たにんごと

現在このページの批評は中断しています。

評価: 0+x
blank.png

しがないオカルトライターである俺のところに、一通の手紙が届いた。封筒には丁寧な字で俺の名前と、「体験談」とだけ書かれていた。
中に入っていた便箋は寸分の狂いもなく三つ折りにされており、差出人の丁寧な性格がうかがい知れた。

今の時代、基本的に情報提供はネットが多い。Twitterもそうだし、俺の場合は個人サイトからのタレコミも多い。手紙を送ってくるなんて珍しかった。



『突然のお手紙失礼します。これは私の体験談です。話自体は怖くはないかもしれませんが、同じ体験をすることがあれば、怖さが伝わるかと思います。』



怖くないなら送ってくるなよと悪態をついたが、もしかしたら掘り出し物のネタかもしれない。仕方ない、しっかり読んでおくか。そう考えて手紙を読み始めた。


まず最初に、謝らなければならないことがあります。この話を『体験談』と称することは少し間違いかもしれません。なぜならこれは今も、この手紙を書いている今も体験している出来事だからです。

その点をお断りして本題に入りたいと思います。私には霊感の有る友人がいます。私にはそういった力はなく、オカルティックなことにも興味はありませんでしたので詳しくは知りませんでしたが、かなり力が強いらしく、日頃から色々なものを視たり、感じたりしていました。

ある日のことです。私とその友人は一緒に遊びに出かけていました。街中のデパートでお買い物をして、カフェで休憩中でした。そこで、友人が急にこんなことを言ってきました。

「視えない人ってさ、霊とかそういったものをどこか他人事だと思ってるよね。」

そりゃそうでしょう、視えないんだもの。それに、他人事だと思いたいんだよ。だってそれが自分にも関係してくるって考えたら怖いじゃない。そう私が返すと、友人はニヤニヤしながらこう返してきました。

「そんなもんか。でも、他人事じゃないんだよね。皆視えないだけで感じてはいるんだよ。ほら、あそこ。」

友人が指差す先は、下の階の人でごった返す通路でした。私が不思議そうな顔をしているのを見て、友人は説明を加えてくれました。

「ほら、人混みの真ん中。なんか気になるところない?」

そう言われて人混みの真ん中に目を凝らすと、一点だけ気になるところがあります。何故か、人ひとり分だけ不自然に空間が開いているのです。特に障害物があるとか、床が汚れているとか、それらしい理由があるわけではないのに、そこだけ不自然なほど、誰も通らない。
しかも、皆何かがそこにいるかのように避けていくんです。
まるで人とぶつかるのを避けるように体を逸らしたり、進む方向をずらしたり。それに気づくと、今まで気にも留めなかったその場所が不気味でたまらなくなりました。

「私にはあそこに何がいるのかは視えるけど、きっとああやって避けてる人たちの多くはそうじゃない。本能的に何かがいるんだって感じてるんだろうね。あなたも気づいていないだけで何回も避けてたよ。ほら、他人事じゃないでしょ?」

何がいるのかは気になりましたが、それを聞いて、嫌な気持ちになるのは見え透いていたので、聞くことはしませんでした。その日はそれで終わりでした。

問題は次の日からでした。ずっと気になってしまうようになったんです。街中の人混みで不自然に空いたスペース。飲食店で、それなりに混んでいるのに誰も座らない席。家で、何となく通らない場所。

教えられる前までは気づかなかったはずです。けれど、今ではどうしても、「そこに何かいる」という考えがぬぐえなくなってしまいました。

特段害があるわけではありません。何か視えたり、聞こえたりするわけでもありません。
ただ、「そこに何かいる」と感じるだけ、それだけなのです。

もちろんそれはこちらの考えすぎかもしれませんし、友人の悪戯でついたでまかせかもしれません。
ですが、私にはそれが十分な真実になってしまったのです。元が出鱈目であろうと本当であろうともう関係ありません。

この手紙を書いている今も、喫茶店の外ではたくさんの人が歩いています。ある一点を避けるようにして。

以上で私の話はお終いです。読みづらい点があったかもしれません、申し訳ありません。

これからも活躍をお祈りしております。


「うぅ―ん……。」

一応最後まで目は通したが、正直ネタにはならないな。字も奇麗で文章も丁寧だったけれど、話自体が怖くないんじゃどうしようもない。手紙を丸めてごみ箱に捨て、家に帰ることにした。

手紙を読んだ次の日、俺は何故か昨日の手紙の内容が気になって、それが本当かどうか確かめることにした。
手紙に書いてあったデパートに出向き、通路を上から見下ろす。どこだよ、不自然なスペースなんてないじゃないか。どこもかしこも人だらけで  

「あっ……。」

……あった。人混みの中、一人分のスペースだけが不自然に空いている。皆そこを避けて、何も気づかずに進んでいく。

異様な光景だった。なんで誰もこれに気づかないんだ?なんで誰もそこを通ろうとしないんだ?

