翠の風
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まだ逃げ続けようとするのかい?まあ、このままいけば流れでどちらにせよ例の計画で殺されてしまうだろうな。さて、どうするんだい?


暗く澄んだ冬の朝の空が狭いビル街の先でいつも通りに佇んでいる。もう何千回見た光景だが、今日に限ってはどこか不穏だ。
もう200年は生きてきたはずだが、明らかに静かすぎるのだ。

そこに数発の銃声が聞こえ、次々に市民が反対側へ逃げ始める。ただ、今回だけは私はいつものように逃げるわけにはいかない。もう翠の王など関係なしの大虐殺が始まるのだろう。そうじゃなきゃ、人類全体への宣戦などしないだろう。

始まりはあの店の中で見たテレビだ。紅茶を啜り、外の雪を眺めていた時、急に店の中が騒ぎ出した。みんなテレビの方を見ていたから、テレビの方を見ると、見慣れたマークと宣戦布告文が出ていた。それに気づき、すぐに「正当な手段」で稼いだ金を払い、飛び出すように外に出た。

案の定、外は例の報道で大パニックだ。財団もこの小さな街に割くほどの資源はないだろうと思っていたが、すぐに水道管、発電所、橋が壊された。周りごと持久戦の間も無く潰すつもりだろう。他のものですぐに滅ぼせるだろうに。


あの雪の降る日、とあるカフェでテレビを見ながらコーヒーを飲んでいたとき、それは起きた。テレビが急に切り替わり、見慣れたマークと「人類への宣戦布告」が映し出されているのを見て、すぐさま立ち上がり、「正当な手段」で手に入れた金を支払って外に出た。

外は雪が積もり、灰色のどこか美しい空だったが、何かがおかしい。周りを見渡してみても人影は無く、車は走っていないか、放置されたままだった。なぜこうなったのかを一瞬考えたその時、答えるようにロボットの咆哮が耳に入った。見ると、そこには大小様々なロボットたちが虐殺をしてまわっていた。建物の中に入るようなことはしていないが、それでも血まみれの布で覆ったその姿は、どこの軍隊でもみられないような程赤く染まっていた。
もう200年は生きてきて、ホロコーストも見てきたが、こんな惨状は初めてだった。
「スターウォーズの真似事かよ、こんな状況。」
機械がどうしたら止まるか考え、咄嗟に出た火でロボットの心臓部である基盤を中から まで溶かした。一部を除いてロボットは沈黙し、残りも鉄骨を落として動けなくした。
残念だが殺された人々を埋葬する時間もないだろう。案の定、私のことを見つけたからか、それともロボットがやられたからかは分からないが、空から銃声が鳴り始めた。


銃声がありうる全てから響く。警察の死体もそこら中にある。いや、警察だけじゃない。死体は折り重なって銃の方を向いていた。
奴らは何をする気なんだ?人類を滅亡させるメリットなんて、彼らにとっては「任務の効率化」くらいしか思い浮かぶことはないが。

「やあ財団さん、もう何年目だい?」
テレキルの弾の雨が降る中を、ぴったり弾を弾きつつ、あと3mの間合いまで詰める。そして彼らの頭の視点に合わせて拳銃を構える。だがそれでも彼らは撃ってくる。
銃を風で吹き飛ばして彼らは流石に止まったが、躊躇もなく、市民に発砲する姿はさながらテロリストに見えた。銃を潰し、手錠をかけてもまだナイフで地面を殴り、攻撃しようとしてくるが、麻薬をやっているようではなく、冷静に脱出して殺意を向けようとしている。訳がわからない。あの頃の人助けをしていた敵の姿は、既に失われていたようだった。
「おいおい、数十年ぶりに会えた元恋人にも容赦無しなのかい。にしても、O5がこんな前線まで来るとは余程重要なことなんだろうね、ええ?エレーロ博士。」
恋人だった頃の彼の姿はない。その穏やかそうな容姿はそのままだったが、明らかに雰囲気が違う。元の彼は優しさと探究者として完成された、そんな憧れを敵味方問わず持っていた。だが、彼に優しさは感じられない。顔は力一杯で、死体を見ても何も感じず踏み潰していくだけの…まるで機械人間のようだ。
「もうどうしようもないぞ。わかったなら早く死ぬか後ろの人間を殺せ。おっと、また逃げようとするなよ。これ以上やっても無駄に死ぬだけだ。」
財団は本当に狂ってしまったらしい。わずかな希望も消え失せたのだろうか。
「縛り付けようとして、今度は死ぬか殺すか?本当に落ちたね。」
「もう一度選ばせてやる。ここで死ぬか殺すか。早めに選んでくれ。」
後ろには中隊くらいの兵士が銃を構え、今にも市民を撃とうとしている。いや、恐らく反対側にはもういるのだろう。
本当にもう終いらしいな
なら…

そう言い、オフィス街とアスファルトから腕を引っ張り出し、兵士をエレーロごと薙ぎ払う。ヘリから見えた銃弾はコンクリートのバットで撃ち返した。軍隊もこんな田舎の都市に来る余裕はないらしく、1人で戦い続ける。日本の漫画やら小説やらで描かれていた無双劇のようなことができる者くらいしか生き残れないだろう。生憎、此方の言葉ではチートは唯の不正だ。私もこの世界の一部だから、そんなものは持っていない。だが、それもその場凌ぎにしかならないのかもしれない。
後ろの街からも悲鳴が聞こえる。一人で何カ所も止められる訳がなく、避難誘導をする警察に委ねて早くここのを終わらせてやろうと大火、真空、ビルの崩落、道路に大穴を開けるまでしても、いつの間にか切り替わった人でなしの兵士と化け物は尽きなかった。
突如として、後ろの兵士たちの頭上に剣が出てきて、そのまま頭から串刺しにされる。一撃だった。だが、それでも止まらないらしい。
後ろから大量のロボット、化け物、機動隊…そこまでして人間を滅ぼそうというのがわかった。私の後ろにはその人間がいる。

現実改変も彼らにはなぜか通じない。
ならやることは一つだ。


「これ以上はさせないよ」
そういうと、彼女の周りは少しずつだが砕け散っていく。空気すら消し去る彼女の能力は、空間ごと兵士も像もビルさえも飲み込んでいく。と同時に彼女の身体も限界を迎えたのか、落ちた翡翠のようにひび割れ、空間へ吸い込まれていく。

彼女が疲れからか意識を一瞬だが放す時間があった。それと共に、スクラントン錨が5つ程投げ込まれた。元々200年も生きているのだから、ヒュームが無理矢理戻ろうとすると身体が崩壊することを彼女は直感で理解した。これが地面に着いた時、私の命も潰える。そう直感で理解した。

ならせめて

1人でも多く

ありったけを

その思いと共に、一気に炎を前面に押し出す。炎は津波のように全てを呑み込んでいき、後にはコンクリートと灰しか残らない。そして、300メートルほど進ませたところで炎がやみ、彼女の身体は一気に老け、塵となって消え始めた。

駆けつけた兵士の見た彼女の最期は、翠色の塵となって消える姿だった。

と同時に、彼女の身体も、まるで落ちた翡翠のようにひび割れ、砕け散っていく。風は彼女を中心に回り、建物、像、生物たちを削り取っていく。その中に彼女もいたのだ。彼女の崩れていく身体は翡翠のように輝き、飛んで行く。
そして脅威が去った時、彼女も消えていくのが見えた。そして、最後に聞こえたあの言葉を死ぬまで忘れないだろう。
「アリガトウ、サヨウナラ」

翠の王 5000

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  1. portal:8048007 (09 Aug 2022 13:23)
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