【SCP下書き】『私のことは忘れて。』

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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Safe Neutralized

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-81YAの低脅威度物品収容ロッカーに保管されています。

説明: SCP-XXX-JPは、一般的に「伝言板」1として使用されている黒板型の掲示板です。付属品として由来不明の印の入った白色チョーク1本と、黒板消し1個が存在しています。SCP-XXX-JPへの書き込みはどのようなチョークでも問題なく行えますが、後述の異常性が発生するのはSCP-XXX-JP付属のチョークで書き込んだ場合のみです。現在までのところ、SCP-XXX-JPを破壊および変形させる試みは全て失敗しています。また、発見場所である山形県の旧██線・旧██駅(以下、██駅)から移動させる試みも全て失敗しています。

沈む駅舎

SCP-XXX-JP事象発生時の旧██駅の様子

SCP-XXX-JPは降雨時に、伝言板の「なくし物」を記載する欄に物の名称を書き込むことで異常性が発現します。名称記載後に、SCP-XXX-JPへ書き込みを行った者(以下、対象)はその場から消失し、旧██駅のホーム及び線路のみが存在する異空間(以下、SCP-XXX-JP-A)に移動します。その後、対象がSCP-XXX-JP-A内で一定の行動を取ると、SCP-XXX-JPへ名称を書き込んだ物を得ることができます。発生事象の具体的な進行過程は以下を参照してください。


SCP-XXX-JP事象の進行過程

降雨の発生: 対象がSCP-XXX-JP-Aへ移動すると、空間内の降雨が激しくなります。降雨中、雨水は地面に浸潤することなく地表に溜まっていきます。

列車の出現: 雨水が敷設された線路の高さまで溜まると、雨が止み快晴になります。その後、旧██線上り方から電車が1両出現し、駅構内進入します。電車が停車すると、ホーム側のドアが開き、乗車が可能になります。列車内に乗客が存在した例はありません。対象が電車に乗り込むと次の過程に進みます。なお、対象が乗り込まずに3分経過すると電車はドアを閉めて出発し、当事象は終了します。

沈む線路

ドローンで撮影したSCP-XXX-JP事象発生時の線路。この地点より先は線路が完全に水に沈みます。ドローンではこの地点より先に進むことはできませんでした。

車掌の出現: 乗車後数分すると、運転室から日本国有鉄道2の制服を着用した人型実体が出現します。当実体は、自身をこの列車の車掌と名乗ります(以下、当人型実体を「車掌」と呼称)。車掌は対象に切符を手渡し、望むならばSCP-XXX-JPに書き込んだ「なくし物」を渡すことができること、対価としてエピソード記憶3を一部喪失すること、自身が切符を切れば「なくし物」を出現させられると対象に進言します。この提案は断ることが可能です。対象が記憶の喪失に了承し、切符を車掌に手渡すと次の過程に進みます。

SCP-XXX-JP事象の終了: 車掌が「なくし物」を対象の元に出現させます。対象が「なくし物」を保持すると電車は旧██駅に到着し、ホームに下りることが可能になります。ホームに下り立った瞬間に対象はSCP-XXX-JP-A内での記憶と先述の対価としてエピソード記憶を失います。一つ前の過程で提案を拒否した場合は、SCP-XXX-JP-A内での記憶のみ失います。


当事象で得た「なくし物」は、対象が遺失した物体と全く同じものであることが判明しています。また、遺失物が原型を留めていない状態で喪失している場合は、遺失前の状態で出現します。

車掌は、一般的な成人男性と同等の知性を持ち合わせているとみられておりますが、出自および個人情報の一切が不明です。


発見経緯: SCP-XXX-JPは旧██駅の解体作業中に「駅から動かせない掲示板」が発見されたとの情報を受け、発見に至りました。SCP-XXX-JPの主要な異常性が確認されたのは、2016/6/18にDクラスを使用して行われた確認実験の際でした。旧██駅構内にDクラスのみを滞在させ書き込みを行わせた直後、SCP-XXX-JP事象が発生しDクラスの視認が不可能になりました。

SCP-XXX-JP事象発生の5分後、旧██駅内でDクラスが牛丼を保持した状態で確保されました。当該DクラスがSCP-XXX-JPに「牛丼」と記載していたことから、SCP-XXX-JPに記載した物体が得ることができるものと推定されました。先述の異常性に加え、DクラスがSCP-XXX-JP事象発生時の記憶を保持していないことを受けて、SCP-XXX-JPをAnomalousからSafeへ再分類し、詳細な調査が行われることとなりました。以降、SCP-XXX-JPの異常性が確定できるまでの間、実験はエージェントによって行われることとなりました。

以下は、エージェントによるSCP-XXX-JP-Bの初期探査記録です。

探査者: エージェント・千堂

備考: SCP-XXX-JPに「絵本」と書き込みをしたところ、SCP-XXX-JP事象が発生しました。エージェント・千堂には小型カメラ、音声記録装置、通信機を保持させています。SCP-XXX-JP事象の発生直後、通信は途絶しています。

<記録開始>

エージェント・千堂: 電車内に入りました。一見すると、一般的な車両と変わりはありません。そちら聞こえますか?[5秒の沈黙]通信は切れたようですね。録画機能が生きている補償もないため口頭での記録も続けます。外の様子ですが、地平線の先まで水で満たされています。まるで海の上を走っているような感覚です。車両内は私以外誰も乗っていません。

[車両内の探索中に人型実体が車掌室から出現する]

エージェント・千堂: 人型実体の出現を確認しました。接触を試みます。

車掌: ご乗車ありがとうございます。当車両の車掌を務めております、[判別不能]と申します。██駅の掲示板に書き込みをされた方でしょうか?

