【改稿中】旧き闇との邂逅

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これまでのあらすじ
闇親方として闇寿司を立ち上げたばかりの闇は、これからの生き方を模索していた。ついてくる者も増えてきたが、彼にはまだ経験が足りていない…そんな時、闇寿司の門下の一人が自身の一族が長年封印していた江戸時代の邪道鮨使い…志比有右衛門(しびのゆうえもん)の霊に会いに行くことを提案する。藁にもすがる思いで、闇は鮨使いを封印するにはあまりにも酷と思えるほどの山奥へと向かうのだった。




祠は、しっかりと管理されているのか綺麗な状態だ。闇は祠の前の石碑に、“邪道ノ鮨使イ此処ニ封ズル”という文字を認めて笑みを浮かべた。

「ここにいるんだな、原初の闇寿司使いが…!」

既に千切れた数枚の御札を一瞥し、観音開きの扉をぎいと引き開ける。板張りの床に光が差して、闇はわずかにその顔を失望に歪めた。


十畳程の空間には、何もない。埃ひとつないその床には、しかしながら彼の期待したような存在は何処にもいなかった。

土俵も寿司もレシピも幽霊も、そこには見えない。ただ床の間にあたる場所は土間になっており、何も彫られていない墓石のようなものが一つ置いてあった。


闇はその墓石にそっと手を伸ばす。


「そうシケた面すんなよ、俺ぁここだぜ?」


突然の背後からの声に、闇は手を引っ込めて反射的にミニラーメンを構える。

「っ、誰だ貴様!」

「なんだよ、折角出てきてやったのに随分な歓迎だな?」

あんたの探し人なのになぁ、と肩をすくめるその姿。

黒い総髪、明るい桃色の瞳に、腰に差した小太刀。白い袴と新橋色の着流し。
宙空に胡座をかいて座る、その足は半分透けている。

「…まさか…邪道寿司使いの…!」


「御明答。俺こそ伝説の鮨使い、その名も志比有右衛門だ。あんたか?奇特にも俺に会いにきてるって言う、闇を名乗る邪道の鮨使いは。」


八重歯を見せて笑う青年は、握った湯呑みをお手玉しながら闇を値踏みするように眺める。

「まあなんだ、随分妙なモン回してるのは見て分かるが。」

気まずそうにラーメンを懐に仕舞う闇に、ケラケラと笑って有右衛門は肩を叩く。その指がすり抜けることに気づき、闇は僅かに目を見開いた。

それを隠して、闇も笑う。

「あんたは江戸時代の人なんだろ?その割に、随分と今風な喋り方をするな。」

「ありがたい事に俺を信仰してくれる連中の認識に影響受けたんだよ。あれだろ?あんたらは闇鮨とか言って、邪道と言われる鮨を回してんだろう?」

「成る程な…今のことにも詳しい、ってか」

闇のラーメンの性質もきっと見抜かれているだろう。やはり、この幽霊と会ったのは正解だった…となれば、寿司を持つ者が二人此処にいる以上するべきことはただ一つ。


「で?俺みたいな前時代的な鮨使いに何の用だい、新時代を拓く新たな邪道の鮨使いさんがよ。俺の価値観だって基本は昔のもんだ、話しに来たんじゃねえんだろ?」

懐から箸が現れる。好戦的な笑みに、闇も強気な笑みを浮かべる。

「おうよ。是非一回、手合わせ願いたい…幽霊の体でできるんなら、の話だが。」

「ナメた事言ってくれるじゃあないか。実体の鮨さえあればいいんだろ、俺ぁここ封じてるとこのガキに稽古つけてんだぜ?現役たぁ言わねえが、そんじょそこらの鮨使いに負ける腕じゃあ無いつもりさ。」

