此処から先の分岐点
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「今回の派遣は初めてですよね?」
私が搭乗しているヘリ……UH-60の座席横から、眼鏡をかけた若い職員が話しかけてきた。
「あぁ、そうだね。今向かってるところは、どうやら新設されたばかりのサイトと聞いているが。」
私はヘリのローター音に掻き消されながらも何とか答えた。
「ええ。使われなくなった施設を財団が買収したらしいです。まだ改修中のところがありますが終わったら日本支部の中では最大規模の収容施設になりますよ。」
彼は、ファイルから数枚の書類を見せてくれた。書類には、太字で機密事項。まぁ、見慣れたものだ。
「そういえば伝えるのが遅くなりました。私は、新設サイト-819-A人事システム担当の青川です。今日は、佐谷研究員の案内をします。」
私は、青川職員から渡された名刺と引き換えに自分の名刺も渡した。この間にも変わらず響くヘリのローター音を聞きつつ、窓から外の景色を眺めた。迷路のように長く舗装された道の奥には、山で隠れた巨大な施設の一角が見えてくる。
「こちらUH-60、乗員人数4名。中枢サイト-819-A第2ヘリポートへの着陸許可を。」
「こちら中枢サイト-819-A航空機誘導担当、UH-60の着陸要請を許可します。」
ヘリの操縦席にいるパイロットが中枢サイト-819-Aと通信している。タイヤが地面に付く瞬間少しの緊張が走ったが無事に着陸出来た。おそらくパイロットもここにまだ慣れてないのだろう。ヘリから降りてすぐ青川職員が話しかけてきた。
「ここから先は、案内するので付いてきて下さい。」
青川職員に先導してもらいながら、サイトC区画のアクセス入口へ向かう。入口付近にいる警備課の職員に認証カードを提示し、少し足早に中へ入った。
「ここがサイト中央管理室です。」
案内された場所は、公園でも作れそうな程の広いスペースと、様々なモニターが並べられている。新設ではあるので、まだ人手が少ないながらも稼働している。財団が開発した、機密の集合体とも言える先進機器を見る限り、相当な予算を掛けていることが分かる。
「ここの廊下を抜けると個人用研究室があります。」
「つまり……そこが職場ですね?」
まぁ、大体言われる前に察した。
「はい、佐谷研究員の職場になります。これで、案内は終わりなので仕事へ戻りますね。」
靴音が完全に聞こえなくなると、一気に辺りが静寂に包まれる。このような静寂もいずれなくなるだろうと考えながら、研究室へ向かう。中黄の認証カードを使い中へ入る……個人用にしては十分な程のスペースがあり、以前のサイトよりも格段に便利になったと感じられる。一時の休憩をしたら仕事を始めよう。
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この日の書類作成等はある程度終わった。小型冷蔵庫から好物のレモンジュースを取り出して飲みかけたその時、聞き覚えのある爆音が鳴り響いたせいで吹き出してしまった。
『Euclid級収容区画にて収容違反が発生。各職員は防災プロトコル18に従って下さい。巡回中の保安要員は指定された場所へ向かって下さい。』
以前に確認した防災プロトコル18の内容を思い出しながら、サイト中央管理室へ向かう。途中、2度の爆発音がしたがすぐに警報によって掻き消された。サイト中央管理室に着いた時には、警報が解除されており手元の端末には、被害状況が通知される。約2名の負傷者が出たが無事再収容が出来たようだ。机上の書類を片手にモニターを見ていた余塚サイト管理官は、安堵のため息を付き、他の研究者達も仕事へ戻り始めるが、すぐに違う爆音が鳴り響く。
『武装収容区画-13にて収容違反が発生。各職員は防災プロトコル24に従って下さい。巡回中の保安要員は指定された場所へ向かって下さい。』
「防災プロトコルが変更された。非常事態だ。すぐに避難するぞ!」
総務部と連絡を取りながら余塚サイト管理官が他の研究者達に指示を促す。サイト中央管理室から廊下に出ると、周囲は警報灯によって赤く染まっていた。武装収容区画-13との距離はそう遠くなく、微かに銃声が聞こえる。避難シェルターへ向かう途中で強い揺れが発生して、壁に大きな亀裂が走り、支保工が鈍い音をたてながら崩れ落ちる。
「昇降機は動くか?」
「さっきの揺れで停止しました。」
「予備のは?」
「……そ、それが……まだ未完成らしくて。」
避難シェルターへの近道を断たれた今残された道は、ここから離れている階段を使う他無かった。もと来た道を戻り、再びサイト中央管理室を通る。無数のモニターの半数以上は揺れの影響で「シグナルが検出されません」とだけ表示されていた。
「これを見てください!」
1人の職員がまだ動くモニターを指して叫ぶ。そのモニターには、中型生物収容区域の監視映像が映ってあり、映像から揺れによって収容室の多くが破壊されていることが分かる。このモニターを見た職員のほぼ全員が一番聞きたくないであろう言葉が思い浮かぶ。
「大規模収容違反だ。Fウィングを一時封鎖する。」
Fウィング出入り口に隔壁が降りる。機動部隊の到着まで少しでも時間稼ぎをする為だ。
「私はここに残る。佐谷研究員。君は、他サイトで防災訓練の経験を積んでいるはずだ。職員達を先導して機動部隊と合流してほしい。」
「……分かりました。」
確かに他サイトで防災訓練をしたことはあったが少し不安だった。しかし今自分に出来ることは職員を誘導することしか無かった。余塚サイト管理官を残して機動部隊と合流するべく第2地下本部棟へ向かう。職員達が後ろに続いて移動する。第2地下本部棟に到着するのとほぼ同時に別方向から来る黒い人達。私には一瞬希望の光にさえ見えた。
