「そろそろ説明があっていい頃だと、ボクは思うんだけどさ?」
通信機の向こうにいる誰かに、問いかける。
帰ってくる声は、ボイスチェンジャーに乗った合成音で、性別や年齢の判別は出来ない。だが、それでもここ一月、同じ人物が対応しているのであろうことは判断できる。
うっかりと口を滑らせることがないように、信頼のおける人物に対応させているのだろう。
だから、今回で4度目になる、あの実体の質問の回答は、前回と同じような機械的なものだ。
「対象に関する質問に答えることはできません。また、前回も申しあげましたが、対象への攻撃行動は控えてください」
理解はしている、自分の立場くらい。
だが、この状況を受け入れる訳には行かない。このままではいるのはあまりにもマズい。
「それは無理な話だよ。俊敏さで言えば向こうの方が上。攻撃しなきゃボクがやられる。それがマズいことは君だって分かっているだろう?」
詭弁だ。
あの程度でボクが死ぬことはない。というより、アレにはボクを殺すよりも優先することがある。
ボクが焦る理由はそれだ。少しでも足止めを喰らえば、あの実体はすぐにでも目的を達成するだろう。
「ですが──」
だから、ボクはひとつの決断を下した。これ以上のリスクは、見込めるリターンに対して割に合わない。
通信機から聞こえる声を遮って、ボクは口を開いた。
「あの実体の事はボクも知っている。いや、同じような性質を持つものを、……かな?SCP-███-FEが……失礼。アレがここに近づくのは、あまりにも危険だ。既に4回。次がないなんて信用は出来ない。そして、もし次アレがここまで来たら、ボクはアレを殺す」
「っ……。それは!それが、財団の理念に反する事ぐらいあなたには分かっているでしょう?それに──」
「キミだって分かっているはずだ。ボクがここにいること自体、既に財団の理念からは外れたところにあるって事を。アレが例え破壊不可能なものであっても、ボクは殺すよ。絶対にね」
少しばかり語調を強めてはいるが、この発言は全てボクの本音だ。
もしこのまま再びアレと相まみえたら、手加減をするつもりは一切ない。
返事のない通信相手に向かって、ボクは再び声をかける。
「脅すつもりは無い。というか、これが脅しにすらなっていないことは、ボクだってわかっている。ただ、今のボクがとれる最善手が、アレを殺すことというだけだからさ。アレについての正確な情報が欲しい。もちろんこちらも、何らかの対価は差し出すつもりだよ」
言い切って、返事を待つ。
──さて、今ボクが払うべき情報はなんだろうか。
交渉が失敗した場合のことは考えない。失敗したのならば、宣言通りアレを殺すだけだ。もちろん、この世界に閉じ込めた忌まわしい本の邪魔は入るだろうが、そちらへの対抗策はいくらでもある。
情報は、ボクがこの世界の財団と渡り合うために必要な、唯一の武器だ。無闇矢鱈と公開すべきではない。ならば──。
「──は、このボク達とその世界……君たちが言うにはSCP-1989-JPだったかな?まあ、その存在を知っているだろうって事さ。ボクがここにいることに気づいているとは思わないし、気づいてたとしてなにかしてくるとは思わないけどね。こちらが詳細の資料だよ。さて、ボクからの対価はここまでだ」
平行世界を跨いで活動するある要注意団体。ボクはそれについての資料を、目の前の人物に渡す。
既にこちらの財団が多くの情報を得ていた可能性もあったが、それでもそのいくつかは、ボク達しか知りえない情報であるし、情報が一致すればある程度の信用へも繋がると考えたからだ。
「では、こちらを」
ボクが渡した資料に目を通すことも無く、目の前の白衣の女性はボクにタブレットを差し出してきた。
「5分後には全てのデータが削除されます」
「なるほどね。了解したよ」
女性の警告を聞きながら、ボクはタブレット上の文字に目を走らせ始める。
あまりにも短い資料だ。対象に割り振られた番号"SCP-964-JP"の文字と、対象の相貌及び異常性、行動理念と思わしきもののみが簡潔に記されている。
そのほとんどが、SCP-███-FEと一致している。異常性の一部には、SCP-███-FEに確認されていないものも見られるが、そもそもボク達は、こちらの財団ほど長期にわたってSCP-███-FEを収容出来ていない。
だから、資料に書かれているこの部分が、こちらの世界の対象特有のものなのか、それともボク達が発見することのなかっただけのものなのかはわからなかった。
「アレが、言葉を話す……?」
資料には、過去に対象へのインタビューが行われたことも記されていた。だとしたら、会話も可能なのだろう。
──ならば、解決はすぐそこかもしれない。
5分たち、うんともすんとも言わなくなったタブレットを女性に返却する。
「うん、殺さなくても大丈夫そうだ。次にSCP-964-JPが収容違反を起こしたら、すぐに連絡が欲しいんだけど……大丈夫だよね?」
「ええ。そちらに侵入する前に確保出来そうならばそうしますが」
「構わないよ。不意を打たれなければ、もう、いつでも対処できるだろうし。それに、君たちにとっては、収容違反を起こしても移動先が分かっている現状のままの方が、やりやすいだろうしね」
「いえ、オブジェクト同士の接触はなるべく避けるべきと言う考えからです」
一頻り会話を終え、女性が去るのを見送ってから、自身もその場を離れる。
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任意A任意B任意C- portal:3669025 (01 Jun 2018 11:48)
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