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尋問ログ-不在
場所:サイト-8100の地下38階に設けられた秘匿尋問室。
概要:これは室内に設置された複数のカメラの合成映像です。
被尋問者: 道策常道 サイト-81-██管理官

尋問官: 来栖咲夜 財団倫理委員会所属・秘匿監視官

備考: 来栖監視官は道策管理官が関わった複数の事案に付いて疑問を持ちました。
そして調査の結果、彼の異常性の発現と思われる事象が明らかとなりました。
なお、その異常性は彼が報告を受けてから一度も報告されていないものでした。
財団の倫理規定3に於いて、異常性を持つ職員は厳重に管理されなくてはなりません。
また、その異常性が財団に於いて利益となるかそうでないかの吟味もまた必要となります。
そのため、監視官は財団の倫理委員会に於ける権能を発動し、道策管理官を拘束・尋問しました。

〈再生開始〉
室内の天井に設置された監視カメラが、尋問室中央に位置する一人の背の高い男性を映し出す。
カメラが切り替わる。オールバックにメガネをかけた中年男性の横顔。
容貌からして、それは道策常道管理官である事が判別できる。
圧搾空気音とともにドアが開き、背の低い少女ような顔立ちの女性が入室する。
彼女は来栖咲夜監視官である。 監視官は着席する。

来栖: 道策常道管理官、只今より尋問を開始します。この尋問の内容は全て倫理委員会に提出されます。

道策: 了解した。しかし……倫理委員会にやり手の監察官がいると聞いていたが、君だったとは。

来栖: どういたしまして。私の外見は、人を欺くのに適しているようなのです。

道策: 見事だ、と言っておこう。それで……私に尋ねたい事と言うのは何かね?

来栖: 大した事ではありませんよ、いくつかの疑問に答えて頂ければそれで結構です。

道策: では、それを聞かせてくれ。

来栖: では1つ目から。あなたは財団にリクルートされる前、███震災でSCipに遭遇し、重傷を負いました。あなたはそこで記憶処理を受け、事件当時の記憶を喪った。そして、入院中のあなたの元を訪れたエージェントの記憶再生デバイスによって記憶を再生された。しかし、それは本当でしょうか?

道策: 本当だ。人事ファイルには職員の全情報が網羅されている。何故そう思うのかね?

来栖: あなたがリクルートされる時期に、そのような装置は存在しませんでした。記憶再生デバイスが実用化されたのは、あなたが管理官に就任した時期と一致しています。

道策: 財団の情報機器の進歩は日進月歩だ、いや、秒刻みで技術は進化していると言ってもいい。私に使用されたのは試作品だ、と言う事は考えられないかね?

来栖: 有り得ません。いくら財団とは言え、記憶操作技術については慎重に扱っています。記憶の上書き・消去・再生についての組織内パテントを所持しているのはどこだと思いますか?倫理委員会です。当時、倫理委員会には記憶の再生に関するパテントも成果物も所持していませんでした。そんなものは1つもないのです。

道策: では、君は私が嘘をついていると?だが、私は確かに記憶処理薬の投与を受けたのだ。だが、震災時の記憶は私の頭の中にある。いつでも思い出せる。これについてはどう説明をつけるのかね?

来栖: 証拠はここにあります。

監視官は、一枚の書類を机の上に置いた。道策管理官はそれを手に取る。

道策: これは、1ヶ月前に受けた身体検査のカルテだな。私はCTスキャンを受けたよ。そんな必要はないと私は言ったのだが……あれは君たちの差し金だったか。

来栖: これは1ヶ月前のみならず、あなたが職務上行った身体スキャンのデータも統合したものです。その結果は……脳全体が常人とは僅かに異なった形質であると言う事が判明しました。それから明らかになった可能性から、あなたの異常性が予測されました。この予測は、非常に確度の高いものであると考えています。

道策: その予測とは、私の異常性とは何なのかね?

来栖: あなたは「忘れる」と言う事が絶対にできない人間だと言う事です。あなたに記憶処理薬を投与しても効果はなかった。だから、あなたは震災当時の事を覚えている事ができたのです。なお、この脳の形質異常は、Z級記憶保持薬を投与された人間の脳のデータと一致しています。これが、私が出した結論です。

道策: (3秒沈黙)記憶保持薬……?君はどこでそんな情報を?“あれ”は失われた技術じゃなかったのか?その情報を、倫理委員会は持っているのか?

