クチナシの花

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPはサイト-81██の低危険度植物型オブジェクト収容室に収容します。

説明: SCP-XXX-JPは一般的にクチナシ(学名: Gardenia jasminoides)と呼称される植物に見える実体です。実験により、外部からの干渉を受け付けない非破壊性質を有しており、また通常の腐敗、劣化の兆候が一切見られない事が確認されています。水分、栄養の補給がなくとも問題なく活動しますが、それらの消費は可能です。

SCP-XXX-JPは未知の方法による発話により、二十代相当の女性の物と思われる音声を用いて会話が可能です。また、特定個人の物と見られる記憶と知識を有しています。SCP-XXX-JP自身には、自らが植物と類似した物体である事についての自覚はあるようですが、それに起因する混乱、戸惑い、自身の状態に対する疑問などは一切見られません。

SCP-XXX-JPは、確保時の状況及びその後のインタビューにより、発見時点で死亡していた女性██ ██氏の記憶と知識を有している事が確認されています。██氏の死亡原因は老化を遠因とした疾病による急死であり、不審な点は発見されませんでした。██氏の遺体も調査されましたが発見当初死後硬直、腐敗などの反応を示さなかった事以外に特異性は発見されず1、生前の██氏が特異性を有していなかった事も後の調査で判明しています。よってSCP-XXXX-JPがどのような形で██氏の記憶と知識を有するに至ったかは不明ですが、その処置を行ったであろう存在として、POI-0872の存在が██氏の遺体が布団に寝かされていた事、枕元に置かれていたメモ、及び後にSCP-XXXX-JPからもたらされた情報により判明しています。詳細は補遺を参照してください。

経緯: SCP-XXXX-JPは19██年█月██日「近所の██さんの家から腐ったような臭いがする」という近隣住人の通報により██氏宅を訪れた近隣派出所の巡査によって、██氏の枕元に置かれていた所を発見されました。その後警察無線による通信を傍受した財団職員が現場に急行し、関係者にはAクラス記憶処理を施しました。
布団に横たわった██氏はその時点で既に死亡していましたが、遺体には前述の通り死後反応及び腐敗の兆候が一切見られませんでした。2その後財団職員にSCP-XXXX-JPは自分が██氏自身であると主張、自身の身の安全と引き換えに収容に同意し、サイト-81██に収容されました。

補遺1: SCP-XXXX-JPからの情報入手の試みは、対象の攻撃的な言動と情報提供の拒否の為、即時には叶いませんでした。以下は収容後36日が経過し、度重なる会話の試みによりSCP-XXXX-JPがインタビュー担当者である済南研究員に対する態度を軟化させた頃に行われたインタビューのログです。

対象: SCP-XXXX-JP

インタビュアー: 済南研究員

付記: インタビューの円滑な進行の為、SCP-XXXX-JPを自身が主張する██という姓でもって呼称しています。

<録音開始>

<冒頭の雑談は重要性の低い会話につき割愛>

済南研究員: それでですね、今日は先日のお話の時に聞かせていただいた、貴方のご子息……息子のような物、でしたか。その人物について詳しいお話を聞かせて欲しいのですが。

SCP-XXXX-JP: 息子ってわけじゃないよ。あたしゃ結婚もしてないからね。息子なんてできようはずがない。親戚とも疎遠だからね、息子だの孫だの、そんなものとは縁遠い生活さ。まあもっとも……あの子があたしの息子だったらなんて事は考えたりもしたけどね。

済南研究員: だから息子のようなもの、ですか。██さんは彼とは親しい間柄だったのですね?

SCP-XXXX-JP: なんだいその言い方は。まるでわたしがあの子に惚れちまったみたいな言い草だね。まったく……親しいっちゃそうさね……そりゃ、親しかったさ。あの子くらいだったよ、あたしのしかめっ面にめげもせず、何を話してもニコニコ聞いてくれたのは。庭師やってたとかで、うちの庭の松を剪定してくれた事もあったねぇ……。枯れかけだったのが、あの子が持ってた薬だかをちょろっとたらしたら見違える程元気になってね。今も庭で元気に茂ってるだろうさ。

済南研究員: 庭師、ですか。

SCP-XXXX-JP: があでなぁ、とか言ったかね。庭の花やらの世話するっていうから、庭師みたいなもんかいって聞いたら「そうですね、そんなもんです」って言っとったからね。違うのかい?

済南研究員: まあ、概ねその通りですね。

SCP-XXXX-JP: あんたも知っとるだろ? あたしゃちょっとした事でも気になって、人にガミガミと説教垂れるのが癖になっとる嫌な婆さんさ。でもあの子はあたしの言う事に逐一うなずいてねぇ……なるほど、為になります、参考になります、ありがとうございます、と……出来た人間だったねぇ。

済南研究員: 彼と最初に出会ったのはいつ頃の事になりますか?

