クレジット
タイトル: そこでオエッとね
著者: da_suke135
作成年: 2022
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体育の時間中、級友の小堀が吐いた。2500m走が終わり、ふらふらしながら歩き急にドスンと座ったかと思えば。
えずき声も出さずにぴちゃぴちゃっと吐きだした。黄味がかったそれは酸っぱい匂いを放つ。僕は蟻の行列ができる様をただ見ているだけだった。
小堀は僕と違って成績優秀。背も高くどんなスポーツもなんのその。顔も……不細工というわけではない。誰にでも明るく接し、クラスのみんなの人気者。かくいう俺も小堀には羨望の念を抱いていた。だからこそ、そんな小堀が吐いて弱ってる姿はすごく印象的だった。
もう十年近く経った今でも、テレビや漫画で吐く描写があると小堀のあの情景がちらつく。普段はキャーキャー言いながら媚びを売る女子達のひきつった顔。お前が助けてやれよと言わんばかりに目配せするクラスメイト。グラウンドに染みていく吐物。
話は変わるが、僕には結婚を前提に付き合ってる彼女がいる。これまた僕には不釣り合いな綺麗な人だ。気遣いも最高で、笑った顔は多分世界一可愛いと思う。そんな彼女と今日は4回目のデートだ。といっても、あらかじめ練っていたデートプランはとっくに崩壊している。落ち着け。下見はしたはず。今日こそいいとこをみせるんだ。

ここは…展望台?ここら一帯は念入りに調べたはずだがこんないい場所があったなんて知らなかったな。自分のサーチ力をする。まあ彼女も綺麗だと喜んでるし別にいいか。しかし僕達以外人がいないのが気になる。こんな綺麗な景色ならもう1組くらいカップルがいておかしくないのに。何はともあれいい雰囲気にはなった。この流れでキスとかできるんじゃないだろうか、と彼女の方を向くと。
屈んでいた。置物のように。具合が悪いのか?心配の言葉が喉を出る前に。
びちゃびちゃびちゃっ。
この音。この匂い。10年ぶりの感覚だ。彼女の右手は抑えようとしていたのか吐物に塗れている。顔色もひどい。とにかく救急車を呼ばなければ。救急車を呼んでいる間もぴちゃっぴちゃっと手から垂れる音がループしていた。
電話が終わった。病院へは彼女の家族が向かうから僕は同乗しなくていいらしい。ぶちまけられたアレに近づく。救急隊員の人が処理してくれるのだろうか。普通こんなものには目も向けたくないだろう。でも不思議と嫌悪感は抱かない。いや、むしろこれが処理されてしまうことに少しの勿体なさを覚えた。好きな人のだとどんなものでも平気に感じるんだろうか。救急隊員の人が処理してくれるのだろうか。
しないでほしいな。
愛している人が出したものなんだ。他人なんかに触らせたくない。僕が片付ける…てのも変か。
あれこれ考えていると遠くのほうで赤い光が見えた。救急車のサイレンだ。僕はそれを聴いて咄嗟に持っていたハンカチで撒き散らされた吐物を一掴みし包む。なんでそうしたのか分からない。彼女が搬送されるまで僕のポケットには彼女
近くの公衆トイレに駆け込む。心臓がどきどきしている。なんだか悪いことをしている気分だ。
ハンカチの生地に染みてしまっている。僕はこれをどうする気なんだ。まさか彼女のゲロで…違う!
好奇心、そう。これは好奇心だ。僕は昔から知りたがり屋だからな。
人差し指に拭い、顔との距離を狭める。饐えた匂いが鼻腔にツンと来た。これでいい。ここで終わらせれば。でも。
味も気になるな。
口を開けてベロンと舌を出す。自分の吐息が生暖かい。舌に指にまとわせた吐物を塗りたくった。冷たい。でも意外と口に入れた瞬間吐き出すようなものではない。クアトロフォルマッジの味に近いかも。いや別にアレがゲロのように不味かったってわけではないんだけど。舌と口蓋で固形物をすりつぶす。この形状は米だろうか。あらかた潰せたので一気に飲み込む。
感想としては、そんなに悪いものではなかった。でもこれで終了だ。僕の好奇心はもう満たされたはず。これ以上やったらただの変態だ。ゴミ箱にハンカチを投げ入れようとしたが、手から離れない。本心ではまだ心残りがあるのか?
