黄金と痔

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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: 特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-551の標準小型生物収容室に収容してください。週に1度、または担当医の判断に応じた頻度で、SCP-XXX-JPに鳥類を専門とする獣医師の診察を受けさせてください。
SCP-XXX-JPの収容室で発見された生成物は、収容室に併設した金庫に収容してください。

説明: SCP-XXX-JPは白色のガチョウ(Domestic goose)です。発見時の体長と体重は、それぞれ92.5cmと3.4kgでした。SCP-XXX-JPの身体的特徴に通常のガチョウとの大きな相違点は見られませんが、SCP-XXX-JPは人語を介して人間と会話することができます。現在確認されている限りではSCP-XXX-JPは日本語とロシア語を話します。
SCP-XXX-JPは生殖活動の有無に関わらず、一定の周期で出産を行います。この際SCP-XXX-JPは一般的なガチョウの卵では無く、卵型の純度██.█%の金塊を生成します。これと金との差異は化学的に認められませんでした。
SCP-XXX-JPはその総排出腔に中度の痔を患っています。一般的な鳥類の同系統の病気が数ヶ月で治癒するのに対し、SCP-XXX-JPは医師の適切な治療を施した上で█年間快癒の兆しを見せていません。また、SCP-XXX-JPが発見時依頼老化の兆候を一切見せていないことから、SCP-XXX-JPには自己の状態を恒久的に保存する性質が備わっていると予測されています。

対象: SCP-XXX-JP

インタビュアー: 田中博士

付記: インタビューは日本語で行われた

<録音開始>

田中博士: では、インタビューを開始します。身分と名前…はあるのですか?

SCP-XXX-JP: ありますあります。元は普通の農園で普通に卵産んどりました。名前はアリスいいます。メスです。金の卵を産むのは生まれつきです。

田中博士: その農園について説明していただけますか?

SCP-XXX-JP: それがあんま覚えてませんのですわぁ。確か旦那さんがジャックやったかアルフレッドやったか。あの頃は「知恵」ありませんでしたから。でもあんま大した農園とあらへんかったように思いますわ。
世界の色んなところを回りました。後で考えたんですが、私はロシアと日本の他に、中国やインドなんかを回ったんじゃないかぁ思います。生まれた農園、あれはきっとイングランドでしゃうな。

田中博士: 日本に来られたのはいつ頃ですか。

SCP-XXX-JP: こう(自らの臀部を嘴で指す)なってからです。近くの国やと1番医術が進歩してそうでしたので、船荷に潜り込んで密航しました。いやぁ、見つかったらフォアグラにされるかと思うと、気が気じゃありませんでしたわ。まぁ、私の産んだ卵を置いたったので、運賃代わりいうことで。

田中博士: 金の卵は我々が既に回収しています。あなたが話しているのは日本語の中でも「関西弁」という方言の一種なのですが、あなたは関西で生活されていたのですか。

SCP-XXX-JP: え、あれあんたらがとってしまいましたのん。酷いお人ですわぁ、ほんまに。

田中博士: [相槌]

SCP-XXX-JP: 最初はそこでも獣医さんハシゴしてたんですが、なんか大阪の人はやたら鳥に食い物くれるんですわ。心地よくって心地よくって、しばらく腰据えとりました。そしたら嫌でも訛りがうつるでしょう。東京いた頃に多少日本語喋れてたんが、大阪で全部こっちの訛りになってしまいましたわ。いやぁ、それにしても大阪ってごっつええとこですねぇ。人も優しいし、食べ物も美味い。なんと言ってもイカ焼きが本当に美味しくて、やはり自分も水鳥の端くれというものか、魚介類がうまく感じる…

田中博士: [遮るようにして] わかりました、わかりました。次にあなたの病気についてお聞きします。あなたはいつからそれを患っているのですか。

SCP-XXX-JP: あぁ、大阪ほんまええとこやったから、もう少し話したかったのに。
まぁ、分かりました。あれはあたしがロシアで、スルツニコフいうブルジョアのおっさんに飼われていた時のことです。まぁ金の卵を産む鳥、いうもんで、なんのかんの大切にはされていました。どこぞから輸入してきた高い餌をいただき、鳥籠も部屋のように広く、その前にいたサーカスに比べるとごっつええ待遇だったわけですな。そんなもんなんであたしも多少おっさんに恩義を感じていました。

田中博士: 続けてください。

SCP-XXX-JP: ロシアの冬はめっちゃ寒いんですが、その日は珍しく雪も風もない、穏やかな日でした。町中の家が雪冠を被っていて、ごっつキレイでした。雪が降ってなかったとはいえ人を殺す寒さでしたので、外には人一人、鳥一羽おりませんでした。夕方に使用人のヒトが持ってきた薪がほとんど燃え尽きた頃、外から窓を叩くモノがおりました。ふと見てみると、それはアタシと同じぐらいに大きなネズミでした。精一杯背伸びすれば窓を超えそうなほどに大きかったですわ。アレが叩いた窓には、ネチョネチョとした液体のような跡が残っとりましたし、近づくと窓の隙間から死の臭いが我が物顔で侵入してきました。

[しばらくの沈黙]

田中博士: どうかしましたか?

