万物の愛

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アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPは標準的人型収容室に収容され、『万物化』の兆候が確認された場合、警告あるいは射殺してください。SCP-XXXX-JPに実験、対話を試みる際、検証を越える『万物化』を決してさせることがないよう留意してください。

説明: SCP-XXXX-JPは体重65kg、身長172㎝の成人男性の姿をしています。一般的な人間と同様の言動を行います。SCP-XXXX-JPは財団に協力的で、非常に物静かな性格をしています。また、その外見に加え平常時身体組織に何ら異常性はなく、SCP-XXXX-JPの異常性は驚異的な細胞の変化からなる身体の変貌から確認されます。この細胞の変化を万物化、以降SCP-XXXX-JP-Aと称します。

SCP-XXXX-JP-AはSCP-XXXX-JPの思い浮かべた生物、物質、現象を体現します。SCP-XXXX-JP-Aによる矮小化、肥大化の限界値は現在でも測定されていません。確認されている最大の大きさは推定300km²、高さは50mにも及び██県██市のほとんどを覆うものであったと記録されています。

+ 実験記録を閲覧

実験記録1

実施方法: SCP-XXXX-JP-Aを行い、鮪とさせる。鱗を剥ぎ、調査する。

結果: 細胞、DNAなど全て科学的根拠に基づける生物であることが確認されました。

分析: SCP-XXXX-JP-Aは実際の物質になりえることが判明しました。

実験記録2

実施方法: SCP-XXXX-JP-Aを行い、熊とする。その様子を観察する。

結果: SCP-XXXX-JPの意思とは異なる行動が観測され、自然に生息する熊のような振る舞いをしました。

分析: SCP-XXXX-JP-Aを行い、SCP-XXXX-JP-Aとした万物の生態や習性に準拠する可能性があります。

SCP-XXXX-JPの初のSCP-XXXX-JP-Aは、SCP-XXXX-JPの恋人と別れその一週間後にあったとSCP-XXXX-JPは証言しています。
第三者によるSCP-XXXX-JP-Aの観測は世界中で確認されており、いずれも記憶処理を既に行っています。
SCP-XXXX-JPは██県██市の自宅で確保されました。

以下の文章はSCP-XXXX-JPが収容後、三日後に記したものです。

+ SCP-XXXX-JPによる手記

俺には恋人ができた。笑顔の似合う人だった。お互いを愛し、結ばれるものだと感じた。だが些細な喧嘩で、俺達は別れることになった。俺は血が昇って、彼女など居ない方がマシだと考えた。俺は浅はかだった。家から遠ざかる彼女の背中に、「待て」の一言でも口に出せていたらと、日に日に後悔が頭を埋め尽くし始めるんだ。一つ消えたマグカップも、隙間の空いたソファーも、人生そのものが空虚のように思えてきて、ひどく孤独に俺はなった。彼女を探そうという意思が芽生えるまでに、そう時間はかからなかった。夢中で家を飛び出して、街を巡った。彼女と来た場所も一度だって見覚えもない場所も、手当たり次第俺は探し歩いた。でも。彼女は居なかったんだ。

くたくたになって家に着いた頃には、流す涙もなくなっていた。体温が急激に冷めて、現実をまた見直した。俺はどうすればいい。俺は何をしたらいい。その全ての答えは結局彼女のことに行き着いて、心が苦しくなった。
探さなければ。探さなければ。探さなければ。彼女は何処かに居るはずなのだ。
ふと、鳥になれたらと考えた。鳥になれたのなら、この街どころかその翼で大きく世界を行き、彼女をきっと見つけ出すことができるのにと。俺は眠りにつく。次に目を覚ました時には、俺は上空にいた。雲がすぐ空を流れて、眼下にはミニチュアのような車や家や人で溢れていた。探さなければ。彼女を。
暗闇が街を覆う。街の灯りが目に悪い。これでは探せない。羽を休める。俺はもう彼女はここに居ないのではないかと考えた。この国を飛び出して、より遠いところへ。今思えば馬鹿な考えであるけれど、俺は必死で頭はろくに働いてなかった。
ふと、魚になれたらと考えた。魚になれたのなら、大海原を駆け抜け地平線の先まで苦もなく行けるというのにと。俺は眠りにつく。次に目を覚ました時には、俺は水中にいた。海藻が横に揺られ、街の灯りが海を差す。探さなければ。彼女を。

俺はそうした変化を繰り返した。理屈や理由なんて考える暇は俺にはなかった。山は羊となった。草原は馬となった。都会は鼠となった。俺はなんにでもなれた。でも、彼女は見つからなかった。
家へ帰る。これで。これで最後としよう。鳥となって、俺の家の辺りを回った。
奇跡や運命は信じない質なのだが、こればかりはそう呼ぼう。彼女が居たのだ。一人で街を歩いていた。俺は近づいた。彼女の目の前で俺は鳥のまま止まった。人間に、ならなければ。元の俺に、ならなければ。
だが、戻らなかった。気づけば蹄ができ、鱗ができ、信号が胸から生え、背中からナイフが飛び出した。俺は誰だ？俺はなんなのだ？
思いつく限りのことを変身させた。その中に俺が居るはずだと信じて。俺の体はますます膨れ上がった。俺が知っている全てのものを作り出しながら、俺は俺じゃない何かへと姿を変えていった。
次に目を覚ました時には、俺は万物だった。俺は神にも似た何かだったのだと思う。そうして、前を見た。彼女はその場で立っていた。俺は万物のはずなのに彼女に対する言葉を何一つ持っていなかった。同時に、彼女が俺を前にして何を思うかさえもわからない。彼女は俺の名を呼んだ。こんな体の俺でも、彼女は俺のことがわかったんだ。俺は気づく。俺が褒めたピアスを未だに彼女がつけていて、俺が買ったアクセサリーは鞄に着けてあって。彼女の頬に涙が流れていることを。
「会いたかった」。彼女が口にする。「俺も会いたかった」。俺が答える。そして、続けた。
「愛してる」。
俺はいつのまにか元の人間となっていた。彼女の笑顔はとても美しかった。

長くなってすまない。俺が言いたいことは一つなんだ。たとえ『全て』になったとしても、人間の、さらには恋人の気持ちさえわからない。でも、愛してるの一言で、何もかも変わることだってあるんだ。

言うこと聞けばいつか出してくれるんだろ。俺はそれまでおとなしく待つよ。その代わり、俺に愛してるという言葉を使わせないでくれるか。

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