復讐者たち

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 清潔な真っ白い天井が、彼の視界に飛び込んできた。
 焦点が定まらない目で周囲を見渡す。乱暴に首を振り回しながら視界を広げると、首筋から汗の臭いが漂っているのが判った。ぼやけたシルエット。白衣を着た人物が直ぐ側にいた。

「お目覚めですか?」

 どことなく現実離れしたソプラノが、男の耳をくすぐった。目の焦点が、女性の大きな眼鏡のフレームを捉える。やや幼い印象を受ける微笑が眼鏡の奥に見えた。反射する自分の顔は、まるで幽霊に出会ったかのように酷く青ざめて見えた。

「あんたは誰だ。俺は、俺はたしか」
「落ち着いて下さい、D-8109。ここは財団の医療棟です。貴方は助かったんですよ」
 
 諭すような口調で、女性は男に語りかけた。そうだ、と男は思い出した。強盗殺人の罪で死刑囚となった男は、いけ好かない悪徳弁護士から”極めて有利な司法取引”を持ちかけられ、このナントカと言う財団に身柄を輸送されていたのだ。”勇気ある協力者”として。”人類の安全に貢献する兵士”として。
 男は、鍛え上げた両腕で女性の襟を掴む。思い切り絞り上げるが、女性は眉一つ動かさずに、謎めいた微笑を続けていた。手の隙間から黒いリボンが見える。

「ふざけるな。最上と北村はどうした。俺といつも一緒だった二人だ」
「D-8299と8311ですか? 残念ながら、二人とも実験で亡くなりました」

 無感動な声を聞いて、男は全身の緊張が解けていくのを感じた。ここに来てからほんの僅かな間だったが、二人は男にとって気の会う友人だった。握りしめた両の手を離し、女性を解放する。

「お前じゃ話にならねえ。責任者を出せ。訴えてやる」
「誰にですか? 貴方の処遇については既に担当者から十分な説明が為されているはずですが」
「死刑囚にだって人権ぐらいあるだろうが。こんな話を受け入れた覚えはない」

 叫ぶように喚きつつ、男はベッドを降りると、女性の胸から下がったIDカードを、引きちぎるようにして強奪した。

「借りるぞ」

 厳重なセキュリティロックのかかったドアに向かって走り出す。ドアが開けられる確証は無い。逃げ去れる確率は低いだろう、それはわかっている。しかし仲間の無念を思えば、引くことは出来ないとも感じていた。
 
 カードリーダーへIDを差し込もうとした瞬間、自分の右手からカードがこぼれ落ちるのを感じた。

(え?)

 慌てたが故のミスか。下に落ちたカードを拾い上げようと、背を屈める。
 男の上半身が、音も立てずに胴から分離し、地面に墜落した。
 右手の先を見ると、先端がホログラムのように透けて、少しずつ微細な分子に分解されているように感じられた。分解された一部は空気に溶けて、紫色の煙のように中を漂っている。喉から悲鳴は出なかった。

「おお今更オブジェクトの効果が出ましたか。やはり個人差がありますねえ」

 右耳の後ろから、無機質なシャッター音が聞こえる。先程の女性研究員が、現象の全てを捉えようと写真を撮影していた。その声は弾み、歓喜に踊っているように男には聞こえた。

「実を言うとここ医療棟では無く実験エリアの一部なんですよ。貴方にはオブジェクトの効果が見られなかったので更なる検証のためにここに運んできたのです。睡眠時には効果が見られなかったのに意識が覚醒した瞬間に急激に崩壊が進行しましたね。大変興味深いです本当にありがとうございます間近で見せてくれて」

 異様にまくし立てる早口とシャッター音を聞きながら、男はかつて結婚していた女と両親について考えていた。何か謝罪の言葉を口にしたいと思ったが、男の喉は砂のようになって崩れ、やがて声と共に空中に溶けていった。

 IDカードを翳し、鋼鉄のシャッタードアを開ける。更なるドアに続く別室をガラス越しに見やると、見慣れた眼鏡が、何も無い空中に向かって執拗に業務用デジタルカメラのシャッターを切っていた。マスク越しでもわかるように溜息を吐いて、崔博士は口にする。

