補遺-3055-JP-Case:KO - 韓国支部での調音確認事例

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    当該処理が正常に実行されました。処理の影響によりSCP-3055-JP以外の文字認識に支障が出る場合がありますが数時間〜数日程度で回復します。処理を行なった場合でも極低確率でSCP-3055-JPの異常性が発現する可能性があります。万が一報告書内に記載されているSCP-3055-JPの読み方が分かった場合はSCP-3055-JPを発話せずクラスA記憶処理を受けてください。

    以下は韓国国内で発生した朝鮮語のSCP-3055-JP(以下、SCP-3055-JP-Case:KOと呼称)の発生事例報告です。映像ログや手記には飯田博士およびSCP-3055-JP-Case:KOチームメンバーに関する私的な内容も含まれていますが、SCP-3055-JP-Case:KO発見の経緯として重要度が高いと考え、掲載しています。

    発見記録3055-JP-Case:KO-1

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-1

    表記 調音󠄁図
    Case:KO_%E3%82%B3%E3%82%99%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%99_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case:KO_%E3%82%B3%E3%82%99%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%82%99_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 後述のゴングに酷似した器官を一度打ち鳴らした際の金属音+非円唇前舌広母音[a]で発音される。口底上にゴングに酷似した器官が出現し、舌体が槌状に変化する。その際ゴングに酷似した器官は錫や亜鉛などの合金に、槌状に変化した舌体は木材(C4.17H6O2.75)に構成する成分が変化する。その後舌体でゴングに酷似した器官を一度打ち鳴らす。その後ゴングに酷似した器官は消失し、舌体の形状が正常に戻る。

    仁川広域市のカフェ店頭に設置された看板型のブラックボードにおいて財団が発見した。


    飯田博士の手記


    SCP-3055-JPが仁川広域市に住むOLの手帳から発見され、暫定的にSCP-3055-JP-Case:KO-1が割り振られた。

    上席研究員として3055-JPのチームにいた私が日本支部から派遣され、現地のスタッフと合わせて新しいチームが組成された。3055-JPチームでの働きのおかげか、私はここで暫定的にサイト管理官となる。


    収容手順改訂報告-3055-JP-Case:KO-1


    SCP-3055-JP-Case:KOの収容手順は以下の通り改訂されました。


    新種のSCP-3055-JP-Case:KOが発見された場合、字素1に解体し、SCP-3055-JP-Case:KO、古字母2を含む既出の字素との組み合わせによって組成できる文字を全てSCP-3055-JP-Case:KOに指定し、文字認識システムおよび財団のwebクローラーに登録してください。またチョソンチェ3を想定し、該当の字素単体のものも文字認識システムおよび財団のwebクローラーに登録してください。

    新種のSCP-3055-JP-Case:KOが発見され、それが子音字(初声4またはパッチム5にあたる字素だった場合、既存のデザインパターンに倣い激音6、濃音7に変化した場合の字形を想定し、全てSCP-3055-JP-Case:KOに指定した文字デザインを作成し、文字認識システムおよび財団のwebクローラーに登録してください。

    新種のSCP-3055-JP-Case:KOが激音もしくは濃音と考えられる字形だった場合は激音化前、濃音化前の子音字のSCP-3055-JP-Case:KOが存在した場合を想定して作字し、全てSCP-3055-JP-Case:KOに指定し、文字認識システムおよび財団のwebクローラーに登録してください。

    ハングルは調音位置に関する象形性を有し、字形から調音される音声実現形がある程度推測可能であることにも留意してください。


    飯田博士の手記


    Case:KO-1の資料をあらかたまとめた後、すぐにCase:KOの収容手順を大幅に改訂した。

    私はそれなりの数の言語を習得しているが、正直なところ朝鮮語を正式に学んだことはなかった。そんな私がこの事案の主担当に任命された時は幾許の不安があったが、すぐに朝鮮語が非常に習得しやすい言語であることを実感した。それに朝鮮語を話せたとしても管理者適性があるとは限らない。現に私はこの段階でCase:KOで特有の想定ケースを洗い出し、対策を講じた。不十分な対応ではないはずだ。

    日本支部での業務にはそれなりに思うところがあったが、ここでならより私本来のパフォーマンスを発揮できるかもしれない。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    [パク・ジミン研究補佐が飯田博士のデスクに訪れ、コーヒーを差し出す。]

    パク・ジミン研究補佐: [日本語で]お疲れではないですか?

    飯田博士: ありがとうございます。日本語お上手ですね。

    パク・ジミン研究補佐: [日本語で]はい。ありがとうございます。少し日本語勉強していますので。

    飯田博士: そうなんですね。

    パク・ジミン研究補佐: 飯田博士の対応、とても感服いたしました。飯田博士は朝鮮語にかなり造詣が深いのでしょうか?

    飯田博士: いえ。実のところここに配属が決まるまで朝鮮語をちゃんと学んだことはなかったんです。

    パク・ジミン研究補佐: なんと。収容手順改訂を拝見したところ、かなりハングルの特性を理解されているように感じました。

    飯田博士: 日本語と朝鮮語の構造上の違いから、同じ収容手順では適切に収容できないと考えるのは当然です。朝鮮語が非常にシステマチックに設計された言語であった点にかなり助けられた部分は正直多分にありますが。

    パク・ジミン研究補佐: なるほど。素晴らしい。韓国にはいらっしゃったことはありますか?韓国ドラマやK-POPはご存知ですか?