確かにさっきのが初めてだったからな。二回目で味が変わるかもしれないし。僕はそう無理に建前を立ててまた彼女のゲロを口に運んだ。その後も。またその後も。しまいにはハンカチを絞って染みていた分まで飲んでしまった。
その夜、僕は酷く後悔した。彼女のゲロを飲んで幸せな気分になっていた自分がなによりも気持ち悪いと感じた。今日のことは忘れよう。そう言い聞かせて、僕はカビカビになったハンカチを窓から暗闇に放り込んだ。
次の日に彼女に会った。体に異常は見つからなかったため吐き気止めをもらって帰ったらしい。デート中に吐いてしまったのでばつが悪そうにしているが正直僕のほうが気まずい。なんせ僕は君のゲロを……やめよう。忘れるって決めたんだ。今日のデートを楽しもう。
驚いたことに彼女がまたあそこに行きたいと頼んだ。どうもあの場所を気に入ったらしく、今日こそちゃんと楽しみたいようだ。僕も昨日の記憶を今日の楽しい記憶で上書きしたい。僕達はまたあの展望台に向かった。
結論から言うと、また吐いた。これには彼女も、そして僕もびっくりしていた。さっきまで元気だったのに吐く。これが二回も続けて起こるのは偶然とは思えない。
彼女はまた親に心配をかけぬようタクシーで帰った。僕に後始末を頼んで。
分かってる。昨日あんなに悔いたんだ。なのになんでソレに顔を近づけるんだ。それはさすがにキモすぎるぞ。
でも、でも今日のは水気が多い。昨日のとはまた違うんだ。好奇心が湧く。水っぽいのは味が違うのかという好奇心が。
それじゃあ、別にいいんじゃないか?好奇心なら。いい、いいよねっ。
じゅるっ。
じゅるるるるるるっ。
じゅるるるぱっ。
僕は彼女の唇より先に、彼女のゲロとキスをした。
背徳感がすごい。あんなことをするなんて本当に頭がどうかしてしまったのだろうか。
もしかして彼女の体質に問題があるんじゃないか?医者は異常は見つからなかったと言ったかもしれない。実験しなければ。誰かを連れてきて。
「いやぁいい眺めだな。お前こんな所よく知ってたな!」
「はい。デート中に偶然見つけて。」
田畑先輩。新人の頃から見てくれている頼れる人だ。僕が連れていきたい場所があると言ったら二つ返事で来てくれた。来るとしたら、そろそろか。
「うん、ほんとにいい……景色だ。」
「先輩、大丈夫ですか」
「ああ悪い悪い。昨日はそんなに飲んでねぇんだけどよ……うっ。あぇ……」
先輩は大きくえずきながら吐いた。茶色で、どろっとしてる。タクシー代を渡して早々に帰らせた。
原因はこの場所。彼女に問題はないことが分かった。これで安心できる。ありがとうございます先輩。先輩のゲロの後片付けに入る。
……二回とも飲んだなら三回目飲んでもおかしくないよな。さすがに飲むまいとは思っていたが、自分の欲には正直になったほうがいいしな。よし、飲もう。先輩のゲロを紙コップに集める。
これを一気に飲んできっぱり終わろう。もうここに来ることはないんだから。中身を口に流し込む。心なしか塩気がある気がする。普段から塩分が高い食事をとっているからだろう。水気が少ないので、へばりついた部分は指でからめとった。もちろん、爪の間に入ってしまったゲロも、ちゃんと舐めとった。さようなら名も知らぬ展望台。ここで味わった感触は決して忘れないだろう。
「すっげー景色ですね先輩!」
「ああ。」
「そうだ、今度ここで弁当たべましょうよ。先輩の愛妻弁当、部署じゃ結構人気なんですよ。」
「考えとく。お前、昼飯はうまかったか?」
「え?あ、はい。おいしかったです!いいんですか奢ってもらっちゃって。」
「構わん。カレーは俺も好きなんだ。」
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