捨てた

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「なんで、君が」

 荒野という表現がよく似合うこの場所。正確に言えば礫砂漠だろうか。
 目を覚ましたのは、ほんの数十秒前。気がついたらこんな場所に一人だ。意外にもパニック等になることはなく──こういうことには慣れっこだからかな?──周囲を警戒しながら体を起こした。
 そして、何度か周囲を見回した後ボクが見つけたのが”そいつ”だ。

「”君”じゃなくて”███博士”だろう?あんたが理事になったとしても、俺がこんな見た目だとしても、俺はあんたより少しばかり年上で、あんたよりも先輩なんだ」

 大げさに肩を竦めながら、そう返してきた”そいつ”は、確かに███博士の姿をしていた。
 見た目に反して低めの声。夕焼けをうつしたかのような蜜柑色の、特徴的なくせっ毛。どんな事でも看破してみせると言いたげな、菫色の瞳。小学生のようにも見えるその体には、どう見ても合っていないだぼだぼの白衣と、そこから覗いて見えるタバコの箱。
 しかしなぜかその白衣は、汚れている。
 地面と同じ赤茶けた汚れと、こべりついたような、赤黒い汚れで。
 あのときのまま。
 
「生きて……いたのかい」

 口に出しながらも、そんなはずは無いと、脳が警笛を発した。
 彼は死んだ。お前を助けて、お前に託して。お前はそれを見ただろう?と。
 だからだろうか。確かに感じる懐かしさ、口から漏れる嬉しそう言葉とは裏腹に、ボクの体は既に攻撃の準備を整えている。

「おいおい、またかよ?俺を警戒するのはいいが、同じくらい周りにも注意を払ってくれ」

 その言葉を聞き終わる間もなく、ボクの体は宙を浮いていた。炎を出す暇も、剣を飛ばす暇も無く。
 普通の人間よりは、はるかに優れた感覚器官を有しているはずの、ボクが知覚できない速さで。何かが、ボクを宙に浮かした。

「うげぇ。芋虫じゃねぇか。こういうのって、普通砂砂漠に棲んでるようなやつじゃねえのか?」

 耳元で響くその声は、███博士のものだ。███博士がボクを抱きかかえ、そして、宙に浮いている。
 自分がいた場所に目を向けると、芋虫というにはあまりにもおぞましく、巨大な生物が地面から顔を出していた。

「このまま終わらせるぞ」

 ███博士は、もしや、このままこの怪物を倒すつもりなのだろうか。そんなことを考えている暇もなく、まばたきの間にすべては終わっていた。
 襲い掛かってきたはずの化け物は、見るも無残な姿で地面に横たわっている。
 ボクの体も地面に下ろされ、目の前には███博士が立っていた。

「さて、後23時間59分11秒。何から話すべきか」
 
 その言葉を聞くころには、彼が███博士ではないかもしれないという疑いは、さっぱりと消えていた。
 だからこそ、ほかのいくつもの疑問が、いくつもの懸念が押し寄せる。

「どうして博士が生きてここにいるのか。そして、どうしてまた死ぬことを選んだのか」

 それを、最初に聞かせてくれ。
 そう頼んだ。

 

「ここでいいよな、理事長様」

 目を覚ましてから10分。███博士はありえないスピードで空を飛び、ここまできた。
 ボクたちの世界。すでにもう存在しないはずのサイト-████。その、研究棟。
 空を飛んでいる間で、気分を落ち着かせることはできた。

「博士はもう少し、女性を誘う場所を考えたほうがいいと思うんだ。どんな話をするとしても、さすがに血がなみなみと注がれたバケツを、ぶちまけたような空間はないと思うよ」
「血痕のこべりついた椅子に座りながらじゃあ、説得力のかけらもねぇな。それで、何から聞く?」
「さっき言ったんだけどな。まあいいや、それについては予想はある程度ついた。というか、これ以外考えられない」
「ほう?」