    飯田博士: いえ、韓国に来たのはこれが初めてです。K-POPなどは、すみません。そういったものには疎くて。

    パク・ジミン研究補佐: なんと。ぜひせっかく韓国支部にいらっしゃったのですから、よかったら調べてみてください。韓国料理もよければ今度ご案内しますよ。

    飯田博士: はい。ありがとうございます。

    パク・ジミン研究補佐: 私は日本のアニメが好きで、特に進撃の巨人や僕のヒーローアカデミアが好きなんです。他にもエア・ギアとか、古い漫画だと手塚治虫先生の新世界ルルーとか。日本のアニメは見た目も美しいし、ストーリーに哲学が感じられてとても好きなんですよ。

    飯田博士: はぁ。

    パク・ジミン研究補佐: 日本料理もとても好きです。日本は近いので気軽にいける距離ではあるのですが、日々業務に追われているとなかなか実際に訪れることは難しいですね。

    飯田博士: そうですね。すみません。早急に仕上げたい資料がありますので、また後ほど。

    パク・ジミン研究補佐: これはすみません。大変失礼いたしました。では私も業務に戻ります。[日本語で]おつかれさまです。

    <抜粋終了>


    飯田博士の手記


    私は人を覚えるのが苦手なのでCase:KOチームの中心メンバーについてメモを残しておきたい。

    • チャン・テヒ: 上席研究員。レベル3。誤伝達部門所属。女性。30台半ば程度と見られる。目のクマがひどい。無口だが仕事はできそうだ。
    • パク・ジミン: 研究補佐。レベル2。誤伝達部門所属。男性。20台後半程度と見られる。非常に愛想が良いが、それ故に周囲との協調を優先しすぎるところがある。

    発見記録3055-JP-Case:KO-2

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-2

    表記 調音図
    Case%3AKO_%E3%82%84%E3%81%BE%E3%81%B2%E3%82%99%E3%81%93_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_%E3%82%84%E3%81%BE%E3%81%B2%E3%82%99%E3%81%93_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 反響する人間の声のような音声が発音される。この文字の発話を試みた者の頭下顎が数kmまで肥大し、口底および舌体が山岳のような器官に変化。山岳のような器官は2〜3座出現する。その後不明な発生源より人間の声のような音声が発音され、山岳のような器官同士で反響。その後山岳のような器官は消滅する。山彦に酷似した現象であることから、同様の仕組みで調音していると考えると山岳のような器官の間隔は最低300m程度必要だと考えられる。

    中文ビーチにて爆発事故のようなものが発生したという通報を受けて駆けつけた財団職員が発話者の遺体を発見、その後発話者のカカオトークアカウントのトーク履歴からSCP-3055-JP-Case:KO-2が発見された。発話者は瞬間的な下顎肥大化に伴う組織の裂傷によるショックで死亡した。

    文字に母音字がないことからチョソンチェと見られる。


    飯田博士の手記


    新たなCase:KOが発見された。発見されたのがビーチであったこと、離島であったことは不幸中の幸いだが、数kmにおよび被害をもたらした今回のオブジェクトの凶悪性はJP-10に並ぶだろう。瞬時に口が何kmにも腫れ上がるというのはどのような痛みなのだろうか。発話者の下顎は人間とは思えないほど巨大に膨れ上がっていたが、薄橙の皮膚がこれは人間であることを実感させる。不思議なことに皮膚はさほど裂傷していないが、中身はそうではないのだろう。至るところで出血している。正直見るに耐えない光景だが、3055-JPの業務にあたっているうちにこういった光景も見慣れてしまった。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    パク・ジミン研究補佐: ここ、よろしいですか?

    [パク・ジミン研究補佐が食事中の飯田博士に声をかける。]

    飯田博士: どうぞ。

    [パク・ジミン研究補佐がテーブルを挟み飯田博士の正面に着席する。]

    パク・ジミン研究補佐: 日本語は難しいですね。

    [飯田博士がマグカップのコーヒーを啜る。]

    パク・ジミン研究補佐: 米国国務省の言語習得難易度ランクでは日本語はカテゴリー5にランク付けされているそうです。

    飯田博士: 最高難度ですね。

    パク・ジミン研究補佐: ええ。カテゴリー5に分類されている中でも日本語はさらに難易度が高いとされているそうですよ。つまり世界最高難度です。

    飯田博士: まぁ、あれは米国の外交官養成局員が習得する場合の難易度を示しているものですから、英語と大きく乖離した文法体系を持つ日本語は多少過大に評価されているはずです。

    パク・ジミン研究補佐: 仰る通りですが、朝鮮語話者の私から見ても日本語はとてもユニークな言語です。例えば日本語における漢字は表意文字ですが、表意文字は世界的に見ても数が少なく、漢字の他にはアッカド語やシュメール語など古典言語ぐらいしかありません。

    飯田博士: アラビア数字も表意文字ですよ。

    パク・ジミン研究補佐: [声を出して笑う。]さすがです。日本語の特異性を強調するために意図的に省いたのですが、見抜かれてしまいましたね。数字を除けば、という注釈を付けさせてください。

    飯田博士: 漢字を勉強中で?

