約束のときまで
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 おばあちゃんの家に来て普段目にしない風景に興奮していた私は、母親の危ないから川には近づかないようにという忠告を聞き逃していた様で。
 走って、跳んで、駆けているうちに川辺まで行ってしまっていて。
 そこに捨て犬がいたものだから余計にはしゃいでしまって。なでたり、抱きついたり、一緒に駆けたりして。名前をつけてしまうほどに気に入ってしまって。
 楽しくてはしゃぎすぎていたせいか、二時間ほどで疲れてしまっていた私は、堤防に寄り添うように寝てしまっていた様で。
 だから、雨音と犬の鳴き声で目を覚ました私は運が良かったはずだった。
 突然の豪雨で  今ならゲリラ豪雨と呼ぶのだろう  増水した川は私の足元まで迫っていて、あと10分でも目を覚ますのが遅ければ飲み込まれていただろう。
 その幸運に感謝してすぐに帰るべきだったと思う。だけど、私は。
 犬の鳴き声は川のほうから聞こえていて、そちらには先ほどまで一緒に遊んでいた捨て犬が苦しそうに鳴き続けていて。
 岩に引っかかるようにして流させることに必死に抗っていて。それでも、このまま増水を続ければ流されることは小さな私にもわかって。
 ここには、私しかいなくて。あの子を助けられるのも私しかいなくて。それで、小さな私は、私ならあの子を助けられると勘違いしてしまって。
 浅いから大丈夫だという考えもあったのだろう。流れる水の恐ろしさを知らなかったのもあるだろう。
 だから  無謀にも、足を。一歩踏み出してしまった。
 二歩。たったの二歩。両足を川に踏み入れた時点で私は流されて。しかし幸運にもすぐに、あの犬と同じように岩にしがみつく事ができて。
 けれど、それも長くは続かない。流れを増していく水に体を打たれ続け、息も十分にできず。
 小学二年生の女の子の体力はすぐに尽きてしまって、少しずつ大きくなっていくように聞こえた犬の鳴き声に反比例するように私の意識は徐々に……




3章

 カンカンと鳴り響く音で目を覚ます。
 確か、マメとの散歩中だったはずだ。いつものように  と、いっても二年前くらいからの習慣だが  あの土手で散歩をして、いつものようにベンチで休んでいるうちに眠っていてしまったのだろう。
 マイペースなのは変わらないなぁと自分で思う。今日は大切な用事があるっていうのに。
 そんなことを考えながら周囲を見渡して初めて気づいた。
 ここはどこ?
 先ほどまで散歩していた土手ではなくて、交差点。それも、今住んでいるこんな田舎ではなくて、親と住んでいた大都会の風景。
 ……夢から覚めたと思っていけど、まだ夢の中かも知れない。
 そう思ったが、景色、質感、におい、そのすべてが本物だと私に感じさせる。
 
 「バゥ!」

 「マメ?」
 
 その鳴き声で、意識が完全に明瞭になった。今の自分の状況を再確認する。
 私はで、マメと一緒に立ち尽くしていた。
 ……何で気づかなかったの。そう思ってももう遅い。
 私たちに向かって四方すべてから車が向かってきていた。スピードを緩めることなく。
 なぜ?なんて考えている時間はない。  ッ。せめてマメだけでも。
 私だって、こんな良くわからない状況で車に撥ねられたくはない。でも、マメは、私が守らないと。
 その判断すらももう遅くて。マメをどうにか突き飛ばそうとした私は、その瞬間マメに  昔の、情けなさすら感じさせた子犬ではなく、もう十年も生きている立派なハスキー犬に  突き飛ばされていた。
 私は、車の軌道から逃れた。けど、マメは。
 目は、瞑れない。まだ何とかなると、何とかしないといけないと。そう考えて伸ばした手も虚しく、四台の車はマメに向かっていく。
 間に合わない。私じゃ、やっぱり守れない。
 そう考え、諦めかけたとき。私の目の前でマメが動いた。いや、動かされた。
 私と同じように、突き飛ばされて車の軌道から逸れる。
 車の向かう先には人影があった。その人影は私たちのほうを見ると微笑んで  車の衝突に巻き込まれた。
 高校生の私にも、医学なんかには全く精通してない私でもわかる。即死だ。
 けど、そんなことを考えるより先に頭に浮かんだのは、どうして?だった。
 あの人の姿だった。あのときの顔だった。
 生きていてくれたのなら、うれしい。わけのわからない状況ではあるけれど、そんなことはどうでもくなるくらいにうれしい。
 でも、彼は死んでしまった。わけのわからいままに。私が何もできないでいるうちに。
 涙が零れ落ちる。

「だってまだ  




 意識が途絶える、その直前に。私は引っ張りあげられた。明瞭ではない、それでもまだ消え去ってはいない意識を集中させて双眸を向ける。男の人だった。体がすごく大きかったが、お父さんよりはかなり若そうだなっと思った。
 
「大丈夫だよ」

 そう言って笑うその顔に安心して、そのまま意識を手放しそうになったが、川のほうを指さして言った。言ってしまった。

「マメ……が……」

 先ほどまで聞こえていた鳴き声はもう聞こえなくて。その体は今にも流されそうで。

「……君の犬かい?」

 その問いかけに頷こうとして、やめる。

「違う……でも  

「わかった。あの子も大丈夫。だから休んでて」

 私が言い終わる前に彼は答えてくれて。堤防の上まで運んでくれたというところで私の意識は途絶えた。


 目を覚ましたときすでに雨は止んでいて、私の横でマメが横になっていた。
 助けてくれたお兄さんは見当たらなくて、




46章

 不自然な浮遊感に意識が覚醒する。ベンチに座っていたはずだけど、落ちた……?
 そう思って目を開くが、周囲を見渡すまでもなく目の前にはありえない光景が広がっていた。
 むき出しになった岩肌。海。空。
 浮遊感の正体もわかった。私が崖からぶら下がっている。右手に引っかかっているリードのおかげで落下を免れている。見上げるまでもなくマメが頑張ってくれているんだとわかった。
 けど、このままだとどっちも落ちる。落ちて、死ぬ。そんな確信があった。
 これは夢だと考えられたら気が楽になるだろうとは思うけれど、吹き付ける雨風の感覚、足元に感じる落下への恐怖が、これが現実であると告げている。
 悩んでる時間はない。夢だったらラッキーで済むし、夢じゃなくてもマメは助かる。
 そして私は、リードから手を  

「やめろ!」

 声が響いた。
 ……誰か、いるの?助けてくれるの?
 リードを掴んでいる手に力が入り、震え出す。
 恐怖が戻る。身体が、脳が、死にたくないと叫び出す。
 リードが手繰られ自分の身体が完全に崖の上に上がるまでその震えは、恐怖は治まらなかった。
 崖の上で身を起こし、始めてその人の姿を見る。
 大柄な男性だった。制服のようなものを着ているから高校生だとわかる。
 その顔に見覚えがあるような気がしたが、それよりも私は彼の足が気になった。

「あの、足大丈夫ですか?」

 左足が血だらけだった。こちらからだとよく分からないが、アキレス腱付近がえぐれるようになっている。どう見ても大怪我で、すぐにでも病院に行った方がいいようにも思えた。

「足?……ああ、平気平気。結構前からだよ、もう慣れた」

 慣れた?結構前から?そうは見えない。それに、雨が降っているとはいえよく見ると濡れすぎている。

「平気には見えません!それに……」

 違う、その前に言う事がある。

「あ、ごめんなさい。助けてくださって  

 


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