「いい加減にしなさい、佐々原君。D-8109は既に消滅している。霊素子反応も消えました」

 ぴたり、と女性研究員の動きが止まる。佐々原未知華は、物々しい防毒マスクを身に付けた上司に対して、天真爛漫な笑顔を向けた。

「入室を許可していただきありがとうございました崔博士。お陰で一人の人間が霊素分解消滅する貴重な瞬間を自身の目に捉えることが出来ました。崔博士はあれを砂のようだと例えられていましたが個人的には煤塵のそれに似ているかなと感じます。というのも生成された粒子は煙のように紫色に微妙に発光しており」
「感想はレポートにして提出して下さい。今ここで聞く気はありません」
 
 興奮した頭に冷や水をかけられたためか、佐々原の表情が少しだけ曇った。入室以来、初めて見せる表情だった。

「もちろんレポートは作成致します。しかしですねいち早い報告は財団職員として当然の義務かと存じまして」
「あと、30%程度で良いから話すスピードを下げなさい。他の研究者からも苦情が出ています」

 聞き慣れた小言を耳にすると、佐々原はむぐっと押し黙った。遊んでいたのを注意されて不貞腐れる女児のようだと、崔はそう思った。

「追加の実験を行います。準備は出来ていますか」
「でき、出来てます」

 早口を押さえて、佐々原は崔がいる手前側の部屋に移動すると、ガラスの前面にある機械装置のスイッチを入れる。鈍く光り輝くコンソールが起動すると、ベッドの置かれた無機質な別室に、放電のような光が僅かに走った。光に沿って、人の輪郭のようなものが徐々に形成されていく。
 しかし、10秒程度の時間が過ぎたところで、形態は速やかに崩壊を初め、以降は何も現れることは無かった。

「また失敗です、崔博士」
「上手く行かないものですね。誰かが制止も聞かず、安易に実験室内へ踏み込んだためでしょうか」

 露骨な嫌味を耳にして、佐々原は大きな瞳を崔の方に向ける。崔は助手に取り合わず、ただ何もない空間を黙って見つめていた。

「博士、資料をこちらに」
「ええ、ありがとう」

 新入りの助手に微笑みかけながら、九里浜博士は残務整理をこなしていた。
 広いオフィスは中尾博士との共同で、彼女の使用スペースは全体の三分の一ほどだ。最近体調を崩しがちな老博士は既に職場を早退しており、夜の部屋は春先の割りには妙に寒々しかった。

「僕はそろそろ失礼します。九里浜博士もご無理をなさらないで下さい」
「中尾さんじゃないけど、私ももう若くないからねえ。死なない程度に頑張るわ」

 冗談めかした笑みで、去って行く後輩に手を振る。ふう、と小さく息を吐くと、唇の寂しさに気がついた。集中して雑務をこなしていたので、もう三時間ほど煙草を吸っていない。

「禁煙時間新記録」

 独り言ちながら、喫煙所に向けて席を立つ。喫煙者の多いサイト-8159も、米国本部の新マニフェストには逆らえず、オフィスは今期よりめでたく全面禁煙となっていた。新年度方針の一筆に、「職員の性的多様性への尊重」などと謳われていたのを思い出して、九里浜は思わず失笑を漏らした。

(お優しい話だね。いろいろお気遣いをいただけるというのは)

 鉄の扉を開けて、がらんとした廊下に出る。異常生物研究部門に残っている職員はもうそれほど居ないはずだった。
 崔博士の属する心霊/神格存在研究部門と異なり、当サイトが研究を預かる生物系オブジェクトはそれほど多くない。優秀な研究員なら、そもそもここには回されてこない。九里浜はその事実を良く自覚していた。致命的な失態を犯した自分を、敢えて留めおいた財団の”優しさ”も。

(おや、先客?)

