零時を過ぎて
評価: 0+x

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Keter(再評価待ち)


シンデレラ1.jpg

シンデレラ・プロジェクト、ライブステージ。


特別収容プロトコル:

SCP-XXX-JPの関心の高さから、シンデレラ・プロジェクトは継続されます。これには適切な虚偽経歴が付与されたD-346が引き続き担当に当たりますが、プロジェクトはもはや継続的な活動を必要としておらず、財団のバックアップは最低限のものを除き引き上げられます。

SCP-XXX-JPを起因とするXK-クラス世界終焉シナリオ発生予測に伴うO5評議会の非常事態宣言の発令により、SCP-XXX-JPの速やかな収容、あるいは無力化は財団の最優先事項に指定されました。他の差し迫ったK-クラスシナリオ予防に対応中の一部の資産を除き、財団が有するすべての人員、資金、技術、軍事戦力の投入が認可されています。現在SCP-XXX-JPからもたらされうる影響の拡散を抑制するための対応として、媒体掌握プロトコル"シシュポスロック"、網間検閲プロトコル"プロクルステスベッド"、情報封鎖プロトコル"セイレーンソング"を阻害効果を回避し成立させるための試みが検閲・偽情報部門によって行われています。すべての危機回避の試みが失敗した場合に備え、財団職員を始めとする可能な限り多くの正常な人類種を存続させるため、いくつかの文明未発達/未接触区域への緊急輸送計画が策定中です。これらを円滑に進行するため、複数の主要国家およびGOIとの協調が検討されています。

SCP-XXX-JPの完全な収容は現在不可能です。現在後述のシンデレラ・プロジェクトが暫定的な収容措置として施行中であり、民間への影響の拡散を抑制しています。プロトコル・アポスタシアが

説明: SCP-XXX-JPは少なくともクラス-Ⅴに相当する現実改変能力1を有した、ライブアイドル2として活動する日本人女性です。現在この異常性質はSCP-XXX-JPが抱く最も強い欲求/願望を実現させるための無意識下の行使として、一貫して対象の信念に基づく芸能事情の是正と理想的状況の構築という形で観測されています。これは以下に挙げられるような芸能活動に従事する人物が権威から受ける不当な執行の排除を典型とし、それがSCP-XXX-JPの芸能活動を脅かすものであるほどより顕著に現出し始めます。

  • 血縁、交友、相互利益関係によって生じる公平性を著しく欠いた機会や評価の不均一。
  • 金品、遊興、性的接待といった密約的な利益供与を背景とする待遇格差。
  • メディアや企業による印象操作を目的としたネガティブキャンペーン。
  • 配置転換、業務剥奪、過重労働の強要による業務妨害や退職勧奨。
  • ハラスメント、脅迫、暴力などの手段を用いた個人攻撃。

こうした事象に対する阻害効果の発生は、SCP-XXX-JPを財団による制御下に置くことを著しく困難なものとしています。物理的/精神的/奇跡論的な作用による殺傷や抑留など、SCP-XXX-JPへ危害を及ぼすことを意図したあらゆる干渉は対象から数百メートル以内の範囲において穏当な形式に置換されるか、単純に効力を失うことで失敗します。またSCP-XXX-JPの活動に間接的に不利益をもたらそうとする試みの多くも、準備段階で人員・機材・機会の不備や逸失の発生により継続不能に陥る結果をもたらしました。こうした改変事象はSCP-XXX-JPの意識状態や改変対象への認知の有無に関わらず発生しているように見え、これはSCP-XXX-JPがその能力を常時かつ不随意かつ世界規模で展開しているか、不都合な事態に直面する度その原因を不成立とした現在へ世界を再編纂している可能性を示唆しています。

SCP-XXX-JPが月1~2回の頻度で参加するライブイベント3において上演される歌唱と舞踏、あるいは衣装や背景音楽、照明効果などの舞台演出を含んだライブパフォーマンスの複合は、それを視聴した人物(以下、暴露者)に対する精神作用ハザードとして働きます。これを撮影・録音しようとする試みは一様に機器の不具合によって失敗するため、記録を介した場合でも同様の効果が現れるのかは分かっていません。暴露者はSCP-XXX-JPに対する極度の好感、SCP-XXX-JPに関与しないコンテンツへの娯楽的関心の喪失、常態的な多幸感、攻撃性の低下といった人格と精神の変容にともない、SCP-XXX-JPの熱烈な支持者として振舞い始めます。この影響を除去するための記憶処理を始めとする様々な精神的干渉に対してはほぼ完全な耐性が示されており、これは支持者の剥奪を防ごうとするSCP-XXX-JPからの阻害効果の一種であると結論付けられました。SCP-XXX-JPの活動を制御することの困難さから、これまでに███名の民間人がその影響下に置かれ財団の収容下に引き入れられました。