「機動部隊か-4です。我々はあなた達の救援に来ました。負傷者はいますか?」
「負傷者はいない。ただ余塚サイト管理官がサイト中央管理室で連絡を取ってる。」
「分かりました。万が一の為に隊員を向かわせます。」
部隊長らしき人が指示を出して隊員2人がサイト中央管理室へ移動する。私達は、残りの機動部隊と共に避難シェルターへ向かう。
「第2地下本部棟前廊下。安全確認よし。」
「了解。先回りします。」
AR-18を構えた隊員達が前へ出る。
「クリアリング。」
「問題なし。行けるぞ。」
「……聞こえるか?」
雑音と共に私の無線から声が聞こえる。
「私だ。余塚だ。今、まずいことになってる。さっき封鎖した隔壁が破られた。すぐ近くまでに迫ってるから急ぐんだ!」
想定よりも早かった。このままだと、私達が避難シェルターへ辿り着く前に奴らと鉢合わせることになる。機動部隊がいるとはいえ、なるべくは避けたかった。
「レーダーにSCIPの反応あり。こちらへ来ます。」
「10時の方向だ。職員は後ろへ下がって下さい。」
「接近次第撃て。」
私達は、機動部隊より後ろに離れる。刹那、暗闇から白く奇怪な化け物共が迫りくる。前方で構えていた隊員が即座にAR-18を撃ち込む。幾発か命中すると赤黒い液体……血のようなのを撒き散らして倒れる。しかし、それだけでは終わらない。今度はまるで動く骨格のような奴らが迫りくる。機動部隊は、こちらに近付かれる前に何体か撃破したが残った個体のうち一体が、隊員に飛び掛かった。襲われた隊員は恐怖のあまり地面を転がったが、横にいた隊員がすぐに助けた。10発以上も撃ち込まれた敵は、気色の悪い音をたてながら崩れ落ちていく。
「クソっ……これでも喰らいやがれ!」
部隊長がM26手榴弾を残りの敵に向けて投げつける。小さな放物線を描いた爆弾は、敵の目の前で爆散する。
「救護ヘリより機動部隊。降下地点で待機中だ。一旦引き揚げてこっちの医療班と合流しろ。」
地上ではサイト職員の救助準備が整ったらしく、おそらく余塚サイト管理官が指示をしているのだろう。
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同日時  中枢サイト819-A地上施設
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「もうすぐで着くぞ。降下準備をととのえろ。」
救援部隊長の指示で救護ヘリの中では慌ただしく準備が進められている。救護ヘリ内のほとんどを医療機器で埋め尽くされているせいで降下準備が難しくなっていた。
「黒崎隊長。余塚サイト管理官からです。」
「スピーカーに繋げれるか?」
固定スピーカーに無線を繋げて音量を最大にする。
「サイト職員の避難はある程度終わった。救援部隊の方はどうなってる?」
「すでに機動部隊ろ-5、機動部隊か-4の合同任務部隊が先行しています。こっちの救援部隊はバックアップの部隊と共に向かっていて、再収容チームももうすぐ到着するとのことです。」
「分かった。今のところ、なぜ収容違反が発生したのか原因が分かってない。」
「そこは、再収容チームが引き継いでくれると思いますよ。」
「そこは任せます。」
切羽詰まっているせいか、ただならぬ雰囲気が無線越しでも伝わる。最初の連絡だとSCIP1体の収容違反と聞いていたが、あとから大規模収容違反の報告もあがった為事態が悪化したのだろう。だが、やることは変わらない。今までの経験や訓練を信じるだけだった。
「降下地点に到着しました。」
「リペリング降下に移れ。」
隊員が次々にロープを使い降下する。同時にバックアップの部隊も輸送車両から降り始める。付近の壁一面には巨大な亀裂があり、相当な強さの揺れが起きた事が目に見えて分かる。
「爆破用意!」
「セット完了。」
「……3」
「……2」
「……1」
銀白色に輝く鋼鉄の扉が破られ、バックアップの部隊の内、約半数が突入した。こちらも医療班と救援準備を進めていく。医療機器を降ろした救護ヘリが上昇し始めたときだった。
「……なんだ?」
バチッという音が鳴り一瞬の間にして全ての電源が落ちた。周りの皆が同様するよりも早く救護ヘリからの無線が響く。
「こちら救護ヘリ、システム停止がした。落ちるぞ!」
「立て直せるか?」
「だめだ……どんどん高度が下がってる。」
「緊急装置でドアを吹きとばして脱走しろ。」
「もう間に合わない。全員、掴まれ。」
機体を回転させながら地面に叩きつけるように墜落した。地上にいた人たちが巻き込まれる事は無かったが、救護ヘリはオレンジ色の閃光を発しながら木端微塵に砕け散った。

SCP財団確保施設ファイル

正式名称: SCP財団日光大規模研究収容兼保管施設

サイト識別コード: JPBRANCH-CenterSite-819-A


概要情報


設立: 2018年5月9日

設立管理官: 確保

現サイト管理官: 余塚

場所: 日本国栃木県日光市

カバーストーリー: 日光国立公園

サイト機能: 研究、収容、機動部隊駐屯地、財団資材保管、首都圏内サイトの物資配備拠点

サイズ: [編集済]

81JHの基礎理念でもあります。


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  1. portal:8485360 (14 Mar 2023 12:43)
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