    パク・ジミン研究補佐: ええ。例えばこの漢字ですが。

    飯田博士: おと、ですね。

    パク・ジミン研究補佐: 他にもオン、インとも読みます。

    飯田博士: ね、とも読みますよ。

    パク・ジミン研究補佐: 訓読みですね。漢音、呉音に由来する音読みは朝鮮語と似通っているものも多く覚えやすいのですが、訓読みは苦手です。

    飯田博士: 訓読みは漢字に大和言葉を充てたものですからね。

    [飯田博士が席を立つ。]

    パク・ジミン研究補佐: ところでこの漢字は他にも「たより」とも読むんです。ご存じでしたか?

    飯田博士: いえ。初めて聞きました。

    パク・ジミン研究補佐: 常用外の読みですがね。飯田博士ほど言語にお詳しい方でも知らない読みがある。つまり人によって読みを把握している範囲が異なるということです。

    [飯田博士が椅子をテーブルの下に収納する。]

    パク・ジミン研究補佐: これはハングルやアルファベットなどの表音文字ではあり得ない、他の文字には見られない特徴だ。とても面白い。

    飯田博士: なるほど。では業務がありますのでそろそろよろしいでしょうか?ジミン研究補佐もお忙しいと思いますし。

    パク・ジミン研究補佐: おっと、大変礼いたしました。やはり飯田博士のように博識な方とお話するのはとても楽しいです。つい時間を忘れてしまいますね。

    飯田博士: それは何よりです。では私はこれで。

    <抜粋終了>


    発見記録3055-JP-Case:KO-3

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-3

    表記 調音図
    Case%3AKO_ae_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_ae_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 有気無声軟口蓋破裂音[kʰ]+非円唇前舌狭めの広母音[æ]8」で発音される。

    南怡島の路上において文字モニュメントとして設置されていたところを財団が発見した。いつから設置されていたのかは不明である。


    飯田博士の手記


    南怡島にて新たなCase:KOが発見され、現場に急行した。幸い死傷者の出ない異常性を有したオブジェクトであったため記憶処理剤を散布することで対処した。ジミンは冬のソナタのロケ地であると嬉々として説明した。冬のソナタは未視聴のため感動はなかったのだが。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    [パク・ジミン研究補佐が飯田博士のデスクにチョコレートを置く。]

    パク・ジミン研究補佐: おひとついかがですか?働き詰めで糖分が不足しているかと思いまして。

    飯田博士: パク・ジミン研究補佐は周囲への気遣いが大変行き届いていらっしゃいますね。

    パク・ジミン研究補佐: ありがとうございます。ですがこれは後天的に身に着けたものなんです。私は元々あまり人と働くのが上手い方ではなかったので。

    飯田博士: なるほど。

    パク・ジミン研究補佐: かつての仕事仲間に仲間との連携を重んじている人がいましてね。彼に憧れ、私もそうなりたいと思って苦手を克服できるよう努力したんです。

    飯田博士: そうですか。用件は何でしょうか?

    パク・ジミン研究補佐: U+3042。この文字、わかりますか?

    飯田博士: ひらがなの「あ」ですね。

    パク・ジミン研究補佐: さすが。Unicodeを覚えているというのは本当だったんですね。

    飯田博士: ええ、多少は。それに「あ」はさすがに誰でもわかります。

    パク・ジミン研究補佐: すごい。日本人は皆Unicodeを覚えているんですね。ではU+5F41はどうですか?

    飯田博士: ああ、それは「ゆみかか9」ですね。

    パク・ジミン研究補佐: そうです。難しいものを検索して調べたのですが、まさかこんな字まで知っているとは。

    飯田博士: 「ゆみかか」は幽霊文字ですね。幽霊文字は典拠不明にも関わらずJIS基本漢字に含まれている文字のことです。その中でも「ゆみかか」はかなり有名な方ですよ。

    パク・ジミン研究補佐: なるほど、いつどうやって生まれたかも分からない。それはミステリアスだ。読み方以外何もわからないとは。

    飯田博士: 1978年時点でJIS規格に登録されていたことは確実ですが。それと、読み方も見た目から便宜上そう呼んでいるだけで実際のところは不明です。

    [飯田博士が「彁」の字を手元のメモ帳に筆記する。]

    パク・ジミン研究補佐: 本当だ。見た目が「弓」と「可」でできている。とても面白いですね。幽霊文字という概念は知りませんでした。そうだ。Unicodeといえば、ひらがなの「ご」のUnicodeはU+3054らしいんですよ。非常に興味深くはないですか?

