自分なんて、なんて tale

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From: サンドボックスオペレーター


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「ほら、リスカ、あれダサいと思うんだよ。まじで」

「わかる。どうせやんならガッツリ動脈切っちまえばいいのに、表面引っ掻くだけで終わらせて」

「まじでダセえよな」

「は、はは…」

教室の隅には男子生徒が数名集まってリスカ談義に花を咲かせていた。彼らと自分は“友達”で、暇なときによく自分からちょっかいをかけに行っている。大体クラス二番手のグループでそれなりに大所帯である。名前は最初に発言したやつから吉岡、吉田、盛、長田。更に丁度今発言した順番でカーストがその中に存在している。彼らが取り囲んでいるのは長田の机で、こいつはいわゆる陰キャみたいなやつだった。今日も適当にからかわれて、どうにか相槌をするうちにこんな話題になって一人取り残されてるのだろう。

「それが俺さ、リスカって手首を縦に切ってるんだと思ってたんだよ、最近まで」

急に会話に入った自分を全員それぞれがゆっくり見る。一瞬顔を見合わせ、素早くその目線で会話しているかのように見えた。誰が口を開こうか探りあう。

「まじで?それはやばいわ」

一瞬を取り戻すように盛がテンション高めに反応した。

それに同調するように他のみんなも反応する。

「いやさ、前に見た動画がさ…」

適当に話題を振る。

「はは…」

グループの真ん中の長田が笑う。なってないな。もっと積極的に絡んでいけばそれなりに仲良くなれるだろうに。

本当、ださい。


帰宅してリュックをベッドに放り投げる。スマホでめぼしいニュースをチェック(といってもチラチラと流し見るだけだが)をして閉じる。なんとなく「男子は女子よりもあっけらかんとしている」というような記事が印象強く残った。Twitterの反応をまとめた物だし、どうせよく言われる程度のことしか書いていないんだろう。他にはどこどこの駅に新しくラーメン店ができるだの、どこの大学入試の最新情報だのが並んでいる。「クラスに必ず一人はいた無キャって今何やってるん?」2chまとめだろうか。少し嫌なものを見た気がしてスマホを閉じる。

いつも通りパソコンを起動する。現実にあると言われても信じ難いような風景のロック画面。ブゥゥゥーンとなり始める排気音を伴ってパソコンが息をしだす。画面が一度暗転し、ホーム画面が開かれる。Google classroomに課題は無い。Google classroomは主に学校から生徒への連絡に使われるサービスで、ここ二、三年のうちに全国の高校や中学でしようされ始めたらしい。Gmailを見るが、連絡は無く、となるとすることがいよいよ無い。どうしようかともう一度パソコンに目を戻す。

そのアプリはいつの間にかパソコンにインストールされていた。おそらくゲームで、レベルのような要素があること、それからミッションのような形式を取ったイベントがあることがその根拠だ。ゲームウォッチやファミコンを思い出す画質の粗さと、クッキークリッカーやどこぞのプログラミングサイトで見つかるものかのような手作り感溢れる内容。それが初めて抱いた感想だった。特にストーリーがあるわけでもなく、こちらが唯一操作できるのはカーソルのみ。それを使って町の人々の悩みを解決する。解決するとレベルが上がり、さらに強い悩みを解決できるようになる。何を目指しているのかは分からない。最近は自殺を止めることができるまでレベルを上げられた。ここ一二週間、レベルアップ効率がもっともよい自殺の防止ばかりしていて作業ゲーのようにも半ばなってしまっている。


