大層なものは感じられない。
小学6年生の展望
「先生になりたいです」
あーでたでた。困った時に書く定番のやつね。この歳にもなると、将来ってのが段々と見えてくるんだよ。でも、展望ってのはそう簡単に決まらない。だからお前も思ってないようなことを書いたんだろ?
中学1年生の展望
「先生になりたい」
おいおい、お前はまだ逃げの一手か。ま、進学しただけで変われってのも無理な話か。
中学3年生の展望
「いい高校に行きたい」
何だよこの展望は? ……あのな、高校受験ってのは積み重ねなんだよ。毎日授業態度を良くして、定期テストで良い結果を残して、先生に言われたことを積極的にやって、そこで初めていい高校に行けるチャンスを掴めるんだよ。ここまで分かってないと、いつか人生詰んじまうぞ。
高校1年生の展望
「先生になりたい」
ここまで変わり映えがないと、面白くない。
高校3年生の展望
「第一志望合格」
終わったな。お前の人生。
大学1年生の展望
「教員免許を取る」
……?
大学4年生
「○○のような先生になる」
おい、今までのは俺の展望だって話じゃ
今後の展望
「ご記入ください」
本日は『展望会』をご覧頂きありがとうございました。またのご来館をお待ちしております。
P.S. 貴方はどこで道を踏み外したのでしょう?
先生、あなたの顔が嫌いです。
見たものを透き通すようなぱっちりとした目に、長いまつ毛と可愛らしい眉。子供のように幼い顔付きで、いつも私に微笑んで……ともかく、私より良い顔をしているのが気に入りません!……私、どうやったら先生に可愛く見られるでしょうか?
先生、あなたの性格が嫌いです。
先生は生徒のこととなれば、何でも手を貸そうとします。それが風紀委員会の敵になる存在だったしても。まったく、酷い話じゃないですか!?先生はヒナ委員長の苦労も知っているはずです。……でも、全て終わってしまえば、悪い気はしてないんですよね。なぜでしょう、不思議です。
先生、あなたの仕草が嫌いです。
先生は怪我すると危険なのに、いつも生徒の前に出て守ろうとします。はっきり言って、ここだけは本当に不満です。生徒は先生の思っているより頑丈ですし、先生に怪我させたくないと思っています。ですから、生徒をもっと頼ってください。……もちろん、私のことを頼ってくれてもいいんですよ?
先生、あなたの……
「どうしたの、アコ。何か考え事?」
「ひゃあ!?せ、先生、いつからいらしたんですか!?」
「ひゃあって、ふふっ、驚きすぎでしょ。」
「ちょっと、笑わないでください!それよりいつから……私、何か口を滑らしたりしてないですよね?」
「何も聞いてないけど……まさか、大好きな私のことでも考えてた?」
「だ、大好きなんかじゃありません!」
「へぇ、本当に……じゃあ私のこと嫌いなんだ。」
「嫌いとは言ってないじゃないですか!」
0. 御供は同じ血を通わせた者であること。
午前9時、時計の音が部屋中に鳴り響き、私は現世へ意識を向ける。朝の陽射しは寝付けの悪い私の目を焦がすかのように照らしている。今日で私は20歳、なのに気分は最悪だ。
1. 神は幼児を要求す。生誕し1年未満の人間を御供とすべし。
私の家には代々受け継いできた古臭い伝統がある。それは今から執行しようとしている「人身御供」だ。はっきり言って、馬鹿らしい。でも、私の血筋はそんなことに頼らないといけないほど黒く滲んで濁っているんだ。
2. 神は微細たる人身を要求す。手指足指を剪裁し供物とすべし。
私の母は子供の頃から癌を患っていた。癌と言っても1つじゃない。肺癌、胃癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌。発見できていないだけでまだ多くの癌を患っていたのかもしれない。何せ、医者は母に恐怖感を抱き、精密な診査を受けさせてくれなかったのだから。
3. 神は傷痍した人身を要求す。腕と足を剪裁し供物とすべし。
何も酷い目に遭っているのは母だけじゃない、私の血筋全員がそうなのだ。私の祖母は脳出血、脳梗塞、破傷風を患い、肢体不自由になっていた。きっと私も何かを患っている。だが、今になって確認する勇気は持ち合わせていない。
4. 神は人身たる人身を要求す。体を剪裁し供物とすべし。
こんな血筋でも今まで存続できていたのにはある伝統が関係してくる。そう、「人身御供」だ。不思議なことに一度執行してしまえば、20年は健康に暮らせるのだ。勿論、幼児1人を条件にだが。
5. 神は二十年の晩餐となる人身を要求す。頭を供物とすべし。
母は私を育てるために、私ともう1人の幼児、計2人の幼児を産み分けてくれた。母だけじゃない、私の血筋全員同じだ。私もいつか、子供を育てる時が来るのかな……
「こんな理由で子供を産みたくなかったな」
不意に声に出た願い事。きっと叶うことはない。
ねえ、どうしてお姉ちゃんはまだ立っているの?
