伝播
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caption=打ちあがった花火。]]

「かうす」

「え?」

僕の名前は岩井宗介。都内の高校に通う高校2年生だ。夏休み中の朝練を終え、帰宅しようと電車に乗っている真っ只中、急に話しかけられた。

僕に話しかけてきたのは70を過ぎたくらいのおばあさん。和装にカバンを持っていて、礼儀正しそうなただのおばあさんだ。
このおばあさんは何を言っているんだ?どんなに耳を集中させても聞き取れない。
とりあえず僕はとても怖いが「無視」することにした。

「かうす」

「・・・」

「かうす」

「・・・」

「かうす」

「・・・」

そんな一方的なやりとりを続けていると呼びかけに応えない僕に飽きたのか、次は僕のスマホを覗き込んできた。運悪くその時オンラインゲームの対戦をしていた僕は動けない。
これ以上変な動きをしておばあさんを刺激したくない。だが対戦も負けるわけにはいかない。

「かうす」

「・・・」

「かうす」

「・・・」

「かうす」

「・・・」

いつもより何倍も長く感じた電車は駅に着いた。昼の時間帯なので決して人は多くないが、乗り降りは発生する。その時、おばあさんと僕の膠着状態だった状況は変わる。
隣の席が空いた。

動きたい。席を変えたい。一刻も早くこのおばあさんの横から離れたい。しかし、僕の切実な想いとは裏腹に、身体が言う事を聞かない。ゲームをいじる手は動くのに。
まるで身体が動くことを嫌がっているように。

周りにいる大人や学生たちは見向きもしない
。黙々とスマホをいじっていたり寝ていたり。いつもは何とも思わない周囲の人間たちに、僕は自然に怒りを覚えてしまう。 

「何故助けてくれない?見て見ぬふりをする。見えてるんだろ、目の端で。僕が困っているのを横目で見ながら心の中で嘲笑っているんだろう。助けてくれ。」

何度も何度も心の中でヘルプを出した。しかし生命の危機が迫っている。そんなことをどれだけ思っても他の人たちには伝わりやしない。

「心の中でSOSのモールスを打ったとしても、勇気という拡声器がなければ助けはこない。」

ああああああああああ。何故このおばあさんの横にいるだけでこんなにも躁鬱な気持ちになってしまうのだろう。俺は家に帰りたいだけなのに。 

自分の思考が狂って"状況のかけら"という脳に散らばる小さな破片を繋げる糸がブチブチと千切れていくのが自分でも分かる。周りの状態が分からない。ここは電車の中だよな。横には謎のおばあさん。周りには誰かがたくさんいる。視界が狭窄して知らず知らずにスマホの画面を連打していた指は止まる。

「えー次は〇〇、〇〇です。お降りの方はお忘れ物のないようにお気をつけください。〇〇、〇〇です。」

車内に車掌の機械的な音声が響き渡る。最寄り駅だ。降りなければ。少し前のように身体が縛り付けられると思いきや、すんなり筋肉は動いた。周りの人と同じようになんの変哲もない動作をしながら僕は電車から降りる。おばあさんの席を振り返ったが、そこには知らない中年のおじさんが座っていた。いつものように定期券を改札に押しつけて、僕は自転車にまたがって自宅のドアを開ける。

「おかえりー。」

そこにはいつものように母が出迎えてくれていた。僕はなるべく平静を繕って笑顔を向ける。

ただいまかうす

「え?」

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