 少しばかり懐疑的な、それでいて楽しそうな███博士に、ボクの知っていることから導き出せるものは、だけど。と、心の中で付け足してから答える。

「SCP-███-JPだよね。もしかしたら博士は、数周目?」
「大体正解だな。ちなみに数周ってのは正確じゃない。これが、に……じゃなくて、12周目だ」

 少しばかり迷うように博士が答える。
 ああ、やっぱり。そう、すんなりと納得できた。
 あるはずもない可能性にもかかわらず。あってはいけない可能性にもかかわらず。

「でもどうして。あれは、消滅したはずだ。異能大戦が起こるよりも前に、本に、飲み込まれたはずだ。それに、ボクが覚えていないのはどうしてだ?」

 あれは黒い装丁が特徴的な、本型のオブジェクトだ。
 英雄譚を騙る、忌々しいオブジェクトだ。巻き込まれながらも死亡を確認されていない、ただ一人の財団職員は、生存を確認されないままで、オブジェクトは消滅した。
 財団があれを収容できていたとは言いがたく、最後まで、あのオブジェクトへの解決策は見つからなかった。

「そのことも含めて、ひとつずつ話す。これは何周か繰り返しながら、その時々のお前とも相談して集めた情報から導き出した結論だ。絶対的に正しいなんてことはないが、かなり近いとは思ってる。長くなるから、質問はまとめて最後に頼むぜ」

 そう言って、話し始めた。

 まずは、この空間についてのことからだな。
 さっきお前さんが言った、SCP-███-JPって言葉はあながち間違いじゃないが、少しだけ違う。
 同じようで違うオブジェクトだ。まったくの別物かっていわれると、そうじゃないとは思うんだが。
 違う、俺たちの世界に未発見のオブジェクトが残ってたわけじゃない。
 あんたが世界を道連れにした先、コード-█████████世界のオブジェクトだってことだ。
 ああ、忘れてたな。計画の完遂おめでとう。俺たちが敗れたあの本に、一矢報いたってのは俺にとっても嬉しい報告だ。あんたに任せた甲斐があったってもんだ。
 あ?聞かなくてもわかるだろそんなん。あんたに教えてもらったんだよ。
 っていうか、質問は最後って言っただろうが。当分黙ってろ。
 で、だ。
 この現象は、コード-█████████世界のオブジェクトによって発生させられている。異常性の一部は、あんたが言ったようにSCP-███-JPに近いな。
 だからといって、コード-█████████世界におけるSCP-███-JPと断定はできない。一致点は多いが、同じかそれ以上に、不明点や相違点も多いんだ。だが、とりあえずはこれを、SCP-███-JPと仮定して話す。
 だとすれば、俺が英雄側のSCP-███-JP-Bで、あんたが助けられた側のSCP-███-JP-Aだろうな。
 だが、そうするといきなり一つ目の問題点だ。あんたにSCP-███-JPに接触した記憶は?ないよな。前のお前もそう言っていた。だが、現実あんたは今ここにいる。どうしてだと思う?
 考えられる理由はいくつかある。
 誰かが、あんたに気づかれないようにSCP-███-JPとあんたを接触させた。
 そもそも向こうの世界のSCP-███-JPは接触を異常性の発動条件としない。
 どちらも考えられなくはないが、おそらくは──

「ちょっと待ってくれないか」
 
 自分でも無意識に声が出ていた。

「質問は、全部説明し終わってからって言わなかったか?しかも、二回」
「質問じゃないんだ」

 気になる発言はあったけれど、いま声を出したのはそのせいじゃない。自分がSCP-███-JP──あるいは、それに類似するオブジェクト──に取り込まれた可能性を考えた結果だ。
 それは自分の存在意義を揺るがす可能性。予想外のオブジェクトによって、自分たち財団が、完全敗北に至ったと言う結論。
 そして、仇敵を解き放ち、成長させる道筋を作ってしまったかもしれないという現実だ。

「質問じゃない?」

 予想外の発言だったのか、博士は少しばかり訝しげに眉をひそめた。

「ただの、確認だよ。ボクは、失敗したんじゃないのか?ここにいるってことは、つまりボクは楔としての機能を失ったんじゃないか?」

 何もかもが無駄になってしまった、という虚無感。それを感じながらも、自分の声は淡々としていた。
 しかし、博士の反応は予想外のものだった。驚いたようではあるが、どちらかといえば少しうれしそうだ。

「あんたが始めからそこに気づいてくれれば、もう少し死なずにすんだかもな。まあ、プロジェクトの発案者だって、全く気づかなかったんだから、仕方がない。責めてるわけじゃないぜ。大丈夫だ、失敗はしてない」
「してない?そんなわけがない!あの世界を、あの本をつなぎとめていた楔は、ボク自身だ。ボクが消滅したり、死亡したりしたなら、即座にあいつは解放されて、周りの世界を喰い始める。世界が塗り替えられるんだ。止められるわけがない」
「そこまで気づいたなら、あと少しだよ。あんたはあの本の、あの世界の楔だが、あの世界もあんたの楔だ。あんたはあの世界から離れられないはずだろう?」

