猫飼いの匂わせは、対戦相手の敵意及び集中力を鈍らせるテクニックだ。昨今、猫を飼う人々は急激に増えておりスシブレーダーの間でも空前のキャットブームが起きている。猫飼いにとって他の猫飼いは言わば"同志"であり、可能であれば戦いたくない相手である。対戦相手が猫飼いであれば、自身が猫飼いであることを所作及び外見から匂わせることによって敵意を鈍らせることができるというわけだ。
もちろん、相手が飼っている生物に応じて匂わせる対象は"犬飼い"、"ハムスター飼い"、"ウサギ飼い"等にシフトすれば良いが、昨今の事情を鑑みれば、相手の情報が無い時にはとりあえず猫飼いを匂わせておくのがベターである。集中力を鈍らせる仕組みに関しては次項で触れる。
猫飼いの匂わせの基本テクニックは、"猫の毛のまぶし"だ。服に猫の毛を付着させることによって、相手に猫飼いであることをまず理解させる。猫飼いアピール自体はそれだけで完結するが、相手の敵意をさらに低減させ、集中力を鈍らせるためには工夫が必要である。私は服をスーツにし、身だしなみを整えることで清潔感のある人間を装うようにしている。猫の毛以外の身だしなみが完璧であるため、対戦相手は「ああ、朝家を出る直前に、猫に身体をスリスリされちゃったのかな」等と勝手に想像を膨らませることとなる。この際、猫の毛はある程度コロコロで減らし、「頑張ってきれいにしようとしたが時間が無くて取り残してしまった感」を出すと効果は増すし、コロコロの毛は増える。相手に無駄な想像をさせることで、猫飼いの匂わせは集中力を削る矛となるのである。応用テクニックとして他に"猫の爪の落とし"、"鰹節(減塩)の忍ばせ"等が存在する。
猫飼いの匂わせにあたり、使用するスシは当然猫飼いを彷彿とさせるものでなければならない。最近私がスシとして使用しているのは柄から外した粘着カーペットクリーナー、俗に言うコロコロだ。コロコロは日常的にカーペット等の掃除に使用し、毛が付着したものをそのまま使用する。毛だらけになったコロコロはその溢れ出る生活感によって猫飼いを我が家のリビングへと誘い、愛猫との甘いひと時をも体験させる精神浸食作用を持ったスシなのだ。なおスシブレードとしては弱い。
相手の情報に応じた上級テクニックは色々だが、私が得意としているのは"猫の尻敷かれの匂わせ"である。猫に引っ掻かれたり、噛まれたりといった外傷を絆創膏によってアピールするテクニックだが、暴力的な猫を飼っていれば自然と成立する。参考までに、我が家で月に消費される絆創膏は100枚を超える。私は幾度となく愛猫に皮膚を貫かれ、その肉を抉られているのだ。
"猫の尻敷かれの匂わせ"のような上級テクニックは、その手間に比例して絶大な効果を生む。これまで私が"猫の尻敷かれの匂わせ"を披露した際には、対戦後50%の確率で対戦相手とLINE友達になっている。上級テクニックは実際に対象の生物達と暮らしていなければリアリティーを出す事ができない難易度の高い技であるため、沢山の生物達と共に暮らすことを強くおすすめする。なお、私は猫、犬、ハムスター、カブトムシ、ピラルク、チャボ、ウコッケイと共に生活している。皆可愛いので、写真を見たい方は遠慮なく連絡して欲しい。
エピソード
私はこの"猫飼いの匂わせ"や"犬飼いの匂わせ"を使い、様々なスシブレーダーと友人になってきたが、相容れない者も存在したためエピソードに記す。
当時、私は友人達から「お前と似た技を使う者がいる」と耳にし、「なるほど、友達になれるかもしれない」と思って人づてに対戦を申し込んだ。お互いの情報が少ない中、当然相手は犬飼いか猫飼いを匂わせてくるだろうと踏んでいた。
ところが、その日現れた人間の様子は明らかにそのどちらでもなかった。奴は白っぽいストッキングのようなものを頭に付け、鬼のような形相で「よろひく」と言った。その時の私の混乱を、皆さんも理解してくれるだろう。「こいつは何を匂わせているんだ、強盗か?」と最初は考えた。しかし、強盗を装ったところで戦略上の優位には立てないことなど自明である。そこで私は、奴の腕を注視した。絆創膏や傷口の有無を探るためだ。
そこで私は戦慄した。奴の腕は大きな痣と注射痕まみれだったのだ。こういった場合、"難病"パターンと、"ヤク中"パターンがある。スシブレード勝負で同情を買えるのは"難病"だが、ではあのストッキングのようなものは何か。頭のおかしなことをして"ヤク中"を匂わせている可能性の方が高いだろうと私は考えたが、確証が足りない。
