Tale-JP 夢欲

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「おい、お前!ここの書類のミスはどういうことだ?!いつもいつもミスしてばかり。なんで直らないのよ?」
これからクリスマスへと差し掛かる12月の静かな朝、そんな中私はその静けさをたった1つ40過ぎの女の鈴木と名乗る上司の怒声によって打ち壊された。

「は、はい……。細心の注意は払っていますが打ち間違えてしまって……。次からミスしないようにします……。」

「次、次、次、次!お前はいつになった同じミスをしなくなるんだ?いい加減にして頂戴!わかったなら」さっさとこの書類全部、今日中にやっておきなさい。」

 指刺された沢山の書類が積み上がった塊を持ち、そのまま自席へとよろよろと千鳥足で向かう。途中先輩から「手伝ってやろうか?」と声をかけてもらうも「これは私のお仕事なので大丈夫です!」と威勢良く答えた。そう威勢だけは良く答えられた。本当は手伝って欲しい。だがそうは問屋が卸さない。ここから後ろにちょっと離れたところに上司がいたのだ。さっきのほんの少しの会話でさえ聞かれていて、なおかつこちらを睨んでいる。ここの部屋はそこそこ広い。そのため部屋の端から端はかなり離れているしちょうど今の時期は仕事が忙しく、周りが騒がしいため聞こえないと思っていた。けれども上司の机からそう離れていなく、会話を聞かれていたようだった。そのため私は気づいてないふりをしながら自分の席に戻ることを無理やり要求された様なことと同じ。
 その頃、声をかけてくれた束野先輩は私に断られたことが原因なのか少し落ち込んでるように見受けられた。私は大学を卒業して新卒でこの今の会社に入社し、今に至っている。私は高校入学とほぼ同時期に両親を亡くし、その後は親戚もいなかったため児童保護施設に身を置くこととなった。施設に入ってからは勉強と学費などを賄うためにバイト漬けの生活であり、施設にいるからなのか周りからは冷ややかな目なり哀しみの目で見続けられた学校生活を送ってた。だから引っ込み思案や内向的…….なんて良く周りから言われる。だけど束野先輩は私とは真逆で誰にも話しかけることができて、誰にも優しくできる非の打ち所がない人。ここに勤めてる束野先輩より年下の後輩達ほぼ全員が尊敬するほど。勿論、私も尊敬している1人なのである。流石にさっきのは申し訳ないと思いお昼休憩の時間に缶コーヒーの一本や日本を奢ろうと考えながらデスクの前にある椅子へと座る。
 デスクの上にはいつ飲んだかわからないエナジードリンクと今持ってきたもの以外の高さ50cmの書類の山がパソコンの液晶画面とキーボードで狭いところをさらに圧迫させている。新たに持ってきた書類を上に乗せ、青白い光を放つ液晶画面を見つめる。重い瞼を擦り、眠気と一進一退の攻防を行われる。ここ最近は繁忙期ということもあって中々仕事が終わらない。そのため社内はキーボードの音と足音が忙しなく聞こえてくる。1番繁忙期ということもあってか色々な人、主に上の役職の人達はピリピリとした空気を常に発している。そしてそれと同じくらいパワハラ、セクハラも横行する。いや、パワハラやセクハラは年中行われている。実際私も入社してすぐの頃に飲み会の後にホテルへと連れ込まれたことがある。私はその1回で済んだのが幸いで、酷い子だと何度も被害にあい、心身共にやられて辞めるなんてこともある。別に女性に限らず男性でも喰い散らかし、好き放題人をもて遊ぶ最悪な場所だった。私はここに入る前はとても輝いて見えていたが、今では真っ黒くくすんでいる、そんな風に感じられた。
 私はちょっとした不満と怒りの気持ちを抱えながらもぼーんやりとキーボードで文字を打ち込む。カタカタとなる単調なキーボードの音が強烈な眠気を再び呼び起こす。瞼がピクッピクッと細やかに抵抗をするが、悲しいかな段々と瞼が自然と降りてくる。前はほとんど見えず、キーボードを打つ手瞼が降りてくるのと連動して止まってくる。首が前後に激しく揺れ始め、もうダメと諦める選択が頭に広がる。消え失せていく意識の中、どこからか鈴木上司の声が頭に響く。響くもの1つ1つが心の底からイラつくものであり、今までされたハラスメント全てが想起されていく。
 クソックソックソッと心の中から湧き上がってくる。そうすると自然と眠気も引いて来た。これはチャンスだと思った瞬間、後ろから3、4回背中を叩かれた。ハッ!と叩かれた先を見ると先輩が気まずそうにこちらを見ていた。不思議に思いちょっとだけ周りを見ると他の人も気まずそうにこちらをチラチラと覗いていた。周りの様子からも何があったようなのだが上手く状況を飲み込めない。すると先輩が
「大丈夫?何度もクソックソッって連呼してたけど。」と言われた。あまりに衝撃なことだったので、眠気から覚めたばかりの脳がフル回転するが何も理解が出来なかった。
「私がクソックソッと連呼……」
理解が追いつかない脳に1つ心当たりな事を思い出した。それはさっき眠気が覚める時に心の中で「クソックソッ」と言ったことだった。私は思い出すなり「あっ!」と大きく漏らすと同時に体全体の体温が上がったことがわかった。あの時心の中だけでなく無意識に口ずさんでいたのだ。 あまりの驚きに頭の中が真っ白になり、ただただ先輩と周りからの冷たい視線を浴びるだけなってしまった。
 「大丈夫?大丈夫?」と先輩は私を心配する声を出すが私の脳には遅れてやってくる。上手く誤魔化そうにも何も思い浮かばない。先輩の顔も怪訝な表情を浮かべている。それと同時に体も段々火照っていってるし汗も出てきた。周りにはさっきよりも人が増えて恥ずかしくなってくる。
「い、いや……な、何でもないですよ?多分先輩の空耳ですよ……。」
とっさに出た言い訳でなんとか乗り切りたいが、余りにも不自然過ぎる。かなり派手に聞こえていたようなので認める覚悟が徐々に形成していく。
「あ〜空耳だったのね。ごめんね、追い詰めた感じにしちゃって。」
先輩から出たのは紛れも無い謝罪だった。ぽかーんと先輩を見つめていると先輩はすぐさま自席へと戻る。私はしばらく何も無い壁を見続けることしか出来なかった。
 あの恥ずかしい事から数時間が経ち、周りの人達が続々と席を立って、皆それぞれの昼食をカバンから出していた。私も遅れまいと急いで仕事を終わらし、すぐ束野先輩の元へと向かう。朝の1件でとても申し訳なく思い先輩にコーヒーを奢りに行く。先輩と私の席はそこまで離れてない。先輩は席に座り弁当箱をちょうど開けたところだった。
「先輩!ついて来てください!」
私は突拍子に口走ってしまった。「あっ。」と言葉が零れたのも束の間、先輩は元気よく「いいよ!」と答え駆け足でこちらに向かってくる。私は追いつかれまいと自動販売機のある1階エントランスに行くためのエレベーターへと走る。この建物は10階建てであり、1階のエントランスにしか自動販売機は設置されていない。私達が居るのは5階であり、通勤帰宅時はいつもエレベーターを使ってる。
 私達のオフィスからエレベーターホールまで100m弱程の距離があり、急がないとエレベーターが外に食べに行くサラリーマン達で混んでしまう。私達がエレベーターホールへと差し掛かった時にはちょうど混み始めてた。行列こそできて無いもの、エレベーター内は寿司詰め状態だった。次来るまでにしばらく時間があり、幸いにも列の前から2、3番目後ろに並べた。後ろの方にはもう既に人が集まって列が長くなっていく。ハァハァと息が切れて音が漏れ出る。逆に先輩は息が切れてすらいなくまだまだ走れる雰囲気だった。