 言われて、気づく。確かにボクはあの世界から離れられないはずだ。
 あの本が喰らった世界に、あの本自身を閉じ込める。そのためには、ボクの存在が必要不可欠だった。

「……でも、現にボクはここに居るじゃないか」
「そうだ。あんたはあの英雄譚に取り込まれた。それは確かだろう。ただし、楔で留められた世界と一緒にだ」
「──っ。そんなことが」
「あるかもしれないだろう。というか、その可能性が考えられた時点で、ちゃんと調査はしたぜ。結果、その可能性は限りなく高いってことが分かった。」

 どう調査したのか、なんて聞くまでもない。ここまで自信たっぷりと、博士が告げる言葉が、嘘のはずはない。それは信頼できる調査方法で、信頼できる調査結果なのだろう。

「納得は、してくれたみたいだな。じゃあ、続きを話すぞ。今度こそ質問は無しだ」

 そう言って再び話始める。

 で、どこまで話したんだったか。
 そうそう、あんたが英雄譚に呑まれたきっかけだな。
 これについては確信はない。あんたが寝ている間にその側に発生した、という可能性が一番大きいな。あんたの寝相ひどいし。
 おいおい、炎も剣も今の俺には無駄だからやめろ。冗談だ。
 向こうの世界のオブジェクトが、俺たちの世界の中にいきなり現れるとは考えづらい。だが、たまたま、転移先の近くに出現したというなら可能性がないわけではない。
 でだ、お前の報告によれば、ライプニッツ現実圧縮壁による閉鎖空間は、徐々に拡大してる。
 その時たまたま、SCP-███-JPが閉鎖空間内に入ったんだろうな。
 そこで、両オブジェクトにも予想外の出来事が発生したんだと考えられる。
 SCP-███-JPは本型のオブジェクトだが、その異常性は、俺たちの世界にとってあまりにも魅力的だった。本には様々な世界が描かれるが、SCP-███-JPに描かれる世界は存在していたんだ。そして、SCP-███-JPの世界は、まだ終わってなかった。
 すべての文章が一つの本にまとめられた時点で、俺たちの世界は文章の改変を止め、次の世界に移る準備を始めたわけだが、それはあんたの手で食い止められた。
 その中に、新しい世界が現れたんだ。喜ばないはずがない。
 俺たちの世界は嬉々としてSCP-███-JPを喰おうとした。が、SCP-███-JPは反抗した。お前を取り込んで、物語を紡ぎ始めた。
 そこで、二つの世界は同調した。
 この世界は、あんたが世界を圧縮し、他世界に潜り込ませる直前のもの。つまりは、本によって全てを腹に収められてしまった、俺たちの世界そのものだ。
 だが、この世界はSCP-███-JPの影響で、実質的に新しい世界になった。
 延々とあんたを殺そうとする処刑場。俺があんたを助け続ける英雄譚。
 俺が死ぬことに怯えない限り、この世界は終わらない。本が世界全てを喰いきることもない。

「ここまでは、いいか?」
「良くはないよ。二つの世界の同調ってのも、よくわかってないからね」

 長年、研究員として働いていたとは言え、こういった現象の研究に着かされたことはない。サブカルチャーに詳しいという、よくわからない理由で、最後にはあの本の研究に着いていたわけだけれどね。普段は玩具系オブジェクトが主な担当だったわけだ。専門外の分野については一般人並みの知識しかない。

「まあ、全部理解することが必要なわけじゃない。ここが、あの本と英雄譚によって作り出された、不思議な世界だってことだけわかっててくれればいい」
「不思議な世界って……博士はもう少し語彙があるほうだと思ってたんだけどな」
「前のあんたに、専門用語ばっかりでわからないって言われたもんでね。文句よりも感謝が欲しいくらいなんだが?」
「なるほど。お心遣い、感謝するよ。でも、それ本当かい?博士だってこういうオブジェクトは、専門外だっただろう?」 

 ボクが最初に配属されたのは博士の下だったし、かなりのの頻度で、同じオブジェクトの担当に割り当てられた。それだけ関わりがあれば、今の話が博士の専門外の話だってことはすぐわかる。
 ボクの問いかけは図星だったのか、博士は小さく呻いた。
 専門用語でボクを困らせたってのは、やはり嘘らしい。