「いや、昨日のLINEさ」

盛が言う。遠目に見えたその顔には少し悪趣味な雰囲気が醸し出されている。

「あの話まだすんのかよ…」

吉岡が言う。少し気まずそうな顔をしている。けれどその口許が少し笑いかけてるのを自分は見逃さない。

「まあいいだろ」

吉田が言う。まるで語尾にwが付くような言い方だった。

「えーっと」

長岡が相槌を打つ。歩み寄ってきた自分に気付いているみたいだった。

嫌な予感がした。

声をかけるか少し迷った。

いいや、と自分に絡まる振り切って話しかけようとする。

「や、何話してたん?」

盛が振り返り様に言う。

「いやさ、お前輪を乱してるよなぁって。それだけの話だって」

「え?」

「いや、悪口とかじゃなくて急に全然違う話するし。そういうのがな…って感じの。それにあんまり俺らと遊びに来たりしないし」

頭が澄んで、思考がはっきりとしていた。多分、こいつには悪気は無い。そう信じることにした。すぐにその結論に至って、頭の中でそれでいいという声が聞こえたように聞こえた。これくらい日常会話で自分も出す。

心にモヤがかかって本当の考えに辿り着けないようにも思った。


帰宅して、部屋の隅に置いたゴミが嫌に目についた。

いつも通りネットニュースを見て、パソコンを起動した。

あのアプリが目についた。

いつも通りの起動画面に、いつも通りのカーソル。

「もう沢山なんだよ!もう、俺ばっかりそんな役回りなのは!もう!」

一文字当たり数ピクセルの吹き出しにキャラクターの台詞が踊った。頭の中に昨日のネットニュースが浮かんでは消えた。決して自分は無キャだとか言われる部類では無いと思う。決して、そんなことは無いと思っている。

いつの間にかスマホに指が触れていた。

多分、今日の盛が言いたいのはそういうことなんじゃないかと、ずっと、思っていた。

キャラをタップする。

こいつは、まだこんなようなことを言っている。

「cut?」いつものように、アプリは聞いてくる。「yes」を押して、地面に降ろせば、俺のやることは終わりだ。それでもう、こいつは不安を消し去って生きていける。こいつが本来いるべきところで、求められていることをして、仲間に囲われて。

知らねえよ。

指をヒョイっと画面上にスライドさせた。勿論「yes」を押して上で。

こんなことを製作者は想定していたんだろうか?どうでもいいことばかりが頭に浮かんで消える。嫌にリアルに作り込まれた落下を見ながら、自分は明日からのことに考えを巡らせていた。明日から、明日からどうしようか。どうあいつらに接しようか。でも、そんなこと関係ないと思いたかった。もう関係無いと思った。

ぐちゃりと厭な音が聞こえてスマホに意識を戻す。いつの間にか男は、地面に叩きつけられてただの肉塊になっていた。やっぱり製作者は性格が悪い。自分の手首に何か痛みに似たものを感じながら、バカなことを考えていた。

批評してくださる方へ
以下スポイラー等

  • scp-3332-jpをモデルにしていますがここに書かれていることは自分の妄想によるものであり、記事の公式の解釈ではありません(というか記事はもっと深い解釈ができると思います)
  • 違和感のあるところについて教えてください
  • ストーリー展開等が心配です
  • 誤字脱字等教えてくださるとありがたいです
  • 現状ボートとその理由について教えてください
  • 下にカジキさんのuvであるという旨の返信がありますが以前批評中にしたものであり、今回は無視していただいても大丈夫です

皮肉な話が書きたかったので書きました。3332jpはteruteru5さんの掌編コンテストに出されていたものですが、使用短文(コンテストのルールとして提示された短文のうち最低一個使うというものがある)の「空気に身をまかせろ」を空気に身を任せようとして空回って、結局空気に身をまかせるどころか仲間と呼べる人すら作れない、そんな主人公の「どうだっていいと思いたい」ようになるまでの話です。彼は自分の居場所が欲しいのですが、そんなものできるわけがなく、ゲーム内のキャラを見て、僻み、殺します。3332jpは責任感故に自殺する人を助けるカーソルの話なので、彼は実際に人を殺してるのですが彼自身にその意識は無く、いつか彼がそれを自覚するのが楽しみです。

最後に、一度投稿して低評価削除されたものをもう一度書き直そうと思ったのはTwitterでの皆さんの応援のおかげです。ありがとうございます。

追記、Wi-Fiが繋がったら3332jpのリンクをつけます。

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  1. portal:8515036 (13 Mar 2023 09:09)
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