メモ ::: 何一つ問題はなくなる

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このメモを読む君が如何なる人間なのかを私は容易に想像できる。

君は人間で、
財団職員ではなく、
明確な意志を持っていて、
支配に対して抗う者であり、
そしてこの文書の一部の単語の意味を知らないだろう。


倫理とは人が守り踏み外してはならない道を指す言葉であり、
一番最初に財団が人間から奪った言葉だ。







Who: 名前が永久に失われた気がする1人の人間
Where: 収容コンテナの前、エリア-67215第5層
When: 2101年12月25日
Belongings:

  • 財団職員に相応しい上品なブラックスーツ
  • 床に短杖が2本転がっている ← 私物?
  • どこかの部門の徽章(どの部門なのかわからないけれども収容コンテナにも同じロゴが描かれている) → 私は財団職員?
  • IDカード(レベル5クリアランス) ← 所属部門名と氏名が読めない
  • 紛失に備えてロゴを写しておく
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Why:

  • 名前を含む自分自身に関わる記憶がなぜない?
  • 見えないなにかがジリジリ近づいてきている気がする ← 建物の中に今いるから気配だけ感じる?

How: 外に出るか窓から気配の方角を見ておきたい

Where: エリア-67215 第5層(SCP-3125-AQ収容層)
廊下の反対側(気配側)からズリズリっとした音が聞こえる。
少し先にドアあり ← 下部の給餌口から覗く → 死んだような顔をした人が壁を押して歩いていた ← オレンジのツナギを着ていたから多分Dクラス ← 壁を押す特別収容プロトコル?
↑フロアマップによりSCP-3125-AQ収容層と判明

窓がどこにもない

Where: エリア-67215 第4層(Dクラス職員収容層)
私のIDカードではエレベーターを動かせず階段を使うしかなかった。この層は標準Dクラス収容室ばかりある。多くのDクラス職員がいる。珍しそうに私を見ている。 ← 人間の財団職員は基本的にいないから妥当な反応か
Why: 私はなぜ人間なのか

Where: エリア-67215 第3層(職員宿泊層)
物の上に埃が積もっている ← 見たところ数十年分 ← だが床は清潔。自動清掃機械の作動音有り
かつて職員食堂であった部屋には一脚の椅子と一つの食卓があるのみ ← 私好みのデザインであり、サイズも私に丁度良い。私の物?

キッチンには新品の全自動調理器と食洗機がある。私がこのサイトの唯一の人間の職員であることはほぼ間違いない。

第2層と第1層はレベル6クリアランスが必要だった。ここが地下何mなのか不明だが、非常階段で地上に出て気配の正体を確認してみよう。

Where: 地上、見渡す限り氷しか無い。
What: 気配の方角は丁度南極向き。見えざるピンクの壁。こちらにゆっくりと近付いてきている。
見えざるピンクの壁 = 見えざるピンクの光 + 壁
見上げれば遥かな宇宙の果てまで続き、左右もまた無限に広がる垂直に立つ壁 ← 実体なし地面貫通

見えると思って見ようとするほどにくっきり見える → 意識の集中をやめれば壁の向こうの現実が透けて見える

Why: 動機心情

  • 見えざるピンクの光に惹かれる。
  • 壁の邪魔をしてはいけない予感がする。

How: ↑どちらが正しい? SCPデータベースにアクセスして類例を検索すること
エリア-67215の地下施設に戻る?エレベーターがそもそもないから非常階段使った
700階分また降りるのはつらい ← 1階3mとして地下2100m

壁について判明 かつ 触れても良い なら そのまま施設に留まる
その他の場合 なら 施設から壁に触れずに脱出できない
↑壁の接近速度と往復1400階分階段昇降するのにかかる時間を考慮すると無理
確率は不明なので安全策を取るべき → エリア-67215以外の財団施設へ行く

最寄りの財団施設はオーストラリア ← 南極から遠すぎる ← 放浪者の図書館経由で行ける確信アリ
放浪者の図書館に入館できる財団職員は一応まだ人間である機動部隊シグマ-3("書誌学者")構成員のはず → 私はシグマ-3のメンバーだった?
南極に存在する"門"とそのノック方法詳細を別のメモに書いた。

"門"まで4日歩けば着くはず。その間飲まず食わず眠らずだけれども私の鍛えられた肉体を見る限り多分保つ。

When: 2101年12月29日
Who: 一度も排泄しなかったから多分私は異常性のある人間
Where: 私のメモによると"門"らしい場所
Addendum: "門"という概念をメモを見るまで忘れていた。厳密には今も思い出しているわけではなくメモから学んだ。
最大の問題: "門"の開き方がわからない
手順として指定されている"伊る"とか"加つ"とか"佐う"とかの意味も読みもまるでさっぱりわからない ← 反ミームアノマリー(多分見えざるピンクの壁)に攻撃されているのか?