    [飯田博士が要領を得ない顔でパク・ジミン研究補佐を眺める。]

    パク・ジミン研究補佐: 「こ」に半濁点がついたひらがな、つまりSCP-3055-JP-1が実際にひらがなに存在していたとしたらU+3055になっていた可能性があったということです。実際U+3055は「さ」ですし、SCP-3055-JP-1にはU+3053U+309Aが割り当てられていますが。

    飯田博士: はぁ。

    パク・ジミン研究補佐: 面白い偶然じゃないですか?

    飯田博士: 確かに面白いですが、ナンバーは空きスロットに適当に割り振られていきますので、9000番台などにいきなり割り振られていたら奇妙ですが、3055番は順当と言いますか。

    パク・ジミン研究補佐: 何か作為的なものがあったら面白いなと。それに──

    [飯田博士がパク・ジミン研究補佐の発言を遮る。]

    飯田博士: すみません、私は韓国支部所属ですので。JPの話は管轄の方にご連絡した方が良いかと。

    <抜粋終了>


    飯田博士の手記


    どうにもジミンはここ最近、言語の話題ならば私が食いつくと考えているように感じる。私がいくつの言語を話すのかとか、どうやって学んだのかとか、徹底して言語の話を振ってくるようになった。ジミンは愛想が良く、雑談でコミュニケーションを図り、距離を縮めて仕事をやりやすくしようとしてくる。こういったおべっかを使われると、より"協調性"に長けた者に気分をコントロールされているような気がしてしまう。日本支部でのかつてのチームメイトを想起させる、ジミンはそんな男だ。


    発見記録3055-JP-Case:KO-4

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-4

    表記 調音図
    Case%3AKO_%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_%E3%82%A6%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%B3_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 後述のウォーターフォンに酷似した音+非円唇前舌狭母音[i]+非円唇前舌半狭母音[e]で発音される。この文字の発話を試みた者の下顎歯が細長く延長される、下顎に空間が発生し水が貯蓄される、舌体が擦弦楽器を擦る弓のような形状になるなどの人体変形が起こる。その後弓状の舌体で下顎歯の表面を擦り、ウォーターフォンのような音声を発生させる。

    釜山広域市内の高等学校の壁に書かれた落書きにおいて財団が発見した。


    飯田博士の手記


    Case:KO-4の現場からの帰路、ジミンのスマートフォンを覗いてみると、彼は日本の動画サイトを見ていた。日本のネットミームを用いたカップヌードルのCMらしい。私との雑談のネタでも探しているのだろうか。呆れる。彼は職員からの評判はすこぶる良いが、だから何だと言うのだろうか。テヒは車中でもCase:KO-4の画像解析を行なっている。ジミンの処遇については少し考えなくてはならない。


    発見記録3055-JP-Case:KO-5

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-5

    表記 調音図
    Case%3AKO_%E3%83%86%E3%82%99%E3%82%B9%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%83%E3%82%B9%E3%83%AB_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_%E3%83%86%E3%82%99%E3%82%B9%E3%83%9B%E3%82%A4%E3%83%83%E3%82%B9%E3%83%AB_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 後述の死の笛に酷似した音+非円唇前舌狭母音[i]+円唇後舌半狭母音[o]口腔内で発音される。全体が癒着し、中心部に調音器官が出現する。調音される音は複数の周波数が複合された人間の絶叫に酷似しており、調音器官は古代アステカの遺跡から出土した死の笛(デスホイッスル)に酷似している。

    坡州市内臨津江鉄橋の観光案内看板内の地図において財団が発見した。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    パク・ジミン研究補佐: 聞いてほしい話があるんです。まだ仮説の域を出ませんが、日本語について考えているときに──

    [飯田博士がパク・ジミン研究補佐の発言を遮る。]

    飯田博士: 日本語?我々の収容対象はハングルですよ。

    パク・ジミン研究補佐: ですが、これは非常に興味深い──

    [飯田博士がパク・ジミン研究補佐の発言を遮る。]

    飯田博士: いい加減にしていただけますか。パク・ジミン研究補佐。あなたがチームの雰囲気に配慮してくれていることはわかります。しかし些か業務の本質とは違う発言が多いように見受けられる。その話、他の業務を差し置いて聞く価値がありますか?

    パク・ジミン研究補佐: ですので、それは。

    飯田博士: いや結構です。続きを話してくれと言っているわけではありません。目の前の業務を粛々とこなしてください。無駄なコミュニケーションコストを支払っている間に、一体何件の3055-JP-Case:KOが発生していると思いますか?今後は業務の報告だけを行うように。

    [飯田博士がマグカップを手にし、その場を離れる。]

    <抜粋終了>


    飯田博士の手記


    ジミンへ感じるストレスは限界に達しようとしていた。彼が笑顔で私のデスクに近づいてくるたびに、食堂や喫煙所で仲間と談笑する様子を見かけるたびに、日本支部で感じた不快感が鮮明に蘇ってくるようだった。

    韓国支部への異動は私の念願だった。私は、日本支部の環境に嫌気が差していた。日本人は無駄口が非常に多い。コミュニケーションのための会話。確かに業務上チームの連携を強めることは重要だが、日本人は過剰に折衝を避ける傾向にある。彼らの会話の大半は身のあるものではなく、敵意がないことを示すための毛繕いでしかない。日本人の給料はその大半が仲良くストレスなく仕事をするための馴れ合いのために使われていると感じていた。そしてそんな環境に迎合してしまっていた自分にも嫌気がさしていた。