こうした特性に反し、おそらく反ミーム的性質によってSCP-XXX-JPの活動は世間から過大な関心を引かず、また暴露者も影響を受けた者同士でしか積極的にSCP-XXX-JPの話題を共有しようとしません。これはSCP-XXX-JPの異常性の露見を大幅に遅れさせましたが、同時にその情報拡散は財団の介入以前から抑制され世間的な知名度をほぼ無名状態に保ち続けていました。

SCP-XXX-JPには童話"シンデレラ"の主人公・シンデレラに形容されるアイドル像へ向けられた執着と信仰、および自身をそれと同一化し振る舞おうとする妄想性障害と演技性パーソナリティ障害の兆候が見られます。SCP-XXX-JPが公然と表明するこのイメージは、原典といえる民間伝承やグリム童話よりむしろ近代の二次作品から大衆化した古典的ヒロイン像と、対象が幼年期から養育者に刷り込まれてきたであろう過剰に美化された芸能事情から形成される理想論的アイドル像の混合として表されます。財団の心理学者はこの特異なアイデンティティの形成に関して、SCP-XXX-JPが機能不全家庭で育ったという経歴から、現在の苦境を将来的に達する成功や幸福までの一過程と捉えることで許容しようとする逃避的思考に端を発したと指摘します。

SCP-XXX-JPはこの強固な信仰を核にした欲求/願望の具象という形で、ある時点から自身を取り巻く環境を無意識的に改変し始めたと考えられています。これによって構築されているのは無名/不遇の女性が援助者を得て最終的に大きな成功を収めるという典型的シンデレラ・ストーリーであり、この成立は一定期間の下積み活動の後のマスメディアへの進出という形で定められました。この達成とともに生じるであろうSCP-XXX-JPの活動記録の流出は歯止めの利かない拡散を招き、大多数の人類の意識が改変されるAK-クラス世界終焉シナリオを引き起こす恐れがあります。

SCP-XXX-JPは自身を取り巻く特異な状況に関して、単に自身の才覚と幸運、そして信念に基づく行動がもたらした正常かつ妥当な成果であると信じます。この認識は改変能力を発現させた人物が初期に陥りがちな"否認"の心理段階であり、潜在的には自身の異常性を自覚しているであろうことが示唆されています。異常能力への完全な理解と受容によってその行使が意識的かつ無制限なものへ発展することを防ぐため、財団が行ってきた偽装と説得はこの認識を固持させることに十分な成果を上げています。一方でこの措置はSCP-XXX-JPの妄想を確固たるものに強化し、それを現実世界へより強固に反映させるという負の側面ももたらしました。

発見: SCP-XXX-JPの存在を財団が知覚したきっかけは、異常なマルチ・アーティストとして活動していたクラス-Ⅰ現実改変実体(現SCP-████-JP)の収容に際し行われた交友関係の調査でした。SCP-████-JPは自身で制作した表現物に限り、受け手が抱く印象を好意的方向へ誘導することが可能な異常性を有しており、多様な創作ジャンルで一定の評価と利益を得ては名義を変え活動の場を転々としていました。収容当時、SCP-████-JPは絵画作品を用いたキャッチセールスによる展示会商法を都内で展開しており、行動圏の近しかったSCP-XXX-JPと親交を深める機会を得たとされています。SCP-████-JPはSCP-XXX-JPに自作の楽曲・衣装・振り付け等の提供を行うことで、その活動を最初期から支援していました。現在SCP-XXX-JPに見られる異常性のほとんどはSCP-████-JPの収容とそれに伴う異常効果の遮断を境に確認され始めました。

インタビュー記録-████/XXX-JP

対象: SCP-████-JP

インタビュアー: ██研究員

前書: 当インタビューはSCP-XXX-JPが有するSCP-████-JPに由来した創作物群の徴収の失敗と、その認識災害的な効果の拡散の発覚にともなって実施された。この時点で対象の阻害効果の発生により、数回にわたる初期収容の試みが失敗に終わっていた。

<録音開始, 201█/██/█>

██研究員: こんにちは、SCP-████-JP。今日は██ ██さんの件について、詳しいお話を伺いに来ました。

SCP-████-JP: ██? あー……私の記憶が確かなら、その件については既に十分詳しくお話ししたはずですがね。

██研究員: そうですか。では改めて最初から。どうぞ。

SCP-████-JP: ああそう……まあ別にいいけれど。それで何、あの子について、最初からだって? オーケイ、じゃあ私と彼女との出会いから話そうか。私が彼女を初めて見かけたのは、何の気なしに立ち寄った地下ドルのライブイベントでのことだ。と言ってもステージじゃない。ステージの後に行われる物販の販売ブース……客たちに笑顔で対応する地下ドルたちの背後、薄暗いバックヤードで佇んでいた少女を私は見た。くたびれたツナギを身に着けた、化粧っ気のないぼんやりとした妙に若いスタッフ……それが彼女との出会いで、第一印象だ。その姿を見て私は……あー、なんというか、少しばかり心配になったんだよ。なにせ当時の彼女は端から見ても危うい感じを受けたからね。私が彼女に声をかけた理由はそんなところだ。

██研究員: つまりきっかけは善意からの行動だったと。各地で詐欺行為を働いていたあなたが?