壁が迫ってきている。沿岸まで行って万が一港や船があるならそれに乗せてもらおう。

When: 2102年1月1日
Who: 暫定的に自身をSCP-3125に指定しておく 私の母語が日本語であることから日本支部職員だった可能性がある。-JPを付けるべきか?
Where: 南極大陸
What: 出来事

  • ずっと白夜で青空だったのが緋色になった
  • 壁が分厚くなり見えざるピンクが薄れた

↑壁をぎりぎりまで引き付けて観察。厳か。氷を投げ入れる。予想通り特に物理的干渉はないようだ。




When: 2102年2月
Where: オーストラリア アデレード近郊 人間のパーツが葉となっている樹が生い茂る森を抜けた場所
Who: 財団?のロゴを入れ墨した武装人間複数名と遭遇
↑純粋な人間の財団職員は存在しないため人間たちは非職員であることは明らか
Addendum: 土地の人間ではないため襲撃された。逃げ延びることは出来たが山狩りをされた。山に隠れ潜んでいたおそらく非異常性人間の一家が殺されていた。見えざるピンクの壁の向こう側で襲撃者たちが皆Secure, Contain, Protectと叫びながら処刑しているのはまるで悪夢を見ているようだった。財団は笑わない。財団職員は収容のために悪を為すが楽しみはしない。あくまで必要悪 ← 必要悪は武力によって首輪をつけられた悪
↑欲求のままに脅威を終了している。暴力による統制の忌まわしい欲求。


Why: 大々的な終了を行うのはGOCの得意とする所だったはず ← あれは財団ではない。破壊を愛するGOCの影響だろう。
↑捲られたヴェールにおいてはGOCと財団が共同声明発表予定だった。
How: これまで自己収容のために人間を避けてきたがどこかの人里において過去の声明を見なければならない。

GOC壊れた神の教会が手を組んで財団宣戦布告していた
まるで財団が悪であるかのように

なぜ私はアデレードの森で25人の財団職員モドキに5人の家族が殺されるのを見殺しにした?
↑処刑は見えざるピンクの壁の向こう側で行われ、私は手を出せなかった。
だが、石を投げることはできたはずだ。
5人を救うには25人から確実に武力を奪わねばならなかっただろう。
私の投石はそこまで精密ではなく、全員を殺す他なかった。

5人の生命を救うために25人の生命を奪うのか?



私のIDカードに書かれていた部門名を読むことができるようになった。
倫理委員会と書かれていた。
なぜ読めるようになったのだろう?

Who: 眠気と空腹と悩みで最近人相が凶悪になりつつある私
Where: オーストラリア ニュー・サウス・ウェールズ州 徐々に全てがガラスになりつつある土地
What: まるで生きているかのようなディテールのガラスの彫刻が複数存在。
すすり泣く声が聞こえる ← 生存者。財団職員モドキ。足首から先がガラス化している。
Addendum: 会話を試みる。救助を要請されたため、横抱きで運搬する。

財団を崇める宗教が存在する。SCP教。
この大規模収容違反はキリスト教で言う所のハルマゲドンであり、善たる財団と悪である異常性の戦いなのだという。
Secure, Contain, Protectの三聖句を唱えれば、終末において財団に永遠に収容して貰えるそうだ。
聖霊の指導の下異常性の確保のために銃を取って敵を撃っている。
↑聖霊=財団正規職員?一部の連中はピスティファージ実体になっていたはず。
キリスト教ベースでハルマゲドンなら神の子が復活しているはず → アメリカに降臨したらしい ← O5-1か管理者か?

財団職員モドキではなくて財団教徒だった。遭遇当初は踝から先がガラス化していたのが、大腿までガラス化している。本人にも自覚があるのか盛んに三聖句を唱えて救済を願っている。
死に怯える財団教徒を抱き抱えて財団教徒の教会へと歩いていった。

それまで信じてきた正常性が砕かれ、死が終わりではない可能性がある世界で死ぬ。
永遠の収容という安心に縋る財団教徒は責めるには憐れ過ぎる。

腕の中で全身がガラスとなった財団教徒を、全てがガラスになった教会の中に安置した。
死後自分は収容されるか、と最期に問うた財団教徒に、私は何と答えたら良かったのだろうか。


なぜ私はガラスにならない?