    リアルにおいてもオンラインコミュニティにおいても、韓国人は日本人と比較して馴れ合いを嫌う。私はそこが好きだったのだ。日本支部に嫌気が差していた私にとって韓国支部は駆け込み寺であったし、執拗にチームの調和を重んじるジミンは私にとって日本への悪感情を蘇らせる存在だった。


    発見記録3055-JP-Case:KO-6

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-6

    表記 調音図
    Case%3AKO_%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%82%9A%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%9A%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%99_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_%E3%82%A2%E3%83%9B%E3%82%9A%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%9A%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%99_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 口腔内に変化は見られない。調音される音は████の音声実現形を示す。

    蔚山気象台の気象レーダー内において財団が発見した。

    SCP-3055-JP-Case:KO-7にはカバーストーリー「アポカリプティック・サウンド」が適応される。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    [飯田博士がPCに貼られたメモ書きを剥がす。メモには日本語で「昨日の解析データの件ありがとうございました」と書かれている。]

    飯田博士: 全く。何でわざわざ日本語でメモを残すんですかね。

    [2秒沈黙]

    飯田博士: 職員全員が読めるように英語で残すべきだ。

    [8秒沈黙]

    [チャン・テヒ上席研究員が持っていた書類をデスクに置き、飯田博士に視線を向ける。]

    チャン・テヒ上席研究員: 飯田さん、あなたこっちに来て一回でも朝鮮語を話しましたか?

    [5秒沈黙]

    飯田博士: 珍しいですね。チャン・テヒ研究員から声をかけてくるなんて。

    [2秒沈黙]

    飯田博士: ここでの業務は英語で行うことが認められてるでしょう。

    チャン・テヒ上席研究員: そういうことではありませんよ。

    [2秒沈黙]

    チャン・テヒ上席研究員: あなたは我々を理解しようとしていない。

    飯田博士: 理解?我々は友人ではないので業務に不要なコミュニケーションは排除すべきです。

    [2秒沈黙]

    チャン・テヒ上席研究員: 今のジミンからは想像つかないでしょうが、彼は我が強く、他人と働くことが苦手な人間だったんです。そんなジミンにとって日本支部での業務は非常にストレスの強いものだったそうです。そして取り分け考え方の似たあなたと話が合った。

    飯田博士: ちょっと待ってください。私とジミンが?日本支部で?

    チャン・テヒ上席研究員: ええ。ジミンは昔日本支部にいたんですよ。あなたがこのチームの管理官になられたときも、ジミンは我々にあなたのことを話してくれましたよ。

    飯田博士: そんなことジミンは一言も。

    チャン・テヒ上席研究員: あなたがまるっきり忘れていたようなので特に話さなかったようですよ。あなたは人を覚えるのが苦手だったから、覚えていないのも無理はないだろうと笑っていました。

    [2秒沈黙]

    チャン・テヒ上席研究員: ジミンからの伝聞ですが、あなたは日本人の気質を嫌いながらも、こうも話していたそうですね。チームメンバーがいなければ業務が成立しないのだから、彼らをよく理解することは必要コストである。日本人の和を重んじるスタイルはもしかしたらその点に寄与している可能性があると。 日本人の協調性は農耕文化に起因しているという説もありますし、私もこれには賛同できるところがあります。ジミンはあなたのその言葉に感銘を受け、今のようなスタイルになったそうですよ。

    [飯田博士がマグカップのコーヒーを啜る。]

    チャン・テヒ上席研究員: しかし私は、ジミンとあなたのスタイルの違いにおいて重要なのは、仲間との協調だけではないと考えます。

    [飯田博士が要領を得ない顔でチャン・テヒ上席研究員を眺める。]

    チャン・テヒ上席研究員: それは我々が扱っているのが言語であるということです。ジミンは、言語を知ることは相手の文化への敬意を払うことだとも言っていました。これもかつてのあなたの言葉ですよね?言語はただの道具ではなく、そこには人間の営みが反映されている。我々を理解しようとすることと朝鮮語を理解しようとすることは非常に近い。Case:KOを扱う上で今の姿勢は致命的かもしれませんよ。

    <抜粋終了>


    発見記録3055-JP-Case:KO-7

    番号: SCP-3055-JP-Case:KO-7

    表記 調音図
    Case%3AKO_%E9%AF%A8%E4%B9%99_%E8%A1%A8%E8%A8%98.png Case%3AKO_%E9%AF%A8%E4%B9%99_%E8%AA%BF%E9%9F%B3.png

    説明: 後述の非常に高Hzの音声で発音される。この文字の発話を試みた者の頭部が30m程度までの肥大し、鯨類の体躯のような形状が形成される。鼻腔は消失し、下咽頭付近で気管が封鎖され咽頭と接続しなくなる。その後気管は頭頂部に向かって伸長し、孔穴が開通する。その後頭頂部の孔穴から150〜200dB程度かつ50,000Hzと非常に大音量かつ人間の可聴域を遥かに遥かに超えた音声を発声する。