 トイレ横、喫煙室の曇りガラスの向こうに、紫がかった煙が燻っている。職員の姿は見えないが、他部門の人間だろうか。こんな時間まで残っている人物に、心当たりが無かった。

「失礼します」

 彼女にしては畏まった口調で、九里浜はゆっくりとドアを開ける。
 居たのは、人間では無かった。
 凝集する紫の煙が、人間のような形を作りながらぐずぐずと漂っている。その姿は、目が窪み口の裂けた、恩讐のあまりに蘇った悪鬼のように見えた。
 九里浜がポケットの緊急通報ブザーを押すより早く、悪鬼は明瞭な口調で語りかけてきた。

「人殺し、人殺し。加藤も連城も早坂も、お前の為に死んだ」

 九里浜の喉は、震えるばかりで叫びを発せなかった。ポケットに突っ込んだ手が痺れ、ブザーを押せているのかどうか判らない。煙は、なおも名前を連呼し続けた。

「兵藤、神田、楢木、林、斉藤、許さない。お前を、決して」

 最後の言葉を発した後、煙は溶けるように崩れ、断末魔の叫びに似た呻きを漏らした後、何も無かったかのように消え失せた。

「博士!」

 通報で駆けつけた機動部隊員が、硬直した体を支えつつも揺さぶる。他の隊員は霊素子検知装置を駆使して、消えた何者かの行方を必死に追っていた。

「大丈夫ですか、お怪我は」
「……名前を」
「え?」
「名前を呼んでいました。私が……殺した人たちの」
「落ち着いて下さい。事情は後でゆっくり伺います」
「殺した、実験で殺した研究員達の名前を、あれは知っていた」

 焦点の定まらない目で、九里浜はかつての仲間達の幻影を追っていた。あの煙の声は、確かに彼らの声の、崩れて混ざり合った集合体だった。

「”三業”か。中国のマフィアみたいな名前だな」
「それは三合会でしょう? 会議の後に余計な情報を吹き込まないで」

 傍らの女性から刺々しい言葉を聞いて、エージェント・テッドは判りやすく肩をすくめた。今日はサイト-8159のGOI対策合同会議で、要注意団体の諜報を主な任務とする二人も呼ばれていたのだった。

「キミは記憶力が良いんだから何でもないだろう、ルリコ。一月くらい前にさ、あの洒落たカフェで食べた変なスイーツの名前覚えてる?」
「カフェじゃない。歴とした料理店。食べたのはエイブルスキーヴァー。あんたは甘ったるいとか言って残したから覚えてないんでしょうが。任務で行ったっていうのに」
「そりゃ印象に残ってるだろうさ。キミにとっては一月にあるかないかの許可付き外出だもの」

 傍らの女性は動きを止め、瑠璃色の目をテッドの方に向けた。猫科動物のような瞳。本気の怒りを前にして、テッドは慌てて顔貌を崩した。

「悪かったよ。俺が悪かった。許してくれ」
「侮辱しないで。この私が許可無しに外出なんてするわけ無いでしょう」
「そこかよ。どんだけ財団忠誠度高いの」

 女性はテッドの言葉を無視し、最早彼の方を見ようともしなかった。テッドは視線を彼女の細い首に向ける。巻き付いた青紫色のチョーカーは、”家畜”としての彼女自身を象徴しているように見えた。それでも、その白い肌は美しいとも思っていたが。
 女性が無視を続ける間に、テッドは手元の資料をぱらぱらと捲った。

「しかし、霊素子を兵器として用いる要注意団体、ねえ」
「レジュメを読んでないなら部屋にこもって一人で読みなさい」
「そう拗ねるなよ。キミだって気になってるだろ。九里浜さんが襲われた件の――」

 小さな悲鳴が、テッドの耳奥に届いた。
 どこから来たものか。どれくらいの距離があるのか、彼には図れない。だが、傍らのエージェント・百瀬には判っている。胃が裂けるような苦痛と悲しみの感情。意図せず感知して、百瀬の表情が苦悶に歪むのを、テッドは見ていた。