財団教会は私のオーストラリアの目的サイトだった。
しかし、全てがガラス化しており何も情報は得られなかった。

最も近い知っているサイトは日本支部の倫理委員会出向サイト-8155。無事であってほしい。

Where: オーストラリア クイーンズランド州 樹も土も川も全てがガラスになった土地
What: 幼児とそれに石を打ち付けようとしていた人間1人
Addendum: 走り込んで幼児に覆い被さった。私の背中に石が打ち付けられ、脇腹が抉れた ← 傷口から煙が立ち上っていた
やせ細った人間は座り込みそれ以上の攻撃をしようとはしなかった。

親子関係
もともとガラスだったものの上に立ち変化したものに触れなければガラス化しない
食糧は全てガラス化して新規入手不可 → 食糧難 → 無理心中

脇腹は30分もせず元通りになった
ガラス化した軽トラ ← 押せば車輪は回る。舗装道路なら力を振り絞れば移動可能。
人肉食への同意取得。
水分摂取

  • 唾液 ← こっち

Where: オーストラリア ヨーク岬の近く ガラスの大地
Addendum: 4歳児が亡くなった。人肉食のみでは必須栄養素が不足していたのだろう。

親は遺体を抱きかかえたまま食事を口にしなくなった。

Where: オーストラリア ヨーク岬最北端
Addendum: ガラスの大地に葬られる位なら火葬にしてほしいと頼まれていた。
砂浜がかつてあった場所もガラスだった。

荼毘に付すことにした。火力が不足しているはずだったが親子の遺体はするりと解けるように煙になっていった。



最後まで親子の笑顔は見られなかった。
飢えた人に食事を分け与えることは最も素朴な善のはずだ。
だが、その食が耐え難いものだった故に彼らは笑わなかったのだろう。

あゝ、私の血がワインであり、肉がパンであったならばよかったのに。




When: 2102年2月
Where: インドネシア ニューギニア島 インドネシアとパプアニューギニアの国境線近くの塹壕戦
財団教徒とGOCが極普通に戦争している。流石にガラス化の異常性は海を超えていないようだ。
Who: 最近飢えや疲れ、眠気を殆ど感じなくなって来て超人振りに磨きが掛かってきた。
Addendum: GOC職員に誰何されて事情を説明。彼らは"Ethics(倫理)"という単語を知らなかった。会話中に彼らが黒く塗りつぶされる現象発生。
同時に"GOC"という単語の意味がしばらくわからなくなった。"門"の意味もいつの間にか思い出していたが、非常に類似している。

ある人間からその根幹をなす概念が失われると人間として存在できなくなると考えられる。
私も"倫理"という概念が失われた際におそらく黒く塗りつぶされていたのだろう。
幸運にも私はそこから復帰できたが、彼らは戻れるのだろうか?

黒塗り人間は触るとぶよぶよしていた。生きているとも死んでいるとも言えないので荼毘に付す訳にもいかず放置せざるをえない。

When: 2102年2月末
Where: インドネシア バカン島 おそらく赤道近傍
Who: 超人トランスヒューマン人外ポストヒューマンの間に立つ私
Description: 私は日々強くなってきた。筋力・体力・眠気に抗う精神力などは常人を遥かに超えた。これまでの私は財団の定義によると超人だった。
そしてこれは確信とも言える予感だが、人間としての私はここで終わる。
きっと後一歩北へ歩むと私は人外への一線を超え、空腹にも眠気にも悩まされることはなくなるのだろう。

常人ヒューマン超人トランスヒューマン人外ポストヒューマンの違いは感性の違いであると説明される。
概念物理学では知識や概念というものは夜空に浮かぶ星に例えられ、その例にならうならば常人らは地球上に立つヒトとして表現される。

  • 完全な一般人:南極点に立つ
  • 超人/異常性がある人間:南半球に立つ
  • 人外:北半球に立つ

北極点に立つ極まった人外と南極点に立つ完全な一般人が見る星空に同じ星は存在しない。
北半球でも南半球でも太陽は東から昇って西に沈むが、左右逆に運行する。
星座も上下逆さまに見える。超人と人外では同じものを見たとしてもまるで見え方が異なる。
人外と完全な一般人ではそもそも同じ星空を見ているとは言い難い。


異常性が徐々に増強している私は急速に南極(一般人)から北半球(人外)へと近付いた。
そして今、丁度超人と人外の境目たる赤道上にいる。
安らかに人間として死ぬ最後の機会であるとなぜかわかる。

私は進むと決めているが、進む前にこうして記録をしておこう。
たとえ南十字星が見えなくなるほど北へ進んだとしても、南半球にいた時に正しく記録をつけておいたならば南十字星の位置を計算することはできるのだから。
今後人間と会う時に正しい倫理的振る舞いをできるようにしなくてはならない。
私は過去の私が誇れるような私でありたい。