    石村湖水公園に落ちていたパク・ジミン研究補佐のスマートフォンにおいて財団が発見した。パク・ジミン研究補佐がスマートフォンにより文字変換を行なった際に発生したものと見られている。駆けつけた機動部隊によりパク・ジミン研究補佐の死亡が確認されており、業務時間外であったためパク・ジミン研究補佐に処置された文字認識能力制御処理は効力が失われていたと考えられている。


    飯田博士の手記


    ジミンが死んだ。彼らも朝鮮語話者であるのだから、彼らの元に3055-JP-Case:KOが発生する可能性ももちろんあった。しかし韓国の人口約5000万分の、だ。その確率は現実的なものではないと考えてしまっていた。

    そして何よりこれは紛れも無い私の失態だ。

    思えば韓国に来て観光らしいことを一度もしたことがなかった。Case:KOの被害者の遺体を確認しに外出したことはあるが、ドアを出た後はほとんど車の中でPCに向かっていた。ジミンの死体を確認した後、帰りに明洞を歩いた。色とりどりの看板が並ぶ。日本人観光客に配慮した日本語の表記が多かったのもそうだが、明らかにそこには日本人向けのそれではない漢字が多数存在した。漢字語10だ。

    漢字廃止政策によって漢字の教育は大幅に制限され、その使用は限定的になった。しかし現に一歩外に出れば人々の生活の中にはまだまだ漢字語が存在している。韓国の人々にとって漢字も朝鮮語だ。現に「山」などは漢字語という意識が薄く、固有語11のような感覚で用いられる場合が多い。

    山。そうだ。Case:KO-2は口腔内の変形の様子を象ってハングルにしチョソンチェとして実現したものではなく、漢字だったのだ。そしてCase:KO-7も。朝鮮語はハングルだけではなくハングルと漢字から成る。Case:KOはハングルのSCPではなく朝鮮語のSCPだったのではないか。例えば既存の漢字の下に「乙」を置くという造字法は韓国の国字によく見られる。つまり、漢字語の可能性も考慮していればCase:KO-7は予測できたのだ。ハングルのSCPだと決めつけ、ハングルに関する情報収集や考察ばかりを行い、エコーチェンバーに陥っていた。一度街に出ればこんなこと簡単に気付くことができたのに。

    ジミンは何度も私に何かを報告しようとしていた。それは小さなアイディアのようなものだったのかもしれない。私には無駄話に見えてしまうような。私はサイトに帰るとすぐにジミンのPCにアクセスした。中には膨大な量の資料がまとめられていた。一つ一つは可能性の低い瑣末な仮説だが、、、その中には漢字語に関する記述もあった。どうしてこれを黙っていたのか。もっと早く私に共有していればジミンは、、、いや、彼の話を聞かなかったのは私か。


    収容手順改訂報告-3055-JP-Case:KO-2


    SCP-3055-JP-Case:KOが漢字語を含む朝鮮語のSCPであるという仮説に基づき、収容手順が大幅に改訂されました。詳細は別ファイルを参照してください。


    飯田博士の手記


    ジミンの火葬が終わった。サイト-███の火葬施設から出ると空はすっかり晴れ上がり、蒼穹に煙突の細い煙が走っていた。韓国支部に来てから休みらしい休みは初めてだ。といってもジミンの葬儀なので厳密には休みとは言えないが、研究室に籠り、文字認識能力制御処理漬けになっていた体を久しぶりに休めることができた。彼の死の真相を知るのは我々3055-JP-Case:KOチームだけ。それは財団職員としての当然の責務であるが、だからこそ我々が存分に弔ってやらなければならない。

    そしてもう一つ重大な事案が発生した。先日収容手順の改訂によってとあるCase:KOを早期発見、発音される前に収容することができたのだ。それが見つかったのはテヒの自宅の冷蔵庫に貼られたメモ書きからだ。きっとジミンが仲間を守ってくれたのだろう。

    しかし、これは偶然だろうか?

    KO-7がジミンのスマートフォンから見つかり、次はテヒのメモ書きから。立て続けにCase:KOチームの周りでCase:KOが発生した。運命的と言ってしまえばそれまでだが、偶然にしては出来すぎていないか。

    そういえば、ジミンが何か言っていた。ジミンが以前3055-JPの発生に関わる詳しい話をしていたはずだ。その時はジミンに辟易していて、もうまともにジミンの話を聞く気などなかったし、ましてや日本語の話だった。ハングルの話題ですらないとわかり、完全にCase:KOとは関係のない話だと踏んだ私は話を聞くふりだけをしていた。ジミンは瑣末な余談を展開しやすい傾向にあったが、あの時のジミンはもっと鬼気迫るような、今思えば、少し雰囲気が違っていた気がする。ジミンは何を話していた?胸騒ぎがする。急いで、急いでサイトに戻り、映像ログを確認しなくては。


    映像ログ書き起こし


    付記: 当映像はサイト-████に設置されていたカメラによって撮影されたものです。なお、特別記述がない限り当映像内の会話は全て英語で行われています。


    <抜粋開始>

    [会議室に飯田博士とパク・ジミン研究補佐が入室し、テーブルを挟んで着席する。]

    パク・ジミン研究補佐: 飯田博士、お時間をありがとうございます。お忙しい中対応いただき非常に嬉しいです。

    飯田博士: いえ。話というのは?

