SCP-XXXX-JP - 露悪趣味

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宮坂博士によるSCP-XXXX-JPの顔のスケッチ。

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: その出現の予測と居場所の特定が困難であることから、SCP-XXXX-JPの追跡および収容は現時点では不可能です。SCP-XXXX-JPの実用的な収容手順を確立するため、SCP-XXXX-JPが存在していると推定される不明な空間に干渉する方法について研究が進められています。

日本各地の学校、企業等にカウンセラーとして潜入しているエージェントは、不審な明晰夢とそれに伴う心的外傷に関する報告を義務付けられます。SCP-XXXX-JP-Aを発見した場合、速やかに直近の幻覚体験に関する聴取と精神的苦痛の緩和に努めてください。既に発見されているSCP-XXXX-JP-Aのうち、SCP-XXXX-JP-A-2、-3、-4には、精神状態について定期的な評価を行ってください。SCP-XXXX-JP-A-1、-5については、心的外傷の治癒が明確に見られるまで積極的なカウンセリングが継続されます。

説明: SCP-XXXX-JPはノンレム睡眠中の人間に干渉する人型実体です。SCP-XXXX-JPは任意で選択した対象に様々な事象を幻覚体験として認識させる能力を有しています。SCP-XXXX-JPが認識させている事象が単純な幻覚であるか、幻覚として認識させた現実であるかは、現時点では不明です1。SCP-XXXX-JPは不明な空間を拠点に活動しており、対象をその空間に転移させていると推定されていますが、明確な証拠は未だ得られていません(補遺XXXX-JP-1参照)。SCP-XXXX-JPの外見的特徴に関する証言は全て、以下の点で一致しています。

  • 肌が精白である。
  • 露出している肌に体毛が生えていない。
  • 鼻およびそれに類する器官が見られない。
  • 黒い結膜と白い虹彩の目を持つ。
  • 両手それぞれの指のうち二本が義指に置換されている。どの指が義指であるかはランダムである。
  • 上背が高い。
  • 黒い衣服を着用している。コート、背広、浴衣、トラックスーツ等が報告されている。

SCP-XXXX-JPの影響を受けた人物はSCP-XXXX-JP-Aに指定されます。SCP-XXXX-JP-AはSCP-XXXX-JPの引き起こした幻覚体験を、その他の知覚情報と比較してより鮮明に記憶します。SCP-XXXX-JPによる幻覚体験は身体的・性的な暴力、流血、私事の侵害、その他加虐的な内容を含み、しばしばSCP-XXXX-JP-Aに精神的な悪影響を及ぼします2。カウンセリングを通してSCP-XXXX-JP-A-2、-3は精神状態を回復した一方で、SCP-XXXX-JP-A-1、-5は現在も心的外傷が深刻であり、特にSCP-XXXX-JP-A-1は以前と同様の生活が困難になっています。SCP-XXXX-JP-Aの報告によれば、SCP-XXXX-JPは幻覚体験の最初と最後に必ず現れ、SCP-XXXX-JP-Aと言語を用いて意思疎通を図ります。確認されているSCP-XXXX-JP-Aは全て日本語話者であるため、SCP-XXXX-JPが日本語以外の言語の発話が可能であるかは不明です。

2019/08/15、エージェント・山都口分(Kubun Yamato)がSCP-XXXX-JP-A-1に聴取した内容から、SCP-XXXX-JPは財団に発見されました。2020/12/26時点で確認されているSCP-XXXX-JP-Aの概要は以下の通りです。詳細は書類XXXX-JP-Aを参照してください。

  • SCP-XXXX-JP-A-1: 戸倉桜華(Oka Togura)。十七歳、女性。山口県██市在住。山口県立███高校にスクールカウンセラーとして潜入しているエージェント・山都口分が相談を受けた。様々な要因によって嘔吐を強制される夢を見たと話している。
  • SCP-XXXX-JP-A-2: 慶伊遍理(Henri Keii)。三十二歳、男性。東京都██区在住。株式会社███本社に企業カウンセラーとして潜入しているエージェント・東野京子(Kyoko Higashino)が相談を受けた。自分の周囲の人間や建築物が次々に変形する夢を見たと話している。
  • SCP-XXXX-JP-A-3: 面沢団十郎(Danjuro Menzawa)。二十歳、男性。茨城県██市在住。国立██大学にスクールカウンセラーとして潜入しているエージェント・茨目城幸(Shiroyuki Ibarame)が相談を受けた。物品や生物の断面を見せられ、その断面にSCP-XXXX-JPが手を加える夢を見たと話している。
  • SCP-XXXX-JP-A-4: 堰口堆太郎(Tsuitaro Sekiguchi)。十五歳、男性。千葉県██市在住。友人に最近見た夢について話していたところを、██市立██中学校に用務員として潜入しているエージェント・千賀葉一(Yoichi Senga)が発見し、会話の内容を記録した。多種多様な実体群に追跡される夢を見たと話している。
  • SCP-XXXX-JP-A-5: 財前帆璃(Hanri Zaizen)。十六歳、女性。神奈川県██市在住。神奈川県立███高校にスクールカウンセラーとして潜入しているエージェント・神奈木川音(Kawane Kannagi)が相談を受けた。自分と、自分の友人である影野█(█████ Kageno)3が様々な犯罪に被害者あるいは加害者として関わる夢を見たと話している。
  • SCP-XXXX-JP-A-6: 宮坂城介(Jonosuke Miyasaka)博士。三十四歳、男性。補遺XXXX-JP-2参照。
  • SCP-XXXX-JP-A-7: 現在調査中。補遺XXXX-JP-2参照。
  • SCP-XXXX-JP-A-8: 現在調査中。補遺XXXX-JP-2参照。
  • SCP-XXXX-JP-A-9: 現在調査中。補遺XXXX-JP-2参照。

SCP-XXXX-JP-Aが幻覚体験の直後にSCP-XXXX-JPを目撃したことが判明しているものの、覚醒状態でのSCP-XXXX-JPとの対話が成功した事例は確認されていません。一方で、SCP-XXXX-JP-A-2、-3、-4が明晰夢として話した体験において、「YWTGTHFT4」「You will totally go to hell for this (お前はこれで完全に地獄に堕ちる)」「Yeah, we're totally going to hell for this (ああ、俺たちはこれで完全に地獄に堕ちる)」という言辞が随所に確認されています。YWTGTHFTの情報の希少性を鑑み、SCP-XXXX-JPと当該団体との関連性を調べるため、SCP-XXXX-JP-A-1、-5からより詳細な証言を引き出す試みが進行中です。

補遺XXXX-JP-1: 2020/12/20、SCP-XXXX-JPの担当職員である宮坂城介博士が、覚醒状態においてSCP-XXXX-JPを目撃したことを報告しました。宮坂博士はSCP-XXXX-JPが自身に直接接触してくる可能性が高いと判断し、実験を提案して承認されました。以下はその実験記録です。

実験記録XXXX-JP-1:

対象: 宮坂城介博士

日時: 2020/12/20/22:00

実施方法: サイト-81██の実験室内に寝台を用意し、対象を就寝させ、対象の脳波、心拍数、体温を測定する。それに加え、対象にGPS発信機と映像記録用カメラを装着させる。非常時に備え、対象には回転式拳銃と奇跡術的強化弾薬5四十二発分の所持が許可される。

結果: 対象が睡眠薬を服用して22:12にノンレム睡眠の状態になり、翌日の6:24に起床するまでの間、対象の脳波、心拍数、体温は安定していた。一方で、GPS受信機は寝台の上にいる対象とは別に、不明な発信源からの信号を受信した。対象が起床した途端、対象の心拍数、体温が大きく変動し、身体が緊張状態に変化したことが確認された。カメラには、撮影日時が不明である映像が記録されていた。

分析: 通常夢を、取り分け明晰夢を見る時は、人間はレム睡眠中である。しかしSCP-XXXX-JPの影響を受けている場合、人間はノンレム睡眠中に、その上一切うなされることなく幻覚を体験するようである。また不明な信号の受信は、痕跡を残さない高度な現実改変による対象の転移を示している可能性がある6。カメラの映像記録をその証拠と見做すこともできるが、情報改変の可能性もあり、断定は不可能である。

補遺XXXX-JP-2: 以下は実験記録XXXX-JP-1に記されている実験後、宮坂博士が装着したカメラのデータ内に確認された映像記録です。

映像記録XXXX-JP-1:

撮影者: 宮坂城介博士(以下宮坂博士)

<記録開始>

[カメラが起動する。宮坂博士は不明な劇場の下手袖にいる]

宮坂博士: ……カメラは点いているな。よし。では、これより記録を開始する。

[宮坂博士は辺りを見回す]

宮坂博士: どうやら、どこかの劇場に転移させられたようだ。GPS発信機は……問題なく動作している。電波を通した通信は可能なのか?

