嘘、本当の愛、嘘
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私は自身がカオス・インサージェンシーのエージェントであることを隠し、財団に潜入した。このサイトを襲撃をするにあたって情報を把握することが目的だ。そして、情報の把握を円滑に進めるため、このサイトに勤務している博士に近づき、交際に持っていく。いわゆるハニートラップというやつだ。

まずは

彼に好意を持っていることを演じ、彼との交流を何度もした。彼の話からタイプな人の特徴などが分かり、「彼が好きそうな女」を演じた。

そのうち彼は私を好きになり、交際をすることになった。私がこのサイトに所属してから2ヶ月になった頃だ。予定よりかなり早い。

「好きだよ」などと嘘にまみれた愛を彼に垂れ流し、中身の無いスキンシップを取り続けた。彼が話すことは思っていなくとも肯定し、彼に好印象を抱かせる。ハニートラップの訓練をしてきたおかげで技法は概ね把握している。

そして遂にデートに行こう、と誘われた。私は''予定通り''承諾した。


私は素敵な雰囲気の街並みが見える道を歩いた。意外にも私の好みに合っていた。

「どう?結構いい場所でしょ?」

「うん、私もこういう場所好きなんだよね!」

「それは良かった。遊園地とか水族館とかのデートじゃなくて、こういう穏やかなデートがいいと思ったんだ。」

「君のそういうところ、好きだよ。」

「お前はすぐ好きとか言うんだから。」

その後、私達は色々なところに行った。

雑貨店でお互いにプレゼントする用の小物を買った。彼は洒落た小さなランプのようなものを選んだ。かなり好みだ。

服屋で似合う服を探してみたりした。彼は意外とファッションセンスがあるようで、私の服を選んでくれた。

アイスを買って2人で雑談をしながら食べたりした。二人とも話に熱中していて、既に40分経っていることを忘れてしまった。

とにかく時間内に色々な体験を詰め込んだ。

デートが終わる時間に近づくにつれ、憂いが私に渦巻いていることに気づいた。彼と私は敵同士。それなのにどうしてだろうか、この時間が終わって欲しくなかった。

そんな気持ちが、私の言動から嘘を取り除く。

「今日は楽しかった。またデート行こうね。」


私は嘘をついた。カオスの同僚に「本当にあいつのこと好きになっちゃダメだよ?」と冗談を言われ、「好きになるわけないよ。」と返した。

あのデートは、純粋に楽しかった。しかも、異性の人と遊ぶなんてことはあんまりしてこなかったから、なんだかときめきを感じた。彼は敵で私はスパイ。でも、そんなことなんて忘れていた。

私は嘘をついた。「彼のことなんて好きじゃない」と自分に嘘をつき、任務という建前に守られながら彼との交際を続けた。

交際を続けていくうちに彼の良さが段々と分かっていき、恋心を揺さぶられる。このままでは愛に呑み込まれるのは私の方だ。

…彼ともう一度、デートがしたい。


さっき、彼とこんな話をした。

「最近この仕事に疲れてきてるんだよね」

「大丈夫?」

「まあ大丈夫ではあるんだけど、たまに普通の日常に戻りたくて逃げちゃいたいって思うことがあるんだ」

「そうなんだ…無理しないでね」

「…」

「ねえ、僕と一緒に逃げない?」

あまりにも突然だった。

「退職するってこと?」

「いや、退職はしない。でもこの職場から逃げる。財団職員を辞める時は記憶処理をされて、君と一緒にいた時の思い出とかが無くなっちゃう。全部退屈なカバーストーリーに変わっちゃう。それだったら逃げた方がマシかなって思ったんだ。」

「…」

「もし僕と一緒に逃げたいと思ったのなら、明日の午後9時に倉庫に来て」

どうすればいいだろう。あまりにも唐突過ぎる。

逃げたい。彼と一緒にいたい。彼ともっとデートに行きたいし、おしゃべりしたい。私が逃げなければ、このサイトは襲撃されて彼は死ぬだろう。

私は、彼を手放したくない。

でも私にはカオスの仲間がいるのだ。仲を深めて、信頼されて、業務も一緒にこなした。思い出もある。しかも、せっかく財団に潜り込むことが出来て任務が達成されるのも時間の問題だ。ここで逃げては、私の全てが台無しになってしまう。

そんなこと、私には出来ない。

でも、どうしても、どうしても…

意外にも、答えを出すのに時間はかからなかった。


僕は嘘をついた。それはもう全てに。

彼女が好きなのも、告白したのも、全部全部嘘。

彼女がカオス・インサージェンシーのスパイだということは彼女とあって1ヶ月の時点でわかっていた。前々から不自然な動きが見られる事があり、バレないように所持物を調査したら、この有様だ。

普通ならすぐに密告しなければいけないはずだが、私はしなかった。まだこのサイトの情報は伝えていないので、その内にやってみたい事があったのだ。

「一緒に逃げようと言ったら彼女は逃げる選択を取るのか。」

一応私も彼女に好かれるために努力をした。もし私の努力が実っていたら、彼女は倉庫に来ているはずだ。

午後9時05分。銃を隠し持ちながら倉庫に到着した。扉を開ければ答え合わせだ。

金属の軋む音と共に扉を開ける。そこに彼女は―

いた。

「あっ博士!私…来ちゃった。」

「あの後考えたんだけど、どうしても貴方と一緒にいたく―」

バァン。

弾丸は正確に''敵勢力のスパイ''の額を貫いた。

どうやら嘘の吐き合いに関しては私が一枚上手だったようだ。












ただ…愛だけは、本当だった。


tale jp



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執筆者: tera99
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最終更新: 24 May 2023 12:43
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