追想
後ろの席の花瓶には白百合の花が飾られている。
其れに気づく人はいなかった。1度だけ先生に訊ねてみたが、何も見えていないとでもいうように怪訝な顔をされてしまった。
もう1ヶ月以上は置かれっぱなしにされているのにも関わらず、花は枯れるどころか萎れる兆候さえ見せていない。まるで、此の空間だけ現実と隔絶されているように思えた。
13:30の教室に漂う濃密な香りが鼻腔をくすぐった。窓から差し込む暖かくて優しい日差しが眠気を誘う。夢うつつ。思わず目蓋が閉じそうになっていると、後ろから聞こえるはずのない声が聞こえた。
「ほら、寝たらだめだよ」
反射的に振り向くと女子生徒が其処に座っていた。花瓶しか置かれていない筈の机には、教科書とノートが広げられている。
周りの生徒は全く気に留めずごく普通に授業を聞いていた。あまりの異質感から僕は思わず声を上げた。
「君は誰だ?どうして此処に……」
彼女は心底不思議そうな顔をした。まるで僕らが元から友達だったかのような、そんな表情だ。
「覚えてないの?」
黙って頷くと、彼女は少し寂しそうな表情を浮かべた。風が吹いて白いカーテンがふわりと靡く。窓からは無機質な青が覗いている。
「私は──」
何かを言っているようだが聞き取れなかった。なんと言ったのか聞き直そうと僕は口を開く。
はっと目が覚めた。13:45。何か夢を見ていた気がするが思い出せない。教室の電気はもう消えていてがらんとしていた。そういえば次の時間は移動教室だっただろうか。眠い目を擦り、立ち上がる。
そういえば、と思い出したように後ろを振り向くと、いつもと同じように白い百合の花が佇んでいた。まるでもう此処に居ない誰かを想うように。
テーマ: 想
著者: sian628
曲: 君がいなくなった日/sasakure.UK
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アクションSFオカルト/都市伝説感動系ギャグ/コミカルシリアスシュールダーク人間ドラマ/恋愛ホラー/サスペンスメタフィクション歴史任意
任意A任意B任意C- portal:8538458 (15 Apr 2023 22:38)
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