    パク・ジミン研究補佐: 3055-JP、日本語の方の話です。

    [飯田博士が無言でパク・ジミン研究補佐を見つめる。]

    パク・ジミン研究補佐: 3055-JPにつけられたナンバリングは財団に発見、収容された順に付けられたものです。

    飯田博士: なるほど。

    [飯田博士がノートPCを開き、パク・ジミン研究補佐の話題とは関係のない業務を始める。]

    パク・ジミン研究補佐: 飯田博士、これを見てください。

    [パク・ジミン研究補佐がノートPCで動画を再生する。]

    飯田博士: 何ですかこれは。

    パク・ジミン研究補佐: これはニコニコ動画という日本の動画共有プラットフォームに投稿された動画です。日本のアダルトビデオを抜粋、加工したMADというものです。ここにSCP-3055-JP-1が含まれていますよね。

    飯田博士: 既知の情報です。3055-JP-1は発生件数が膨大なためカバーストーリーの適用が許可されています。

    パク・ジミン研究補佐: 3055-JP-1はそれ自体がネットミームになっているんです。日本のみならず韓国でも認知されています。ご存じありませんか?

    飯田博士: 既知の情報です。

    パク・ジミン研究補佐: SCP-3055-JP-1は現在カバーストーリーで対応されていますが、実態としては3055-JP-1に限定してもTiconderogaとは言い難い状態です。3055-JP-1が文字である以上、現在観測されている軟口蓋鼻音のみを表すとは断定できない。文字は似た音のグループを聞き手の感覚でまとめたものに過ぎず、今観測されている音以外の音が調音される可能性を否定することは不可能だということです。現に3055-JP-10のような例が発見されていますよね。

    [飯田博士がパク・ジミン研究補佐の方に向き直る。]

    飯田博士: 私は3055-JPのチームにいましたから、もちろん知っています。それがどうしたんですか?

    パク・ジミン研究補佐: 異常性の全体像を把握できていないオブジェクト、それがネットミームとして流行している。これは非常にまずい事態ではありませんか?致し方のない暫定的な対処とはいえ、ベストとは言えない。しかしこれをオブジェクトの拡散戦略として考えたら、あまりに出来すぎていませんか?

    [飯田博士が再び自身のノートPCでの作業を再開する。]

    飯田博士: JPの状況がそんなに気になりますか?

    パク・ジミン研究補佐: 一見すると危険性の低いものからどんどん凶悪なものになっていっています。見方によっては3055-JPの制作者がどんどん強力なものを新たに生み出して世に放った、もしくはどんどん3055-JPの異常性が成長していったように感じられますが、本当にそうでしょうか。現に今最も高いリスクを孕んでいるのは3055-JP-1という考え方もできます。3055-JP-10による被害は現在一般人1名が軽傷、実験のためDクラス職員2名が軽傷、そしてインシデントによる職員18名の死亡とサイト-8160の半壊です。十分凶悪と言えますが、発生件数は少ない、というよりその後発生していません。一体なぜでしょうか?

    飯田博士: さぁ。

    パク・ジミン研究補佐: インフルエンザがこれほどまでに流行っているのは致死性の低さに因るものだと聞きます。ウイルスは宿主が死なないものほど恐ろしい。3055-JP-1もそうだったのではないでしょうか?3055-JP-10は致死率が高かった。故に流行らなかった。発見が遅れたのも同様の理由かもしれない。

    飯田博士: なるほど。

    パク・ジミン研究補佐: もし3055-JPが伝染するとしたら、と考えたらどうでしょうか?

    飯田博士: どうなんですか?

    パク・ジミン研究補佐: そうでなくても生きている人間に認知される数が何かのファクターになっているのだとしたら?それが発生件数に関係しているとしたら?これは仮説に過ぎませんが、3055-JP-1の発生件数だけが爆発的に多いのは試行錯誤の結果唯一何かが成功した例だったのではないか。何かがというか、それは恐らく「流行」なのだと思います。ネットミームと化したことによる流行か、或いは別のルートで広く認知されたのかもしれません。

    [飯田博士が無言でノートPCのキーボードを打ち続ける。]

    パク・ジミン研究補佐: 3055-JP-1は人体変形が伴わない軟口蓋鼻音だからこそ、表記も既存文字のマイナーチェンジという受け入れやすいものだったからこそ、日本語に溶け込むことができた。そしてたまたま軟口蓋鼻音として存在した方言の表記としてカバーストーリーが敷かれた。結果として3055-JP-1は日本語に根付いてしまい、JIS規格にまで登録されている。

    飯田博士: なるほど。

    パク・ジミン研究補佐: もし3055-JPが人為的に作られたものだとしたら。

    [飯田博士が無言でノートPCのキーボードを打ち続ける。]

    パク・ジミン研究補佐: JP-1に対する有効策のアイディアが私にあるかと言うと、そうではありません。しかし、とある懸念が浮かんでいるんです。もし私が3055-JPの制作者なら、私は漢字の3055-JPを作ります。

    飯田博士: 漢字?