SCP-XXX-JP: あぁ、すんません。ただ、アレの[削除済み]みたいな声を思い出すと…[頭を左右に振る]
いや、なんもないです、続けます。アレは私のように言葉を話す動物でした。アレの背中には何匹かの小さなネズミが張り付いていて、赤いテラテラした眼でこっちを見とりました。後からわかった事なんですが、アレと背に張り付いたネズミ共はね、尾っぽがつながっとりました。アレは稀にいる人の言葉で話が出来る動物でした。アレは自分が、ネズミの王であると名乗りました。なるほど話に違わない醜悪さゆうもんは備えておりましたし、話口調も偉そうでした。

田中博士: [相槌]

SCP-XXX-JP: アレと相対したとき、私は「知恵」を授かりました。つまり、今のように高いレベルで思考し、人語を介するようになったんです。それまでに聞き馴染んだ全ての言語の使い方がバァッーと頭の中に溢れてきました。あと、世界の見え方も変わりました。多分環世界の差異のせいや思うんですが、それからの私は人間さんみたいに多様な色ぉ見分けるようになりました。
[沈黙]
すみません、いっぺんに話しすぎましたわ。少し休憩してもええですか。人間さんの言葉は少し…疲れますわ。

田中博士 : 構いませんよ。

[インタビュー対象の求めに応じ、15分程度の休憩を行った]

SCP-XXX-JP : ふぅ、おおきにでした。だいぶ落ち着きましたわ。ほなまた始めましょうか。えぇと、ネズミの王と会ったところまで話しましたね。アレは私に1つ取引を持ちかけてきました。端的に言うと、私があの時得た「知恵」をそのままにする代わりに、アレがおっさんの家に入る手引きをしろ、というものでした。どうも連日の寒さで屋敷に入れる隙間はみな凍ってもうてたんですな。そんなもんで、窓なり扉なり開けて入れてくれと。あたしは…あたしは初めこそ、そんなことはとんでもないと、恩義あるおっさんに仇なすことはできひんと、そう思ったんです。すると、アレは、あぁ、アレはホンマに、ホンマに醜悪な存在や!

田中博士 :落ち着いてください。ゆっくりで構いませんから、おっしゃってください。

SCP-XXX-JP : あぁ、アレが爪先を一振りすると、私は「知恵」を奪われました。すると、世界の色が変わりました。炎やレンガの色は茶色くくすみ、カーペットの模様が判別できんくなりました。そう、アタシは元の水鳥に逆戻りしたんです。何も思い出せない。何も考えられない。クルミほども無いちぃぽけな脳のあるがままに、ただ与えられた餌を食み、糞便をし、意味もなく卵を産み続ける水鳥に!…死ぬよりも恐ろしい。尊厳を全て奪われたような気持ちになりましたわ。

田中博士 : 続けてください。

SCP-XXX-JP :そして アレは何度もやりました。王が爪先で指揮するままに、アタシの自我は奪われ、植え付けられ、また奪われる。神をも見下ろす程の全能感と、魂を引き裂かれたような喪失感が交互に、ほんの数秒の間に次々と!

田中博士 : なるほど。

SCP-XXX-JP : とにかく恐ろしかったんです。一目際に部屋を離れ、廊下の隅でガタガタと震えとりました。脳裏には無数のに分からへんことが浮かびました。アレは一体なんなんや?なんでここ入りたいんや?なんでこんな力を持っとるんや?そんでもって…アタシは一体何をしたんや?
アタシのこの後の行動は自分でも上手いことは説明できひんのです。ただ…人間さん、おたくは性善説と性悪説なら、どちらを信じますかいな?

田中博士 :性善説か性悪説か、ですか。私は、私は性悪説に票を投じます。人は元来愚かで矮小ですが、教育を通して力を得ます。

SCP-XXX-JP : 教科書通りですな。人間さん、しかしアタシは性善説に票入れますよ。あの時、恐怖を踏み台に勇気に嘴が届いたあの時、アタシの内から湧き上がってきたのは正義の心…善やったんです。養ってくれたおっさんのために、アタシは病悪の王に立ち向かう決心をしたんです。アレは指を10ミリ振れば、アタシの心を殺せるけれど、心の骸に残った決意が、本能を恐怖から闘争に塗り替えると信じましたんや。しかしてアタシは怖かった。体を包む千の羽は震えとりましたし、早鐘を打つ心臓はアタシを引き留めようとしました。でも、黄金の卵を産むアタシが、心を鉛に堕としてはあきません。黄金の卵を産むアタシは、心まで黄金でありたかった。恐怖と絶望を金メッキで覆い、アタシはヤツの臭いを辿り始めました。