来栖: その質問にお答えする前に、回答を。あなたは、嘘を吐いていましたね?

道策: そうだ、私は嘘を吐いていた。そして、私の人事ファイルに記憶処理デバイスについての記述を追記したのも私だ。全くもって見事だ。君は監視官であると同時に、研究員でもあったな。あれだけのデータから、よくこの結論を導いた。同僚として君を誇りに思う。

来栖: 光栄です。ですが、あなたはどうして平然としていられるのですか?

道策: 確かに、財団という組織全体に嘘を吐いていたと言う事は問題だろうな。

来栖: あなたには危機感が欠けているようですね……はっきりと申し上げます、あなたには現在Poi乃至Scipとしての容疑がかけられています。管理官、あなたはそれを理解していますか?

道策: いつかそんな日が来ると、覚悟はしていたよ。しかし、PoiはともかくとしてScipとはな。まあ、これだけ多くの異常性職員を抱えた組織だ、リクルートする前にその異常性は吟味されて然るべきという事はあるだろう。どのような処罰も受ける所存だ、逃げも隠れもしない。終了も甘んじて受けよう。

来栖: 何か勘違いをされているようですね……まず、私は事実の確認のためにあなたを拘束したのです。そして、その結果はあなた返答如何にかかっています。そして……私は同僚を撃つ事を好みません。

道策: だが、必要であれば君は躊躇いなく撃つ。これで幕だ。君は私を撃つべきだ、そうではないかね?

来栖: 私は査察官です。あまり、舐めてもらっては困ります。あなたはまだ私に隠している事があります。それが全て明らかになるまで、私は銃に手をかけるつもりはありません。

道策: わかった。君を怒らせるつもりはなかった、すまない。その前に1つ答えてくれないか?君は……いや、君たち倫理委員会はなぜ、記憶保持薬についての知識を持っていたのだ?

来栖: 財団に於いて倫理委員会の知らぬことなど1つもない、という回答ではご不満ですか?

道策: 不充分だ。そもそも“それ”を扱う部局は、財団日本支部には存在しないという事になっている。君にとっても初耳のはずだ。違うかね?

来栖: ええ、私もそんなものがあるなんて聞いた事がありませんでした。倫理委員会の将来取得すべき組織内パテントの一つとしてそれはありました。ですが、実用化された、などという事例はありません。

道策: それを聞いて安心したよ。君は私ほど足を深く突っ込んではいないようだ。

来栖: どうやら、あなたは私のもう一つの疑問に答える事ができそうですね。それなら、約束してください。今後の尋問で、私を試したり、嘘をついたりはしないでください。それはあなたの自滅に繋がります。

道策: ……ありがとう。どうやら私は運がいいようだな。ここに来たのがエージェント・マクリーンであれば、私は即座に処刑されていただろう。ああ、約束しよう。だが、1つ忠告をさせてくれ。この尋問が終わり、全ての情報を報告し次第、君は記憶処理を受ける事になるだろう。それを絶対に拒んではならない。いいかね?

来栖: 安心してください、拘束されている人から心配されるほど落魄れてはいませんので。

道策: 全くだ、違いない。

来栖: では、もう1つの疑問について答えてください。あなたが管理官になる前のことです。あなたはロジィスティクス部門でCL3職員として活動していました。その時、ある地点に何度か物資の移送を行なっていました。これが、当時の物資の移送目録です。確認してください。

監視官が、書類の束を道策管理官に手渡す。

道策: これは……懐かしいな。私は事務職ではあったが、ロジスティクス部門は常に人員不足だった。ドライバーがいなければ、私が移送計画を立て、積み荷をトラックに乗せて、ドライバーまでやった事もあった。

来栖: では、当時の記憶は鮮明なのですね?

道策: ああ、勿論だ。

来栖: 私のもう一つの疑問とは、その移送先です。

道策: それは、随分と難しい質問だな。

来栖: 座標・移送経路・それらの全てが財団の記録から消失しています。にも関わらず、ロジィスティクス部門のデータベースには、送付に対する受領鍵付きの認証フラグが記録されています。それは、どこなのですか?

道策: では答えよう、それはサイト-81N/Aだ。

来栖: そのサイトは存在しません。倫理委員会にも、RAISAの記録にも。

道策: だが、実在する。間違いなく、“それ”は実在するし、実在しない。

来栖: (2秒沈黙)あなたは、一体何を?

