落日
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「血が」
私の声で気が付いて、あなたは己の鼻先を見つめる。
「垂れる」
思わず伸ばした掌にぽたりと血が落ちた。私の手の皺に落ちた血が滲んで乾いた。
「赤い」
「君はたまに当たり前のことを言うね」
二人で向き合って、しばらくそのまま動かずにいた。血は一定のリズムでおちて、はじけて、少しがシーツに飛んだ。二人でそれを見ていた。
「止まらない?」
「うん。手が汚れるよ」
「いいのよ。動けないだけだから」
無理に動かした右腕の点滴針がずれ手首が少し痛んだ。私の血が逆流し管を昇っていた。心臓が手首にあるみたいで、自分の鼓動が近くてリアルだ。指の隙間から漏れた血が大きくシーツに落ちた。これだともうマットレスまでしみ込んでいるかもしれない。
「彼を呼ばないと」
もう意味のない右手はそれでも下げることはできなくてただ血が溢れ続けた。呆けた頭でどうすることもできないそれをただ見ていた。
「咫央」
気力もなく、視線だけでも返そうと顔をあげると私の口元に彼女の指先が触れた。鼻の下から顎の先までゆっくりと指が下りてきて、口元は少し鉄の味がした。
「迦嬰?」
聞きたいこともなかったけど呼ばずにはいられなかった。彼女は同じく気の抜けたような顔をしてただ「赤が似合うなぁ。」と満足そうに笑った。血が乾いて、皮膚を引っ張っている。ベッドも服も、顔も血だらけでもう何を気にするべきかわからなくなっていた。ただ彼女の少し震えた指先を視線で追い続けた。
「煙草が吸いたい」
力ない様子でそう呟く彼女を、私はただ見続けることしかできなかった。
- portal:6120259 ( 24 Jul 2020 04:37 )

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