アイテム番号: SCP-XXXX-JP
オブジェクトクラス: Anomalous Apollyon
特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPはサイト-81██の防音付き低脅威度小型物品収容ロッカーに、垂直に固定した状態で収容されます。SCP-XXXX-JPは6時間に一度電池交換が行われます。直前にテスターによって十分な蓄電量があることを確認された単1電池2本を用い、電池カバーを外した後は可及的迅速に交換を完了してください。電池交換後は、微弱電磁波検出器を用いて内部電源が使用されていないことを確認してください。上記の電池交換業務は、同業務を10回以上経験した職員2名以上を含む、3名以上の職員による相互確認の下で行ってください。
サイト-81██の上空2万km付近は、人工衛星などの航行が禁止されます。SCP-XXXX-JPの破壊あるいは無力化についての研究は、最大限の努力をもって継続されます。
説明: SCP-XXXX-JPはシンバルを持ったチンパンジーを模した、高さ26cm、重量670gの電動の玩具で、異常な破壊耐性を持つため材質は不明です。当初は「異常な破壊耐性を持ち、電池がなくても動き続ける玩具」というAnomalousアイテムとして、電池を抜いた状態で収容されていました。臀部の接地面には開閉可能な電池カバーがあり、内部に単1電池2本を装着することができます。SCP-XXXX-JPは装着された電池の電力を消費し、頭を上下させてシンバルを打ち鳴らすという動作を行います。一方でSCP-XXXX-JPが下記の状態に置かれた場合は、内部電源に切り替わり稼働を続けることが分かっています。
- 電池が外されている
- 電池に十分な蓄電量が残っていない
- 電池カバーが開いている
- スイッチが「OFF」になっている
内部電源の蓄電容量はSCP-XXXX-JPを50時間連続で稼働させられる程度ですが、 蓄電量が枯渇しそうになるとSCP-XXXX-JPの頭頂方向2万km先を中心に半径40kmの球状の時空間異常が発生し、そこから電力が供給されます。この時空間異常によって生成される並行宇宙をSCP-XXXX-JP-1と呼称します。SCP-XXXX-JP-1の発見経緯は補遺1を、異常性については補遺2を、特別収容プロトコル制定の経緯については補遺3を参照してください。
補遺1 SCP-XXXX-JP-1発見経緯: 20██年██月██日16時23分15秒JST、サイト-81██の上空2万kmを航行中であった、財団籍の海王星無人探査船████████からの信号が突如途絶しました。████████は推進力を失い、間もなく太平洋に落下しました。
████████の船体を回収したところ、搭載されていた燃料や電源はすべて消費されており、機体にはきわめて顕著な経年劣化の兆候が見られました。放射性元素による年代測定の結果、1087~1089年オーダーの時間経過にさらされていたことが判明し、何らかの時空間異常に巻き込まれた可能性が疑われました。通信が途絶したポイントがサイト-81██の上空であったことから、サイト-81██に収容されていたアノマリーの未知の異常性が作用した可能性が指摘され、時空間部門による精査が行われた結果、当時Anomalousアイテムとして収容されていたSCP-XXXX-JPの関与が明らかとなりました。
補遺2 SCP-XXXX-JP-1概要: SCP-XXXX-JPの内部電源が枯渇しそうになると、SCP-XXXX-JPの頭頂方向に2万kmの地点を中心に半径40kmの球状の空間が湾曲し、基底宇宙から分離して一種の並行宇宙を形成します。この空間をSCP-XXXX-JP-1と呼称します。
分離後のSCP-XXXX-JP-1は内部のダークエネルギーの作用によって、半径108~109パーセク程度まで膨張すると推定されます。最大まで膨張したSCP-XXXX-JP-1からはダークエネルギーが消失し、消失したエネルギーの大部分はバルクに放出されると考えられますが、一部は電力としてSCP-XXXX-JPの内部電源に回収されます。ダークエネルギーを失ったSCP-XXXX-JP-1は、取り込まれていた物質の重力によって収縮に転じます。半径40kmまで収縮したSCP-XXXX-JP-1は、基底宇宙における分離から約0.02秒後の同一座標の時空に接続し、空間を基底宇宙に「返却」する形で再吸収され消失します。
海王星無人探査船████████がSCP-XXXX-JP-1に取り込まれた事例では、SCP-XXXX-JP-1が分離後に膨張・収縮を経て基底宇宙に再吸収されるまで、SCP-XXXX-JP-1内の時間で推定1087~1089年オーダーの時間が経過していたことが判明しています。しかし、探査船のような大質量が偶発的に取り込まれたことでSCP-XXXX-JP-1の寿命は大幅に短縮したものと推定され、時空間部門の試算では、高度2万kmの宇宙空間に存在する微量な分子のみが取り込まれた場合、SCP-XXXX-JP-1の寿命はさらに数百桁長いものとなると推定されています。
補遺3 SCP-XXXX-JPについての、██博士の提言:
SCP-XXXX-JPの真の脅威は、SCP-XXXX-JPが律儀にもSCP-XXXX-JP-1空間を基底宇宙に「返却」する点にあります。SCP-XXXX-JPが引き起こしうるK-クラスシナリオについて、以下に解説します。
