モニターに映し出される空は不自然に明るくなった。次の瞬間、世界は音を失ったかのような静寂。遠くの地平線に見えた閃光が、全てを飲み込むように拡大し、絶望の雲がたちまち広がっていく。
その後に残るのは、焼け焦げた地平線の向こうに漂う黒い煙。数秒前まで生きていた森が、何もかもが灰となり、過去のものになった。人々の絶叫も、最後には風に溶けて消え、ただ死の静寂が広がるのみだった。
「解析が完了しました。弾種は乙型11式爆弾です。」
「被害状況は?」
「被害想定。財団機動部隊5大隊の生存は絶望的です。毛利派の3大隊が壊滅したと想定されます。」
そのモニターに映し出される閃光を見た瞬間、胸の奥が凍りつくような感覚に襲われた。閃光の彼方には、数時間前に出撃命令を下して送り出した戦友たちのいる場所だった。体中の血の気が一気に引き、心臓が止まるほどに鼓動が遅くなる。
「すまない。すまない。」
それしか言葉にならない。頭の中で彼らの顔が浮かび上がり、意識は徐々に過去へと遡っていく。笑って敬礼を交わして任務へと向かった部下たち。頭で考えずとも彼らが灰と化したことを理解した。今の自分では彼らに何もできなかった。そんな気持ちを思い知らされる。
絶望感が波のように押し寄せ、あんな決断をしなければ今ここで笑っていたかもしれない事実が脳裏に何度も奥深くに突き刺さった。喉がつまり言葉を発することすら困難になっていく。ただ、その場に立ち尽くし無力さを痛感するしかなかった。
モニターに広がる雲を見つめながら、自責の念にとらわれる。責任感と無力感が交錯し、視界がぼやける。前に進まなければと心で叫んでいたが、その言葉は心の痛みを癒やすことはできなかった。
「味方ごと大量破壊兵器で……」
毛利派に対する認識が塗り替わっていく。知的な戦術家という印象が鮮血にまみれながら引き金を引く血と狂気にまみれた生粋の|戦争狂《バーサーカー》へと変わる。拳を固く握り、歯を食いしばるしかできない。
──絶対に復讐してやる!
更に拳を固く握りしめて、胸に覚悟を決めた。奴らは生かしておいてはいけない。
電信班が突如振り返る。
「毛利派より打電!」
目を見開き早口になっている。もしや追い打ちをかけられるのではないかと頭をよぎる。それを振り払うようにして無理やり冷静になろうとする。
「内容は。」
ワレ毛利派第21大隊、コレヨリ財団ト行動ヲ共ニシ毛利派ヘトクーデターヲ行ウ。協力願ウ。現在地東鳳翩山基地。応答ヲ。希望へト。
怪しいと思いながらも頭を働かせた。もしかしたら先程の出来事に反感を持った部隊がクーデターを起こすことがあるかもしれない。その一筋の希望に望みを託して一か八かのギャンブルへと足を踏み入れようと考えた。
「これより東鳳翩山へと進軍する。奇襲や伏兵に警戒を厳にし出撃せよ。」
ライフルを構え40kgはあるリュックを背負い部隊は東鳳翩山の険しい山道をゆっくりと進軍していた。その急斜面は、見た目以上に険しく、足元の石が音もなく滑る。息を整え、周囲の木々の影に注意を払うが伏兵や奇襲の気配どころか人気すらない。森の静けさが不気味なほどに広がり、まるでこの山全体が息を潜めているかのようだった。
この先に本当に毛利派の基地があるのかと疑問に思いながらも足を進める。冷たい汗を額に感じつつも足を止めることなく進んだ。しばらく進むと、山の頂に向かって森が開け人工物の建物が姿を表す。ここが目的地だと直感した。
「ここなのか?」