[宮坂博士は実験用作業着のポケットから通信機器を取り出し、実験室に駐在している職員との通話を試みる]

宮坂博士: もしもし?

[通信機器から呼吸音が十秒間継続して聞こえる。呻き声のあと、水音が五秒間続き、通話が途切れる]

宮坂博士: ……誰か吐いたな。とにかく、通信が不可能だということは解った。取り敢えず今回の実験の目的を確認しておこう。

[宮坂博士は通信機器をポケットに仕舞う]

宮坂博士: 私が実験を提案したのは、単純にSCP-XXXX-JPの影響を受けた者の身体状態を数値化したいというのもある。しかし一番確認したいのは、SCP-XXXX-JP-Aが連れていかれた場所──つまり私が今いる場所──が夢か現実かということだ。私はここが夢だとは思っていない。心理学に関しては門外漢だが異常存在が発生させたものとは言え、ただの夢があそこまでの心的外傷を引き起こすとは考えにくい。

[宮坂博士はポケットから銃を取り出し、その状態を確認する]

宮坂博士: もしここが現実であるとすると、更に三つのパターンが考えられる。ここが元いた基底世界のどこかで、財団の目を掻い潜り現実改変が行われている場合。ここが全くの別世界で、その住民にお構いなく現実改変が行われている場合。ここが一から構築された異空間で、好き勝手に現実改変が行われている場合。

[宮坂博士は床に銃弾を一発撃ち込む]

宮坂博士: よし、銃は正確に動作するな。仮に夢だとして、SCP-XXXX-JPのやっていることは人間の尊厳を侮辱し、財団を挑発するものだ。倫理的な観点からも正常性維持の面からも、到底許されない。いずれにせよ、SCP-XXXX-JPと対峙したら、私はこの銃で撃ち殺すことも厭わない。

[宮坂博士は銃をポケットに仕舞う]

宮坂博士: このまま撮影が成功したら、私の提言が証明されることになるはずだ。[五秒間の沈黙]それにしても、立派な劇場だ……SCP-XXXX-JPは細部にこだわる性格をしているらしい。まあいい。舞台袖から出てみる。

[宮坂博士は舞台に上がる。観客席に動的な実体は見られない。落ち着いた女性的な声が舞台に響き、ナレーションを始める]

ナレーター: 座席に闇の帳が降り、舞台に光の矢が当たる。誰もいない板の上、舞台袖にいる君。何も知らない君は、誘いの電話を受ける。ここまではまだ何も始まらない。君は舞台に上がる。ここから愉快な活劇が始まる。素数を数えよう。二、三、五、七。失神を讃美しよう。一、九、七、六。きっと素敵な作品になるだろう。公演が終わったら、エッグノッグを飲んで祝おう。正体不明の彼が笑う。

宮坂博士: 失神だと? おい誰だ? 一体何を喋っている?

ナレーター: 劇場から出た先で君は何を見るだろう? それは桜であるかもしれないし、蝉であるかもしれないし、落葉であるかもしれないし、あるいは窓を濡らす結露であるかもしれない。時が止まった学び舎で、君は大切なものを見つけるに違いない。神様は言ったよ。「見よ、それは極めて良かった」。

[十代前半の人間に酷似している七体の実体群が上手袖から出てくる。実体群はヘッドセットを着用している。実体群が手を振ると、観客席から拍手と歓声が鳴る。宮坂博士は観客席に様々な実体が出現していることに気付く7。舞台上にいる実体群のうち、ジェスター・ハットと縞模様のつなぎ服を着用した男性的な実体が話し始める]

ジェスター・ハットの実体: 皆さん! 俺たちの素晴らしい舞台にようこそ。来てもらったからにゃ、絶対に後悔させやしません! そうだろ、チェットフォード?

[ジェスター・ハットの実体は、シルクハットと燕尾服、スラックスを着用した男性的な実体の肩を叩く]

シルクハットの実体(以下チェットフォード): 叩くなよ、ベリーマン……[咳払いをする]えぇ、今回の舞台は非常に良いものであると、僕たちは自負しております。続けて、コヴァチ。

[野球帽とフード付きスウェットシャツ、ジーンズを着用した男性的な実体が舞台の前面に出てくる]

野球帽の実体(以下コヴァチ): ……俺から言えるのは、黙って見てろということだけです。

チェットフォード: 口悪いな……「開演後は静かに見ていてください」だろ?

コヴァチ: 次はお前だ、ヒューズ。

[ケピ帽と女子学生用セーラー服を着用した女性的な実体がコヴァチを向いたあと、観客席を見る。当該実体は帽子を浅く被り直す]

ケピ帽の実体(以下ヒューズ): みんながコンビニで買ったサンドイッチを食べる中、私だけブリトーを食べました。でも舞台上ではしっかり足並みを揃えていきます。

ジェスター・ハットの実体(以下ベリーマン): ヒューズ、英語の発音からして正しいのは「ブリトー」じゃなく「ブリート」だぜ。

チェットフォード: どうでもいい……

コヴァチ: それを言うなら「サンドイッチ」も「サンドウィッチ」じゃなきゃ駄目だろ。

チェットフォード: 何の話だよ……

ヒューズ: そう言えば「コヴァチ」ってK-O-V-A-Cって綴るんだよね。なんでそう書いて「コヴァチ」って読むんだっけ?

コヴァチ: ああそれはだな、ドイツ語で……

チェットフォード: ブリトーから話を広げなくていい!

ヒューズ: キニース、よろしく。

[ウィッチ・ハットとオフショルダーのカクテル・ドレスを着用した女性的な実体が大きく息を吸う]

ウィッチ・ハットの実体(以下キニース): 皆さあああああん! こんにちはあああああああ![音割れを起こす]ここに……[咳き込む]ここ……[咳き込む]ええと……ここに来ていただけたということは、皆さんは今回の劇は長くなると承知してくださっていることと思います! 集中を切らさず、最後まで楽しんでいただけたなら、あたしたちは本当に嬉しいです! デュパン!

[バードケージ・ヴェールとチャイナドレスを着用した女性的な実体がキニースとハイファイブを交わす]

バードケージ・ヴェールの実体(以下デュパン): うちら七人の出番は少ないですが、大事な仕事には変わりありません。ですんでまあ……全力でやらせていただきます。最後、ガルシア。

[中折れ帽と浴衣を着用した男性的な実体が観客席に向かって一礼する]

中折れ帽の実体(以下ガルシア): 我々が鳴かず飛ばずの有り様になってから、何年が経ったでしょうか。ホトトギスなら殺されているところでございましょう。まあ経年変化が我々にとってフェータルなものであったとは思いませんがね。あんまり無駄話するとぼったくりじゃねえかと言われますので、ここらで私の挨拶は締めにしましょうか。[四秒間の沈黙]私は「ブリトー」のほうが、日本の言の葉らしくて好みです。

チェットフォード: まだ言ってる……

ベリーマン: さあ、続いては今日一番のゲストの紹介です! 観客席から見て左側に立っているのが、宮坂城介様です!