「え?ボクのこと?そりゃ、まだみんなの気持ちに答えられていないからね!」
"みんな"って結局、赤の他人でしょ。
「全然そんなことない!ボクのことをいつも支えてくれる人、見守ってくれる人、鍛えてくれる人、そしてボクの頑張りに期待してる人を"みんな"って言うんだ!誰一人だって赤の他人なんかじゃない!」
でも、その足で走れるの?
「そんなの、やってみないと分からないじゃないか!これをやるぞ!…ってときにできないかも…なんて思ってると何もできないじゃん!」
もし怪我なんてしたら…
「あー!キミはもうわからずやだなぁ〜!ボクまで頭こんがらがっちゃうよ!」
「ちゃんと見ててね、今から世界の帝王になるボクが走るんだから!」
お姉ちゃん、ちょっとふらついてたね。
「うーん、やっぱりか。キミと話してるときは最高の走りを見せて納得させてやる!…って思ったんだけどね。…あーあ、今回はボクの完敗!ボクもう疲れちゃったし、家に帰ってゴロゴロするよ。じゃあね!」
待って。
「なーにー。ボクが帰るって言ったの聞こえなかった?」
どうせ、またどっかで走るんでしょ。
「…キミはそういう根性論、ニガテだと思っていたんだけど。よく分かったねボクのこと。」
お姉ちゃんのこと、応援してるから。
「…あー!もしかして今までボクを心配して言ってたの!?なんだよもぉ〜!これじゃボクがわからずやじゃないか!」
あなたとわたしではんぶんこ。
きになるあのこもはんぶんこ。
「まいちゃんお話聞いてた?」
「いや」
「えー、素敵な話してたのに」
「なに」
「金持ちと貧乏っているよね」
「うん」
「なんか嫌だって思わない?」
「え?」
「金持ちの金を分けちゃえば」
「うん」
「素敵な世界になると思うの」
「おぉ」
「だからあげるね」
「なにをあ、って」
「わたしの言葉!」
「ありがとう;;」
あなたとわたしで、
わかちあうことば。
あのことのじかん、
わたしのおだちん、
あなたといっしょに
「はんぶんこ!」。
でも月日が流れて大人になって
喋れる語彙も増えちゃってさ。
「ねぇ由美。今月の「はんぶんこ」の事は忘れてないよね?」
あの頃の言葉足らずなあなたは
どっか遠くに行っちゃってた。
「う、うん。でももう私の方が」
「でも、「はんぶんこ」を私に約束させたのは由美だよね?」
昔、麻衣ちゃんにしたあの話、
あれに実は続きがあるんだよ。
「それは麻衣ちゃんが口下手で」
「何?私が無口で無愛想だから助けてたってこと?ひどいね」
「べっ、別にそういうわけじゃ」
貧乏が金持ちのことを貶めて、
金持ちは全員殺されちゃうの。
「私みたいになるのは嫌だろうし、今回は財布の金で許すよ」
「でも金なくなったらデートが」
正に今の私たちみたいだよね。
私ったら結末を知ってたのに。
「あー、言ってなかったけど洸有くんと私付き合ってるから」
でもね、私殺されたくないよ。
「…何よそれ?まさか私から全て奪おうって訳じゃ
だから、麻衣ちゃんが死んで?
「あなたと私ではんぶんこ?」
そんな関係性終わりにしよう。
「この駅を使うのもこれで最後かぁ……」
今日、青年は憧れを抱き続け都会を目指し、故郷を発つ。田舎特有の時刻表の余白はまるで、そんな彼のこれからを示しているように、広く輝いていた。しかし、
「……はぁ。そう、最後。これで最後だってのに……」
青年はそんな余白に微塵の興味も示さず、次に来る電車の予定に焦点を合わせている。
「俺は……俺は何をやってるんだぁ!」
次の電車は3時間後。家族に「立派な大人になるまで帰ってこない」と宣誓した青年は、この暇な時間をどう潰すか必死に頭を悩ませていた。
①友達と遊ぶ?
いや、全員既に都会に行っちまったからダメだ。
②じゃあ、どっか遊びに行く?