足元を見つめながら更に歩き進める。やがて、基地のフェンスの前へとたどり着く。その入口の周りに配置された監視カメラと警備兵が毛利派の基地であることを無言のうちに物語っていた。足を踏み入れようとすると警備兵が立ちはだかる。それでも振り切って進もうとすると服を捕まれ無理やりもと居た位置に連れ戻される。
「なぜ。ここに来た。それとも電文を受け取ったか?」
警備員の冷たい視線が痛い。
「受け取ったがどうした?」
「合言葉は?」
眉を潜め焦りを隠した。合言葉なんてものあの電文にあった疑問に思いながらも必死に電文の内容を思いだす。神経を研ぎ澄まし必死に考えを巡らせるが思い出せない。ハッとなり気づく。
「希望へと」
その警備員は無線を確認し、私のことを観察してくる。しかし、一向に立ち去ろうとする気配はない。そして、警備兵は更に1歩前にでた。
「合っているようだ。通れ。」
フェンスを通り抜けると冷たい風が一瞬通り抜け、背筋に寒気を感じる。背後では重々しいフェンスが閉まる音が響く。基地の内部は、外の自然とは対照的な機械的な冷たさを感じさせる。そして入口を入りすぐ横にいる警備兵に連れられてある部屋へと案内された。
そこにはある男が立っていた。少し体が細くて軍服が似合わない。胸には飾緒、腰には軍刀。一昔、二昔前にいた軍隊を思い出させる風貌だ。
「私はここの基地長の松野です。要請への協力ありがとうございます。」
その言葉には少し温かみを感じた。
「いいえ。こちらこそ、困っていたのでありがとうございます。」
そして彼がドアの前へと向かい案内してくれた。数歩歩くとエレベーターが不気味な光を放っているのが見える。その方向へと2人で向かいながら地下2階のボタンを押して向かう。エレベーターのドアが開くと人工的な証明が壁をかすかに照らしているだけだった。何度も修復された跡があるコンクリートの床が足音を吸収し、歩みは無音だった。
廊下の先には重厚な扉があり、基地の他の部分とは一線を画す雰囲気を放っていた。扉の横には複数名の彼の部下らしき人物が立っていたがどれも通りすがる前に敬礼し通過を許した。ドアが彼の手で押し開けられると、広々とした部屋が現れた。中央に設置されたホログラムマップが淡い青白い光を放ち、テーブルには資料が大量に散らばっていた。
深呼吸を1つして静かに足を踏み入れた。その瞬間、彼の目にはホログラムの放つ光が山口市周辺の立体地図が浮かび上がり、緊張感が肌を突き刺す。彼がドアを閉め、背後に立つ。そして2人はホログラムマップを囲み、作戦の詳細に意識を集中させていった。
翌日の朝、敵の迫撃砲が炸裂し、砂利と鉄片が周囲に飛び散る。瞬時に体を低くして崩れかけた塹壕の中へと飛び込みその身を隠した。耳鳴りがする中、彼は無線機に手を伸ばし、工法に指示を送ろうとするが、混線で声が届かない。
「クソッ、通信が切れてるのか……」
頭の中で何度も反芻されるのは、戦況報告。毛利派の陸上部隊が予想よりも早く突破してきた。市街地の北側から侵攻され東側でも突破口を開けられた。財団部隊は毛利派の猛攻にさらされていた。
「竹下機動部隊長、敵が東側を占拠したようです。援軍の到着はまだ未定です!」
「北側に兵を送り込み包囲せよ。」
遠くからどこからか青白い閃光が見える。それと同時に視線も感じる。その瞬間それがなにか感覚的に理解した。理解してしまった後は、その視線が命を狙う冷徹な目をしているような気がした。気づくとすぐに視界がふらつき倒れてしまった。
目が覚めると、白い天井が目に入った。身体がだるく、頭がズキズキと痛む。ああ、俺は……どこにいるんだ?