[観客席から大きな拍手と歓声が上がる]

ベリーマン: 宮坂様! 所感を聞かせてください!

宮坂博士: ああ、この舞台は実に素晴らしいと思うよ。私がなぜ呼ばれたのかは皆目見当も付かないがな。

ベリーマン: 心の籠もった言葉、ありがとうございます!

宮坂博士: 待て。なぜ私の声が拾われているんだ? マイクもないのに。

ベリーマン: なぜって、ヘッドセットを付けてるじゃないですか!

宮坂博士: ヘッドセット? これは頭部に装着する型のカメラ──

ベリーマン: [手を打つ]そうでした、宮坂様! 是非あなたに渡したいものがあるのです。

[ベリーマンの手にコウテイペンギン(Aptenodytes forsteri)とウンシュウミカン(Citrus unshiu)を模したキーホルダーがそれぞれ一つずつ出現する]

ベリーマン: どっちが欲しいですか? それとも両方?

宮坂博士: いらない、どっちも。

ベリーマン: そうですか! ところで宮坂様! 一つ聞きたいことがあるのですが……

宮坂博士: なんだ?

ベリーマン: 家族ってなんだと思いますか?

[六秒間の沈黙]

宮坂博士: ……おちょくっているのか?

[ベリーマンが笑顔を見せる。キーホルダー二個が消失する]

ベリーマン: さて、前説はこのくらいにして、最後にあの演出家の方を呼びましょう……「雨」に「水」と書き「うすい」、七尾湾の「湾」に「三郎」をくっつけて「わんざぶろう」と読みます! 雨水湾三郎様です!

[四秒間の沈黙後、黒い山高帽と背広を着用したSCP-XXXX-JPが上手袖から出てくる様子をカメラが捉える。SCP-XXXX-JPは帽子を取り、会釈する]

宮坂博士: な……

ベリーマン: では皆さん! エピローグの前にまたお会いしましょう!

宮坂博士: [驚く]おい! 待て!

ガルシア: 宮坂様、僭越ながら一言……

[ガルシアは宮坂博士のほうを向く]

ガルシア: 罪を洗い流すことはできませんが、肉体を洗い清めることはできます。湯船に浸かり、熱い流水を顔に掛けるのは最高です。

宮坂博士: ……何が言いたい?

ガルシア: 演劇においてシナプスも、シビランスも、サインズも、サヨナラも、シビュラも必要ありません。大事なのはシンコピーです。

宮坂博士: 要領を得ないな。私に伝えたいことはなんだ?

ガルシア: [微笑を浮かべる]ではまた、エピローグ前に……

[SCP-XXXX-JPを含め、全ての実体群が消失する]

宮坂博士: ……今のは……なんだったんだ?

[四秒間の沈黙]

宮坂博士: SCP-XXXX-JP……報告通りの容姿だったな。奴の目的は何だ? 私が財団職員であることに関係があるのか? それとも別の何かか?

[五秒間の沈黙]

宮坂博士: ここに居ても仕方がないな。ひとまず探索を開始する。

[宮坂博士は舞台から下りる]

宮坂博士: まずはホールから出てみる。


宮坂博士は約十一分間劇場内部の探索を継続する。ロビーや廊下等でポスターやパンフレットが確認される。「You will totally go to hell for this」「Yeah, we're totally going to hell for this」という文がそれらに記述されている。宮坂博士は最初に転移されたホール以外の全てのドアが開かないことを確認しながら進む。廊下を歩いている途中、宮坂博士は「宮坂城介様」と書かれた紙が貼付された扉に気付く。


宮坂博士: ……楽屋か?

[宮坂博士は扉を開けた状態にして部屋に入る]

宮坂博士: やはり楽屋だな。テレビや箪笥があって、床は畳になっている。靴を脱ぐ必要がありそうだが、土足で上がらせてもらおう。

[扉から入って右側の壁近くに五本の楽屋花が飾られている。楽屋花の札に、それぞれ「シュガーコム製菓」「赤き俳優劇団」「偉大なる河馬の教会」「胡椒と幽霊の収容協会」「血と塩の騎士団」という団体名が見られる8。掛け時計の針が7時丁度を指して止まっている]

宮坂博士: ……私は色々な団体から祝われているらしい。シュガーコム製菓はSCP-1459の報告書で見た。赤き俳優劇団は……どこかで見たような気がするが思い出せない。YWTGTHFTと密接な関係は無かったはずだ。ほかの団体に関しては全く見覚えが無い。

[テーブルの上に紙コップ二個と、ウンシュウミカン(Citrus unshiu)の果実が複数入った編み籠がある。紙コップの近くに一つずつカードスタンドが置かれている。カードスタンドにはそれぞれ「キレイな水」「キタナい水」という単語が読み取れる。後方で物音が鳴る。カメラは閉じた扉を捉える]

宮坂博士: [ドアノブを三回ひねる]……開かない。なるほど。これを飲まなければ出られないということか?

[宮坂博士は「キレイな水」の紙コップを手に取り、内容物を確認してから一気に飲む]

宮坂博士: [四秒間の沈黙]何ともない。普通の水だ。

[宮坂博士は「キタナい水」の紙コップを掴み、内容物を飲む]

宮坂博士: こっちも何とも……[呻く]

[宮坂博士の咽喉からアミメアリ(Pristomyrmex punctatus)の大群が出現する。宮坂博士が取り落とした紙コップからも、アミメアリが出現している様子をカメラが捉える]

宮坂博士: [咳き込む]何かしてくるとは思っていたが……全く、気分が悪い。虫好きの現実改変者に、口の中へ蟻を入れられたときのことを思い出──

[液晶テレビが唐突に点く。画面に白い壁に囲まれた直方体型の部屋の内部を描写したアニメーション映像が映し出される。画面内では宮坂博士、SCP-XXXX-JPと一致する外見を持つ二人の人物が、一つのテーブルを挟んで椅子に座っている。ほかに家具は見られない]

アニメーションのSCP-XXXX-JP: ……挨拶はまだでしたよね? 初めまして。お会いできて光栄です。宮坂様。

アニメーションの宮坂博士: ……初めまして。どのようにお呼びしたらよろしいですか?

アニメーションのSCP-XXXX-JP: [両手を肩まで上げる]これは失礼いたしました! まだ名前を申し上げておりませんでしたね。私は「雨水湾三郎」と申します。「雨」に「水」と書いて「うすい」と読み、七尾湾の「湾」に「三郎」を付けて「わんざぶろう」と読むのです。近頃は「うわん」という名で活動しております。

宮坂博士: え……

アニメーションの宮坂博士: では雨水さん。早速質問してもよろしいですか?

アニメーションのSCP-XXXX-JP: ええ、構いませんよ。

アニメーションの宮坂博士: YWTGTHFTのことは知っていますか?

アニメーションのSCP-XXXX-JP: はい。私の勤めている会社ですね。

アニメーションの宮坂博士: 会社? YWTGTHFTは企業なのですか?

アニメーションのSCP-XXXX-JP: [手を顎に当て、首を傾げる]さて、どうでしょう? 見方によるでしょうね。

[宮坂博士は遠隔操作機器を取り、電源ボタンを繰り返し押す]

アニメーションの宮坂博士: ……では、その団体であなたはどのような役割を占めているのですか? あなたは単なる構成員の一人ですか? それとも代表者ですか?