「直線距離200メートル。二階!」

 テッド達が立つ三階の床下から、紫色をした煙のようなものが立ち上っているのが見えた。

「走れ!」

 テッドが叫ぶより早く、床下から吹き上がるように紫の煙が立ち上った。煙は風もないのにぐねぐねと不気味に蠕動しながら、撹乱するように無数の渦巻きを形作っている。その回転する一部が体に触れないよう、二人は全力で後方に向けて走った。
 緊急警報のアラートが、今更のように廊下へ鳴り響く。煙は音もなく膨らみ、爆発的にその面積を拡大させていた。
 テッドが後ろを振り向くと、中心部に顔があった。人間の骸骨をマニエリスム的に歪めたような、地獄から這い出た亡者の顔。
 周囲から散発的に聞こえる悲鳴に向けて、出来る限りの避難を二人は呼びかける。だが、時は既に遅いのかもしれない。ここまでの侵入を許していることが、既に致命的な収容違反と言う他ないからだ。
 
 無我夢中で廊下を駆け抜けると、階段の下から武装した一団が駆け上ってきた。収容違反に対処する機動部隊の一団である。

「馬鹿、逃げろ。通常装備が通用する相手じゃない」

 テッドの叫びも聞かず、機動部隊は迫りくる脅威に対して一斉射撃を浴びせる。隊員の一人が伸びてきた煙に巻かれ、その肉体が分解を始めるのを見つつ、二人は階段を勢いよく駆け下りた。

 最下段まで降りると、既に大半の職員は避難を終えているようだった。非常出口までは直線距離で約200メートル。テッド一人なら20秒要らずに辿り着ける距離。

「背負って走るか?」
「うるさい」

 息を切らして減速した百瀬に向かい、テッドは走りながら言葉を投げる。銃声は既に止んでいた。任務を与えられたなら、それに殉ずるのが組織人たる職員の務めである。テッドには、百瀬や機動部隊のような実直な忠誠心は理解できなかったが。

「頑張れよ、出口はもう少し――」

 テッドの耳奥に、微かな呻き声が聞こえてきた。推定距離は約100メートル。向かって左手前、経理課の事務所。傍らの百瀬も感じ取っている。
 後方から、音もなく悪意が接近する。テッドは視界の端で、百瀬は直感でその動きを捉えていた。

「俺一人ならやれる。窓から逃げられる」
「嫌だ。私も――」
「職務を全うしろ。足手纏いになるな」

 わざと突き放すように言う。苦悶に歪む百瀬の顔がある。彼女なら、自分の感情を汲み取って動いてくれるはずだ。テッドはそう思っていた。
 二人で走る。百瀬は出口へ、テッドは経理課のオフィスへ。最早お互いの顔は見なかった。極限状況の任務では、お互いを信じるしかない場面がある。
 オフィスの扉は幸いにも開け放たれていた。恐らく、他の職員はパニック状態で飛び出したのだろう。中を見ると、声の主はすぐに分かった。老齢の女性職員が椅子の横に倒れ込んでいる。慌てて足を挫いたらしい。俊足でテッドは傍らに駆け寄る。

「もう大丈夫だ。掴まってくれ」

 手を伸ばすと同時、後方に紫の煙が充満した。
 巨大な悪意の眼が、鼻先まで迫り来た時、テッドは昔のことを思い出していた。

「佐々原君?」
 
 アラートの鳴り響く実験室に向けて、崔は大声で語り掛ける。避難しようとしていたが、先ほどまで近くにいたはずの助手の姿が見当たらない。
 ゆっくりとした足取りで、実験室のドアに向かって歩み寄る。固く施錠された鉄扉は、いかなる人物の侵入も許していないはずだった。無機質な警報音ががらんとした研究室内に響き渡り、狼の遠吠えのように崔の脳裏へ反響していた。

 ドアの手前まで歩み寄った時、後方から物音がした。ドアの開く音。先ほど、崔が入ってきた廊下に続く研究室の扉である。

「博士、逃げ――」

 そう言って、佐々原はドア付近に倒れ込む。
 その後ろには、巨大な紫の影が見えていた。

≪見つけたぞ≫

 佐々原は恐らく、逃げ出してすぐに煙に追われたのだろう。後から追った崔が、彼女の姿を捕捉できなかった理由が分かった。
 崔は”敵”の姿を捕捉すると、全速力で実験室に向かった。戦おうなどとは考えもしていない。その行動を、呻くように低い声が嘲笑った。

