雨は
水のように流れる音は、部屋から漏れ出し廊下を伝う。
遠くで鳴るその音を聞きながら、私は目を瞑り、彼女の姿を思い浮かべる。
私は、彼女の奏でる音が好きだった。
私が彼女が音を奏でているところを見たのは、後にも先にもあの時だけだった。
初めて彼女と会った日、私は彼女の部屋に案内された。
彼女は私を歓迎し、その場で音を奏でてくれた。
彼女はまるで雨のように、白と黒の鍵盤に指を滑らせる。
楽しそうな表情で彼女が奏でた音は、その喜びを表しながらピアノから流れ出る。
私はそれを聞いたとき、ただ、綺麗だと思った。
彼女が奏でる音が、彼女のその表情が、彼女の音を奏でる動作が、
綺麗だと、美しいと、そう思った。
私はあのとき、彼女に恋をしたのだろう。
絶対に叶うことのない恋を。
パチパチパチパチ…
私が最後の音を奏で終わると、後ろから拍手が聞こえてくる。
鍵盤から手を離し後ろを振り返ると、何百人もの大勢が手を叩いて褒めてくれている。
私は席を立ち観客に向き直り、お辞儀をする。
そして舞台横へと歩き出し…
ピピピッ ピピピッ ピピピッ ピピピッ…
目覚ましの煩い音で目を覚ます。
真っ暗な部屋の中、目を凝らして時計を見ると、針は7時を指していた。
「夢かぁ…」
つい、独り言を呟いてしまう。
夢だと気付き少し気分が落ち込むが、それは直ぐにもとに戻った。
だって、その夢は今日、現実になるのだから。
布団から出て顔を洗い、リビングの扉を開ける。
カーテンの閉まったテーブルの上には、冷めたご飯となにか書かれたメモが置いてあった。
「お母さんはお仕事で行けないけど、コンクール頑張ってね!」
メモにはそう、書かれていた。
…お母さんは、いつもそうだ。
冷めたご飯を水で喉に流し込み、お皿を洗って棚に置く。
そういえばカーテンを開けていなかった。
そう思い、カーテンを開ける。
空は灰色に染まり、水が空から落ちている。
…今日は、雨だ。
そう思うと、沈んだ気持ちが浮かんできた。
身支度を整え、玄関に向かう。
靴を履いて、傘を取る。
「今日もよろしくね」
そう、傘に呼びかける。
この傘は、私の唯一の友達だ。
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- portal:8518479 (16 Mar 2023 05:38)