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「皆さん、どうかお静かに」
期待と緊張が混じり合い、抑えたざわめきが満ちた室内に管理官の声が響く。静寂が小波のように広がる様子に、管理官は満足げな微笑を浮かべた。
「結構です」
管理官は白い肌と淡い金色の巻き毛を持ち、中性的で幼さを感じさせる顔立ちをしている。しかし、その声は朗々として威厳があり、居並ぶ者達を従わせる力があった。
「皆さんはここへ配属されることを望み、見事それを叶えられました。ようこそ、青の監視センターへ」
新人職員のある者は配布された資料に視線を落とし、またある者は管理官の背後の窓を見つめた。その向こうに、「青」と呼称される収容施設が存在している。青は大規模かつ危険度の高い個体群の収容施設として知られ、この監視センターへ配属されるのは優秀さの証であるといわれている。
青を見つめていた新人職員は、震えるような興奮と疼きを背中に感じていた。この仕事に就いた日から、青の監視センター配属は目標であったからだ。
「皆さんも既にご存知の通り、我々の職務の対象は知性を持ち、それをあらゆる方面へと差し向けることが可能です。彼等は数多くの物品を作り出す能力に長けています。非常に危険な物も数多く含まれており、それらを使いこなしています」
管理官は背後に見える青を振り仰いでみせた。その動作の効果たるや大きなもので、新人職員達の表情は見る間に引き締まったものへと変化した。
青自体は古くからその存在を知られていた。後に収容対象となる実体群が発見されたのも、昔の話になった。管理官はそんな思い出話を差し挟みつつ、今後の職務内容と対象の来歴について話し始める。
「申し上げるまでもないことではありますが、我々の職務は対象の収容及び監視となります。些細と思われるような事柄であっても、漏らさず記録し報告せねばなりません。当然ながら、仕事量は膨大となります。しかし、皆さんにはその覚悟がおありだと信じています」
青には様々な生物が存在していたが、それ等の扱いはあくまでも監視のみに留められていた。ある時、それまでにない個性と特徴を有する一群が発見された。当初は危険性が少ないとされ、それまでの生物群と同じく扱われることとなった。彼等には、その外見的特徴から「2類」という呼称が与えられた。
やがて、2類の変化について報告がもたらされた。彼等は仲間の死を悼み、埋葬するようになった。夜空を見上げ星を眺めた。自らの心情を様々な技法で表現し始めた。それはやがて、自らを超越した存在を信ずる思いへと姿を変えていった。
「私がここへ配属されたのも、その頃でした」
監視センター内部では、2類の変化を危惧する声が上がり始めた。彼等は旺盛な意欲を持ち、瞬く間に青の各地へと広まり、複数の集団を形成した。互いに争う姿が見られるようになり、そのための物品を作り出すようになった。監視センターは、2類を収容対象とする決定を下した。彼等の居住地である青そのものを収容施設とし、職員は増員された。
「さて、これから皆さんには、監視担当と記録担当、それぞれの部署に分かれて仕事をしていただきます。特に顕著な変化や大きな動きが見られる際には、その必要性に応じて監視担当が増員されます。一つ例を挙げるとすれば、先程も申し上げた、彼等の心情についてです」
2類は、自らを超越した者の姿を表現するようになった。物語を記述した。その「存在」は多種多様な容姿と性格を持っていた。それに仕える者として、監視センター職員に類似した姿を持つ一団が描かれ始めた。
監視センターはこの変化を注視した。やがて、さほど間を置かずにそれ等は職員の容姿に酷似したものへと変化した。それは青の各地へと広まっていった。2類はこの一団を、超越した者と自らとの仲立ちと捉えていた。事態は重要視され、この問題を専門に扱う部署が新設された。
2類は青を世界の全てであると信じた。超越した者に見守られている、という考えに概ね満足している様子が見受けられた。ある者はその存在に感謝し、またある者は畏れを抱いた。そのような存在などいないのだ、と考える者もあった。いずれにせよ件の一団は、様々な形で2類の心に根を下ろしている。
「彼等は今日まで、自らが思い描いた者の真の役割に気付いていません。また、収容下にあるという認識も持ち合わせてもいません。しかし、ひとたびそれが覆れば、担当部署が彼等の記憶に処置を施します」
管理官は話を続ける。
「2類の収容、監視のみがセンターの役割ではありません。収容を確実なものにするため、青の維持管理も継続しなければならないのです。しかし、ごく限られた職員を除き、青への立ち入りは禁じられています」
青の維持管理は2類自身に委ねられた。
彼等は青の環境に馴染み、折り合いを付けている様子が見られたからである。青の気候は一定ではなく、2類はそれを原因、要因とする様々な困難に見舞われた。しかし、彼等は時に争い、時に手を携えて苦難を乗り越えた。時に畏怖しながらも青を大切にして暮らしていた。その姿を、監視センターは良しとしていたのである。しかし、彼等は変貌した。
監視する側とされる側では時間の尺度に差異があるとはいえ、2類の変貌は急激であった。彼等は青を荒らし始めた。青に対する意識が変化したと思われる行いが頻発した。