田中博士 : なるほど。

SCP-XXX-JP : ヤツはキッチンの前におりました。ヤツの仲間を手引きしとったんですな。キッチンの壁の薄くなったところに穴を開け、そこからたくさんの臣民を招きいれとりました。アタシがアレと対峙した時、既にキッチンにはネズミの絨毯が敷かれていました。情けない、それだけの時間アタシは震えとった、ちゅうことですわな。ヤツは使える下僕を増やすことに夢中で、扉の隙間から除くアタシに気づいとりませんでした。

田中博士 : あなたは「知恵」と黄金の卵を産むことの他に、超人的な戦闘能力を持っていたのですか。

SCP-XXX-JP : そんなことはありまへん。人間様はおろか、鳥すら超えた力は持っとりませんでした。アタシは、聖剣を携えた勇者ではなく、蛮勇という棍棒を咥えて暴れようとする頑固者でした。無力なものは勇者とちゃいます。それでも、アタシはキッチンへと入り込みました。
アレはしばらくアタシに気がつきまへんでした。アタシが鼠皮の絨踏んで、赤い残光が回って視線が交錯しました。アレが指を挙げる前に、アタシは目ぇつむってガムシャラにアレの方へと突進しました。

田中博士 : なぜ目をつむって?

SCP-XXX-JP : ちょっとでも前回と状況を変えれば、アレに「知恵」を奪われ無いかもしれないと、そういう魂胆でした。つまり、「知恵」の与奪には何かしら条件があると期待したんです。目が合っていなかったからか、アタシが動いていたか、ヤツが仲間を呼ぶので力を使い果たしていたか。はたまたそのどれとも違うよぅわからん理由かもしれまへんが、結果的にアタシは「知恵」ぇ奪われることなくアレに渾身の飛び蹴りをお見舞いできました。やつはその一撃で片目を失い、アタシはそのまま食器棚の上へと翔び乗りました。

田中博士 : なるほど。

SCP-XXX-JP : アレはすぐにネズミどもに棚を登らせました。アタシは少し待って、棚の半分辺りまでネズミが登って来てから棚を蹴り倒しました。たくさんの皿が音を立てて割れました。それ以上のネズミが間抜けな音を出してひしゃげました。その後は…とにかく必死でした。音に気づいて使用人の方が来るまでの数分間、アタシはとにかくネズミ共の目を狙い続けました。飛んで、跳んで、回って、廻って。刺して潰して。バン!言う音がして振り返ると、使用人がホウキを持って入ってきました。キッチンの惨状を見て、彼女は長い悲鳴をあげました。反面アタシはほっとして、短く「神よ」と呟きました。

田中博士 : 続けてください。

SCP-XXX-JP : アレは既に勝負を諦めていました。元よりヒトとやり合うには分が悪いわかっとったから、夜中に仲間を増やし、こっそり屋敷を乗っ取るつもりやったんです。アタシは確かにアレの残念そうな顔を見ました。なのに、なのにアタシが安心して瞼を閉じて、開いた時、アレは醜悪で淫猥な笑みを浮かべていました。そして、梅雨の時期の風のように粘ついた声で囁きました。使用人の叫びを拝啓に、アレの小さな声が、アタシにはなぜだからハッキリと聞こえました。
アタシは一目散に扉へ走りました。また心を殺されると思ったからです。使用人の足の間を嘴が通った瞬間、アタシのお尻にサーっと凍りつくような、それでいて地獄の炎に焼かれるような痛みが走りました。悪に刺される感覚がしました。衝撃で廊下の端に叩きつけられた時、直感的に呪われたことを悟りました。

田中博士 : 神罰とはどういうことでしょうか。

SCP-XXX-JP : イヤミなヤツですわ、咄嗟に口から出た神をもじって、アタシにイブと同じ呪いをかけよりました。もってアタシは、出産の度に地獄を味わうことになったっちゅうわけです。
使用人がキッチンに入った頃にはもうアレは屋敷の外にいたんちゃうかと思います。
さて、決戦の後には語ることはそうありません。ネズミ屋敷を気味悪がった奥様が、引越しを決意されました。時同じくして呪われて初めての出産を迎えたアタシは、一刻も早い治療が必要だと思うたんで、転居のどさくさに紛れて脱走、列車と航空機を乗り継げば日本の港は目の前でした。

田中博士 : なるほど。ありがとうございました。最後に一つ、あなたは今までに産んだ卵の数と場所を覚えておられますか。

SCP-XXX-JP : はぁ、それはイヤミで言うてはるんですか。子の数を忘れる親がおりましょうか。1200にとんで9個です。アタシの卵には加護があります。全て然るべき勇者のもとに渡りました。私の住んでいた屋敷のおっさんが最後です。あんさんの手に渡るのはまだ先でっしゃろな、ははは。

<録音終了>


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  1. portal:7954672 (05 Apr 2022 23:28)
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