「……。気のせい、だよな。」

長々と見続けていたら気分が悪くなりそうだったから、そのデパートからは早々に離れた。

気分を戻すためにパチンコ店に入る。イライラした時、気分が悪くなった時、何かあればここだ。ジャラジャラとぶつかり合う金属の音と、爆音のBGMを聞きながら打っていれば大概のことなんて忘れている。たまに忘れてはいけないことまで忘れるのはご愛敬だ。

「今日はどの台にしようかなっと。」

店内は混みあっていて、人気の台は既に埋まりきっている。この店は駅前にあるからいつも混んでるんだよな。

その時、ふと一つの空席が目についた。今一番人気のある種類の台が一つだけ空席になっている。普段ならその台は朝から晩まで誰かが座っていて、珍しく空いたとしてもすぐに埋まるのに。今日は俺が気づいた時から既に2分近くたっても誰も座らない。まるで、気づいていないかのように。そもそもなんで俺はすぐに座りに行かないんだ?いつもならラッキーだとそそくさと座るのに。

いや、違うのか?もしかしたら、今までもあの席は空いていたのか?俺が気づいていなかっただけで、ずっとそこには何かがいた?そして今も。

ダメだ。気にしないようにと思っても考えてしまう。とりあえずパチ屋からは出よう。真っすぐ家に帰って、酒でも飲もう。俺は出来るだけ周りを見ないように家に帰った。

その日から俺の生活は変わった。どこに行っても目についてしまう。何かがいるであろう場所が。俺の気が狂っただけかもしれない。作り話を気にしすぎだろうと笑われるかもしれない。それでも気になってしまうのだ。何かがいるのだと感じてしまうのだ。

確かあの手紙には、『体験すると怖さが分かる』と書いていた。確かに今ならその恐怖が分かる。

これが何なのか、本当にこちらに害はないのか、おかしいのは気づいているこちらなのか、気づいていない大勢なのか。

全てが怖く感じてしまう。何も、信じられなくなる。

お陰で人混みや混んでいる店に行きにくくなってしまったし、何よりも、自分の家も寛げる場所ではなくなってしまった。

目を覚ます。水を飲みに台所に行く。あぁ、今日もだ。今日も無意識に避けている。台所に行くまでの短い通路、何か置いているわけでもない、床に問題があるわけでもない。でも、何かを避けるように自分の体は左によれた。まるで人と肩がぶつからない様にするみたいに。

きっといるんだ、何かそこに。

それに気づいたらもう気になって仕方ない、くつろげるはずもない。

こんなことになったのはあの手紙のせいだ。送り主に文句でも言いたかったが、手紙は捨ててしまったのでどうしようもない。

それよりも、何も知らずにのうのうと生きている奴らに腹が立つ。そこに何かいるということは無意識に感じているのに、こうした不安も恐怖も知らずに、他人事だと考えて過ごしている奴らに。

あぁ、いい案を思いついた。俺も手紙の主のように、誰かにこの話しを伝えればいいんだ。幸運なことに俺はオカルトライターなんだ、書く場所なんてたくさんある。それに今の時代、ネットにだっていっぱい怖い話を書くサイトだってあるんだ。

タイトルはそうだな……他人事、いや、たにんごとにしよう。

久々にいい気分になった俺は、勢いのままキーボードをカタカタとたたき出す。
そんな俺を見て、廊下にいるだけの何かも笑っているような気がした。

付与予定タグ: tale jp 依談



    • _


    コメント投稿フォームへ

    新たなコメントを追加

    批評コメントTopへ

ERROR

The Xthought's portal does not exist.


エラー: Xthoughtのportalページが存在しません。利用ガイドを参照し、portalページを作成してください。


利用ガイド

  1. portal:8267802 ( 23 Sep 2022 02:44 )
layoutsupporter.png
特に明記しない限り、このページのコンテンツは次のライセンスの下にあります: Creative Commons Attribution-ShareAlike 3.0 License