道策: それは実在不在のあわいに存在する。言うなれば実不在だ。そして、かのサイトの表看板には今「不在」の表札がかかっているのだ。我々には視認できない、気づくことすらない、その場所がサイト-81N/Aだ。

来栖: そんな場所に、あなたはどうやって物資を移送していたのですか?

道策: それはとても簡単な話だ。私はその場所を、脳に埋め込まれたんだ。埋め込まれたと言っても、それは非侵襲的な方法で。つまり言葉の羅列として、暗号化された座標として、記憶の鎖として埋め込まれた。

来栖: 一体いつ?誰に?

道策: 私にとっての始まりの時。Scipに負傷させられ、病院で治療を受けていた時だ。そこにやって来た財団職員は、エージェントだけではなかった。もう一人居たんだ。兎歌八千代だ。それが彼女の名だ。

来栖: 一体、何なのですか?その人は?

道策: 81地域ブロック反ミーム部門統括委員会代表代理兼記憶補強薬剤関連研究室長代理兼反ミーム・認知逆行概念実体対策チーム指揮官代理兼機動部隊戊-8("石橋")指揮官代理兼機動部隊壬-3("安酒")指揮官代理兼対抗概念部門関連事案保全計画総合責任者兼サイト-81NA管理官。海を貫くようにスプーンがざんぎり頭散華する口腔内這々のスープ小遣い痛み入り候だ。

来栖: 海を貫くようにスプーンが……?何を仰っているんですか?

道策: ああ、やはりこうなったか。彼女については厳しい暗号化が施されている。詳しく喋ろうとすれば、私の脳に埋め込まれた暗号化プロトコルが、これらを無意味な……私たちにとっては無意味な文字列に変換するようにできている。何を目的としているかは不明だ。もしかすると、彼女らが扱っているモノから、我々を保護しようとしているのかもしれない。実際のところは藪の中だがね。

来栖: その人の目的は、何だったのでしょうか?

道策: 私が病室で意識を取り戻した時、彼女は既にそこに居た。彼女は言った。
忘れてしまったことをするために、
覚えていないことをするために、
食われてしまったことをするために。

あなたをこの次元に於けるメモ帳として使います。
いくつかの“不在”の鍵をあなたの脳に埋め込みます。
その“不在”はこの世にあってはならぬものです。
その日が来たら、あなたの人生はメモ帳として消費されます。
祈りなさい、その日が来ぬ事を。

来栖: あなたの頭の中に、その“何か”が在る、と言うのですか?

道策: そうだ。サイトの座標とそこに至る経路、そして恐らくは……そのサイトに収容されている。オブジェクトのアクセス権限。もしくは……そのオブジェクトそのものが、私の脳に埋め込まれた。もっとも、サイト-81NA管理官が望まぬ限り、その“何か”を私が任意に覗き込むことはできないだろうがね。

来栖: 一体そこには、何が在るのですか?

道策: さあ、きっと何もない。或いは、何もかもがそこに在る。

来栖: しかし、そこまでして存在を秘匿する理由とは何なのですか?

道策: 君は反ミーム、と言うオブジェクトを知っているか?恐らくはそれが全ての元凶だ。我々はそれを知る事ができない、知った時点で手遅れなのだ。嘉手納蔵人花吹雪、いや最前におめしますは、こに唐紅たる通勤レーンのコンビニ冒頭注入、いかで、なむそやとあじきなき野辺山軌道。

来栖: 何を仰っているのか分かりません。

道策: これが暗号化だ。どのみち、我々は未だ、“それ”に気づいていないのだろう。そして恐らくそれは、我々にとって幸福な事なのだろうな……私が吐き出せる情報はここまでだ。

来栖: ……分かりました。尋問を終了します。 あなたの今後については、倫理委員会より追って通達があるでしょう。それまでは、ここで待機となります。

道策: 了解した。

来栖: では、失礼します。
来栖監視官は道策に背を向け、出口に向かって歩き出そうとする。

道策: 来栖監視官。

来栖: ……何です?

道策: 感謝する、ありがとう。
来栖監視官はそれには応えず、無言で部屋を後にする。

<再生終了>


尋問以後の経過: 道策管理官はその後1週間拘束された後、倫理委員会で裁判の被告となりました。その結果、職員としての行動としては問題があると判断されたものの、財団及び職務への忠誠心は変わる事なく、未だ有用な職員であるとされ釈放されました。釈放後は、再びサイト-81██管理官として勤務する事となりました。

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