暑い Xコン 怪

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その夏はとても暑かったことを覚えています。

僕の住む町は日本で最も暑い都市となり、空気はじとりと重く、木々ですらまるで動くことを拒否しているような年でした。

高校二年生のときのことです。7月、夏休みが始まったというのに補講を受けるために僕は学校に行かなければなりませんでした。前日に降った雨のこともありいつにもまして教室は蒸し暑かったはずですが先生は冷房を着けていませんでした。しかし、今までの経験からいくらねだったとしても冷房がつくわけのないことは分かっていて、そこにいる人は決してねだろうとはせずにノートを団扇のように使って暑さを凌いでいました。僕も鉛筆を持っていない方の手で顔をあおいでいましたがべたりとした汗は乾かずに苛立ちだけが募っていきました。

暑い中真面目にノートをとっていると段々と周りの声が気になってきました。ノートをとっている自分と雑談を聞いている自分、初めは別だった二人の自分がいつのまにか一つになってきて。ほら、補講って授業をまともに受けてなかった人が行くところじゃないですか。だからかですね、そこにいる人の殆どが喋っていてやっぱり補講をまともに受けていなかったんですよね。先生もそんな環境に慣れきっていてまともに授業する気無さそうでしたし。僕ですか?僕は勿論話しませんでしたよ。補講には友達は来ていませんでしたから。

暑くてとてもとても授業になんて集中できませんでした。

それで、周りの雑談を聞いているうちに思ったんですよ。

「こいつ、なんでここにいるんだろう」
「授業まじめに受けてたのはフリだったのか?」
「友達もいないのに?」

違います。授業は真面目に受けていて、今回たまたまテストの点が悪かったのです。友達がここにいないのは偶然で。

そんなことばかり考えてると周りの雑談が段々と大きくなっていくんです。先生の授業が雑音のようになっていって、周りの声がどんどん大きく聞こえていって。それがとてもとても気持ち悪くて、頭を振ってみてもその気持ち悪さは取れなくて。

「こいつ、頭良かったよな?」
「いつもボッチだったもんな」
「なんで?」

段々と自分と話したことない人も雑談に参加しているんです。今や自分以外みんなが大きな塊になって迫って来ていて。気づいたら汗が次々にプリントに垂れていました。もう一度頭を振ってみてもべとりと張り付いた汗は取れず、じわじわと進んでいって。いつのまにか暑さと周囲の雑談だけが僕の周りに存在しているような気がして。視線がどんどん狭くなっていくように思えました。

僕はそんな人じゃない。

誤解です。

今回は偶然なんです。

どんどん周りの雑談が大きく聞こえて、知らないない人の声が笑い声に聞こえて。

怖かったんです。自分が周りと比べられるのが、自分が周りよりも下だと思われるのが。いつの間にか、何を思ったのかシャープペンシルを手首に押し当てていて。尖った芯が手首につくように。でも、直前にふっと怖くなったんです。なんで自分はこんなことでリストカットしようとしてたんだ、と。胸になんとも言えない気持ち悪さが込み上げてくるように思えて。もう吐き出したいぐらいでした。

「大丈夫?」

声を掛けられていました。大丈夫、なんてとても返せないと思いました。彼女は雑談に参加していた人の一人で、なんでそんなことを聞くんだろうって思って。

まだ暑くて暑くて堪らないのは変わらなかったと思います。でも声を掛けられたとき、少しそれが和らいだような気もしました。額の汗も何もまだ変わっていませんが、それでも少し涼しく感じられるようになりました。

なんとなく安心したんです。僕のことを悪く言う人は思ったより多くないんだ、そう思って。そう思ってもう一回周りを見てみたんです。

やっぱり僕は悪く言われていました。

「勉強できないからここにいるんだろ」
大丈夫、夏休みの間にどうにかできる。

「友達もいないくせに」
僕を悪く言う人しかいないわけなんてそんなわけない。

「声なんてかけなければよかった」
え?

それで、彼女を見たんですよ。むかつく顔でした。本当に声をかけたことを後悔してることが伝わるような、心底、僕を見下しているのが分ってしまうような。薄ら笑いを浮かべた顔。あぁ、今までの暑さも、僕が補講にいるのも、雑談も、全部こいつのせいか。それに気づいたとき、確かにまわりは暑いのに、後頭部に水を吹き掛けられたような爽やかさが僕を襲って。

思わず拳が前に出ていました。一度殴ってしまえばあとは何も僕を縛るものはありませんでした。

胸ぐらをつかんで殴って。何か言っていたような気もしますがはっきりと覚えていません。思ったことが声になる前に拳が出ていて。感じていた気持ち悪さを吐き出すように殴って。殴って、殴って。いつの間にか額の汗も消えていたように思えます。

そのあとは周りに何をどんなに言われようと、とても気が楽になりました。学校に家族を呼ばれたり、校長室で話をされた記憶もありますがそのときはなんとも思いませんでした。

ただひとつ、はっきり覚えていたのが「涼しい」。

なんとも言えない涼しさを感じていたことです。

騒ぎの前のように周りから責められても、それが親や先生で、お金の話や停学の話になっても、それでも「涼しい」としか感じていなかったのです。その後の夏はとても快適に過ごせました。勿論、親からは叱られて家での居場所もなくなりかけました。

それでも「涼しい」。そうとしか思えませんでした。あのとき感じた涼しさ越えるものを僕は未だに得たことがありません。

しかし不思議なこともあるものです。

あとから聞くと実際にはそんな騒ぎはなくて、自分はいつものように真面目に、いたって普通に授業を受けていたようなのです。

それを聞いてどこか安心したような気がして。

やっぱりなんとも思ってなかったと言ってはいても罪の意識は感じていたのかもしれません。暴力沙汰ですし、やはり申し訳なさは覚えずにいられなくても仕方なかったのでしょう。

しかしまあ、本当かどうかはどうでも良かったのかもしれません。昔のことですからその事が本当でも嘘でも今には関係ないですし、何よりあのときのお陰で僕は今年の夏も気分良く過ごせているんですから。



八つ当たりなんてみんなすることでしょう?








2023/8/██ 14:19
外出中のエージェントが傷害事件に巻き込まれる。幸いエージェントに怪我は無く、即座に犯人の取り押さえに成功した。犯人は異常な発言を繰り返していたためその場でインタビューなどの調査を行ったが異常性は確認できず警察に引き渡した。

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  1. portal:8515036 (13 Mar 2023 09:09)
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