≪そちらは行き止まりだろう≫

 コンソールへ入力をし、実験室のドアを開けて、素早く施錠する。出来る限り後方へ向かう。冷たいベッドが傍らにある。かつてDクラスが倒れ伏していたベッド。
 紫の煙は、何事もないかのようにドアを通過し、崔の眼前まで猛烈な速度で迫り来た。日本の妖怪、がしゃどくろを連想させる巨大な顔面が、ゲタゲタと下卑た笑いを放った。

≪この時を待っていた≫
「こちらの台詞だな」

 呟くように崔が言うと、実験室内に放電のような光が走った。光は紫の煙を直撃し、一切の動作を不可能とする。悲鳴に似た絶叫が、髑髏の口からつんざくように迸った。
 崔は、悠々とした身振りで、電雷の隙間を掻い潜りつつドアに向かい、元のオフィスへと戻った。コンソールを調整し、さらに出力を上げると、悲鳴も連動するように大きくなる。

「大型の霊素子凝集装置だ。霊的実体の捕縛に用いられている。間抜けにもここに来たということは、お前は知らなかったんだろう。D-8109」

 言われた煙は、ぎょろぎょろとした目だけを崔の方に向ける。煙の奥に燻る憎悪の色を見ても、崔の心は動じなかった。何度も見てきた類の眼だ。

≪私はD-8109ではない。最上でもあり北村でもある。七十七人の魂を代表して私はここに来ている≫
「複数人が喋っているような感覚はそれが理由ですか。凝集した霊魂が攻撃性を発揮した例はありますが、これほど大規模なものは類例がないですね。誰が貴方を作ったのですか?」

 質問しつつ、装置の出力を上げていく。苦悶の叫びを聞いても、やはり崔は動じなかった。相手はアノマリーである。配慮すべき人権も心も、異常存在には初めからない。

「言わないならば結構です。機動部隊が貴方を捕らえ、収容するまでここにいてもらいます」
≪”三人組”≫

 その言葉を聞いて、崔の瞳孔が大きく開いた。目の前の怪物がニタリとした笑みを浮かべる。その反応に、崔は心底からの不快さを覚えた。片手で眼鏡を整えなおす。

「随分懐かしい名前が登場しましたね。どこでそれを知ったのですか。三十年以上も前に滅んだ連中の」
≪滅んでなどいない。名を変え姿を変え、我々はどこにでもいる。お前たち財団が存在し続ける限りは≫
「荒唐無稽ですね。第一、ここは日本です。派生団体がいるなど聞いたこともありません」
≪全ての存在は復讐をする。お前たちが本当に正義と人類のために働いているなど、一体誰が信じているのだ? 世界中の人間からお前たちは恨まれている≫

 懐の通信機から声がする。連絡しておいた機動部隊が、まもなくここに到着するという連絡だった。崔は呼びかけに応答せずに、にたつく霊魂へと凍った視線を向けていた。

≪その女、”異常持ち”だろう? 霊素子の凝集度が常人の数百倍だった。道理で触れただけでは分解できないはずだ。首に似たようなリボンを付けたヤツを何人か見たぞ。お前たちはそうやって奴隷を飼っているんだな≫
「違います。彼女は――」
≪如何なる御託を並べても、お前たちが通常の人類から見て”異常”な連中であることに変わりはない。異常なものが正常な世界に存在して良い道理はない。だから滅びるのだ。我々も、お前たちも≫

 そう言うと、髑髏の煙が虹色に発光を始めた。正確には、微細な粒子に分解された煙が、様々な色の粒となって空気中に霧散しているのだった。崔はコンソールを操作するが、一度始まった分解は止められないようだった。

≪我々は再び現れる。お前たちが滅びるまで≫

 紫の煙は、虹色の粒子となって散開した。
 崔は、パネルのスイッチを切ると、ドアに倒れ込んでいる佐々原の元へ走る。首元に触れると、”異常持ち”を示すチョーカー越しに、温もりと鼓動が感じられた。

「こうしていれば、”普通の人間”なんですけどね」
 崔は、少女のように眠る佐々原を助け起こすと、廊下を歩き出す。ようやく駆け付けた機動部隊員たちを眺めながら、”敵”の最後の言葉を頭の中で反芻していた。


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  1. portal:2999720 (15 Jul 2018 03:34)
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