「まあ、ここみたいに、この世界には財団の施設が残ってるからな。何周もかけて調べたんだよ」

 オドオドと、そう言う博士を見て、博士が嘘をつくのが苦手だったことを思い出す。
 博士は、じゃあ、説明の続きだなと言って無理やり話題を変えた。

 じゃあ次は……、俺たちの世界のSCP-███-JPと、向こうの世界のSCP-███-JPの違いだな。
 まず、あんたももう気づいてるだろう、2つからだ。
 一つ目。俺たちの世界のSCP-███-JPと違って、このSCP-███-JPで記憶を引き継げるのは俺だけだ。
 二つ目。この世界のSCP-███-JPは、俺があんたを救って死ぬっていう状況を、様々なレパートリーで作る。
 個人的には、二つ目の相違点はありがたかった。同じ状況の繰り返しは飽き飽きしそうだし、何人も相手にしないといけないしな。
 一つ目に関しては、少し、厄介だな。あんたが全部忘れるもんだから、毎回説明しないといけない。今回はすぐに警戒を解いてくれたが、状況によっては、ずっと警戒されたままだったりもした。

「ちょっと待った」

 声をかけた理由は、その表情だ。

「その満面の笑みはなんだい?」

 厄介と言いながら、博士は屈託のない笑顔を浮かべていた。
 問いかけと同時にその笑顔は崩れたが、あまり見ない類の笑顔だった。

「笑ってたか?」
「笑ってたよ。かなり嬉しそうに」
「……思い出し笑いかもな」

 少し間が空いて、カラカラ笑いながら答えが返ってきた。
 その笑いは先ほどの笑顔と違い、少しばかりわざとらしい。

「ボクが何かしたのかい?」
「教える気はないぞ。あれは傑作だった」

 そう断言されると、かなり気になる。それに、笑われるようなことを、この人に覚えられているというのが、腹立たしい。自分は覚えてないのだから尚更だ。
 問い詰めるボクをあしらいながら、博士は説明を再開する。
 

 続けるぞ?
 SCP-███-JPは、少し特徴的なオブジェクトだ。ループものって言ったらわかりやすいか?
 ループの発生条件は、あんたを助けて俺が死ぬことだ。
 ここで、俺たちにとってかなり好都合な、見えない条件が判明した。
 俺が、あんたを助けるために自身が死ぬような行動を起こせば、その後俺が死んでいなくても、あんたを殺しうる状況は発生しない。
 つまり、死ぬまでは何でもできる。
 

「”一日限りの英雄”さまさまだな」

 けらけらと、笑いながら言う。
 わかっていたことだが、やはり博士が今も生きているのはそれが原因らしい。
 一日限りの英雄。自分の持つ”上官特権”のような、後天的な特殊能力。
 この、特殊能力と呼ばれる力こそ、あの本達が、自分自身を最後の一冊にするために放った最後の一手。
 
「ループのたびに使えるんじゃ、一日限りの名が泣きそうだね」

 ”一日限りの英雄”は、博士が得ることとなった特殊能力だ。
 簡単に言うならば、たった二十四時間だけスーパーマンになれる。
 自分は、たまたま特殊能力を発現しなかった、と言っていた博士が、土壇場で明かした能力だ。
 本当に二十四時間なのか自分は知らない。博士の姿を最後に見たのは自分だが、それは大勢の能力者に向かっていく後姿だけ。
 その後、博士は戻ってこなかったし、自分は本が世界を飛ぼうとする兆候を、見届けねばならなかった。
 それは博士が能力を発動して、ちょうど二十四時間後に発生し、自分は作戦を決行した。

「上官特権だって、名前のとおりじゃあないだろ。死んだ部下の能力しか使えないんじゃあな。それに、親しい部下の能力じゃなければうまく扱えないんだろ?」
「まあ、そうなんだけどさ。話をそらしちゃったね。それで、博士はその、何でもできる時間を使って何をしてたんだい?」
「決まってんだろ?現状打破の方法を探ってたんだよ。ここからが本題だ」

 ひじをついて手を組むその癖は、博士がこの姿になってからはあまり見ていない。子供のような姿でも意外と様になっていて、ふふ、と声が漏れた。

「何がおかしい」
「いや、思い出し笑いだよ」

 ちょっとした冗談だったけれど、中途半端なしかめっ面になった博士がこれもまた面白くて、笑い声は大きくなる。
 なんなんだよ、と呟くその姿すら面白く感じられてしまって、笑いが収まるまでには数十秒の時間を要した。