財団研究員の皆様であれば、理論物理学を専門としない方でもヒッグス粒子の予測と発見について授与された2013年のノーベル物理学賞は記憶に新しいことでしょう。ヒッグス粒子とそれがもたらすヒッグス場は、素粒子物理学の標準モデルにおいて物質の動きにくさ、つまりは質量を規定する力場として全宇宙にあまねく存在しています。一方で、ヒッグス粒子の発見は一部の素粒子物理学者を震撼させました。「偽の真空」仮説によるものです。
この宇宙は、潜在的なエネルギーがより低い状態、つまりエネルギー的に安定した状態を取ろうとします。宇宙は開闢から138億年経過しており、既に全ての力場はエネルギー的に最も安定した状態、すなわち場の量子論でいうところの「真空」状態にあるものと考えられてきました。しかし、実際にヒッグス粒子が発見されてみると、現実のヒッグス場は理論的な真空状態よりも多くの潜在的エネルギーを抱えていることが判明したのです。つまり、現在の宇宙を支配するヒッグス場は真の真空状態ではなく、エネルギー的に不安定な「偽の真空」状態にある可能性が指摘されたのです。
一般物理学では「偽の真空」はあくまで仮説であり、理論が間違っていた可能性も残っているとされています。ですが、財団の理論物理学者の皆様であれば、この宇宙のヒッグス場が「偽の真空」状態にあることは重々ご存じのことでしょう。現在の宇宙のヒッグス場は、「真の真空」へ相転移する可能性を残しています。この状態は例えるならば過冷却状態の水のようなものです。どこかで何かの拍子で氷への相転移が起こってしまえば、連鎖的に水全体が凍り付いてしまいます。宇宙のどこかでヒッグス場の相転移が起きてしまえば、それは光の速さで伝播し、物理法則を書き換えていくことになります。「真空崩壊」と呼ばれる現象です。真空崩壊の引き金となる最初の相転移は、量子力学におけるトンネル効果によって引き起こされるため、その発生はあくまで確率に基づいており、制御不能です。
もし地球が真空崩壊に飲み込まれた場合、正確な予測は困難ですが被害は甚大なものとなる事だけは確実です。質量に関する物理法則が置き換わるのです。単にニュートン物理学や量子力学が丸ごと書き換わるだけではなく、おそらく原子はその構造を保てなくなるでしょう。我々は宇宙の塵に、いえ、塵と呼べるものが残るというということさえ、最も楽観的な予想の一つと言えます。
むろん、現在の宇宙でヒッグス場の真空崩壊は確認されていません。その理由としては、ヒッグス場が真空崩壊する可能性は非常に低く、138億年はあまりに短すぎるという説が有力です。仮にこれから真空崩壊が起きたとしても、それは観測可能な宇宙空間よりもはるかに広大な、光速以上の膨張速度で地球から遠ざかる外宇宙で起きる可能性が高いです。その場合、相転移の連鎖反応は永久に地球に到達しないことでしょう。
さて、この提言の本題はSCP-XXXX-JPの危険性です。SCP-XXXX-JPはその内部電源が枯渇する度に、一種の並行宇宙とも呼べるSCP-XXXX-JP-1を生成します。SCP-XXXX-JP-1は我々の計算では半径108~109パーセクまで膨張し、消失するまでに最短でも1087~1089年オーダーの時間、おそらくほとんどの例ではさらに数百桁長い時間が経過します。真空崩壊の確率は極めて低いとはいえ、これほどの広大な空間で基底宇宙の年齢をはるかに超える時間が経過するとなると、その確率は無視できないものになります。我々の計算では、1回のSCP-XXXX-JP-1の生成・消滅で真空崩壊が起きる可能性は0.2%程度と見積もられています。
SCP-XXXX-JPがAnomalousアイテムとされていた4年間の収容記録を見るに、これまでに600回前後のSCP-XXXX-JP-1生成が行われたと推定されます。0.2%の事象が600回連続で起こらない確率は、約30%です。
我々はこの幸運を神に感謝すべきかもしれません。SCP-XXXX-JPがおそらく発生から間もなく収容されたことを、我々の宇宙が約30%の確率の壁を潜り抜けたことを、哀れな探査船の犠牲と引き換えにSCP-XXXX-JP-1を発見できたことを、そして何よりサイト-81██の職員が財団の理念を堅守し、全く危険性のないと信じられていたAnomalousアイテムであっても、確保し収容し保護し続けていたことを。もしSCP-XXXX-JP-1内部で真空崩壊が起きていれば、空間が基底宇宙に「返却」された瞬間、光の速さで地球は真空崩壊に飲み込まれることとなっていたはずです。
当然、これ以上神が死のサイコロを振ることは看過できません。幸いなことに、厳格な電池交換プロトコルを実施することで、内部電源の消費によるSCP-XXXX-JP-1の発生は、従来の2日に1回から十数年に1回まで抑制可能です。しかし、全くのゼロにすることは困難です。電池カバーが開いている時に内部電源が使用される異常性のため、単1電池の替わりに恒久的な外部電源を接続する試みはことごとく失敗し、電池交換のたびに内部電源はわずかながら消費されます。
SCP-XXXX-JPは回避不能な「YK-クラス:真空崩壊シナリオ」を引き起こしうるアノマリーであり、Apollyonクラスオブジェクトへの分類が妥当であると提言致します。
時空間部門 ██博士
上記の提言は監督評議会により承認されました。SCP-XXXX-JPのオブジェクトクラスはApollyonに変更され、現行の特別収容プロトコルが制定されました。
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