SCP-████-JP: 打算的な理由じゃないのが気に入らない? だったらまあ、オタク相手に金を巻き上げるつまらない生活に倦んでたせいで、女の子を相手に多少なりともの潤いが欲しかったみたいな理由もあるかもね。とにかく、そうした諸々の動機が絡んだり絡まなかったりして、私と彼女の交流は始まった。打ち解けるのに少し時間はかかったけど、そこは詐欺師の面目躍如。交流を重ねていくうち、少しずつその込み入った身の上も打ち明けてくれるようになっていた。なんでも彼女の母親は元アイドル崩れで  彼女はもっと綺麗な言葉を選んでいたが  そいつはかつて自分が目指したその夢を、娘たちを使って叶えようとしていたらしい。要は子供を道具に自分を満たすことしか考えてない典型的な毒親だった。当然、そんな奴に育てられる彼女の人生はろくでもないものになる。彼女は物心ついた時からアイドル稼業や芸能界が如何に素晴らしく希望に満ちたものかと言い聞かせられながら、ひたすら将来使えそうな芸を仕込まれる毎日を送らされていた。家族らしい関りなんてものはろくになく、独り布団の中で絵本を読むのが幼少期の数少ない娯楽で慰めだったと話していたよ。そしてさらに最悪なのは、年齢を重ねていくとともに状況がさらに悪化していったことだ。どうやら母親は数撃つよりも、限られた資金や労力を注力するやり方を選んだらしい。わかるか? 彼女は他の選択肢を潰されて育てられた挙句、その唯一の梯子さえ外されたんだ。あの子は当時、母親の思惑通り地下ドルとして活動する姉たちの裏方をこなす体の良い小間使いとして扱われていた。

SCP-████-JP: けれどそんな境遇より何よりも、彼女を手痛く打ちのめしていたのは業界の実情に対する失望だった。もともと彼女が抱いていたアイドルへの憧憬は、アイドル志望というより一介のファンとしてのものだったんだと思う。どうしようもなく惨めで終わっている自分の人生の中でも、生きていこうと思える希望を示してくれるようなそんな理想のアイドルの存在を夢想してたのさ。いわゆるシンデレラ・コンプレックス4というやつで、そういうものに憧れていたという点では今と変わらない。けれど現場に駆り出された彼女が目の当たりにしたのは、お世辞にも輝かしいとは言い難い舞台裏だった。過度な幻想を抱き続けていた彼女を失望させるには十分すぎるほどに、そこには汚いもので溢れてた。

[息を吐く]

SCP-████-JP: 普通ならそこで夢から覚めて、見切りをつけて離れるなり割り切って迎合するなりするものだ。そうした瞬間は誰にだってある。良くも悪くも、そうした経験の積み重ねが大人になるということだ。けれど彼女はそうしなかった。子供染みた理想を捨てられず、現実を受け止めきれず、どうすることもできないまま灰色の日々を送ってた。だから私はそんな彼女に……くそ、それは本当にただの思いつきだったんだ。深い考えがあったわけじゃない。ただ浮かんだ考えが口を突いて出ただけだ。"君が夢に描く理想のアイドルがこの世界にいないというなら"……。

██研究員: 自身がそういう存在になればいい。あなたはそう彼女を唆した。

SCP-████-JP: そうだけど、おい。それは人聞きが悪いし、なんでそんな怖い顔をする? でも、ああ、確かにそんなこと軽々しく口にすべきじゃなかったとすぐに後悔したよ。それを聞いた彼女に……こんなみすぼらしい姿でステージになんか上がれるわけがないと泣かれたんだからな。だから……ああ、言い出しっぺとして責任を取らざるをえないだろう。灰被りの少女を、舞踏会にまで連れていく。これまでずっと人に偽の感動を与えて金を搾り取ることにしか使ってなかった自分の力を、そういうことに使ってみるのも良いんじゃないかと……その時に初めて私はそういう風に思ったんだ。今となっては、それももう叶わないけどね。

██研究員: つまり、あなたはもはや彼女の活動に関与していないと。

SCP-████-JP: [不愉快そうに]どうやったって今の私に力は使えない。それは十分思い知ってるし、あんたたちも承知のことだろう。その質問から察するに、今日訪ねてきたのは今も変わらず彼女が人気者だとかいう話かい? だとしたら良かった。安心したよ。けど生憎、それと私は無関係だ。零時を過ぎて、魔法は解けた。今彼女が浴びる歓声は、紛れもなく彼女自身の力だよ。

██研究員: ええ、それが今日の本題です。今も彼女はあなたが施した異常性と同様の……しかしはるかに強固なものを帯びて芸能活動を継続中です。

沈黙。

SCP-████-JP: まさか、本気で言ってる?