私: あんた、寿司を出してみろよ。
これで全てがはっきりする。もし"ヤク中"パターンで中南米の植物が出てきたら即刻親方に報告して破門してもらえばいいし、"難病"パターンで点滴を回し始めたら即刻119番して搬送してもらえばいい。私はコロコロを構え、様子を伺う。相手はこっくりと頷き、縦笛のようなものを取り出した。
縦笛。何を匂わせているんだと固唾を飲んでいると、奴はそれを口に当て、吹き始めた。日本では聞かない、珍しいリズムの音色に、私はますます混乱する。"ヤク中"パターンか、と考えた矢先、奴の胸元から何かが飛び出してきた。
ヘビはドーナッツのような円形になり、回転しながら「シャ、シャ、シャ、シャイシャッシャイ(恐らく3、2、1、へいらっしゃいの意)」と声を出し、私に迫ってくる。私は反射的にコロコロを射出したが、ヘビはそれをひょいと躱し、輪の中に捕まえてしまった。コロコロはヘビのボディーに繰り返し衝突していたが、円筒型なので攻撃力に乏しく、全く効いていない。
私は、果たして目の前の男が"ヘビ使いの匂わせ"をどのように行っていたのかを思案した。奴の頭を圧迫しているストッキングのようなものをよく見ると、ウロコのようなものが見て取れた。あれはストッキングではなく、ヘビが脱皮した後の皮ではないか。……どうして被った?ヘビ使いにはそういう文化があるのか。それでは、腕にある痣と注射痕はどうだろう。痣が大きいのは巻き付かれて絞め上げられたものだからだろう。注射痕は血清注射によるものではないだろうか。つまりこのヘビは毒ヘビ……
私は、この勝負の後に起こることに恐れをなした。ヘビはその半径を縮め、コロコロを追い詰めながら私の方をギロリ、と睨んでいる。「次はお前だ」と目で言っているのだ。
突如きたした死の恐怖に、私は自分が何をしているのかも分からないまま、袖口に仕込んでいた猫の爪をフィールドに向かって投げ込んだ。フィールドに届いた爪はコロコロに巻き込まれ、攻撃力の無かったコロコロをまるでスパイクタイヤのように変貌させた。その状態のコロコロと一度接触した途端にヘビはホップして逃れ、回転しながらコロコロから離れる。
ヘビ使い: どうした! とどめを刺せ!
ヘビ: シュー。
ヘビは明らかにコロコロを恐れている。まるで天敵と出会ったかのよう……いや、そうか。猫はそもそもヘビの天敵だ。古代エジプトの人々は猫によって猛毒を持つコブラから守られていたという。今のコロコロは愛猫の毛と爪だらけ。このヘビには、目の前で回転するコロコロは爪を剥き出しにして暴れる天敵に見えているのだ。やがてヘビはその回転を止め、地面に伏せる。
ヘビ使い: このクソヘビ! 何のために血清なんて用意したと思ってやがる! 何のためにこんな皮被ってると思ってやがる!
私: それは本当に何のために被ってるんだ。
ヘビ使い: クソ! 覚えとけよ!
ヘビ使いは頭に被っていた皮をかなり苦労しながら外し、ヘビを置いて逃げ去ってしまった。その場に残ったのは私とヘビとコロコロだけ。私は無抵抗のヘビを捕まえ、すぐに動物病院へと向かった。
結局、ヘビに大きな怪我は無く、現在は私と共に暮らしてくれている。この対戦相手のように共に暮らす友人を置いて逃げ出すような輩には、本ファイルで紹介した"匂わせ"を使う資格はない。なお、愛猫のエドワードが仕切りを破壊し、ヘビをパンチする事件が頻発しているためこのヘビの里親を募集する。とても頭が良く、スシブレードとしても優秀な子だ。皆様からのご連絡をお待ちする。
関連資料
猫の飼い方・しつけ方(群馬県)
猫を飼う上で前提となる注意点がまとめられている。あなたも猫飼いにならないか?
ヘビ - Wikipedia
ヘビに関する情報がまとめられている。飼育に関しても触れられているため、里親になるか迷っている諸君にもご一読願いたい。とても可愛い子だ。きっと好きになるだろう。愛猫、エドワードのヘビを見る目が尋常ではない。パンチでは済まなくなる気配があるので早く引き取ってあげてくれ。
追記: 闇親方から連絡が来た。闇寿司に"エドワード三世"を名乗る猫が入門したらしい。使用しているのは緑色のヘビ。ファミリーネームが猫飼でミドルネームが弁慶。どう考えても我が家のエドワードだ。闇親方は"猫の猫被り"に騙され、入門を認めてしまったようだが……そもそもどうやって外に?
