SCP-XXXX-JP - 渋滞やむなし

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クレジット

タイトル: SCP-XXXX-JP - 渋滞やむなし
著者: miyo_t
作成年: 2022

プロトコル"年末行事"実施中の様子

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPのサンプル体として、サイト-8128にて10m四方・厚さ30cmのアスファルトを低脅威大型物品収容室にて保管します。SCP-XXXX-JP全個体の収容は現実的ではないため、一般社会への曝露の可能性がある場合には個別に対応・抹消します。

説明: SCP-XXXX-JPはアスファルト内部で自生し、竹(Bambuseae)とよく似た地下茎による繁殖を行う植物的性質を持つ無機生命体です。構成体はほとんどが炭素およびその化合物であり、生命活動を行わない姿は天然の岩石と非常に近似します。栄養源ならびに活動エネルギーは不明ですが、1年間におよそ3%の割合で成長します。強い嫌気性および嫌光性を持ち、棲家であるアスファルトが砕かれるなどで露出すると速やかに生命活動を停止します。日本国の交通用アスファルトのおよそ45%がSCP-XXXX-JPを内包していると試算されており、密度の低いものも含めるとほぼ全土にわたって存在を確認されています。

SCP-XXXX-JPは定期的に過剰成長を起こし、アスファルト内で瘤状に凝結します。これをSCP-XXXX-JP-aと呼称します。SCP-XXXX-JP-aが発生することでアスファルト表面が隆起し、過去最大では約60cmほどの盛り上がりを見せました。これによってSCP-XXXX-JPが一般社会に認知されてしまうことを防ぐための対策としてプロトコル"年末行事"が制定されています。

プロトコル"年末行事": SCP-XXXX-JP-a発生箇所にて深さ60cmまでアスファルトの掘削を行い、該当区域のSCP-XXXX-JPを含む土砂を収集します。収集されたSCP-XXXX-JPは最寄りの財団管轄区屋外保管地へと搬送され、36時間以上の空気中への露出を行い生命活動を終了させます。掘削跡地にはSCP-XXXX-JP由来ではない土砂的資源を用いて整地を行います。

SCP-XXXX-JP-a発生のメカニズムは完全には解明されていませんが、交通量の多い道路など振動・刺激が強い箇所での発生が多いこと、また11月下旬〜12月中旬が最も活発であることが判明しています。全国的な発生率からの統計データにより、おおよその発生箇所については把握されているため事前の準備が可能であり、一連の作業は「道路老朽化対策としての計画的工事」としてカバーされることが推奨されています。

回収されたSCP-XXXX-JPの死骸は年間およそ6000t¹を超えるため、資産・用地の観点からアスファルト構成材用の砕石・砂利として再利用することが認可されています。

補遺: サンプルの研究により、構造の一部に呪術的な刻印が確認されました。rituals databaseとの照合を行い、最も関連性が強いとみられたのは要注意団体"如月工務店"でした。

接触記録[2016/12/02]

接触記録[2016/12/02]: プロトコル"年末行事"を実行中、監督として現場を訪れていたエージェント・諸見に対して不明な人物からの接触がありました。諸見はマニュアルに従い付近住民のクレームを想定し対応を行いましたが、注視すべき情報が含まれていたため記録としてアーカイブします。以下はエージェント装備の記録装置ならびに現場付近の監視カメラ記録によって再現された接触の内容です。

[薄萌黄色のスーツを纏った人物がフレームインし、諸見に近づく。外見的印象は30代程度の男性]

男性: お仕事中に突然申し訳ありません。こちらの監督者様はいらっしゃいますでしょうか。

諸見: すみません、ここは部外者立ち入り禁止なのです。退出願えますか？

男性: 恐れ入ります。どうしてもお伝えしたいことがございまして。

諸見: ……私が責任者になります。何かご迷惑をお掛けしていますでしょうか。

男性: ああいえ、そういうわけではございません！ただ、ねぎらいと言いますか……

諸見: はあ。

男性: この季節、各地で作業をされておられますよね？

諸見: そうですね、生活の維持のためには必要なことでして。もちろん弊社だけですべてをまかなっているわけではないですが。

[男性は頷きながら、作業現場を見渡す]