██研究員: 我々はそれを対象自身が有する異常性によるものと判断しました。この事実について何か思い当たることは?

SCP-████-JP: ないよ。あるはずがない。少なくとも私が知るあの子は普通の……少しばかり夢見がちに過ぎる子ではあったけど、それでもカボチャを馬車に変えたりしてるところなんて見たことがない。彼女は都合の良い夢物語に憧れた……ただの哀れな少女だった。

██研究員: その哀れな少女の前に偶然にもあなたが現れ、超常的な力を揮って夢の舞台へと導いた。私にはそこからして、随分と都合の良い話に聞こえますが。

SCP-████-JP: それは……言いたいことはわかる。あの子が憧れたシンデレラであるために、魔法使い役として私が体良く宛がわれたんじゃないのかと、そう疑っているんだろう。でももしかしたら、私が魔法使いみたいに振る舞った偶然が彼女をシンデレラだと思い込ませる決定的な引き金となっただけかもしれない。いったい何が正しいのか、悪いけど私には判断できないよ。それらしく頭を悩ませるフリならできるけど、そんなことよりあなたたちが本当に知りたいことは別にあるんじゃないか?

██研究員: 率直にいきましょう。我々が求めているのはあれを対して有効な、何らかの具体的な対処法です。

SCP-████-JP: 対処法……対処法ね。つまりあなたたちは私にそうしたように、彼女を囲んで捕らえて閉じ込めるつもりでいる。ならはっきり言ってやるけれど、そんなことは無駄だし無理だよ。あなたたちがいったいどれほどの組織で、どれだけの財力や権力、あるいは暴力を揮うことができるのかは知らない。けれどその手の無粋こそ、彼女が何より嫌い、自分の物語から排除しようとした不純物そのものなんだ。歌と踊りと、愛と笑顔と、希望と誇り……御伽噺のヒロインはそうした綺麗な諸々だけで、どんな苦境も障害も跳ねのけハッピーエンドにまで突き進む。少なくとも彼女が夢に描いた理想のアイドルってやつは、そういうご都合主義の塊なんだ。深く灰に埋もれた少女が魔法によって生まれ変わり、輝かしい結末にまで登り詰めていく。その変遷を阻むことは誰にもできない。

██研究員: ここは現実です。御伽の国でなければ絵本の中でもありません。

SCP-████-JP: そうだね。でも、事実そうなっているんだろう? これからもそうなる。そして最後に待つのは、素敵なヒロインを中心に誰もが笑顔で過ごす夢のような世界だよ。

██研究員: [ため息]まともに情報を提供する気がないのでしたらもう結構。インタビューは以上で  

SCP-████-JP: 待った。要は彼女を止めることができれば良いんだろう? だったら、あるいはそれが可能かもしれない心当たりが一つだけ。

██研究員: なんです?

SCP-████-JP: 簡単さ。あの子をヒロインの座から引きずり降ろせばいい。誰かが輝くばかりの魅力を見せつけて、真にガラスの靴にふさわしいのは自分じゃないと、そう彼女自身に認めさせるんだ。[笑う]なあ、実に単純明快な方法だろう?

██研究員: ……インタビューを終了します。

<録音終了, 20██/██/█>

心理調査の結果、SCP-████-JPがSCP-XXX-JPに向ける執着の傾向は暴露者が等しく示しているそれとは一致しませんでした。これがSCP-████-JPが固有の精神影響を受けたことを示すのか、あるいは精神に異常な介入を受けていないことを示すのか、現在のところ断定されていません。

シンデレラ・プロジェクト


概要:
財団のフロント企業である芸能事務所「星冠プロダクション(Star Crown Production)」を通し、優秀な新人発掘を名目とする大規模なオーディション・ライブイベントを企画する。その内容は、予行として3度のデモンストレーション・ライブを行った後、開催される本選において観客からの支持を最も多く獲得した出場者に対しメジャーデビューを確約するものである。この企画は公に"シンデレラ・プロジェクト"と銘打たれた上で"次世代のシンデレラ・ガールの選出"、"ガラスの靴に選ばれるのは誰か?"といった謳い文句が大々的に掲げられ、SCP-XXX-JPの活動圏を中心に一般参加者を募る積極的な広報活動が展開された。これはSCP-XXX-JPからの関心を大いに引き付けることに成功し、当プロジェクトへの自発的な参加申し込みを引き出させるに至った。