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拝読しました。現時点でもUVします。猫飼いをにおわせて敵意を奪うという方法は思いつきやすいものですが、多種多様な視点やエピソードを使ってうまく闇寿司の雰囲気に落とし込めていると思いました。個人的には、もっと書いている人が自分の猫を愛していることを地の文中に入れたほうがもっと語り手の性格や人となりが分かりやすくなると思います。懸念点としては、スシブレードバトルに使うスシではなくどっちかというとスシブレードバトルで使えるテクニックなので、どうして闇寿司ファイルに書くんだと突っ込まれてしまうかもしれません。以下、細かい気になった点を書きます。
模式図の愛猫の写真の目つきが悪いので、もっとかわいくさせたほうがいいと思います。
肉寿司が明らかに食べ物ではない、という風に初読の時に読み間違えたので、2文に分けたほうがいいと思います。
ありがとうございます。書いた人間の愛を描写にもっと入れていきたいと思います。
"ジーコ"のような寿司マシーンも闇寿司ファイルとなっているためテクニックでも大丈夫だろうという思考でしたが、闇寿司への知見が深い方にもご意見を伺ってみようと思います。
写真はいい感じの顔に差し替えます。
ご提示になった部分に関しても、2文に分けようと思います。
ご批評ありがとうございました!
拝読致しました。
リビジョン70時点での批評です。
脱皮した抜け殻は基本的に半透明な物、色がついていたとしても"薄い緑色"と表現した方が良さそうです。検索して画像を見たりして表現を考えてみるのも良いと思います。
ここまで感情移入しているなら子とか結構親しみを持って呼ぶ方が自然かもしれません
非常に面白くUVです。予想外のオチかつ本文を読んでいて楽しい面白さがあって良かったです。(減塩)のシュールさが好きです。
記事作成頑張ってください。
ありがとうございます。二箇所とも直そうと思います!
良いと思います。特に私が好きなのはエピソード節以降の展開です。相容れない者もいたという情報の開示で読者に「おや?」と思わせ、ヤク中認定でフフッとさせ、興味を持たせた上でデカデカとしたヘビの写真でインパクトを与える構造になっていると思います。結末でヘビの可愛らしい一面が描かれていたり、あるいは執筆者がヘビのことをきちんと考えているのが読み取れるようになっていたりと、そのあたりのケアも好印象です。猫のピッチャーについてはリンクを踏むまで存じ上げませんでしたが、知らないからといって特別DV要因になるとは思いませんでした。UVします。
その一方で、2点ほど気になる点があります。1つはスシブレードバトルにおいて場外から物を投げつけてスシを増強するのは反則行為ではないのか?という点です。衣類や傷による集中力の攪乱は盤外戦術としてあり得る範疇だと思いますが、外部からスシへの干渉が許容範囲なのか疑問に思いました(直にヘビに爪を投げつけたわけではないのでそれよりはクリーンだと思いますが)。もし反則行為ならば、ヘビのスシブレーダーに対する道徳的批判もやや箔が落ちます。なお私は闇寿司作品をそんなに読み込んでいるわけではないので、そうした行動を是とした作品は既にあるのかもしれません。こうした行為が反則でないか、反則であっても闇寿司自身がその辺に無頓着な団体であるならば、問題なく呑み込めるかもしれません。
もう1つは仕方のないことではありますが、序盤です。私自身猫派でないこともあってか、序盤(とりわけ概論節)は中盤~終盤に比べて特に強く興味を惹かれませんでした。特に2022年のエイプリルフールイベント参加作をはじめネコを題材にした作品は数多く存在するため、冒頭部では正直なところ「ああ~またネコ可愛い系のネタか……」とポジティブでない印象を覚えました。その印象は中盤のヘビやその絡みで大方払拭されましたし、展開やオチおよびやりたいこととの都合上ここを変えるのは現実的でないとは思うのですが、ネコの先行作品を踏まえると盛り上がりがスロースターターな作品として受け取られうることは頭の片隅に入れておくと良いように思いました。
ご批評ありがとうございます!
反則行為か否か?という点につきましては、例えば1998世界線のように、完全にスポーツ化した世界線であれば反則行為と定義されるかもしれません。しかし、私が書くにあたって読んだ記事群においては反則と定義されておらず、また反則行為であったとしても闇寿司ならそれを破ることを一切厭わないと考えます。(そもそも闇寿司はスシブレード界のルールから逸脱して強さを求める人々だと思いますので。)
前半部に関しては、流れを崩さないままコンパクトにできないものか考えてみようと思います。
執筆お疲れ様です。闇寿司並びにスシブレードにはずぶの素人なのですが、楽しんで拝読させていただきました。
些細な点で気になったのですが、
ハンバーグって材料にタマネギ使ってませんでしたっけ。ネコに与えていいものなんでしょうか。
Aquila non capitat muscas.
ありがとうございます。火が通っているので猫はそもそも食べないのと、寿司のハンバーグに玉ねぎを入れないだろうという考えでした。ビーフ100%、等の表記を入れるか検討してみます。