前世の記憶、そのミーム
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まっかなゆめをみた。

おひさまがあかくなった、ゆうやけみたいなそらのしたにボクはぽつんとたっていた。
否、夕焼けよりも赤い原野の中、私は恐怖を覚えた。いや、正確には思い出したのだ。何が来るのかを。

とおくからまっかなおおきなとりがとんでくる。
緋色のそれは豆粒のような大きさから徐々に肥大していく。この小さな掌では隠せないほどの大きさに。

そこでおきた。おふとんのうえで、がばっといきおいよくおきあがった。
せんせーにゆめのことをおはなしした。そしたらせんせーはちょっとこわいかおした。いやなことだったのかも、つぎはいわないときめた。
 

そのあとも、なんかいかゆめをみた。
何度も目にした緋色。前とは違い、鮮明に思い出すことが出来る。

またあかいとりがやってくる。
アイツが何をするのかを、私が何をされるのかも、しっかりと覚えている。

がらがら、っておもちゃばこをせんせーがはこぶみたいなおとがした。
大量のガラクタ共が擦れ合う音はまるで獣の嘶きのようだ。

あおいきょうりゅうがとりをかくした。
暴君の姿を模した玩具の集まりは俺と赤色の鳥の間に現れた。

ボクはあおいきょうりゅうにちかづきたくなった。
宝物のように思えたガラクタの塊、前はその中をひどく素晴らしいものだと思えたが、今は違う。

だけど、あおいきょうりゅうとボクのあいだにねこがでてきた。
これはねこです。前のわたしはこれを知っています。よろしくおねがいします。

ねこはじっとボクをみる。めがおおきくて、へんてこなネコだ。
これはねこでありネコではありません。ここは暗闇でなく、ましてやネコなど居るわけがないのにねこがいます。よろしくおねがいします。

ねことにらめっこをしていると、ざあざあ、ざあざあ、なみのおとがきこえてきた。
其は我々などでは到底叶わぬ存在なり。

どこからきこえてくるのだろう。ボクはめをつむり、おとをよくきこうとした。
羽根が雪の様に降る。前の我は知らぬ故、之は此処だけの何らかの暗示であろう。
 

つぎにめをあけたらおふとんのうえだった。

あかいゆめをみたことはせんせーにはいわなかった。というか、ゆめのことをよくおぼえてなかった。あかいゆめをみたようなきがするけど、それもふわふわしていてボクはすぐにわすれてた。
 


 

とりあえず、このぐらいで良いだろうか。

報告書の作業を半ばで切り上げた私は首の凝りを解しながら椅子から立ち上がる。この2000年代以降、財団施設内の児童等に見られる現象には定期報告が義務付けられているのだが、はっきりと言って書くことがない。現象が見られる対象はまだ会話の要領を得ない年齢、なにより現象が夢であるせいかよく覚えてないという回答しかほとんど得られない始末。現象の発生源や伝染性の調査の為に対象を周囲の児童と隔離したり生活地点を移しても有力な情報を得られず。しかし放っておくにも対象が対象だ。

私は軽く息を吐くと、思考と裏腹に笑顔を作る。今日は新しく夢を見たと思われる児童を専用の教室に移動させる日だ。不安にさせない為にも報告書を作成している時のような顔ではいけない。
 

児童を迎えに行った私はその小さな手を引き、新しい教室へ向かう。児童に目をやると、異常性が疑われる現象に曝されているとは思えない笑顔を浮かべている。思わず私も作った表情ではなく、素直な微笑みが浮かぶ。

通常の研究職を目指していたはずだが、保育資格を所持していたこともあり、この現象の保育所の保育士兼研究担当となった。子供は元々嫌いではなく、むしろ好きな方だと思う。他所属の同僚には楽な仕事だろうと言われるが、こうやって笑顔に癒されることもはあれど、この現象が新たな異常性を見せやしないかと常に気を張って仕事をするというのは気が滅入る。

とはいえ、仮にこの現象に異常性が無いと結論付けられれば私は一般的な研究員となるのだろう。財団の理念に共感し、人類の為に殉ずる覚悟で入団したとはいえ、終わりの見えない異常存在との付き合いには疲弊を感じずにはいられない。しかし、その終わりの見えない付き合いにもいつか終わりが来るのだろう。それが明日か、数十年後かは知らないがそれまでは人類の為に財団職員として職務を全うしていこう。

私は手持ち無沙汰な時にありがちな、将来を憂いたりする無意味な思考をそう締め括った。

石臼のような何かが擦れる音がした。

私は即座に振り返った。音がしたはずだが、何もない。空耳だろうか、しかし何故だか一瞬で滝のような汗を噴き出した。

しばらく背後を注視していると、手を繋いでいた児童が手を引いてきた。

しまった、変に黙り込んでにしまった。すぐに児童へ視線を向け、どうしたのかと問う。無邪気な瞳が私に向けられた。
 
 

「にげられないよ」
 
 
 

死んだって。


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  1. portal:hazukimarch ( 09 Jun 2018 13:54 )
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