「先輩はぁ……なんで……息……切れて…はぁ……無いんですか……?」

「いやぁそりゃあ」
 あの出来事から何時間経っただろうか。あれからというもの貴重な10分をドブに捨ててしまい仕事が終わらせるのに時間が多少延びてしまった。まだ終わる時間が延びただけなら良かったものの、あの時の先輩の行動があまりに不思議であったため思うように仕事に集中出来なかったのもある。とはいえ後数十文字打てば仕事が終わる。それを考えただけ心が踊る。キーボードを打つ音が速く、強くなる。だからなのか指1本1本に打つ度に弱い痛みが伝わってくる。今なら誰にもタイピングでは負けない自信が心の奥底から込み上げる。そして勢い良くエンターキーを押す。パチン!と勢い良く鳴った瞬間、とてつもない幸福感が私を包むはずだった。
 チラリと横を見るとまだまだ書類が積み上がっている。山の下にあるファイルから書類を取り出しまたキーボードを打つのを始める。日付は今から3日前のもので提出期限は後2日しかない。幸いにもすぐ終わる内容なので良かったが、もしこれが終わらない内容と考えたらと思うと背筋が凍る。

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執筆者: MARIRUDOKURUKURU
文字数: 3932
リビジョン数: 265
批評コメント: 4

最終更新: 13 Nov 2023 03:23
最終コメント: 13 Sep 2023 11:24 by MARIRUDOKURUKURU

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