アニメーションのSCP-XXXX-JP: 「代表者」というのも個人の見方によると思います。会社の社長が必ずしも肩書き通りの活躍をしているとは限らないでしょう?

アニメーションの宮坂博士: YWTGTHFTの理念や活動方針などはありますか? 教えてくださると大変嬉しく思います。

アニメーションのSCP-XXXX-JP: これも見方によるでしょう。組織全体の理念が、個人の解釈によって如何様にも意味を持つことはしばしばあります。

[宮坂博士は遠隔操作機器の電源ボタンを連打する]

アニメーションの宮坂博士: 失礼ですが、雨水さん、曖昧な返答は控えていただきたいです。互いにとって有益な情報を交換し合うことで、私たちは対等な関係が築けるはずです。

アニメーションのSCP-XXXX-JP: おや、気分を害されたのなら申し訳ございません。ところで、私から質問をしてもよろしいですか?

アニメーションの宮坂博士: ええ、どうぞ。

アニメーションのSCP-XXXX-JP: 宮坂城介様。あなたは何人、人を殺しましたか?

[アニメーション内のSCP-XXXX-JPと宮坂博士が映像の手前を見る。宮坂博士は遠隔操作機器を取り落とす。テレビの映像が途切れる]

宮坂博士: ……なんの話だ? こんな下らないアニメ……アニメ? 7時……

[宮坂博士は時計を見る]

宮坂博士: ……私が小学五年生の頃、████のアニメが始まった。私の住んでいた地域では火曜日の夕方の4時から放送していた。だが2006年から日時が変わった。変わったあとの放送開始時間は日曜日の……午前7時だ。

[五秒間の沈黙]

宮坂博士: いや……考え過ぎか……

[乾いた音と共に、室内の照明が突然消える]

宮坂博士: [驚く]今度は何だ?


乾いた音が再び鳴り、カメラの視界が明瞭になる。カメラは不明なマンションの駐車場を写す。宮坂博士は歩道の上に立っている。沿道に花の咲いたヤマザクラ(Cerasus jamasakura)の木が確認される。マンションの向かい側の公園に立つ時計塔の針が、10時丁度を指して止まっている。宮坂博士の後方から轟音が鳴り、宮坂博士は振り向く。シイタケ(Lentinula edodes)に類似した形状を持ち二足歩行をする、体長約40mの実体をカメラが捉える。実体は身体から複数の触手を伸ばし、人間を捕獲している。捕獲された人間は、触手と共に実体の身体に引き込まれている。公園の屋外拡声器から、防災行政無線の音声が響いている。


屋外拡声器: 複数の敵対的な実体による大規模な破壊事案が発生した。SCP財団機動部隊ベータ-7、ガンマ-5、イータ-11、ラムダ-12、ロー-93、ユプシロン-20、スティグマ-9による処理が完了するまで、対応可能な警察、自衛隊、民間団体の人員は敵対的な実体の抑止に努めよ。繰り返す。[以下同一の内容を繰り返し流す]

[タカ科の鳥に類似した容姿を持つ実体が宮坂博士の頭上を飛行する。鳥型の実体は言語を発し始まる]

鳥型の実体: 不幸だ、不幸だ、不幸だ、地上に住む者たち。なお三人の天使が吹こうとしているラッパの響きのゆえに。

[鳥型の実体は旋回し、シイタケ型の実体と逆の方向に飛び去る]

宮坂博士: 転移……桜……10時……怪獣……機動部隊? クソ、思考が追いつかない……

[シイタケ型の実体は建造物を破壊しながら、手前に進行している]

宮坂博士: [息を呑む]まずいな。ひとまず逃げ──あれは……

[宮坂博士は、Tシャツと半ズボンを着用した、七〜八歳の男性と推定される人物が道路を手前に歩いてきていることに気付く。当該人物の身体には白い斑点が見られる]

Tシャツの人物: 大人……助けて……みんな……か……変わった……

宮坂博士: 落ち着いて、一旦止まって。君は何らかの病原体に感染している。どこか安全な屋内に──

Tシャツの人物: あ。

[当該人物の身体が軋みを立て、ペンギン科の鳥に似た形状に大きく変形する。変形した当該人物はおぼつかない足取りで駐車場へ歩いていき、転倒して動かなくなる]

宮坂博士: ……手遅れだったか。皮膚に触れるのは駄目か? 手袋越しなら──

[黒いローブを着用し、フードを深く被った実体が五体出現する。カメラはローブの実体群の顔を明瞭に捉えられていない。ローブの実体群はTシャツの人物を取り囲む]

宮坂博士: 何者だ、お前ら……どこから現れた? その子を安全な場所で眠らせなければならないんだ。どけろ。

ローブの実体群: [斉唱し始める]素数を数えん。初めに二がある。二個の鋳型。機械の肉体。次に三がある。三本の矢印。超合金の収容房。

宮坂博士: 聞こえないのか? どけろと言っているんだ!

ローブの実体群: 次に五がある。五個の鋭角。愛の星間旅行。次に七がある。七体の神格。放血的な捧げ物。あわれ崇め奉れ。

宮坂博士: [ポケットからナイフを取り出す]悪いが強行突破させてもら──

[宮坂博士は実体群に走り寄る。発生源が不明な力学的作用が起こり、宮坂博士は吹き飛ばされる。カメラは刃が折れたナイフを捉える。宮坂博士は姿勢の立て直しと銃の取り出しを素早く行い、銃を構える]

宮坂博士: 失せろ。

[宮坂博士は三発の銃弾を撃つ。銃弾は一体の実体の頭部に到達した瞬間消失する。その直後に、宮坂博士の右腕の肘関節に銃弾が三発撃ち込まれる。宮坂博士の右前腕が、持っている銃ごと吹き飛ばされる]

宮坂博士: は……

[宮坂博士は地面に膝を突き、呻き声を上げ呼吸を荒くする。一番手前にいるローブの実体が語り始める]

ローブの実体: オーエンとイスラーフィールはあなたの後ろに立っている。しかしながら謎解きは探偵の任務であり、科学者の仕事ではない。

[ローブの実体群は宮坂博士を見る。一番手前の実体が言葉を続ける]

ローブの実体: 指折り数えよ。あなたの罪は幾つある?

[ローブの実体群が一斉に消失する。Tシャツの人物の姿は見られない。宮坂博士は自身の右腕が再生しており、銃がポケットに収まっていることに気付く]

宮坂博士: [十秒間の沈黙]何だったんだ……あの子は……どこに……

[再び轟音が鳴る。シイタケ型の実体が右手で建造物を殴打し、破壊した様子をカメラが捉える。実体は右腕を振り払い、別の建造物が破壊される。瓦礫が手前に向かって飛来する]

宮坂博士: [舌打ち]逃げられな──

[衝突音と破砕音が鳴る。粉塵によって映像が乱れる。六秒後、映像は正常になり、林に囲まれた山道を写す。蝉の鳴き声が確認される]

宮坂博士: [息を切らす]私は生きているのか? 瓦礫が直撃したかと思ったが……

[宮坂博士は辺りを見回す]

宮坂博士: [八秒間の沈黙]蝉……また転移か? ここは……山の中のようだな。[四秒間の沈黙]あのきのこの怪物は……クソ……

[宮坂博士は溜息をつく]

宮坂博士: 何の冗談だ……悪趣味な……


宮坂博士は山道を登る。八分後、カメラは樹木の生えていない草地を捉える。草地には七名の人物が立っており、向かって右側に貯水池がある。七名の人物の概要は以下の通りである。