SCP-XXXX-JP: 最初に? ……いつだったかねぇ……確か、そうさね、アレはもう何年になるかねぇ……あたしがたまたま散歩してた時だ。三年くらい前だったかね。あの子が妙に思いつめた顔で、橋からぼーっと川眺めててねぇ。飛び込み自殺でもするんじゃないかと思って声をかけたのが最初かね。

済南研究員: 三年前……。

SCP-XXXX-JP: あんたは死んで花実が咲くとでも思ってんのかい!と説教してやったんだけどね、聞けば花実咲かせる仕事してるっていうから、あんたが死んだらあんたが咲かせられる花は咲かないまんまだよ、そいつらの事はどうするんだいとね……まあ、なんだろうね、今思い返すと恥ずかしい事言ってたねぇあたしも……。

済南研究員: そこから付き合いが始まったわけですね。

SCP-XXXX-JP: 付き合いっても、婆さんと若いのとだから何も浮いた話は無いがね。たまにふらーっとやってくるから、うちで茶を出して愚痴聞いてやるくらいなもんさ。なんでも、職場であんまり上手く行ってないとかで悩んでたらしいねぇ。自分はもっと綺麗な物を作りたいのに、上司は実用的な、利益になるような物を作れとか言って自分の仕事を認めてくれないとかでね。最初の時も本当に死んじゃおうかと悩んでたとか。その時ゃこんな婆さんの前で死ぬだのなんだの言うもんじゃないよ!と大説教さね。あの子が泣いたのを見たのは、後にも先にもその時だけだったねぇ……。

*済南研究員:* ふむ……興味深いです。そういえば、██さんが今の状態になったのが発見された時、食卓には二人分の食事が用意されていたようですが、█月██日にはどなたかと食事でもなさる予定がおありでしたか? もしかするとその相手は……。

SCP-XXXX-JP: なんだか言葉の端々が気になるねぇ……まあそうだよ、あの時は珍しくあの子から電話があってね。なんだかちょっと興奮した様子で「プレゼントしたい物があるので、お会いできますか」とね。  

済南研究員: それで食事を一緒にとろうと、二人分の用意がされていたわけですね。

SCP-XXXX-JP: 自分以外の食事を作るなんて何年振りだったろうねぇ……でもまあ、それでちょっとはしゃいじまったのかね、用意が出来た辺りで丁度心臓の辺りがキューッとしまって、バチーンと目の前が真っ暗になってね……気づいたら目の前で██3の奴がポカーンとしてたわけさ。

済南研究員: ……██さん4が、あなたをそんな風にしたとは考えませんでしたか?

SCP-XXXX-JP: ん? ……まあ、そりゃ考えたけど、あの子にこんな不思議な事ができるもんなのかねぇ。まあ仮にそうだとしても、あたしゃあの子にありがとうと言いたいね。クチナシは一番好きな花なんだ。そのおかげでいままで独り身だったのかもしれない5けど、自分が一番好きな花になれるなんて、女冥利に尽きるじゃないかい?

済南研究員: なるほど。ありがとうございました。本日のインタビューを終了します。また彼については詳しく聞かせていただけますか?

SCP-XXXX-JP: ああ、構わないよ。

<インタビュー終了>

補遺2: 以下は枕元に残されていたメモの内容です。

朽ちる事のない美しさを遺す。
これ以上ない程に完璧に僕はその仕事を成し遂げた。
だというのになぜ?
この淀みの理由がわかるまで、あなたがたに彼女を託す。

メモの内容、及び筆跡と財団所有の日本生類創研関連書類の署名の一致、及びSCP-XXXX-JPの語った青年の風体及び名前の一致などから、SCP-XXXX-JPにPOI-0872が関与している可能性は極めて高いと考えられています。

補遺3: 20██年██月██日、不明な情報源からのリークによって所在地が判明したSCP-████-JPの奪取の為、計画、実行された日本生類創研研究所襲撃において、SCP-XXXX-JPと同種の非破壊性質を示しながらも、発話能力を持たないクチナシの鉢植えが発見されました。同時に発見されたメモより、それがSCP-XXXX-JPと同種の技術により変容したPOI-0872である可能性が示唆されています。以下はメモの内容ですが、一部が襲撃時の影響により破損し、判読不能となっている事に留意してください。

よどみが[判読不能]
[判読不能]わかった
花言葉だったんだ6
僕も[判読不能]██さん7[判読不能]いつまでも

当該物はSCP-XXXX-JP-aに分類され、サイト-81██の低危険度植物型オブジェクト収容室に収容されます。


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