人員:
公にプロジェクト・スタッフとして参加するすべての人員は財団職員のみで構成され、それぞれの役割を演じるにふさわしい技能を持った人材が選抜された。SCP-XXX-JPによる影響への暴露が避けられない観客役にはDクラス職員の割り当てが検討されていたが、人員確保の困難さ、イレギュラー行動へのリスクといった観点からこれは断念された。協議の結果、この問題は財団の収容下にある暴露者らが動員されることで解消された。またSCP-XXX-JPと競合するライブアイドルの役割を担う職員に関しては、その業務内容の特殊性からより慎重な選考の上、不自然なく振る舞えるよう訓練が重ねられた。

氏名/コードネーム 選出理由
エージェント・赤町/暁 真紅 コミュニティへの潜入調査に特化した諜報部門のエージェント。その職務上有する演技力と対応力が評価された。
菊嶌研究助手/黄瀬川 ヒナ サイト-81██の現実改変オブジェクト研究チームに所属する研究員。長年に渡る私的な嗜好からライブアイドルやその周辺文化に関する造詣が深い。
D-346/深白 当プロジェクトのためのDクラス職員として召喚された禁錮受刑者。贖罪意識の強い模範囚であったことに加え、ストリートシンガー、アマチュアバンドのボーカル等を経てライブアイドルへ転身した経歴を持ち、業界への広範かつ実地的な知見を有する。

このプロジェクトは当初、収容困難なSCP-XXX-JPに対する暫定的な収容措置として考案された。その目的はSCP-XXX-JPの活動を財団主催イベントにのみ制限し、また契約締結によって財団が後々にもその活動のイニシアチブを握ることを期待するものであった。

Cinderella Project-1st Stage(201█/9/22)
201█年9月22日、プロジェクトの初回公演となるデモ・ライブが財団所有の劇場で開催されました。イベント内では財団優位なプロジェクト進行を試みようと、あらゆる異常・非異常的な対策が講じられていました。それらはSCP-XXX-JPからの阻害効果の発生によって失敗するか無効化されるであろうと予想されており、事実そのほとんどは有意な成果を挙げることなく終わりました。しかしイベント終了後、回収された暴露者へ行われた精神スキャンでこれまでに見られなかった情動反応の兆候が示され、さらなる詳細な検査はほぼすべての暴露者に生じる財団職員三名への好意的関心の高まりを明らかにしました。中でも約35%の暴露者に観測された好感のレベルはSCP-XXX-JPに向けられるそれを上回るものであり、この変化は職員らが上演したライブ・パフォーマンス内に混入されていたものの一つである求心型の認識災害エージェントの影響がSCP-XXX-JPからの精神作用効果を一部上回った結果であると断定されました。

ここに至るまで、財団によって試みられた如何なる精神作用効果も暴露者に対し有効性を示した例がなく、また同種の認識災害エージェントが用いられた再現実験下でもそれは同様でした。この事実は研究スタッフを大いに困惑させましたが、心理評価スタッフによって極めて限定的な条件下――すなわち、公的なライブイベントにおけるパフォーマンスに付随させた求心型の精神作用効果のみ、暴露者に対しても有効性を発揮しうるとの仮説が立てられ、これは後に実証されました。これはSCP-XXX-JPの潜在意識が自身の正当性を維持するため、当該行為とその効果を不正として排除することを拒んだ結果であると評価されました。

これを受け、これまで暫定的収容措置にすぎなかったシンデレラ・プロジェクトの運用方針は大きく転換されました。SCP-XXX-JPが定めた条件下においてもたらされる明示的な敗北は対象が掲げるアイディンティティとの深刻な乖離をもたらし、それに基づいて発揮される現実改変事象の弱体あるいは解消に繋がりうるとの見解が示され、この提言は上層部に受け入れられました。プロジェクトは財団資産によるさらなる強力なバックアップを受けるとともに、プロジェクトチームはライブアイドル役を担う財団職員三名いずれかの最終的勝利を目指す機動部隊く-10“零時の鐘”として再編成されました。

Cinderella Project-2nd Stage(201█/10/13)
201█年10月13日、プロジェクトの第二回公演となるデモライブが開催されました。そのイベント内で用いられる認識災害エージェントのラゼーク感応強度指数5は初回公演における750から、2,400へと大幅な上方修正を受けました。これによって財団が暴露者から得られる支持率は過半数に達すると見積もられていましたが、イベント終了後の検査では約15%と予測と異なる結果が示されました。

これに対抗するため、プロジェクトチームは以降のイベントのためさらに高レベルに増強された認識災害エージェントの使用を要求しました。

Cinderella Project-3rd Stage(20██/11/3)
201█年11月3日、プロジェクトの第三回公演となるデモライブが開催されました。そのイベント内で用いられる認識災害エージェントの感応強度は11,020にまで上方修正されたものが使用されました。

