果敢なく散る花のひとつとして

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アイテム番号: SCP-XXXX-JP

アイテム番号: それは、死んだ少女に最初に与えられたもの。哀憫すら感じられない、詞を持たない無垢な名。



オブジェクトクラス: Safe

オブジェクトクラス: それは、逃れるわけもなく屍体として其処へと囚われるもの。



特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPは全身を不透明な布で覆った状態で、死体安置セルに収容されます。SCP-XXXX-JPの特性上、文章におけるSCP-XXXX-JPについての言及は可能な限り避けてください。SCP-XXXX-JPを直接視認した人物には記憶処理が行われます。

特別収容プロトコル: 滑らかな布に覆われた躰は、壊してしまわぬようにと大切に棺に仕舞われている。少女に就いて綴られた詞は禁書として扱われ、密かに囁き合うことさえも許されなかった。けれども、不意に少女の死へのうつくしさに憑かれた者はひとり残らず少女の存在を忘却に葬り去るのだそう。







説明: SCP-XXXX-JPは20██/██/██に自殺した真桑友梨佳氏の死体です。死因は腹部刺傷による失血死であると推測されています。現在まで死体は腐敗の兆候を示しておらず、特筆すべき痕跡はありません。

説明: 真桑の花の名を持つ少女はいつの日か自ら命を散らした。彼女を覆い尽くした夥しい血と鋭利な刃物がただ淡々とそれを示していた。少女の躰は腐り落ちず、またその肌にはひとつの傷さえ認められなかった。





SCP-XXXX-JPに関連する情報が記述された文書を第三者が視認した場合、当該文書は改変されます。暴露後の文書の表現は、科学的妥当性を担保した表現から抒情的な表現へ変化します。

少女について語られた文章を見た時、其処に綴られた詞は忽ち変化した。それは、一斉に芽吹いた花の蕾が残酷な春の訪れを告げ知らせるように。そうやって冷たく乾いた言葉は鮮やかに装飾されてゆく。少女の死も、屍体も、詞も、花も、みな等しくうつくしかった。






SCP-XXXX-JPを直接視認した場合、対象は死という事象および概念に対して肯定的な意見を抱きます。この影響は記憶処理を施すことで除去することが可能です。

少女の姿を直接覗くと、人々の中で死は耽美なものへと書き換えられた。それをすべて忘れ去った時に、彼等は夢から醒めたような顔をしてまた何時ものように死に震え上がるようになるのだった。





補遺: 以下は動画配信サイトにて真桑氏によって生配信された動画の書き起こしです。なお、本文書削除時点で動画は削除されています。

補遺: それは、少女の死を余すことなく映し出した唯一の記録だった。今はすっかり消されてしまった貴重な映像のひとつである。




映像記録-XXXX-JP


<記録開始>

[2分間の沈黙。真桑氏は壁を背にして座っており、画面を覗き込むような動作を見せる。]

[薄暗い部屋の内に少女はひとり佇んでいた。伏せた瞳が画面を覗き込むと、僅かな緊張を湛えた柔い声が伝播する。]






真桑氏: 始まってる?何話すか迷っちゃうな。これでも物書きなんだし台本くらい書いておけば良かった。それじゃ配信の意味ないか。あの、じゃあ少しだけ。自分語りだけどこれで最期だから許してね。

真桑氏: 今まで、作品の中でたくさん人を殺してきました。こういうこと言うの、本当に人を殺したみたいで結構嫌ですけど。まあ、とにかく人の死に関する話をたくさん書いてきました。

[真桑氏は落ち着かないような様子を見せ、画面に近づくとカメラの位置を調整する。]

[殺す、と吐くたびに罪の存在が少女の意識を通り抜けた。もう決めたのだからと、おぼつかない指先がカメラの位置を調整するように動いた。]






真桑氏: 作品読んだことある人ならわかると思うんですけど、私はとにかく美しく死を書くことを目標としていました。何せこの文体ですから。愛が故の自己犠牲とか、心中とか、そういうありふれたものばかりですけど。たくさん書きました。そうやって私は死を美徳として消費しました。

[真桑氏は立ち上がりカメラの死角に移動する。サバイバルナイフを側に置くと、再び床に座り込む。]

[少女は立ち上がりナイフを手に取った。見慣れた刃物の鈍いひかりは幽かに少女に安心を覚えさせる。これでもう何も考えないで済むようになるのだと、壊れるわけでもないのに丁寧にしてそれは側に置かれた。]








真桑氏: そもそも、人の死は美しいものだなんてよく言いますよね。短命で果敢なくて、花の散るようだと。花は散り際が一番切なくて、それはきっと美しいものです。人の死だって同じことでしょう?