男性: ええ、ええ。実に見事な手並と見うけています。

諸見: ありがとうございます。

男性: しかしながら、もし御社の手に余るようなことがありましたら、その時は是非お声がけをいただきたいのです。

[諸見は少し姿勢を崩し、訝しむ様子を見せる]

諸見: ……売り込み営業か何かですか？

男性: ははは、そんな大したものではありません。ただ我々にも一日の長がありますから。特にこういう……超常のものは。

[男性はそう言うと名刺を差し出す。鼻白んだ諸見が反射的に名刺を受け取るのを見ると踵を返しフレームアウトする]

回収された名刺は以下の内容が記載されていました。

(有)如月工務店
屋野江ヤノエ宗吽ソウゴウ

☎︎ 0901-000-0000-000

-

実験記録[2018/06/14]ならびに通話記録[2018/06/17]

実験記録[2018/06/14]: SCP-████の研究過程にて、一部の呪術構造に対して有効な反作用を持つ侵食型異常性喪失有機合成高分子の生成方法が確立され、いわゆる解呪方法としていくつかのオブジェクトに対する試験が実施されました。SCP-XXXX-JPにおいても有効性が期待されたため生命活動中・停止後の各実体に対して試験が実行され、以下のような結果となりました。

対象	結果
生命活動中(アスファルト内)のSCP-XXXX-JP	構造が変化し、強い粘性を持つ繊維状のタンパク質となった。自己複製を頻繁に行い、アスファルト内で容量を増やしたが外壁部を突破することはなかった。
生命活動停止後のSCP-XXXX-JP	上記と同じ反応を示した。アスファルトによる拘束がないため延々と自己複製を繰り返し、およそ3分で重量が倍になった。撮影用ドローンに対して意図的に絡めとるかのような動きを見せ粘着糸を空中に放ち、機器を取り込んだのちに繭状に丸め込みその内部において一部が腐蝕性の粘液へと変化した。火炎放射器による焼却を行い殲滅した。嫌気性・嫌光性の兆候なし。

SCP-XXXX-JPが発生させた腐蝕性粘液はハメット酸度係数基準でpH-21²の超酸であり、ほとんどの有機体を溶解しうる物質です。その危険性から追加の試験は承認されていませんが、動植物を捕食するための動作であると想定されています。侵食型異常性喪失有機合成高分子は普遍的なものではありませんが自然界に置いてごく少量生成される可能性があるため、本試験により判明した異常性によりSCP-XXXX-JPの危険度は劇的に上昇しました。

これらの結果を受けSCP-XXXX-JPに対する再検討会が発足され、その活動の一環として先の名刺がアーカイブより引用されエージェント・諸見による屋野江氏への連絡が試みられました。

通話記録[2018/06/17]:

[呼び出し音]

屋野江: ありがとうございます。屋野江です。

諸見: 2016年12月に道路工事現場にて名刺をいただきました、諸見と申します。

屋野江: ああ、あの時の。いかがいたしましたか。

諸見: ざっくばらんに話しましょう。あなた方が日本中に敷き詰めたアレは何なんですか。

屋野江: 実のところ、アレをまとめて排除する働きには大変感謝しています。我々も手を焼いていましたので。

諸見: 質問が悪かったですかね、なんでそんなものを埋めたんだって話です。

屋野江: 埋めたのは私たちではありません。

諸見: じゃあ誰がそんな悪事を働いたと？

屋野江: 感謝を込めてお教えしましょう。土蜘蛛です。

諸見: ——土蜘蛛？

屋野江: そうです。恭順せぬものの主、埋められた八十女、大江山最初の鬼、魔界の尖兵。まあ妖怪物の怪の類ですな。

諸見: 何を言って——

屋野江: それがどこから来たのかは私たちも存じません。いつからあるのかも。確かなことはそれは人の顔を持った巨大な蜘蛛で、地中深くに潜み、網にかかった生き物を引き摺り込んで生きながらえているということです。私たちがその存在に気づいた時、既に京の都の半分が餌食となっていました。しかし同時にそれはまだ浅層にいた。巌窟の奥へ進み、撃退することには成功したが——殲滅には至らなかった。