  • 十代後半の男性と見られる、リムが黒い眼鏡を掛け、標準的な学校制服のワイシャツとスラックスを着用した短髪の人物。ホルスターを装着している。「イチゴタニ」と呼称されている。
  • 髪型がパンチパーマであること以外、外見的特徴は同上。「アサセ」と呼称されている。
  • 髪型がオールバックであること以外、外見的特徴は同上。「コバチ」と呼称されている。
  • 十代後半の女性と見られる、髪型が尼削ぎで巫女装束を着用した人物。「キニ」と呼称されている。
  • 髪型がアップスタイルであること以外、外見的特徴は同上。「フクショウ」と呼称されている。
  • 九〜十歳の男性と見られる、髪型が丸刈りでアスレチック・シャツと半ズボンを着用した人物。木刀を携行している。「ウツギダ」と呼称されている。

ウツギダはイチゴタニの隣に立ち、アサセとコバチを詰問している。キニとフクショウは貯水池の水際に立っており、その足元に一名の人物の身体が横たわっている。当該人物は十代後半の女性と見られ、髪型をポニーテールにし標準的な学校制服のワイシャツとスカートを着用している。当該人物の身体は水に濡れており、ポリプロピレン・ロープにより手を背中で緊縛されている。宮坂博士は山道から左手に外れ、林の中に入る。


ウツギダ: 自分がやったことがどういうことか、まだ理解していないのか? お前たちはシンカンを殺した! よりにもよって貯水池に落として!

コバチ: だからそれはもう解ったっつうの。お前らのほうこそ解ってんのかよ? 俺たちはシンカンと一緒に遊んでただけだ。いつも通りだ! 足を踏み外したのはあいつだ! つうか生け贄を一人増やすぐらいいいじゃねえか。道祖神──だっけ?──も喜んでくれ……[呻く]

[イチゴタニがコバチの腹部と顔を繰り返し殴打する。アサセが悲鳴を上げる]

ウツギダ: 兄さん! 気持ちは解るけどやり過ぎだ!

[コバチは地面に臀部を突き、その直後イチゴタニに胸倉を掴まれ立たされる]

イチゴタニ: いいか、俺の話をよく聞け……単純なことだ。お前が神様だったとする。そして生け贄が届く。自分のために大事な物が捧げられて優越感を覚えるだろう。だが何度も持ってこられると気分が悪い……命を犠牲にしているわけだからな。だから頻度を決める。一か月に一回か、あるいは半年に一回か。それなのに生け贄を高すぎる頻度で持ってこられたらどう思う? 自分は命を奪うことを喜ばしく思う暴君だと思われているのかと、憤るだろ? お前らがやったことはそういうことなんだよ! この害悪が![コバチの胸倉を放し地面に倒す]

アサセ: ど……お……俺たち……どうすればいい……

イチゴタニ: うるせえ、しゃしゃんな。もう手遅れだよ。ヴェールが捲られてからも守ってきた安寧は今日で仕舞いだ。俺たちのスポンサーは財団の奴らに取り潰される。そして俺たちは殺される。

ウツギダ: 兄さん……

[八秒間の沈黙]

ウツギダ: キニ。フクショウ。本当に蘇生は無理そうか?

キニ: ウツギダ様、先程も申し上げました通り無理です。

ウツギダ: 現実改変や奇跡術でもか?

フクショウ: できません。貯水池に落ちて神に触れてしまった者はもうどうにも……

[六秒間の沈黙]

フクショウ: 我々の力不足です。申し訳ございません。

ウツギダ: ……謝るのは僕のほうだ。同じようなことを何遍も聞いてすまない。

フクショウ: ……シンカンは泳ぎが苦手なのです。ましてや後ろ手に縛られた状態で生還は不可能です。この夏私たちと一緒に練習しようと言っていましたが、それももう……

キニ: コムギ。[フクショウの手を握る]

フクショウ: マリン……

キニ: ユズは独りぼっちが嫌いだったでしょ。ここで立ち止まってたらユズの所に行けないよ。だから最後まで頑張ろ? ね?

フクショウ: ……うん。

ウツギダ: [目を見開く]そう言えば、さっき無線で都市部の斥候から連絡があったよな。兄さん、あれは……

イチゴタニ: ……あまり言いたくはなかったが……あれは道祖神、そして道祖神が生み出した魑魅魍魎が虐殺、破壊の限りを尽くしているという伝言だ。悲嘆とほぼ変わらなかった。この調子だと村は既に被害を受けているだろうな。俺たちの家族も……

コバチ: [両手で頭を押さえる]こ……こんなおおごとになるなんて……思ってなかった……

イチゴタニ: [溜め息をつく]こうなりゃ、お前らを貯水池に落とすのも悪くないかもしれないな……実験だ、実験。財団みたいにやってみようじゃねえか……

アサセ: [悲鳴を上げる]勘弁してくれえ!

キニ: イチゴタニ様。どうか気をお鎮めください……

[宮坂博士は林から草地に出る]

宮坂博士: 会話の途中、失礼する。

[イチゴタニはホルスターから、キニとフクショウは巫女装束の懐中から素早く銃を取り出し、宮坂博士に向ける。ウツギダは木刀を構え、アサセとコバチはあとずさる]

イチゴタニ: その服装は財団の作業着だろう? 氏名、役職、主な担当分野、セキュリティクリアランスを言え。

宮坂博士: 私の名前は宮坂城介だ。財団では博士として勤めている。当初は生物学的な知識を要する任務に当たることが多かったが、今は広範な異常存在、要注意団体を担当している。セキュリティクリアランスレベルは4。五十以上の異常存在の報告書へのアクセスが許可されている。

ウツギダ: 4?

フクショウ: セキュリティクリアランスが?

イチゴタニ: 落ち着け……五十? それは多いほうなのか?

宮坂博士: さあな。まあ取ろうと思えばより多くのアクセス許可を取れるだろう。

イチゴタニ: ……どうやら本物らしい。色々聞きたいことはあるが……まずなんで俺たちを暗殺しようとせず、わざわざ目の前に現れたのか教えてもらおうか。

宮坂博士: 詳細は省くが、私は蟻を吐いたり右腕を撃ち飛ばされたりしてきたところでな。自分でも状況がよく解っていない。

イチゴタニ: [四秒間の沈黙]ああ……はあ?

宮坂博士: ただ……一連の騒動の黒幕については覚えがある。

イチゴタニ: 黒幕? 俺が銃を没収したそこの丸腰二人がやらかしたことだ。黒幕も何も無い。

宮坂博士: それが第三者の現実改変により、意図的に起こされたものだとしたら?

イチゴタニ: [目を見開く]なんだと……

宮坂博士: 私は先程、君たちの言う「道祖神」らしき異常存在が市街地を蹂躙するのを目撃した。財団はまだ対応しきれていない。私は実験の事故で偶然財団の外に出た身だ。この状況で私を気にする者はいない。今なら君たちを誘導できる。

イチゴタニ: ……解った。どうせこのままだと死ぬんだ。城介、あんたと手を組んで打開策を探そう。みんな、それでいいか?

[五秒間の沈黙]

イチゴタニ: 異論はない。

宮坂博士: ありがとう。では山道を下りていきたいところだが……その前に二つ質問をさせてもらいたい。

イチゴタニ: なんだ?

宮坂博士: 「道祖神」というのは一体なんなんだ? そして、なぜ君たちはセキュリティクリアランスや作業着の外観まで、財団の詳細を把握している?

イチゴタニ: ……俺たちの村は昔からまじないやあやかしに頼り、汚い事をして平和を保ってきた。だがヴェールが捲られて、財団が台頭するようになってからはそれが困難になった。その折、契約をして沢山の神格存在に守ってもらうよう村に勧めてきた怪しい奴らがいた。村のお偉方はそいつらと勝手に契約を交わしちまった。そして村が利用していた貯水池──このプールみたいな所に住み着き始めたのが、俺たちが「道祖神」と呼ぶ神格存在だ。財団を始めとする色々な組織の情報も、その契約相手の団体から貰った物だ。

宮坂博士: [五秒間の沈黙]もう一つ……いや……二つ質問したい事ができた。

イチゴタニ: 言ってみろ。

宮坂博士: 契約を勧めてきた団体の名前はなんだ? 実際に村の上役と話した者の姿は見たか?