「なんだったんだ」
「いや、ね。一度笑ったら、なかなか止まらないんだ。あの本の収容違反のせいで、気の休まる状況は一度もなくて、それは世界を移動してからも続いてたからさ。気が緩んだのかもしれない」
「……今だって、気が休まるとはいえないだろ」
「いや、ぜんぜん違うよ。異能大戦が起こって、自分は極東支部理事長なんて立場につけられて、大きすぎるものを背負わされてしまって。世界が終わったら終わったで、背負っているものはさらに大きくなって」

 大笑いを皮切りに、あるいは他の感情すら溢れてきてしまったようだった。

「うんざりだよ。話し方も、格好も、立場も、責任も。全部が自分じゃない感じで。本当は投げ捨てたいのに、みんなに失望されるのが怖くて。今だって、話したいことはいくつもあるのに、切り出せない。自分がやりたいことをするのは、自分の立場や、責任が許してくれない」

 だからかもしれない。何もかもが変わる前の博士と、同じような仕草、同じような態度に、気が緩んだのだ。
 一度壊れてしまった堰は、そう簡単には直らない。財団の極東支部理事長が、言うべきではない、言ってはいけない言葉が簡単に出てきた。

「死ぬのをやめてくれ」

 それは、同胞への侮辱に他ならない。たとえ、急ごしらえの理事長だとしても、自分でなければこんな無責任で酷いことは言わないと思う。
 異能大戦の際に”煌炎”や”剣舞”の主を、死地に向かわせたのは自分なのだ。
 本人たちが、嫌がっていなかったとしても、その命令を出したのは自分なのだ。世界のためを免罪符に、他人の死を許容したのだ。
 
「次のボクを見殺しにしてくれ」

 彼が自分を助けなければ、SCP-███-JPの物語は終わる。ボクは死体となって元居た場所に戻されるだろう。
 そうなればあの本はもう自由だ。跳んだ先、コード-█████████世界を喰い始めるだろう。ボク達の世界は、痕跡すら残らず、コード-█████████世界もいずれそうなるだろう。
 そうなってもいい、と言ったのだ。

「無理な相談だ。それに、──」
「じゃあ」

 博士の死角から、自分に向けて撃ち出した剣は、すでに自分のすぐ側まで迫っている。

「そいつも、無理な相談だ。それに、ここからが本番だって言っただろう?」

 目の前に居たはずの博士は、自分の後ろから話しかけてきている。

「──っ」
「驚くことないだろ。スーパーマンってのは身体能力だけじゃない。感覚器官も常識はずれに決まってるだろうが。それに、どう頑張ったってお前は死ねないだろうよ。SCP-███-JP-BがSCP-███-JP-Aを助けようと行動を起こせば、状況に関わらずSCP-███-JP-Aは必ず助かる。コード-█████████世界のSCP-███-JPも、それは同じだろうからな」
「だったら!SCP-███-JPから生還した人間が居ないのも、同じだろう!?何度も無意味に死ぬ必要はないんだよ!」
「とりあえず話を聞け。確かにSCP-███-JPから抜け出した例はない。おそらく、それは絶対的に不可能だろう」
「なら、やっぱり──」

 振り向いて、反論しようとしたが、それは止められる。

「だがな。この空間なら別なんだよ。今すぐ抜け出せるってわけじゃない。だけど、抜け出せる可能性は確かに見つかった。しかも、あの本と英雄譚の両方に一杯食わせられるかもしれない。そうなれば、あんたが楔でいる必要もなくなる。あの本の影響も全て無くなるかもしれない。その後はきっと自由だ」

 その道を示されてしまったのなら、むざむざと死は選べない。
 ここまで取り乱しても、自分はどこまでも臆病だった。
 何をしても、ここから抜け出すことができないのだから、博士の無駄死にを止めたいという詭弁は、ここから抜け出すことも、責任を全て終わらせることもできるという、可能性に潰された。
 博士が何度死んでも、どうせ苦しくはないのだし、自分が生きられるかもしれないのなら万々歳じゃないかという思いは、消えてくれなかった。
 結局、何よりも自分の命が大事だと思ってしまう。見下げた根性だ。

「本当に、そんなことができるのかい?」

 内心を悟られないように、声を出す。
 
「理論的には、ほぼ完成してる。とはいえ、まだ、今までの十倍以上の時間はかかりそうだけどな」
 

 
 

 

   


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