湯呑みから僅かに酢飯の匂いが漂った。

「俺は鮨に関係した信仰受けてるからな、こういうのはお手のものってわけよ」

軽く揺すって、有右衛門は懐に湯呑みを仕舞う。


「ああ、そうだ…その前に、一つ問題だ。闇の兄ちゃんよ、俺の相棒の鮨、ネタは何だと思うね?」

「…原初の、闇寿司のネタ…」

闇は考え込む。

「サーモンか?」

「鮭のことだっけ?あれは旨そうだよな、俺も死ぬ前に知れてりゃ良かったんだが、残念ながら違う。」

「締めに出されるとかいううどんか?」

「んなわけないだろ、そりゃ確かに面白そうだけどこいつは湯呑に入ってんだぞ。」

「豆腐とか…」

「それ禁止される程か?」

「む…」

答えに詰まる闇を見下ろして、青年は微笑む。

「歴史の勉強が足りてねえな。こいつだよ」


大ぶりな江戸前鮨が姿を見せる。赤酢の染みて握られた酢飯の上には、現在ではそう見ないような大ぶりなサイズに切られた桃色の脂輝く刺身。

「これは…大トロマグロ!?」

目を見開く闇。

「いかにも。」

誇らしげに、今やマグロの中で最高級とされる部位を惜しげもなく握ったその大きな鮨を有右衛門は見せつける。

「万葉の昔より獣の肉に近いその赤い身を食され、日持ちしない事、そしてその脂の多さに俺の時代では下魚と呼ばれて蔑まれた…宍魚。その中でも、猫も食わない猫またぎと呼ばれたこの部位が俺の相棒だ。しびという音に重ねて紫薇の花のような美しい桃色をかけて、そのたっぷりした脂とこいつが生前泳いだ波にあやかりその名を、紫薇脂浪。」




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にやりと笑い、有右衛門が箸に相棒を挟む。

「さあ、細かいことは後回し。鮨を回す時間だ」

板張りの床には、いつの間にか土俵が置かれている。

「…そうだな」

闇もミニラーメンを再度構える。静かな緊張が場を満たし、厳粛な試合の始まりを予感させる。


「ひい」
「3」
「ふう」
「2」
「みい」
「1」
「「へいらっしゃい!」」


目にも止まらぬスピードで駆け抜ける桃色の閃光。初撃をかわされたラーメンの背後から、重い江戸前の一撃が叩き込まれる。

「ぐっ…」

「こんなもんか?」

挑発する有右衛門を無視して、闇は考える。

(足の速さで言えばサーモンをも凌ぐ、その上江戸前特有の重さを兼ね備えた寿司か…しかし重さで言えばこちらが上!)

ヒット&アウェイでミニラーメンを削る紫薇脂浪が飛んでくる次の方向を見極め、ラーメンを同じ方向へ飛ばす。

「げっ」

慌てて方向転換するが、ラーメンが掠めて赤みがかった酢飯が削れ飛ぶ。

重い一撃に有右衛門が口角を上げる。

「面白いことしてくるじゃねえの…脂浪に正面からぶつかって生き残る鮨なんてそう居ねえから忘れてたぜ!」

「ふざけるな、今のをかわす方がおかしいだろうが!」

悪態をつく闇を嘲笑うように、有右衛門は余裕のある表情だ。

「脂浪、作戦変更だ。アレを二度食らうわけにはいかねえぞ」

中央を陣取り回るラーメンの周りを凄まじい速度を維持して回り続ける紫薇脂浪に、闇が挑発する。

「そのままじゃジリ貧じゃねえのか?」

「ははは、まあその通りだな。」

それでも笑顔を崩さない有右衛門に、闇の直感が警報を鳴らす。

高速で回る桃色の寿司の軌道が、ラーメンを狙って大きく動いた。

「…まずい、かわせ!」

「いい判断だ!」

移動しようとするラーメンの、その背面に紫薇脂浪が鋭い一撃を叩き込む。

「それは、俺にとってだがな!」

進行方向への重い加速を受け、ミニラーメンの器が僅かに歪んだ。

「畳み掛けろ!」

形が歪んで回転力が削がれたラーメンに、目にも止まらぬ高速連撃が打ち込まれる。ゆっくりとふらついた軌道を描き、ラーメンは歪んだその器を横倒しにした。

「くっ…」

ミニラーメン、バーストフィニッシュ。

悔しげに唇を歪める闇は、それでもこぼれたスープを拭き取り、拾い上げた麺を口にする。たとえそれがラーメンであっても、スシブレードに用いられ使い手が寿司だと認識している以上は土俵にぶちまけられたとしても安全に摂食することが可能である。

「なぁそれ旨いのか?いや食えないけどさ、気になって」

「不味ければ現代の寿司屋で回ってるわけがないだろう。しっかり出汁のきいた脂の多い汁とコシのある細麺で蕎麦ともうどんとも違う美味さがあるぞ」

「ふぅん…やっぱ、世界は進歩してんだな。」

寂しげに笑う有右衛門。

「だから、否定なんてしなきゃいいんだ」

目を伏せ、有右衛門は回想する。




「俺は江戸育ちじゃねえ、山の獣を狩って食う村で育ってきた。武士の家の子だと突然に言われ、江戸のでっけえ屋敷に放り込まれた時は呆然とした。
けどよ、そこで出会ったんだ。さまざまな刺身が並ぶ重箱の隅に捨て置かれた、脂の多いそれにな。

