性のお悩み相談ダイヤル

画面の中で、裸の10歳児が俺に向かって微笑んでいた。
屈託のない無邪気な笑顔。自身の扱いについては知る由もないんだろう。
だからこそ彼は、筋の通った理論もなく俺を責め立てているようにも見えた。

その日は何もせず、ラップトップの電源を落としてベッドに横になった。
俺だってうんざりしていた。

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「ジェフ、あの話はどうなった？」
「何の話だ」
「ほら、お前の後輩ちゃんからDMでデートに誘われた話。アレどうなった？」
「あのな、前も言ったけど、それは業務的なヤツだ。メシがてらサークルの制作物の相談を」
「嘘だね」
「黙れブレンドン。だからアレは」
「あ、ここ空いてる？　何の話？」
「よう、コリー。今はジェフリーの彼女の話だ」
「へぇ。それはいいね」
「あー、もういい。俺は行くからな。次も講義がある」
「ジェフ、このクソほどヒマな昼休みをどこで潰すんだ？　あー、行っちまった。やりすぎたな」
「なぁブレンドン。ジェフには彼女がいるのか？」
「らしいぜ。っていうか知らないのか？　ほぼ周知の事実だぞ？」
「そうか。ほら俺、疎いし」
「本当、羨ましいヤツだよな。俺らみたいなナードじみた野郎には叶わぬ夢って感じだ。だよな？」
「え、あー、そうだね」
「あぁ？　あんまり関心なさそうじゃないか」
「いや、実は……望ましくはあるけど、興味が湧いたことがないんだ」

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人って何かしら、秘密を抱えてるものだ。現実的に考えたら、みんな潔癖なんてありえない。
でも、実はそれが嘘っぱちで、社会の理想を反映したみたいな世界が事実なんじゃないかと思えてくる。
もしそれが本当だったら、全員が俺の敵だ。

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「よう。今日もえらく集合率がいいな」
「お前が呼んだんだろ」
「ブレンドン、手に持ってるカードは何？」
「これ？　お前らへの頼み事」

性のお悩み相談ダイヤル 学生のみなさん、他人にはいえない性の悩みがありませんか？ 困ったら、かかえこまずにすぐにダイヤルへ相談を。 私たちがあなたのちからになります。 ███-████‐████

「なんだこりゃ」
「見ればわかるだろ。『性のお悩み相談ダイヤル』だよ。よくポスターにあるだろ？」
「いつから保健教諭に転職したんだよ、お前」
「できたらとっくにやってるよ。……実は、うちの母ちゃんの新しいパート先がここのテレアポでな。カードを配って宣伝の必要があるんだと。月のノルマとかあるらしくてな、非営利法人のくせに」
「悩みの電話がない方が良い世の中なんじゃないのか？」
「知るか。まぁどっちにしろ、必要なヤツに行き渡る分には問題ないだろうし」
「これだけのために集めたのか？　アホらし」
「バーカ。俺はお前が"性のお悩み"抱えてないか心配で持ってきたんだぞ。このなかじゃ、お前が一番必要なんだからな」
「はぁ？」
「皆まで言わせんな。彼女といつどうなるか、わかんないだろ？」
「世話焼きなクソ野郎だこと。その理屈だとコリーはどうなるんだよ」
「コリーはカード減らしたかったから呼んだだけだ」
「え？　俺にはダイヤルが要らないってこと？」
「当たり前だろ、縁もなさそうなんだし。でも必要だったら掛けろよ。コール数が上がって母ちゃんが喜ぶ」
「俺にも悩みくらいあるよ」
「……オナニー以外で？」
「黙れよブレンドン」

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