……山か畑しか無いから都会に行くんだったな。
③もういっその事、家に……
ってダメだダメだ!今帰ったら絶対笑いものにされる。
正解は④。ここには何も無いと気付いてしまった青年は、諦めてスマホを開いては後悔で思い詰めてを繰り返す負の連鎖に陥ってしまった。
「この駅ではこんなことばっかりだ」
本来なら他愛のない愚痴で自身を正当化しているだけとしか思えないが、今までに通算26回電車を逃している青年だからか謎の説得力を感じさせる。
先月のこの日も、友達と映画を見に行こうと約束したのに全員遅刻で電車を逃して、突然1日中鬼ごっこへプラン変更になったのは苦い思い出だ。
思い返せばこの駅では災難な目にあったことしかない。しかしこの境地でまともな交通網はこの駅だけ。つまり青年とこの駅は切っても切れない腐り切った縁で結ばれていた訳だ。
「あーもう!二度と使ってやるか、こんな駅!」
青年の見栄張った台詞が無人のホームに鳴り響く。電車が青年の夢と希望を送り届けるまで、後2時間。
僕は全てがどうでも良くなった。
「願い、聞き届けたり…」
突然目の前に現れた龍がそう告げた時から、僕の全ては本当に"どうでも"良くなってしまった。
今日はPS5の抽選結果の発表日。
→気になる結果は無事落選。
まぁ、"どうでも"良いか。
あ、一番くじも今日からだったな。
→10店舗回っても在庫0。
まぁこいつも、"どうでも"良いか。
こういう風に僕の全ては本当に"どうでも"良くなってしまった。娯楽どころか、飯も風呂も睡眠まで全て。
家に帰ってやることと言えば、どうを見て、どうを食べて、どうに入って、どうと寝て…
いや、「僕は全てがどうでも良くなった。」とは言ったけど"銅でも"良いって解釈するバカいるか!?
「貴様、願いを聞き届けてやったのに文句か?」
突然目の前に現れた龍が分かりやすく悪態をつく。
「お、お前も銅になるんだな。」
「嗚呼、全てがどうでも良くなったからな。」
「いや、どうでも良いってのはそういう意味じゃなくて、人生終わりにしたいな〜的な意味合いで…」
「ふむ、つまり死にたいのだな?」
「ま、ちょっと待て!ごめん、もうどうでも良いとか思ってないから!ただ人生しょうもないから"おもしろく"したいなぁって。」
「願い、聞き届けたり…」
「あっ。」
僕はもう今後の展開を察してた。どうせろくなことにはならないだろうなって。
今日は初恋の人と初デート。
鏡を見ながら櫛で"白い尾"を毛並みを揃えて、願いにはなかったのに何故か生えた猫耳を掃除する。
「全く、白い尻尾に猫耳つけるなんて…」
「めちゃくちゃ分かってるなぁ、あいつ!」
最も危険なのは「誰かのため」の正義だ。
今まで我慢して食い止めてた傲慢さが「誰かのため」になった瞬間、歯止めが効かなくなるんだ、って事ぐらい分かってたのになぁ。
僕はぐちゃぐちゃになった右腕を見てそう内省する。
鈍い音と共にこちらへ意識を向けた住民はパニックになりながらも「誰かのため」の正義を盾に人命救助へ命を張っている。そんなことをしたってもう元に戻らない、「誰かのため」になんて考えはこのザマを見たら無駄だって分かるだろうに。
信号機はとっくに赤から青へ変わっていた。
君の姿はもう見えない。
出血多量のせいか段々意識も朦朧としてきた。
こうなるから「誰かのため」の正義は嫌いなんだ。
内省を繰り返すのも飽きた頃、ふと君の事を思い出す。
君は僕の前だけ甘くてワガママで今にでも食べちゃいたいと思うほど可愛いが似合う女の子だった。
君はそんな子だったから僕も「誰かのため」の正義を振りかざして…歯止めが効かなくなってしまった。
内省から反芻に思考を切り替える最中、1つの疑問を頭に思い浮かべる。
君のワガママはいつだって「推しのライブに行きたい」だの「今バズってるスイーツが食べたい」だの女の子らしく無茶なものばかりだった。
なのに何で今日は「死にたい」なんて。
信号機が青から黄色、黄色から赤へと変わるうちに右腕で君の背中を押した感覚が甦ってくる。
間違いなく最も危険なのは「誰かのため」の正義だな、と僕は右腕があった場所を見て再び内省する。
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任意A任意B任意C- portal:8328726 (10 Nov 2022 11:37)
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