諸見: 『平家物語』か『土蜘蛛草紙』の話ですか？昔話には詳しくないので現実的な話ができると嬉しいのですが。

屋野江: その昔話が現在まで続いているんですよ。あなた方の知る世界ではそれは十分「現実的」でしょう？

諸見: ……そうであったとして、一体何の目的があるとお考えですか。

屋野江: 恐らくあれは執念の権化なのでしょう。より深くに潜んだ数百年の間もその黒い情熱は些かも衰えなかった。自らは捕捉されることなく、網はどこまでも広く……そしてそれらは遂に地表まで届きはじめた。

諸見: 網というのは、土蜘蛛の糸——つまりあの厄介なシロモノのことですね。

屋野江: ええ。一度人間社会に接したそれは、より効率的に餌を手に入れるため密集地を探り、そこで増殖するサイクルを繰り返すようになりました。そのまま自由にさせておけば各地で京都の二の舞が起こります。

諸見: ……あなた方はそれを阻止しようとしたと？

屋野江: 無限に広がる性質からひとところに留めることは不可能でした。広大な敷地があり、万が一の場合にも封じ込めるに適した場所……つまり、アスファルトを棲家とするようなものへと——まあ、少し硬くし過ぎてしまいましたが。

諸見: つまり、扱いやすい植物へと生まれ変える呪いだった、というわけですか。

屋野江: きさらぎとは「生更木」とも書きますので。

諸見: それは存じませんでした。ところで、もしも我々がその土蜘蛛を収容しようとした場合、御社の援助をいただけるという認識でいいのでしょうか？

屋野江: その時は、まずはお見積りを出させていただきますね。

[通話終了]

SCP-XXXX-JPの生産元であると考えられるSCP-XXXX-JP-bについては財団において実測された例がなく、その存在の真偽を検討中です。しかしながら、いくつかの調査記録並びに報告書から収集された情報により有事対応案件に定められており、オペレーション"蜘蛛切り"が立案段階にあります。

本作戦の実施にあたって重要なファクターとなる"共同事業者"は全幅の信頼を寄せるに値しない存在ではありますが、一定の信憑性を有していることも確かです。過去の亡霊の恨みを断ち切るため、不明にして不和の隣人と手を組む時がいずれ来るのかも知れません。—エージェント・諸見

Footnotes

1. 地上10階建、延面積3,000m2程度の建築物重量に相当します

2. 純粋な硫酸はpH-12

付与予定タグ: scp jp euclid 如月工務店

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ファイルページ: 夜間工事

ソース:
ライセンス: CC BY 4.0

タイトル: 夜間工事
著作権者: miyo_t
公開年: 2022
補足:
関東地方整備局 記者発表資料「令和２年度 優良工事等局長表彰について」(https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000809714.pdf )参考資料1-16に掲載の写真を加工して作成

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年末になると各所で見かける公共工事が実はSCP由来で……というオブジェクトです。単純なオブジェクト説明で始まって要注意団体でヒキを作って転回させて着地を目指しました。記事の中でcollapsibleさせたのは初めてなんですが、開かずに最後の部分を読んでもそれなりに意味が通っていて、開いてから読むとなるほどとなるような構成を狙いました。

初めてといえば要注意団体を扱ったのも初なので、不備があれば教えていただきたいです。あくまで自分の中での如月工務店のイメージですので……

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