「我々は2類の無力化を検討しました」
2類は世代交代を重ね、青は彼等で満ちた。その過程で知性が磨かれ、比例するかのように狂暴性が増したと監視センターでは見なしている。
「皆さんも覚えておいででしょう。つい最近も、2類は大規模な争いを二度に渡って繰り広げたことを。その際、我々は彼等を無力化すべきか否かの議論を重ねました」
新人職員達は驚きの表情を浮かべた。
「そうです。我々の任務はあくまでも収容と監視であり、対象の無力化は範疇ではありません。それでも、過日の彼等の振舞いは目に余るものでした」
議論は紛糾したが、本来の任務を遂行すべしとの主張が認められた。2類の無力化は見送られたが、それを視野に入れた専任部署が設けられた。
「繰り返します。無力化は見送られました。これは、我々がその選択肢を排除したわけではないことを示しています。私としては、皆さんがここに配属される最後の新人にならないよう願っています」
管理官は室内を見回し、2類の動向について説明を続けた。
「彼等の大きな変化といえば、青を出てみたいという意思の芽生えでしょう」
2類は青の外の世界へと思いを馳せるようになっていた。かつてはその様を想像、観測するに留まっていたものが、いつしか辿り着くことを夢見るようになった。
「事実、彼等は先述の争いの後、青の外へと到達する等、様々な驚くべき成果を挙げています」
2類は青の環境下でのみ生存が可能であり、彼等自身そのことを熟知していた。それでもなお外界への情熱は覚めやらず、いずれは居住することを目指す者まで現れ始めた。小規模かつ近距離ながら、青の外部に拠点を築いたのも記憶に新しい。
「管理官、彼等は青を放棄するのでしょうか」
「それについては、現時点では明確にお答えできません。実現に至るまでに、2類にとって膨大な時間を要するでしょう。我々の基準に照らせば、彼等の技術は途上にあり寿命も短い。青を放棄せねばならない事態に直面した時、それだけの力を有していない可能性も大きいと思われます。しかし、2類には意思の力があり、世代を超えて夢を見ます。これは特筆すべき彼等の性質でしょう」
「青を放棄する動きが見られた場合、どうなるのでしょう」
「それは収容違反となります。先般構築された拠点は、現状においては2類にとって自らの発展が主目的とされています。ですから、当センターでは注視するに留めています。しかし、彼等が技術を進歩させ、青を放棄する意思を表明したならば、我々はそれを阻止せねばなりません。その時には、専任の部隊が青に入ることとなるでしょう」
管理官は手元の資料をめくった。新人職員達もそれに倣う。そこかしこで紙の擦れる音がする。青を見つめていた新人職員は、その美しさに心奪われていた。闇の虚空に、呼称の通りの球体が浮かんでいる。深い青色を基調とし、その合間に緑と茶、白が見える。その色合いの見事さといったら。管理官の話を耳に拾いつつ、願いが叶ったと思った。
強さと弱さ、豊かさと貧しさ、希望と絶望。友好と憎悪、等々。2類が持つ相反する性格を数え上げ、彼等の複雑さに改めて興味を引かれた。様々な要素が絡み合い、縒り合わさっている。決して単純ではなく、理解するのも容易ではない。しかし、それこそが彼等の美しさではないか、と新人職員は思う。
その名の由来となった二本足で、青を闊歩する不可思議な生き物達。これからは彼等を存分に見ていられる。願わくば、無力化が決議される日が来ませんように。
新人職員は、話に集中しようと管理官に視線を戻す。金色の巻き毛が揺れた。白く柔らかな頬に赤みが差し、桃色の唇が微笑の形にうねる。
再び背中に興奮の疼きを実感した。はたはたと音がする。
白い羽根が一枚、ひらひらと抜け落ちた。
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- portal:8657511 (08 Jul 2023 07:26)




拝読しました。読みやすく流麗な文章でとても楽しめましたが、いくつか気になったところがあり現状ですとNVです。
以下は個人的な観点からの批評ですので、Hino660660 does not match any existing user name様のやりたいことに合わせて取捨選択していただければ幸いです。
同様にこちらもあくまで自分が気になった点ですので、Hino660660 does not match any existing user name様のやりたいことに合わせていただければ幸いです。
長々と申し上げてしまいましたが、これら全てを反映する必要は全くありません。この内容だけではなく他の方の批評なども存分に参考にして、あくまでHino660660 does not match any existing user name様のやりたいことに合わせて取捨選択していただければ幸いです。
宇宙のように深く美しい素敵なTaleでした。サイトで読めることを楽しみにしております。
批評と感想、お褒めの言葉を頂戴し、嬉しく思います。
ありがとうございます。
ご指摘いただいた点はどれも目から鱗でした。
参考にさせていただき、改稿していきたいです。
焦らず書いていきます。ありがとうございました。
頂戴したご意見を参考に改稿いたしました。
よろしくお願いいたします。