[1分間の沈黙。]

[詞は無かった。此処には少女だけが居る。肯定も否定も此処には存在しない。]





真桑氏: いいです。答えないで。

[真桑氏は顔を伏せる。以降真桑氏が再び顔を上げるまで、3分間沈黙が続く。]

[次の詞を紡ごうとして、少女は声が喉で詰まる感覚を覚える。大丈夫だと彼女は小さく呟く。もうこれ以上失うことはないのだから。]






真桑氏: ずっと仲良くしてきた友人が自殺しました。ビルの屋上からの飛び降りでした。後から、裸足でフェンスの外に立つ写真に添えてごめんねって書かれた投稿が流れてきて、投稿を遡ったら間違いなくあの子のものでした。悲痛を叫ぶ投稿を見てああどうして私は気づいてあげられなかったんだって、ただ悔しくて、悲しくて。ごめんなさい。私が、私のせいで。

[真桑氏は再び顔を伏せて泣き出す。その様子から過呼吸の症状がみられる。約12分間その状態が続く。]

[涙が冷たい罪悪感と化して少女の胸を塞いでいく。気管が幾つもの花弁で塞がれるように、詞は嗚咽となって空気に染み出していた。自分を責め立てる記憶を見ない振りをして少女は話を続けた。]







真桑氏: ごめんなさい。取り乱してしまって。あの後、別のSNSでエモい音楽に合わせてあの子の投稿のスクショが貼られているのを見かけました。コメントを開くと好意的な反応がたくさん書かれていました。何よりも先に背筋がぞっとしました。私がやってたのってこれと同じことなんだって。憎くて、悲しくて、心の中が罪悪感でいっぱいで、それが誰へ向けた感情なのかも全部ぐちゃぐちゃでどうしようもありませんでした。

[真桑氏はナイフを手に取り、手で触れるなどして弄る。]

[少女は刃物を手に取り弄ぶ。金属の硬い感触を確かめる度に鎮まった呼吸が空間に染み出した。]





真桑氏: 自分の作品を読み返しました。美しい死の描写が今まで生きてきたいつよりも強く心に突き刺さって、作品は全部消しました。目も向けられませんでした。文字を書くのが怖くなりました。

真桑氏: 結局、一つのシチュエーションとして切り取ったものばかりに目が向けられて、本人の感情なんて全部置き去りにされてしまう。背景も痛みも全部なかったものになって、ただ美しいものとして消費されていくんです。そういう冒涜です。死者の遺骨に美しいからと言って花の絵を描くような行為です。私だって同じでした。

[真桑氏はナイフを自身の腕や脚に滑らせる。]

[少女はナイフを腕に滑らせた。彼女の中で罪の意識はいつしか安価な麻酔薬となって、既に痛みすら感じられなかった。]






真桑氏: 死んで欲しくなかったんです。それが美しいだなんて、あの子の死に価値があっただなんて誰にも言わせたくなかった。

[動作を17回繰り返した後、ナイフを再び床に置く。患部からは出血が確認される。]

[刃を引き抜くごとに血が皮膚を汚した。白い肌を汚すグロテスクな紅の傷口を見て、少女は漸くナイフを置いた。]






真桑氏: だから、私は死にます。できるだけ酷く、汚く。美しいものとして消費された死への贖罪として。そして、死は決して美しいものであってはいけないのだと証明するために。

真桑氏: 長々と話してしまってごめんなさい。でも、どうか分かってください。表面の美しさではなくて、背景にある痛みに耳を傾けて欲しい。そして、死の痛ましさを心に刻んで、生きて。さようなら。

[真桑氏は腹部にナイフを刺す。真桑氏は呻き声を漏らしながら、ナイフを引き抜く。腹部の傷口から多量の出血が確認される。真桑氏は泣き声を上げている。]

[少女は腹部に刃物を突き立てた。小さく呻きながら刃物を引き抜くと、ぼろぼろと血液が滴り溢れ落ちていく。彼女の悲痛な泣き声はあっという間に部屋の中を満たした。それは、決して痛みが故のものではなかった。血が柔らかな薔薇の花弁躰を伝って床へと広がってゆく。詞が喉を衝く。]









真桑氏: どうして。

[真桑氏は後方にある壁に頭部を打ちつける。5回ほどそれを繰り返すと、真桑氏は動作を停止する。以降27分間、映像に変化は確認できない。]

[否、少女にとってそれは紛れもなく薔薇の花だった。場違いな程に甘く優雅な香りが部屋に広がった。少女は壁に頭部を打ちつける。無様すら掻き消されていくのを感じながら。何度かそれを繰り返す内に動作が鈍くなり、壁に凭れるようにして彼女は果てた。紅い花の苗床と化した少女が再び目を醒ますことは最後までなかった。]










<記録終了>


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  1. portal:8538458 (15 Apr 2023 22:38)
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