イベント終了後の支持率の調査において、SCP-XXX-JPはすべての支持を独占しました。これを可能とする感応強度は少なくとも35,000に達すると試算され、プロジェクトチームは現時点で利用可能な財団資産ではSCP-XXX-JPがもたらす異常効果を上回ることは不可能であると結論付けました。

第三回公演終了後、星冠プロダクション内において、財団が認知していない企画進行、人事異動、各報道機関への意思伝達といったプロジェクトを進行しようとする動きが確認されました。これはSCP-XXX-JPの演技を少なくともプロジェクト後数週間以内に地上波で放映させるよう調整するものであり、この活動を阻止しようとする財団の試みは典型的な阻害効果の発生により失敗しました。

この時点でSCP-XXX-JPを起因とするK-クラスシナリオの発生は実存的な脅威として認定されました。O5評議会による非常事態宣言の発令とともに、SCP-XXX-JPの認識災害効果がマスメディアから発信される事態に備え、媒体掌握プロトコル"シシュポスロック"、網間検閲プロトコル"プロクルステスベッド"、情報封鎖プロトコル"セイレーンソング"の準備が検閲・偽情報部門によって開始されました。

プロトコル・アポスタシアの実施がO5評議会によって認可されました。

プロトコル・アポスタシア


概要
シンデレラ・プロジェクトのメインステージにおいて執り行われる財団職員のライブパフォーマンス  その歌詞、旋律、動作、衣装、音響・照明演出、それぞれに断片的に混入させた認識災害エージェントの合成による精神作用を、舞台中央に設置されたファルレ電子黙契装置に生成されるサイオニック精神波共振力場の干渉によってレベル-Ⅷ認識災害エフェクトにまで増強します。これに並行して、装置は一帯へ及ぶ強制的な精神構造の改変、感受精度の調整、干渉受容度の拡張、被暗示性の強化、深層心理抵抗の除去、[編集済]、[編集済]、そして[編集済]の創出も担い、最大の効果が発揮されるためのフィールドを形成します。これらすべてが最大効率で作用した場合、理論上得られる感応強度は75,000に達すると試算されます。
ステージに設置されたファルレ電子黙契装置。音響機器に偽装済み。

プロトコル・アポスタシアによってもたらされる副次的悪影響

  • プロトコルを視聴したすべての知性体に対する、永続的かつ不可逆的な精神の改変。社会性の喪失。
  • プロトコル実施地点を中心に、少なくとも180km圏内に存在する一部の自我が確立していない年少者、あるいは抑うつ傾向にある意志薄弱者に対する軽微な精神影響。看過できない思想の歪曲、嗜好の変化、知能の後退を引き起こす。推定█████人。
  • プロトコル実施地点を中心に、少なくとも50km圏内に存在する不特定多数の人物に対する異常共感に属する潜在能力の喚起。それにともなう機密侵害の可能性。推定████人。
  • プロトコル実施者当人へ及ぶ重篤汚染と、それにともなう脳機能の完全な喪失。これは事前にいくつかの認知防御処置を施すことで、最大45分間程度遅延させることが可能である。

ほぼ全工程に渡って強力な認識災害的性質が付随するプロトコルの性質上、外部からの厳密な監督が困難である点、そしてその実行プロセスの複雑性から、その完遂には出演者役を担う職員らの自発的な協力が不可欠であると判断されました。A.赤町、菊嶌研究助手、そしてD-346に対し、交渉エージェントによって危機的な現状とプロトコル実施の必要性・重要性が説かれました。A.赤町および菊嶌研究助手の両名に対してはプロトコルの副次的悪影響に関する情報まで開示された上での交渉の末、最終的に三名全員がプロトコルへの参加を承諾しました。

プロトコル・アポスタシアはその実行精度と財団への忠誠度を参考に、SCP-XXX-JPによる演技に続いてD-346、菊嶌研究助手、A.赤町の順で実施されます。当プロコトルが失敗に終わった場合、それにともなって生じるであろうSCP-XXX-JPの性質の変化は世界規模の情報認識と正常性維持に対する不変的脅威となり得ます。これを阻止するため、最大限の努力が払われなくてはなりません。

//たとえそれが幸福なものだとしても、我々は最後までその終焉を拒絶する。如何なる犠牲を払い、どれだけの悲劇を生もうとも、この現実は守られねばならない。

O5-4、プロトコル・アポスタシア主席監督官。//

Cinderella Project-MainStage(201█/12/1)
D-346から演技終了の報告が成されるのに前後して、劇場内の動向と暴露者らの精神状態をモニターしていた監視AIシステムは、それらが急速かつ劇的に変化していく様を報告しました。プロトコル・アポスタシアは成功裏に終わったとのプロジェクト・リーダーの判断により、残る二者の演技中止がアナウンスされました。この対応に予想されたSCP-XXX-JPからの干渉は観測されず、SCP-XXX-JPとD-3460の二者択一の投票が問題なく開始されました。