「大丈夫ですか?」柔らかい声が耳に届く。看護師が俺の側に立っていて、優しく微笑んでいる。
「え、あ……」声を絞り出し、周囲を見渡す。「ここは……?」
「病院です。あなたは撃たれたんですけど、運が良かったですね。」看護師は俺の様子を見ながら言った。「先輩が残した腕時計のおかげで、命が助かったんですよ。」
腕時計? その言葉に驚いた。俺の頭の中で記憶がよみがえる。
「腕時計……?」
「はい。」看護師は自分の手の中で腕時計を輝かせる。「これがなければ、致命傷になっていたかもしれません。特殊な素材でできていて、弾丸を防いでくれたんです。」
先輩がいつも俺を助けてくれたことを思い出した。その存在が、今も俺を守ってくれたのか。
「そうか……先輩が……」
「あなたは運がいいです。多くの人が、ここまで助かることはありませんから。」看護師は微笑みながら言う。
その言葉に胸が熱くなる。「ありがとう……先輩に感謝しなきゃ。」
「まだ安心はできませんが、回復に向かっています。しっかり休んでくださいね。」看護師は穏やかな表情を浮かべている。
俺は頷き、少しずつ意識がはっきりしていく。先輩の腕時計が、今も俺を守ってくれたことを感じながら、再び目を閉じ、深い呼吸を始めた。
9月2日、油谷湾の財団の戦艦"霧島"の上で、毛利氏が降伏文書に署名する瞬間が訪れる。その場面を目の当たりにし、胸の中に安堵と悲しみが交錯した。これで戦争が正式に終わりを迎える。
終戦後、財団の占領軍が山口に入ると、毛利派の基地は、驚きと混乱に包まれた。日本支部理事会の指導のもと、山口の再建が始まる。新しい講和条約の制定が進み、「賠償責任」と「戦力の放棄」などが謳われた。
多くの兵士が、戦争の傷跡を抱えながらも未来への希望を見出そうとした。自分もその一人で、日々の生活の中で復興を支えるための活動に身を投じた。仲間たちと共に、廃墟の中から新たな希望を探し続けることにした。
――
2054年9月24日 宇部市
「井上さん、もうすぐ目的地です。」
運転手の小山に促されながら車の後部座席に散らばった書類をバッグの中に片付ける。書類を片付けるのが終わると開いていたパソコンを閉じてこれもバッグの中に片付けた。
急ブレーキの音が耳に入った。直感が警鐘を鳴らす。
「どうした?」
車の周りがやたら少し騒がしく感じる。それでも顔を動かさずにバッグへと様々な物をかたしている。
「それが前に人がいて動けないんです。」
運転手が帽子を少し動かしながらその困った顔をルームミラーからのぞかせる。周りを見渡すと5人ほどの男性が車を囲んでいる。これが新手の当たり屋か裏の社会の奴らかと呆れていたがなにか様子がおかしい。そこであることに気づいた。服には小さく毛利の家紋。彼らは胸に手を入れている。
「毛利派だ!頭を下げろ。」
小山に忠告すると自分たちはすぐにかがんだ。2人で目を合わせお互い頷く。状況を察した自分たちは素早くホルスターに手を伸ばしサッと銃を抜いた。ドアのロックを解除して息を合わせて勢いよく開ける。開けた瞬間、やつらの驚いた顔に向かって覚悟を決めて引き金を引いた。銃声が田舎の森の中で轟く。顎へと鉛玉を送り込むと彼は血を吐き出し膝から落ちていった。
ドアを盾にしながら1発、2発と引き金を引いても当たらない。するといままで全く撃たなかった小山がついに撃った。その顔は普段の優しい彼ではなかった。凛々しく英雄の顔つきだ。その間に銃の弾倉を落とす。弾倉が地面についたときの音など聞こえないほどに銃声がうるさい。急いで弾倉を入れ直しスライドを引いた。そして勢いよく銃の後部を手のひらの腹でぶん殴った。
後ろからの足音に気づき振り返ると敵の銃弾が頬をかすめた。手を伸ばし容赦やためらいなども感じずに引き金を2度引いた。かすめたところから血が流れ出ているが同じところに返り血が飛んでくる。訓練のときとは全く違うほどに調子がいい。車の周りには3体の死体。
車の後ろから前へと思い切り走り照準をぶらさないように気をつけて引き金を引くとその銃弾は肩を貫いた。なぜだろう。後ろから走る音が聞こえる。
すると腹部に熱を感じた。そんな薄れゆく意識の中にはっきりと聞こえる。
「我らは完全に諦めたわけじゃない。」
小山の顔は憎しみに支配されそいつへと向かって何発も打ち尽くす。もうとっくに倒れているというのに。それは空発になっても続いた。
走馬灯すら見ていたとき、小山は自分の方へと走ってきて肩を掴み揺すってくる。もはやそれに応えることもできなかった。その目には生気を感じることはできなかった。
「竹下くん、カレー定食よ。仕事頑張ってね。」
食堂のおばちゃんが元気づけてくれる。今日もいつもどおりエナドリを机に起きスマホを片手に食事を取ろうとしたその時だった。
「本サイトに所属不明の航空機が着陸し毛利氏を連れ脱走を開始しました。戦闘員の方は戦闘準備を開始してください。」
新たな闘争の予感に絶望が立ち込める。新たな戦争へと突き進む前途に
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- portal:8843102 (29 Oct 2023 14:11)




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