イチゴタニ: この際そんな情報が重要には思えないが……まあいい。奴らは「YWTGTHFT」と名乗っていた。アルファベットの羅列だ。なんの略称かは知らないがな。村に実際に来た奴の姿は見たことがないが、名前は知っている。確か、「雨水……

[宮坂博士の左前方、イチゴタニの右後方から物音が鳴る]

イチゴタニ: 湾三郎」……

[イチゴタニはゆっくり振り向く。黒いシルクハット、ガス・マスク、トレンチ・コート、手袋を着用した実体が、林から出てくる。当該実体はコートのベルトの左手側に、日本刀を携帯している]

イチゴタニ: ……あんたの知り合いか?

宮坂博士: いや、違う。知らない。君は?

イチゴタニ: 俺も知らない。

[黒ずくめの実体が手前に歩み寄る]

ウツギダ: 何か不味い……逃げよう。

宮坂博士: いや……恐らくこいつが私の標的だ。

[黒ずくめの実体が刀を抜く]

イチゴタニ: じゃあ……やるか。

[八秒間の沈黙]

アサセ: いぃ……ひあ……あぁ!

[アサセが山道へ走り出す]

宮坂博士: 動くな!

[黒ずくめの実体がアサセの前に転移し、左肩から右脇腹にかけてを袈裟斬りにする。傷から多量に出血しながら、アサセは仰向けに倒れる]

イチゴタニ: キニ! フクショウ! 刀の準備!

[黒ずくめの実体がコバチの右隣に転移する。コバチは当該実体のほうを向き、後方に飛び退く]

コバチ: 来るんじゃね──

[黒ずくめの実体が距離を詰め、コバチの左脇腹から右肩にかけてを逆袈裟斬りにする。コバチが出血しながらよろめく一方、当該実体はウツギダに斬り掛かる。コバチは俯せに倒れ、ウツギダは木刀で刀を受け止める。当該実体とウツギダは鍔迫り合いになり、膠着する]

ウツギダ: 僕に構わずこいつを撃て!

フクショウ: できません! ウツギダさ……

[宮坂博士はウツギダの方向に向かって走る]

フクショウ: [驚く]宮坂さん?

宮坂博士: 体格差があって良かった。

[宮坂博士はウツギダから約3mの位置で止まり、銃を取り出して三回発砲する。銃弾は全て黒ずくめの実体の頭部に撃ち込まれる。当該実体は地面に倒れ込む]

宮坂博士: 全員最低三発撃ち込め!

[イチゴタニが六回、キニが四回、フクショウが三回発砲する。更に宮坂博士が銃を頭部に向け、三回発砲する。計十六発の弾丸が黒ずくめの実体の身体に撃ち込まれる]

イチゴタニ: [四秒間の沈黙]どうやら不死身らしい。

[黒ずくめの実体が緩慢な動作で立ち上がる。顔の弾痕以外に傷は無く、出血は見られない]

イチゴタニ: ……ちゃっかり銃持ってんだな、城介。

宮坂博士: まあな。私の弾は奇跡術的な強化が施されているが、あいつに効いているかは微妙だな。君たちの銃に何か仕掛けはあるのか?

イチゴタニ: [笑う]しっかりお清めされている以外は普通の銃と弾だよ。だがまあ、弾が当たった跡すら残らないのは少し心外だな。

[イチゴタニが銃弾を再装填する。黒ずくめの実体が手前に走り出し、宮坂博士は三回発砲する。銃弾が胸部に着弾し、当該実体は仰向けに倒れる]

イチゴタニ: 狙いが良すぎやしないか? というか弾は無限なのか?

宮坂博士: リロードが必要ないだけで、弾は無限ではない。それに私も万能ではない。ずっと命中させるのは無理だ。

[黒ずくめの実体が再び立ち上がる。当該実体は胸部に三箇所の弾痕が見られる一方で、出血はしていない。キニとフクショウの手に、鞘に収まった日本刀が出現する。キニは宮坂博士に、フクショウはイチゴタニに刀を渡す]

キニ: 強力な物です。

イチゴタニ: ありがとう。

宮坂博士: ……ありがとう。

宮坂博士: 今のは──[右前方から摩擦音が継続して鳴っていることに気付く]……誰かいるのか?

[宮坂博士は摩擦音のした方向に近付く。林中の地面の上で、十代後半の男性と見られるワイシャツを着た人物が、八〜九歳の男性と見られるタンクトップを着た人物の脇を抱えながら蠢いている。両者共に、下半身が欠損している]

宮坂博士: [林に入り、ワイシャツを着た人物の近くへ行く]……君! その子を助けようとしているのか? 恐らくその子はもう絶命している……そして……君ももう助からないだろう……動くと余計苦しくなる。安静にしていてくれ。

[ワイシャツの人物は六秒間宮坂博士のほうを見る。当該人物はタンクトップの人物に視線を戻し、その上半身の断面から組織の一部を指で削ぎ取り、摂食する]

ワイシャツの人物: 旨い。

[当該人物は目を閉じる。宮坂博士はその近くに屈み、当該人物が死亡したことを確認し、立ち上がる]

宮坂博士: ……私は現実改変者の集まるロッジに、機動部隊を向かわせたことがある9。その任務の中で隊員の一人が下半身を吹き飛ばされ、即死した。もう一人の隊員がその死体を持って帰ろうとしたが、その隊員も下半身をやられた。上半身だけになっても、隊員は仲間の死体にしがみつき、進もうとしていた。しかし突然動きを止めると、ヘルメットを外し、仲間の肉を食べ始めた。旨い旨いと言いながら死んでいった。既に認識を改変されていた。まるでこれは……その時の……

[六秒間の沈黙]

宮坂博士: これは……私への皮肉か? 私は為すべきことをしただけだ。こんな当て付けを受ける筋合いは……ん?

[カメラはワイシャツの人物が左腕に装着しているデジタル式腕時計を捉える。時計の表示は13時丁度を示して止まっている]

宮坂博士: この時計は……中学一年生の時の林間学校で、私が紛失した物と同じだ……

声: 楽しんでいただけておりますか?

[宮坂博士は振り向き、黒ずくめの人物を確認する。当該人物が宮坂博士を突き飛ばし、宮坂博士は斜面を転がり落ちていく。映像が乱れ、転落音が続く。六秒後映像が安定し、不明な建物の廊下を示す]

宮坂博士: [荒い呼吸]ここは……

[宮坂博士が立ち上がる。カメラは部屋の引き戸の上にある、「1年H組」と書かれたプレートを捉える]

宮坂博士: [歩き出す]1年H組……私が高校一年生だった時の学級の番号じゃないか。ここは学校か?[止まる]……血の匂いがする。

[宮坂博士は引き戸を開ける。中には、十代後半の男女と見られる三名の人物がいる。標準的な学校制服のワイシャツとスラックスを着た男性的な人物が、十代後半の男性と見られる頭部の欠損した死体を抱え、頸部の断面に顔をうずめている。同様に標準的な学校制服のワイシャツとスカートを着た女性的な人物が、十代後半の男性と見られる胸部に包丁が刺さった死体のふくらはぎにかじりついている。体操着を着た男性的な人物が、二十代後半の女性と見られる頭部から出血した死体を組み敷き、[編集済]。スラックスを着た人物が宮坂博士のほうを見る]

宮坂博士: [息を呑む]クソッ!