シンデレラ・プロジェクト/最終投票結果
演技者 得票数
SCP-XXX-JP 144pt
D-346 179pt

この開票結果は主席監督官とプロジェクトリーダーによる確認の後、その判断によって手を加えられることなく公表されました。予想に反し、この結果に対するSCP-XXX-JPの何らかの感情的な爆発は観測されず、対象は特筆すべき反応を見せることなくこの結果を受け入れたようでした。直後に劇場周辺に配備されていたスクラトン現実錨(SRA)の一斉起動が試みられ、これは阻害効果の影響を受けることなく成功しました。SCP-XXX-JPは7基のSRAによる重複した効果範囲内に置かれ、形式的なD-346への表彰が行われている間中そこに留められました。

後の調査は、すべての暴露者がSCP-XXX-JPからの精神作用の影響下から脱していることを明らかにしました。特筆すべきことに、それまで財団によってもたらされていたはずの異常な影響もすべて取り除かれており、彼らはこれまでの異常な精神状態と振る舞い、および収容措置の経験に対する困惑を除けば完全に正常な精神状態に復帰したと判断されました。

インタビュー記録-XXX-JP/346-4

対象: D-346

インタビュアー: ██博士

付記: このインタビューはシンデレラ・プロジェクトの完了からおよそ20分後に開始された。この時点では、現場、証人、および各種記録類は有害なハザード効果の残存を想定した除染作業中のため未精査であり、財団による状況把握は不十分な状況でした。D-346には脳機能不全症状が引き起こされる前に聴取を行うため、他に優先した除染が行われました。

<録音開始, 201█/11/30>

██博士: これよりインタビューを開始するが、その前に……まずはご苦労だったD-346。財団を代表し、君の献身に感謝する。

D-346: いえ……それよりも結果はどうなりましたか? 私は、うまくやれましたか?

██博士: 現在調査中のため回答できない……が、今のところ悪い結果にはなっていないのではないかと考えられている。そうした確証を得るためにも今は情報が欲しい。君の目から見て何が起きていたか、詳しく話してもらいたい。

D-346: そうですね。彼女には実際それができるだけの力が……えー、リアル……?

██博士: Reality Bending? 言いにくければ好きなように呼んでもらって構わない。続きを。

D-XXX-JP: すみません。とにかく彼女のステージにはそうした魔法のような力があることは、信じざるを得ないことでした。先生たちが話してくれた……あれが電波に乗って流れれば、世界は終わりだという話も。私は罪を犯した囚人ですが、それでも今の世界には愛着があります思い出があり、思い入れがあり、そうしたものを私は守れるものなら守りたい。それは私の正直な気持ちです。そして、それができるだけの魔法の力を私は与えられた……わかりますか? 私がここで採る選択の結果が、世界の行く末を決めるかもしれない。私が成すべきことを成そうって。たとえその結果……[言いよどむ]命を落とすことになるとしても。

██博士: それは……どういう意味かね? このプロトコルは決して危険なものではなく……我々の指示に従っている限り、君の身の安全は保障されると、事前にそう説明されているはずだが。

D-346: ええ、それは、はい……そうでした。

██博士:どうやら少しばかり認識に行き違いがあったようだが……まあいい。何かSCP-XXX-JPの様子に変わったところは?

彼女はステージに向かう私を見て、なんというか……ひどく驚いていました。何か、ありえないものを見たかのような表情で。

██博士: 驚き? ふむ……その反応について、何か心当たりは?

沈黙

██博士: 思い当たらないなら結構。時間が惜しい、話を続けよう。

熱に浮かされていましたが、私に対してではありません。誰もが熱に浮かされ、私の方を一瞥もしませんでした。覚悟を決める必要がありました。そして私は……。

直前に行われたSCP-XXX-JPの演技による影響だろう。それは想定の範囲内だ。

██博士: プロトコル・アポスタシアを実行した。そうすれば自分は死ぬのだと、そう誤解していたにもかかわらず……そういうことかね?

D-XXX-JP: 私は……いいえ。いいえ違うんです先生。私は、ステージに上がった私は……中央に置かれていた装置から伸びるケーブルを、一本残らず引っこ抜いたんです。

██博士: は?

D-346: 私は何も、何一つとして、あなたたちの指示に従ってなどいないんです。指定された歌も、ダンスも……用意された衣装にだって手を付けず、ステージにはこのツナギ姿のままで上がりました。

██博士: 待て、何を言ってる……馬鹿な、ありえん、なぜそんなことをした!