冬の若い獣から取れる霜降り肉にも似たその桃色、生食ゆえのその脂の口どけ。
どんな刺身よりも俺の心を掴んだそれを、皆は口を揃えて蔑んだ。猫も食わない猫またぎ、脂が多くて鬱陶しいってな。それでもその日の味わいは、俺の心に染みついて離れない。

それでも皆に不味いって言われてるんだ、そうそう出回るもんじゃない。俺は猫またぎのことを心の隅に置いておき、江戸の街に繰り出した。そこで出会ったのさ、鮨相撲ってものに。

最初の鮨相撲はハマチ使いの男だった。俺に鮨を渡した奴はきっと下魚を渡して、新米に赤っ恥かかせるつもりだったんだろうさ。醤油の滴る赤身の漬け宍魚はお世辞にも強くはなかったとも。だけどもあの日と同じ魚だ、それだけでも心が熱くなる。

気づけば宍魚使いの有右衛門と言えば、下魚使いの強者鮨使いとしてそこらで名が知れるようになっていた。俺の時代なら、もうとっくに鮨相撲は体系化されたでっけえ試合の場だ、今で言うアングラ闘技場とかいう奴みてえなもんだな。何なら江戸だけに絞って言えば今よりずっと知られているものだったと思えるね。俺はその中でも上位に位置する宍魚使いだったのさ。

そんなある日のことだ、近所の魚屋から鮨屋の店主がたっぷりの猫またぎを追しつけられたのは。


幸か不幸か、その日は丁度でっかい大会の日だったのさ。俺は喜び勇んで握って貰い、大会に挑んだ。猫またぎ…大とろまぐろの強さはあんたも身に染みたろう?圧倒的な強さで俺はその大会を制した。どのような戦いか、については今は措くとするが、まあ想像通りだと思うね。そして、その勝利を良しとしない連中がいた。


らーめんとやらを旨いと言うあんただってよく知ってるはずだ、あの感覚。より強くより旨いものを求めただけなのに、否定されるあの思い。

速さと力を求め、味を捨てて邪道に身を堕とした鮨使いとして、俺は一部の連中に拐かされた。二度と味を蔑ろにし、鮨を侮辱しないのならば解放するってな。冗談じゃねえよ、俺は旨いと思ってこいつを回してんだ。鮨を侮辱してるのはあいつらの方だろ、そう思わねえか?

いいか兄ちゃん、鮨ってのは時の流れとともに移り変わるモンなんだよ。あんたがさっき構えた奴だって、いつか世界が変わって受け入れられるかも知れねえ。俺の紫薇脂浪…大とろまぐろみてえにな。」


背を向けて、半分透き通った足を床に滑らせる。

総髪を靡かせ振り返った有右衛門の腹には、小太刀が突き刺さり血が滲んでいた。

「だから、あんたは間違えないでくれ。」

「それが…死因か?」

躊躇いがちに訊く闇に、哀しげな微笑みを浮かべて有右衛門は肯く。

「あの日…俺の信念を否定されたことで、俺はつい刀を抜いちまった。最後の一人に刀を突きつけた瞬間、こいつの声が聞こえたんだ。

お前はそんなものを使わないと、私を肯定させられないのか?

あぁ、そうだったのさ…俺は負けたんだ。自分自身の弱さに負けた。相棒を信じられなかった自分に負けた。だから、俺は刀を自分の腹に突き刺した。そして、唖然としてやがる最後の一人に言ってやったのさ。

お前らが数百年経ってこいつの旨さに気付いても、もう遅いからな。

そうしてそのまま、此処に放り込まれたって訳だ。ま、数百年経たずにあいつらは旨い旨いと言い出したがな。西洋料理様々よ」

「…」

難しい顔の闇をすり抜け、有右衛門は呟く。

「あんたが道を間違えなきゃ、それでいい。あんたが自分の鮨に誇れるなら、それでいいからさ」

気配が消えたのを感じて、闇は静かに目を伏せた。

「…分かった。俺は…」

微かに呟いた答えに、桃色の瞳が笑った気がした。

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