[宮坂博士は引き戸を素早く閉め、廊下を走り出す。後方から物音がする。宮坂博士は振り返り、スラックスの人物が包丁を持って追跡してきていることを確認し、その後二十四秒間走り続ける。構造的な矛盾にも拘らず、廊下は宮坂博士の進行方向に延々と続いている]

宮坂博士: 逃げられないか……[実験用作業着のポケットから拳銃を取り出す]

[宮坂博士は立ち止まり、スラックスの人物に銃を向ける]

宮坂博士: 止まれ! 止まらなければ撃つ!

[スラックスの人物は走り続ける]

宮坂博士: [舌打ち]来るな![発砲する]

[弾が胸部に当たり、当該人物が仰向けに倒れる。宮坂博士は再度発砲し、当該人物の腹部を撃つ。当該人物は動かなくなる]

宮坂博士: [荒い呼吸]何で……何でこんなことに……

声: すごい疲れてるじゃん。どうしたの?

[宮坂博士は声が発せられた左後方を見る。黒いオープンショルダーのTシャツ、ホットパンツ、タイツを着用した女性的な実体が宮坂博士に歩み寄っている]

宮坂博士: ……黒長蜜柑10

黒長蜜柑(以下黒長): こんにちは。結構久しぶりじゃない?

宮坂博士: 財団に入る前……もう十二年前だ。俺はお前を殺した。なぜ生き返っている?

黒長: 別に生き返ったわけじゃないんだけど。

宮坂博士: お前を蘇らせた奴の差し金か? それとも十二年前の復讐か? 何しにここへ──

声: よお、宮坂さん。

[黒長と対面で話す宮坂博士の後方から声が発せられる。宮坂博士は振り向く。カメラは黒いローブを着用した男性的な実体を捉える]

宮坂博士: [歯軋り]戸倉……匠杜11! 山の子供もこの学校の子供も、全てお前がやったのか? なぜ俺のことを知っている?

戸倉匠杜(以下戸倉): 随分口が回るもんだなあ。俺のことなんか気にしてる場合じゃねえだろ? 宮坂さん。この死体をしっかり見ろよ。[スラックスの人物の右横腹を左足で小突く]

[四秒間の沈黙]

戸倉: あんたが殺したんだぞ? この世の裏側を見たことがねえ一般市民を。俺が頭をいじったとは言えよお。

宮坂博士: 違う。俺は民間人を一人も殺したことはない。これは現実じゃない。

黒長: え? ペンギンみたいになった子供とか上半身だけの子供とか助けようとしてたじゃん。これは現実だーって思ってたからでしょ、あれは?

宮坂博士: 違う。単に自分の良心に従っただけだ。

戸倉: いや、あんたはこれが現実だと思ってるはずだ。何せかなり精神が参っている様子だしな。

宮坂博士: これは夢だ。

戸倉: いや、現実だろ?

宮坂博士: 断じて現実ではない! 俺は民間人を決して殺さな──

戸倉: [声を荒げる]馬鹿か、お前は? わざわざ物騒な銃まで引っ提げてきて、現実だと目星を付けてここに来たんだろ? それでいざ死体を転がしたら、これは私がやったんじゃありません、これは夢で現実じゃありませんってか? 虫のいいことばっか垂れてんじゃねえよ! きめえんだよ、屑がよ!

[八秒間の沈黙]

黒長: 先生ー、匠杜くんが城介くんをいじめてまーす。

戸倉: ……解った、解った。ここは夢の中だってことにしようじゃねえか。まあ、ここに来るまで色々あっただろうしな。ひとまずはお疲れ様と言っておこう。

黒長: 城介が最初に来たのって劇場だったよね? そういえば城介って、演技上手かったらしいじゃん。幼稚園のお遊戯会でいつも先生から褒められてたんだよね?

宮坂博士: [四秒間の沈黙]幼稚園児の時のことなど覚えていない。

黒長: 小学校の学芸会じゃいつも主役だったし、高校で演劇同好会作ったし……大学でもそっち系のサークルに入ったんでしょ? 久々に舞台に上がった気分はどうだった?

宮坂博士: 黙れ。

戸倉: 桜がかなり綺麗だったな。俺の家族、結構インドア派だからあんま花見とか行かなかったんだよな、そういや。桜で思い出したんだけどさ、宮坂さんの母親と妹、家族で花見に行ったときに失踪したんだって12? 面白そうな楽器屋さんがあるから寄ってみたいって妹が言って、興味のないあんたを父親に任せて行って、それっきり戻ってこなかったって聞いたぞ。災難だったなあ。え? その時あんた、小二だったんだろ?

宮坂博士: 口を閉じろ。

戸倉: 母親と妹の行き先に向かってみても、そんな店どこにも見当たらなかったんだろ? あるのは改装途中のレストランだけ。[笑う]異常存在に絡まれる星のもとに生まれてきたんじゃねえの、宮坂さん? それで残った父親は、あんたを男手一つで育ててくれた。いいねえ、感動しちゃうなあ。あんたの父親、数か月前に病気で死んだんだって13? 良かったじゃねえか、異常存在に絡まれて、劇的な死に方をせずに済んで。

宮坂博士: やめろ。

黒長: [咳払いをし、宮坂博士の周囲を歩き始める]それからの生活は穏やかだった。少し心に暗いところがあるけど真面目で活発な城介くんは、ほかの人と変わらない毎日を送った。ペンギンが大好きな城介くんはよく水族館に行った。蜜柑も大好きな城介くんは、水族館に行ったあとのお昼ご飯ではいつも蜜柑が入ったパフェをデザートに頼んでいた。お金が少なかったから、家に帰ってから飲むものは水か麦茶しかなかった。それでも、城介くんはお父さんに本当に感謝していた。ほかにも楽しいことは一杯あった。公園の散歩、山登り、紅葉狩り、商店街巡り、中高の林間学校、特撮ドラマやファンタジーアニメの鑑賞……多少のトラブルはあっても、心が和む暮らしだった……この私、黒長蜜柑と出会うまでは。[四秒間の沈黙]即席で組み立てた話だけど、どう? 合ってる?

宮坂博士: やめろ。

黒長: [笑う]食べ物のほうの蜜柑は大好きなのに、私のことはマジで嫌ってたよね。でもさ、何で私のこと放っておかなかったの? 私は虫を潰すむかつく奴を殺してただけだよ? 折角のバレンタインだったんだから、彼女作ってチョコでも渡せば、それで良かったじゃん? 私を殺したから、財団に目を付けられることになったんだよ?

戸倉: 財団に入ってから殺したのは、ナラカの仲間たちだけじゃねえだろ? 財団の裏切り者とか、宗教集団の信者共とか、大勢殺してきたじゃねえか14。何今更、人一人殺したくらいで落ち込んでんだよ?

[六秒間の沈黙]

戸倉: ……ああ、なるほどな? あんたにとっては、民間人を殺したか殺していないかが一つの重要な線引きだったわけだ?[声が上擦る]でもよお……その線引き……自分で越えちまったなあ? なあ、宮坂さん! あんた、今どんな気持ちなんだ?

