Tale
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梅雨の早朝。すこし濁った宝石が、ぽつりぽつりと降りしきる音を聴いていた。ちいさな音楽鑑賞会を邪魔をするかのような、ぱりん、といやに耳に響く音で我に返る。足元には、皿の破片が花弁のように散っていた。

__何時間くらいこうしていたんだろう。何かを思い出そうとして、上を向いたとき。そこに、"彼"が張り付いていた。
いや、彼"だったもの"と言った方が正しいだろうか。綺麗だった顔立ちはぐちゃぐちゃに歪み、細い手足はあらぬ方向に捻れて絡まり、自慢の腹筋は裂け、おもちゃ箱みたいにぎゅうぎゅうに詰められた内蔵がはみ出ていた。
少々、いやだいぶ戸惑ったが、記憶を辿ると割とすぐに思い出せた。

罪の意識を、投げ捨てていたことに。


それからというもの、気づけば走り出していた。
何故だろう。人を殺した罪悪感?ずっと隠してたがバレてしまうのが怖いから?思考を巡らせてみたが、結局『新しい恋人が欲しい』が1番大きそうな自分が嫌になった辺りでやめた。
ふと思い返してみたが、私ってのはつくづく恋人に恵まれないやつだと思う。中学の頃付き合った男子は待ち合わせの時間を一度たりとも守らなかったし、高一で付き合った彼女は下半身でしか物事を考えられていなかった。そう考えると、ついさっき天井のシミになった彼は今迄よりか幾分もマシだった。私が願えばいつだってデートに連れて行ってくれたし、私好みのアクセサリーだって沢山買ってくれた。けど、脇道に落ちている煙草の吸殻には見向きもしない。そんな人間だった。

程なく、「自分はこれ以上"いい人"に出会えないのではないか」という不安が覆い被さった。事実、人を殺めてしまった私には行くあてもないし、なんとか隠し通せたところで、また恋人を作れるほどの顔も金も持ち合わせていないし。多分自殺したところで地獄に叩き落とされるのがオチだし、これからもぼんやりと生きていくのだろう。
というか、今迄どうやって恋人作ってきたんだろ。
昔は今よりか顔も良かったけど、年齢を重ねると共に化けの皮が剥がれて誰も近寄らなくなってきてたよな。
……あ、

雨は一層強まり、水溜まりに映るセカイは濁り切っていた。


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執筆者: sayu3
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最終更新: 13 Aug 2023 06:39
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