D-XXX-JP: それしかないと思ったんです。先生たちから本当の話を聞かされてから、ずっと考えていました。私にできること。私がすべきこと。ずっと考えて、考えて、考え続けて。歌ったんです。私の歌を。

沈黙

おかしい。どうかしているぞD-346。おまえはいったい何を、いったいどういう了見で……まさかSCP-XXX-JPの思想に中てられたとでも言うつもりか?

歌と踊り、愛と笑顔の力で、目的を遂げようなんて馬鹿げていますか?

当然だ、そんな都合の良い話まかり通るはず――

分かっているんです、そんなこと。誰だって、この世界で生きる誰だって、嫌になるほど知っています。精一杯頑張って? 歌とダンスが好きだから? 愛を込めて笑顔を絶やさず? それがいったい何になるんです。この業界にそんなものが通じるなんて、まったく馬鹿げた夢物語で。
そう……だから、魔法にでも縋らない限り話にならない。それが正しい。

続けてくれ。

他人が自分を受け入れてくれる保証なんてどこにもない。誰だって人前に姿を晒すのは怖くて、いつだってステージに上がるのには勇気がいる。だからこの業界の子たちは誰も彼も必死だった。綺麗事だけじゃ済まないこの業界、褒められないやり方に手を染めてる子たちもたくさん見ました。確かにそれは汚いものかもしれません。
ライブ前日に、何の不安も抱かず安眠できるとしたら、彼女くらい。

彼女が夢物語へかける思いは、世界をひっくり返して塗り変えられるほどの力を持っていたのかもしれない。でもだったら、彼女は世界をひっくり返せる力なんかに縋るべきじゃなかった。子ども染みた理想を振りかざしながら、当の自分はそれを貫くことができていなかった。ありのままの自分と向き合わず、ありのままでいられなかった自分とすら向き合っていなかった。違うでしょう。アイドルってのはそうじゃない。零時を過ぎて、魔法が解けて、それでも私たちはただの。彼女が蔑んできた誰より卑怯じゃないですか。

たとえ死んでも、世界が終わってしまっても、もう一度あのステージに立ちたい。いろいろ言ったけれど、結局のところそれが本音だったのかもしれません。すみません。すみません。ああでも……もう叶わないと思っていた夢が叶いました。

<録音終了, 201█/11/30>

D-346の行動が規定から逸脱するといった不測の事態に対応するため、プロトコルには遠隔的な終了措置を含む即時の中断手順が備えられていました6。にもかかわらず、Dクラス職員は一様に彼女の暴挙を見逃したと主張し、監視AIシステム群は如何なる異変も感知しませんでした。またD-346が脱離させたケーブル群はファルレ電子黙契装置をライブ用音響機器へと偽装するための装飾にすぎず、その機能は一切損なわれていなかったことが確かめられていますが、装置は事前設定を無視して待機状態を維持し続けました。さらにD-346が舞台袖で発見し、演技に使用したと主張するエレクトリックギター7は設営時点で確認されておらず、その起源は未特定です。現時点でこれらの異常を引き起こした原因の痕跡を、財団は発見できていません。

シンデレラ・プロジェクトの完了以降、SCP-XXX-JPは如何なる異常な振る舞いも示すことはなくなりました。SCP-XXX-JPは検査入院に偽装される形で財団の拘留下に置かれ、その間に行われた徹底した検査はいずれもSCP-XXX-JPがもはや異常とは見なされないとの結果を示しました。これを受け、現在分類委員会によりSCP-XXX-JPのクラス再評価が進行中です。

補遺XXX-JP: 財団の拘留下から一時的に開放されたSCP-XXX-JPは、速やかに自身のSNSの更新を行いました。その投稿内容の主旨はあらゆる芸能活動から引退する意向の表明であり、以降の対象の活動はそれが真実であることを示しています。

更新されたSNSの文章からの抜粋

深く白に埋もれ、それでもガラスの靴に向かって踏み出していく姿を私は見た。それは私が願い、求めて、常に夢に描きながら、そんなものはあり得ないと諦めていた夢物語。だから私はそれを目の当たりにした瞬間にすべてを忘れ、そしてただ心の底から祈るように希った。見せて、聞かせて、救いをください私の憧れ……と。
幼い頃、輝く世界に魅せられて、そのヒロインたちに憧れた。なのに絵本を閉じれば、私の元にはドレスも御者もカボチャの馬車も何もかも消え失せた。現実に帰ってきた私はいつも惨めで、辛くて寂しくて悲しくて……形あるものは何一つとして残されていなかったけれど、それでも持ち帰ることができたものは確かにあった。そしてそれは今もこの胸にある。

だからもういい。これでいいんだ。私はもう満足した。
どんな世界だろうと、私はここに生まれてここにいる。そしてこれからも、私はこの場所で生きていくと、そう決めたんだ。


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