宮坂博士: やめろ……やめてくれ……

戸倉: ほら! どうしたんだよ? ここは現実じゃねえんだろ? 夢の中なんだろ? 人を殺そうが何しようが自由だ! 楽しまなきゃ損だ! そうだろ?[笑い出す]

黒長: 私を殺してさえいなきゃ、財団とは関わんなかったし、こんなことにもなんなかったのにね。なんていうか……ウケる。[笑い出す]

[戸倉と黒長が十六秒間大声で笑い続ける間、宮坂博士は沈黙を貫く。笑い終わった直後、戸倉が咳き込む]

戸倉: ああ……ほんと不憫だねえ……あんたはいつ報われるんだ? なあ、宮坂──

[宮坂博士は素早い動作で戸倉に銃を向ける。戸倉の眉間に銃弾が撃ち込まれる。戸倉は廊下に膝を突く]

黒長: [驚く]お前……[左手にサソリ目の生物に酷似した実体を二体出現させる]

[宮坂博士は黒長に銃を向け、再び発砲する。銃弾が眉間に当たり、黒長は仰向けに倒れる。蠍型の実体が消失する。宮坂博士は戸倉を見る]

戸倉: ……悪い、宮坂博士。舐めてたよ。あんたは……飽くまで財団職員なんだな。[笑う]

[宮坂博士は右目の真下と左目を撃ち抜く。戸倉は仰向けに倒れる]

宮坂博士: もう……黙っていてくれ……

[映像が乱れ、三秒間暗転する。映像が復旧した直後、宮坂博士は、黒長が六〜七歳の女性と推定される人物に、戸倉が三十代後半の女性と推定される人物に、それぞれ置換されていることに気付く]

宮坂博士: ……母さん? 柚子? どうして……母さんと柚子が倒れている?

[宮坂博士は二人の人物を交互に見る。両者の顔の傷は、置換前の黒長、戸倉と一致する]

宮坂博士: あ。ああ……違う……何で……駄目だ……そんな……俺が撃ったんじゃない……いや俺が撃った……いや違う……ごめん……いやごめんじゃなくて……俺じゃない……何で……黒長……戸倉は……母さん……ゆ……柚子……柚子……かあ……俺……俺も一緒に行けば……父さん……ごめん……[荒い呼吸]……私は本当に民間人と家族を殺したのか? いや違う。私は多くの命を犠牲にした。しかし民間人への被害は抑止してきた。こんなのは現実じゃない。

[宮坂博士は銃をポケットにしまい、よろめきながら廊下を歩き出す]

宮坂博士: 財団の仲間を多く死なせてきた。しかし民間人は死なせていない。私は民間人を守った。父親もだ。これは悪い夢だ。

[景色が揺らめき、徐々に変化する。カメラはアーケード商店街を写す。イロハモミジ(Acer palmatum)の葉が路傍に集められている。ガラス戸越しに見える店内の様子から電器店と推定される建造物が、宮坂博士の右横にある]

宮坂博士: 3時……59分……

[陳列窓に五台のブラウン管テレビが並べられている。左上の隅に「15:59」と表示された黒色の映像が画面に映し出されている。表示が「16:00」に変わり、その二秒後映像が切り替わる。SCP-XXXX-JP-A-1、-2、-3、-4、-5の幻覚体験と内容が酷似しているアニメーション映像が確認される。宮坂博士は上を向く。店の看板に「YWTGTHFT」という単語が見られる]

宮坂博士: YWTGTHFT……

[宮坂博士は店内に入る。視界が暗転し、三秒後に明瞭になる。カメラは不明な浴室の内部を写す。床面には使用済みの注射器が複数落ちており、磨りガラスの窓には結露ができている。浴槽内には、甲虫目の幼虫やコガネムシ科の昆虫に類似した生物群がひしめき合っている。生物群は15cmほどの体長、赤、青、緑等の体色、斑点、横縞、縦縞等の模様を示している。宮坂博士が左を向くと、鏡の前にSCP-XXXX-JPが立っている。SCP-XXXX-JPの左手に、「聖書」という単語が表紙に印字された本が確認される]

宮坂博士: お前……よくも……

[宮坂博士はSCP-XXXX-JPの足元に頽れる。遠方から電車の走行音が響いているのが確認される]

宮坂博士: 何がしたい? なあ。お前は何がしたいんだ?[声を荒げる]目的は何だ? なぜ私を選んだ? お前……お前……お前のせいで……お前の……[SCP-XXXX-JPの背広の裾を掴む]目的を教えろ! なあ! 何がしたいんだ、お前は? 何が──

[SCP-XXXX-JPは宮坂博士の腕に静かに手を置く。宮坂博士は裾から手を離す。SCP-XXXX-JPは咳払いをする]

SCP-XXXX-JP: 嘔吐は理性によって完成します。変形は憎悪によって完成します。断面は理解によって完成します。追跡は興奮によって完成します。犯罪は静寂によって完成します。病院は忍耐によって完成します。書物は虚飾によって完成します。列車は愛情によって完成します。では悪夢は何によって完成するのでしょうか? 私はその解答を得ることができました。宮坂城介様。あなたに出会えたことで、私、うわんの創作活動は新たな段階に昇華しました。偉大なる役者、宮坂城介様に万雷の拍手を贈りましょう! さあ!

[コガネムシ科の昆虫に類似した生物群が、一斉に飛翔する。生物群の羽音が浴室内を満たす]

SCP-XXXX-JP: [声を張り上げる]悪夢は歓喜、忿怒、悲哀、悦楽、その他あらゆる感情の上澄みです! 複雑な思考の余剰生産物です! 混沌と秩序の衝動の先にあるのは、黒橡の闇であるのか、それとも白妙の光であるのか? それは悪夢を見た者にしか解らないことでございましょう! 私の作品を楽しんでくださった方々に、素晴らしい悪夢が訪れることを心底より願っています! 連作「露悪趣味」は、これにて完結です!

[映像が徐々に不明瞭になり、八秒後に完全に暗転する。映像が終了する前に、宮坂博士の泣き声と柔らかく湿った雑音が背景に聞こえる]

<記録終了>

実験後、宮坂博士のオフィスに差出人不明の梱包されたDVDが九枚出現していることが確認されました。DVDのパッケージには、それぞれ「嘔吐」「変形」「断面」「追跡」「犯罪」「病院」「書物」「列車」「悪夢」という言辞が記載されています。DVDにはアニメーション映像が記録されており、うち六枚の内容はSCP-XXXX-JP-A-1、-2、-3、-4、-5および宮坂博士の幻覚体験との一致を示しました。残りの三枚の内容は以下の通りです。

  • 劇中で████と呼称される、三十代前半の女性と推定される人物が病棟に隔離され、様々な機器による検査や薬物による治療を受ける。病棟での生活を拒否し当該人物はそこを出ようとするが、探索するうちに敵対的な実体群の隔離されている病棟に迷い込み、逃亡を強いられる。
  • 劇中で████と呼称される、二十代前半の女性と推定される人物が三十日間家屋に閉じ込められ、一日に決められた本を読むことを強制される。本の内容は当該人物が過去に体験した加虐的な出来事を描写したものである。
  • 劇中で████と呼称される、二十代前半の男性と推定される人物がカーブしている線路の上に転移し、真正面からの列車の撮影に成功するまで列車の激突を繰り返し体験する。当該人物は不明な方法によって転移のたびに生き返り、計二十三回列車によって致命的な損傷を受ける。

実験記録XXXX-JP-1と回収されたDVDの内容を受け、宮坂博士と未発見の人物三名がそれぞれSCP-XXXX-JP-A-6、-7、-8、-9に指定されました。

補遺XXXX-JP-3: 2020/12/25、宮坂博士のオフィスで差出人不明の段ボール箱が発見されました。箱の中には九枚のDVDが梱包して詰められており、DVDには実写映像が記録されていました。DVDのパッケージおよび映像の内容は、2020/12/21に回収されたものと酷似しています。箱の上面に添付されたメモ用紙には、手書きで文章が記されていました。文章の内容は以下の通りです。

メリークリスマス!
ミスター・ジョウノスケ・ミヤサカへ、YWTGTHFTより、ささやかな贈り物。


scp jp keter 異次元 瞬間移動 人間型 現実改変



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執筆者: Blood_and_Salt
文字数: 30271
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批評コメント: 5

最終更新: 17 Apr 2021 15:21
最終コメント: 24 Feb 2021 22:58 by Blood_and_Salt

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