    パク・ジミン研究補佐: そうです。朝鮮語の漢字語ではありませんよ。3055-JP、つまり日本語における漢字の話です。なぜなら日本語における漢字が表意文字だからです。朝鮮語の漢字には原則として一つの読み方しかありませんが、日本語における漢字はそうではありません。アラビア数字を除けば現在使われている表意文字は恐らく漢字だけ。これは以前飯田博士ともお話させていただきましたね。

    飯田博士: そうですね。

    パク・ジミン研究補佐: 漢字は表意文字なので読みは個別に割り振られており、その数は時に膨大な数になります。有名なのは「生」です。常用漢字表に記載されている読み方だけでも、セイ、ショウ、い(きる)、い(かす)、い(ける)、う(まれる)、う(む)、お(う)、は(える)、は(やす)、き、なまと12種類あり、熟字訓、地名、人名なども含めると100以上の読み方があると聞きます。熟字訓とは複数の漢字を組み合わせた熟字になった時に発生する特殊な読み方のことですよね。生憎という漢字は「あいにく」と読みますが、これは「生」単体の読みにはなかった熟字訓特有の読み。つまり漢字には表音機能はなく、覚えるしかないということです。

    飯田博士: なるほど。

    パク・ジミン研究補佐: それはつまり「音素の包括範囲を断定しにくい」という特徴が、表音文字のそれよりも漢字になると数段跳ね上がるということにはならないでしょうか。

    [飯田博士が無言でノートPCのキーボードを打ち続ける。]

    パク・ジミン研究補佐: 表音文字が表す音はあくまで「似た音のグループを聞き手の感覚でまとめたもの」であり、つまりSCP-3055-JP-10が様々な爆発音をその発音の範囲として包含していることは高確率でありえますが、例えばSCP-3055-JP-7のような蝉の鳴き声に似た音を含んでいる可能性は比較的低いと考えられますよね。なぜなら音があまりに遠すぎるからです。

    飯田博士: なるほど。

    パク・ジミン研究補佐: では漢字はどうでしょうか?漢字はその発音の範囲に当たりを付けることすらできません。漢字には複数の読みがあり、そこに規則性など無いからです。無限と言っていい。3055-JPの異常性にこれほどうってつけの文字はない。3055-JPが人為的に作られたオブジェクトだったとしたら、このことに気付かないはずがあるでしょうか。漢字の3055-JPが存在するとしたら、異常性が露見しないほど軽微なものか、比較的近年誕生した字である可能性が高い。そして可能性として考えられるのは人によって──

    [飯田博士がパク・ジミン研究補佐の発言を遮る。]

    飯田博士: 面白い仮説だ。

    パク・ジミン研究補佐: ありがとうございます。

    飯田博士: お世辞ですよ。つまり、パク・ジミン研究補佐は3055-JPは誰かが悪意を持って作り、計画的に発生、拡散させていると仰りたいんですね。

    パク・ジミン研究補佐: はい。

    飯田博士: 日本人が?

    パク・ジミン研究補佐: 日本人には限りませんが、日本文化に精通した者だと考えています。

    飯田博士: いいですか、パク・ジミン研究補佐。あなたの考え方は危険です。SCPに我々人間と同じ道理や整合性を求めるのは、虫にそれを求めることより遥かに愚かです。

    パク・ジミン研究補佐: 私は深く3055-JPを理解し、より安全な収容を目指したいだけです。

    飯田博士: そうですか。日本のアダルトビデオを見ている暇があったら、一つでも多く目の前の業務を粛々と遂行してください。

    <抜粋終了>


    飯田博士の手記


    映像ログの再生を停止し、私はしばらく黙り込んでしまった。3055-JPは人為的に作られた?それは飛躍した妄想かもしれないが、それを裏付けるようにジミンが死に、テヒの元にCase:KOが現れた。そして、もう一つ最悪の予想が頭に浮かんだ。なぜこんな話をいなしてしまっていたのだろう。こんなこと考えたくもないが、もしかしたらすでに漢字の3055-JPがあるのではないか。例えそうだったとしても、それが実際に発音され、異常が発話者以外の人間に観測されるまでその存在が知れ渡ることはないのだ。それまで私たちは一つ一つの漢字を、それが3055-JPである可能性に怯えながら読まなければいけないのだろうか。


    2026年2月24日、サイト-████において飯田博士の遺体が発見されました。サイト-████に設置されていたカメラの映像記録によると飯田博士はメモ帳を手に取り、記載されていた「彁」の字を発話した直後に死亡したと思われます。飯田博士の遺体には軽度の鼻出血が認められましたが、直接の死因は不明です。映像記録からも開口以外の特徴的な所作や人体変形は確認されませんでした。「彁」をDクラス職員に発話させる実験を行いましたが、異常性を伴う調音は確認できませんでした。飯田博士の死亡事案が「彁」を発話したこと以外の要因に起因するものか、SCP-3055-JPの未発見の異常性によるものかは不明です。

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