エージェント・千堂: はい、そうです。

車掌: ご利用いただきありがとうございます。こちらは初めてのご利用でしょうか。

エージェント・千堂: ええ、そうです。

車掌: では、初めから説明をさせていただきますね。まずはこちらをお受け取り下さい。

[車掌が懐から切符のようなものを取り出す。エージェントはそれを受け取る]

エージェント・千堂: ありがとうございます。これは切符でしょうか。

車掌: はい、その通りです。切符のことも気になるかと思いますが、まずはこの電車のことを説明させてください。この電車は駅の伝言板に書いていただいた「なくし物」を皆様の手元にお届けするために走っております。今回、お客様は「絵本」とお書きになったかと思います。そのため、お客様がどこかにお忘れになった「絵本」を再びお手元に届けさせていただきます。ここまで何かご不明な点はございますか?

エージェント・千堂: 私が今までに失くした「絵本」はごまんとあると思うのですが、それが全て出てくるのでしょうか。

車掌: お望みならばそのようにすることも可能です。ただ、我々の仕事はあくまでお客様が望んだものをお渡しすることです。ですので、お話を伺った上で決定をさせていただきます。

エージェント・千堂: 分かりました。「忘れ物」を得るためには料金か何かが必要なのでしょうか。

車掌: お見込みのとおりでございます。「忘れ物」を得るために必要な対価、それは「思い出」でございます。聡明なあなたには「エピソード記憶」と申した方が分かりやすいでしょうか。その「思い出」を少しばかりいただくことになります。ただ、ご注意いただきたいのは、この「なくし物」に込められた思いの強さに応じて、いただく記憶の量が変化するということです。思い入れのない物ならばいただく量は少なく、大事にされていた物ならば、いただく量は多くなるというわけです。

エージェント・千堂: なるほど。

車掌: そして、先ほどお渡しした切符がございますね。こちらはいわば契約書です。これを私の持っている改札鋏で切ると契約成立となるわけです。

エージェント・千堂: 「忘れ物」の持ち帰りを断ることはできますか。

車掌: 可能です。大体の方はお断りされる気がしますね。ただ、乗車料金と言ってしまっては難ですが、この電車に乗っていた記憶はいただくことになります。残念ながらタダ乗りは許されないみたいですね。

エージェント・千堂: 今の話しぶりだと、「記憶」を欲しているのは車掌さんではないということでしょうか。

車掌: ええ、私は雇われ者でして。何故「記憶」を対価にこのようなことを行っているのかはよくわかりません。ただ私は特に気にしておりません。こうやって乗ってきた方とお話しするだけで乗車料金はいただけますからね。もっとも次に会った時は皆さん私のことは忘れてるんですけどね。

エージェント・千堂: 痛み入ります。

車掌: おっと、失礼しました。つい私事を。さて、そろそろご所望のものをお出ししようかと思いますが、いかがしましょうか。

エージェント・千堂: 見てから決めることはできますか。

車掌: 可能でございます。

エージェント・千堂: では、私が小学生の時になくした絵本を1冊。どれにするかはお任せします。

車掌: 畏まりました。ではひとまずお持ちしますね。

[車掌か運転席へ移動する。1分後、再びエージェント・千堂の前に戻る]

車掌: こちらをお持ちいたしました。

エージェント・千堂: 『はらぺこあおむし』ですか。私が描いた落書きまで…。

車掌: さて、いかがなさいますか?

エージェント・千堂: 今回は遠慮させていただきます。

車掌: 畏まりました。さて、もう少しで駅に到着ですね。あなたの人生が実り多きものになることをお祈り申し上げます。

[記録終了]

補足: 帰還後、記録された映像をエージェント・千堂に確認させたところ、出現した絵本はエージェント・千堂が所持していた絵本と同一であるとの証言を得ています。なお、エージェント・千堂が所持していた絵本は、調査の12年前に廃棄されています。


補遺1: SCP-XXX-JPによって発生した物品を保持するとエピソード記憶を喪失すること、異常性が限定的であることから、SCP-XXX-JP-A内の探査には、財団に雇用されて年次の浅い研究員が割り当てられることとなりました。審議の結果、サイト-81YA所属の佐々座総一郎4研究員が実験担当に割り当てられました。


インシデント記録XXX-JP: 20██/██/██、実験担当者の佐々座研究員がSCP-XXX-JP発生エリアに許可を得ずに進入する事案が発生しました。佐々座研究員はSCP-XXX-JPに書き込みを行い、出現した。以下は映像記録です。なお、この事案発生周辺の佐々座研究員の精神状態は正常であったと証言されています。

<記録開始>

[SCP-XXX-JP内の探索中に車掌が車掌室から出現する]

車掌: ご乗車ありがとうございます。当車両の車掌を務めております、[判別不能]と申します。██駅の掲示板に書き込みをされた方でしょうか?