Where: フィリピン ミンダナオ島

あまりにも多くの遺体が野ざらしとなっている。
煙となって天に昇れるようにできる限り弔いとして焼いている。
どれほどの辱めにあった遺体であろうと、異常性に犯された遺体であろうと、財団教徒の遺体であろうと、皆燃やせばすぐに煙となる。
山川草木悉皆成仏。

近頃薄れてきた見えざるピンクの光が私の南無阿弥陀仏の念仏に呼応するかのように瞬いた。

北極圏の財団の人外たちは夜空の星を地球にいながら動かした。
人間には義として掲げる星がそれぞれあり、その星の光がなければ生を保てず散じる。
財団は倫理という南極点から見える星を地平線の下へと隠し、南極圏の倫理委員は消えた。
北半球から見える夜空の星座が財団に何を教えたのだろうか。
財団教徒を信じるならば永遠の収容という夢を見たのだろうか。
倫理委員会に反対されると考えたから粛清したのだろうか。

ならば、財団の敵として振る舞うことこそ倫理的なのだろう。

Where: フィリピン ルソン島 全面的に焦土となった海近くの戦場跡
What: GOCの制服を着た青年 ← 戦場に残る遺体を荼毘に付している中で会った唯一の生存者
Addendum: 大腿に銃創あり。
自主的な用手圧迫をしていたが失血死を免れない状態にあった。
私は私の左手の小指を切り落とし、彼に差し出した。
意味がわからなかったようなので私が喫煙の見本を見せた。
左手の薬指を追加で切り落とし彼の唇に咥えさせ煙を吸わせた。
亡くなるまでの15分間涙を流す彼の手を握った。



Where: 日本 沖縄県 沖縄本島 荼毘に付すための燃料を得るために侵入した家
What: 男性幼児の遺体に見えるもの
Addendum: 頭部に銃創所見あり。皮下に蠢くものあり。
べろっと剥がして見たところ数百匹を超える幼児の顔をしたイモムシが這っていた。
全て笑顔であり、窓から差し込む緋色の光を避けるように物陰に素早く逃げ込んでいった。
↑自然に剥がれたのであり無理やり遺体を損壊したわけではない。

死んでいるよりは生きて笑っている方が良い。久しぶりの気持ちのいい出来事だった。

Where: 日本 沖縄県 硫黄鳥島 サイト-8155 ← Keterサイトで見た目には建物に破損も何もないのに誰もいない、なぜ?

南十字星が地平線の上に輝いている。
懐かしさを強く感じる
予感に満ちた鼓動がゆったりとしたペースで鳴り響いている
私は私について何も知らないが、
きっとここに真実があってこの旅の終着点になるのだという予感がする。


















達成できないことを達成しようとする、敗北に直面したとき挑戦しようとする本能は、我らが財団のイデオロギーの中核であり、それがゆえに疑われることはない。
財団が超人化する以前にある概念物理学者が遺した言葉であり、まさに私が歩みを止めなかった理由である。
財団が宇宙全てを封じ込めようとするのも彼らなりの挑戦だと今ならば理解できる。
人外しかいない財団は過去に例のない大規模収容違反に対して宇宙ごと永遠に封じ込めんとして挑戦しているのだろう。

私は財団の3使命("確保"、"収容"、"保護")を奉じつつ、しかし財団が切り捨てた倫理に基づいて抗わねばならない。
サイト-8155に唯一収容されているKeterクラスミーマチックアノマリー SCP-3125-JPの収容違反が現実的かつ倫理的に妥当な反抗であると私は信じる。
このメモが失敗時に読まれることからSCP-3125-JPの具体的性質への言及は避けるが、私が思うに人間に対して非常に倫理的だ。
何一つ問題はなくなる。

非同期的な研究上の規約に基づき、この反抗に失敗した場合次に何をするべきかを書かねばならない。
このメモを君が読めているということはまだ人間がこのサイトに侵入して文字を読めるだけの自由を有しているということだ。
そして君は倫理という概念を私の例を通じて学び直したはずだ。
君の素直な心に従って私の行動の何が正しく、何が悍ましいかを判断してくれ。
君には人間による倫理的反抗をしてもらいたい。

Horace.aicという人工知能徴募員を君のために遺しておく。
君の超人性に応じて人外にならないように適切に反抗に役立つ知識を伝えてくれることだろう。
君が君らしく人間として生きられることを私は願う。
見えざるピンクの光は気にするな。

1体の何者でもないもの

確保、収容、保護、統制、██




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執筆者: pcysl
文字数: 18065
リビジョン数: 421
批評コメント: 14

最終更新: 03 Jan 2023 15:26
最終コメント: 04 Jun 2022 09:14 by pcysl

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