佐々木研究員: そうです。

車掌: ご利用いただきありがとうございます。こちらは初めてのご利用でしょうか。

佐々木研究員: いえ。

[数秒沈黙]

車掌: 畏まりました。では、掲示板に「いおり」とお書きいただいたのもお客様ですね。

佐々木研究員: そうです。

車掌: 畏まりました。しかし、「庵」とはなかなか古風な趣味をお持ちですね。俗世間を離れて質素な生活を送る。人生も色々です。そのような選択も良いものかと-

佐々木研究員: もちろんその「いおり」でないことは分かってますよね。

[数秒沈黙]

車掌:

佐々木研究員:

車掌: 差し出がましいようですが、「なくし物」を得るためには「思い出」が対価として必要ですが、そちらはご存知でしょうか。

佐々木研究員: ええ。ですが、構いません。

車掌:

佐々木研究員:

【以下、佐々座がなんか大事な人について語る】

車掌:

佐々木研究員:

車掌:

佐々木研究員:

車掌:

佐々木研究員:

車掌: 少しおまけをさせていただきました。

佐々木研究員: なんだそれは。まあ良いか、どうせ忘れるんだから。

車掌: あなたの人生が実り多きものになることをお祈り申し上げます。

<記録終了>


補遺3: 佐々座研究員が意識を取り戻しました。身体検査の後佐々座研究員に対してインタビューが行われました。

<記録開始>

エージェント・千堂: 佐々座さん、お加減はいかがですか。

佐々座研究員: あなたは?

エージェント・千堂: 佐々座さんの診察担当の者です。

佐々座研究員: そうですか。

エージェント・千堂: 記憶がないと伺いましたが。

佐々座研究員: どなたから?誰にも言った記憶がありませんが。あ、その記憶もないのか。

エージェント・千堂: 箸の持ち方や包丁の使い方はなどは覚えてらっしゃると伺いましたが。

[佐々座研究員は数秒思案する]

佐々座研究員: 多分使えますね。でも、使った記憶はないですし、どうやって身に着けたかも分かりません。

エージェント・千堂: なるほど。自転車の操作方法はいかがでしょうか。

[佐々座研究員は数秒思案する]

佐々座研究員: 多分使えますね。でも、使った記憶はないですし、どうやって身に着けたかも分かりません。

エージェント・千堂: なるほど。

佐々座研究員: あの……

エージェント・千堂: どうかされましたか。

佐々座研究員: どちら様ですか?

エージェント・千堂: あなたの診察担当の千堂と申します。

佐々座研究員: ああ、そうなんですね。ならば、聞いていただけませんか?

エージェント・千堂: どうぞ、気兼ねなく。

佐々座研究員: 気持ち悪いんです。

エージェント・千堂: 吐き気などがするということでしょうか?

佐々座研究員: 違います。さっきから私は誰かと話しているのですが、誰と話しているのか分かりません。誰と話しているのか忘れてるみたいです。手から砂がこぼれ落ちているような感覚です。あなたの目の前に置いてあるものの使い方は思いつくのに、使った記憶がないんです。おそらく僕はこれまで生きていたんだと思うのですが、生きていた記憶がないんです。生きていたことは確実なのでしょうが。

エージェント・千堂: いったん落ち着きましょう。

佐々座研究員: 落ち着いてます。ただ、私が何なのかも分かりません。人間であることしか分かりません。人間は記憶を持っているものだと思うのですが、私は持っていません。そもそも、記憶を持つとはどういうことなんですか。そもそも私は人間なんですか。私は誰なんですか。私は何ですか。

エージェント・千堂: インタビューを中止します。直ちに精神安定剤を-

佐々座研究員: 。覚えているのは「いおり」という名だけ。それ以外は-

[数秒沈黙]

佐々座研究員: あれ?

エージェント・千堂: その名前をどこで?

佐々座研究員: わかんない。え、「いおり」って何だ。ものじゃない。多分。なんか大事な。名前。え、でも、ものじゃないの?

エージェント・千堂: 落ち着いて考えましょう。何か思い出すきっかけになるかもしれません。

佐々座研究員: なんで忘れてないんだ。何か大事なものだったはず。一番大切な-

[佐々座研究員が突如笑い出す]

佐々座研究員: ああ、分かりました。なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ。一番大事なもの。一番僕に必要なもの。これだけは残してくれた神様に感謝しなくてはいけないですね。

エージェント・千堂: 何か思い出されたんですね。

佐々座研究員: 分かりましたよ。「いおり」は僕の名前ですよ。

[数秒沈黙]

佐々座研究員: なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだ。一番大事なものなんて、僕の名前以外にあるわけないじゃないですか。思い出せて良かった。ああ、何だか気が楽になってきました。良かった。「いおり」。いい名前だ。もう、絶対に忘れない。

<記録終了>


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